それが平気な方以外は閲覧注意です。
「君が今からやることは彼の一生を背負うことになるんだよ。その覚悟が君にあるかい?」
個性診断テスト後に個性が判明し、個性のせいで精神的に死にかけている幼馴染。
助けようとしたのは俺がスゲー奴だからだ。なんでも出来てカッコイイ個性を持っているスゲー奴だからだ。ヒーローな俺なら助けられると思ったのからだ。
けど何と言っても来久は反応せず食事も取らずに日々衰弱し、本当に死んでしまうかと思った。
いよいよ未だに認可されていない精神干渉個性による記憶の忘却治療が行われると言う話が出た時に、俺はアイツのボスになることを思いついた。必死に問い詰めた前世、命令されるままに生きた戦闘人形の一生。ならアイツのボスになって命令すれば生きると思ったんだ、前世の記憶に呑まれている今ならと。
そのことをデクのことでも手一杯だった緑谷家ご両親ではなく、うちの両親に相談した。お袋は賛成した、それで助けられるならやってみろと。親父は反対した、それは俺がやるべきでないと。お袋に頭の上がらない優しいけど俺にも強くでれない情けない男、それが親父の印象だった。けどこの時は、後にも先にもこの時だけは、一步も引かず強く言ったんだ。
後戻りはできない、もうヒーローになるしかない、来久の期待を裏切れない、そんな辛い人生になってしまうのだと。普段ならそんな事くらいと跳ね除けた、構うもんかと無視した、けどこの時の来久の命を切り捨てることになってでも息子を案じる父親の目を逸らすことは出来なかった。
その後考えて、考えて、考えて、お袋に弱音吐いて、親父に話を聞いて、やつれる緑谷家ご両親を見て、来久の死にそうな顔をなんとかしたくて、俺は決断した。
背負ってみせる。
アイツのヒーローに俺はなると。
そのためならどんなことでもする、途中で投げ出さないと。
こうして俺は、アイツの緑谷来久のボスでヒーローになったんだ。
とんでもない前世と戦闘能力を持つアイツの上に立つトップヒーローになると決めたんだ。
それが、爆豪勝己のオリジン。
『さあいよいよラスト!!
雄英1年の頂点がここで決まる!!
決勝戦 緑谷 対 爆豪!!!
今!! スタート!!』
「剃からの指銃」
全力でやれ、ボスの命令は絶対だ。
なら間合いを詰めて仕留める。
六式使い必殺の流れをボスは爆破で飛ぶことで回避する。剃がある以上間合いは自在、視界の範囲は手の届く位置といえる。
だが幼少時からの組手で数え切れないくらいくらってきた流れのためか、最早反射的にボスは回避できる。
「刃引き嵐脚」
切れ味を無くした三日月状の風の塊、峰打ちよりこっちがあってるかと改名してみたが、殺し厳禁なヒーローにはうってつけ。普通の嵐脚も瓦礫や遠距離攻撃の対応手段としては便利ですが。
切れ味なくとも風の塊、直撃は不味いとすかさずに回避。やはりボスは同世代の中で経験が圧倒的だ、剃からの指銃に追撃嵐脚なんて普通は対処できる筈がない。
けれど、全力でやる私にその回避がどこまで続きますか?そして回避だけでは勝てませんよ?
CP9の六式使いでも動力500はある、銃を持った海兵500人分の実力が貴方にありますか?
『圧倒的ィー!!今までトップで攻め続けてきたあの爆豪が防戦一方!!瞬時に近付き必殺の一撃、距離を置けば風の刃に空気の弾丸、容赦無き緑谷二号の連撃に為す術もないのか!!』
『回避できていることが凄いがな、慣れでは説明がつかないぞアレ』
確かに、相澤先生の言う通りだ。
ここまでやればいつもなら一撃くらい当たるのだが未だに被弾は零、爆破も最低限で体術で対応できている。これは何かタネが?
見聞色の覇気で探れば空中に違和感、水滴上に宙にある極小の球体を発見、これは?
「気づいたかよ。まだ自分の周りしか出せないがな」
雨粒より小さなサイズの爆破剤の球体、それを周囲に散布している。
「どんなに速くとも空気を裂かずには進めない、どんなに速くても来る場所が分かれば回避できる」
確かに私はそう言った。
そうどんなに速くてもその場にある空気は押しのけねばならない。
時速二百キロで移動してきても、1キロ先から察知していれば余裕で躱せる。
だからこそ極小の爆破剤を撒いて私の動きを察知していたのか?
「なんでもありですね個性」
汗腺から分泌される爆破剤の爆破だけじゃなく、爆破剤の空中操作まで可能なんて、前世にて知られ始めていたシャーロット・リンリンの長男次男並の能力の拡大解釈じゃないですか。
「てめえに学んだ生命帰還を体得しようとしてるうちにな」
個性と生命帰還の相性は可能性の塊ですね。
「ですがそれでは爆破攻撃ができない」
ボスの反応速度以上の速さには何もできない。
選手宣誓は叶えて欲しいと思う、ですが命令は全力でやること。生命帰還で脚に力をいれてトップスピードの剃から指銃を撃ち込む。
「終わりです」
ボスに勝ち目はない。
集中して回避が精一杯で反撃に転じれず、攻撃にしても爆破の火力とボスの体術では私の鉄塊の防御は超えられない。
勝敗は戦う前に決まっていたのです。
轟君のようには防がせない、貫通せずとも衝撃で落とす。
ガキンッ
と指銃が交差した腕に受け止められた。
そもそも防御に転じれる反応も異常だが、この感触と肌の色は、
「武装色の覇気?」
存在は何度も教えていた。
存在しない悪魔の実とは違い、六式や生命帰還と共にこの世界でも体得できる可能性のある能力だとは思っていた。
けれどこの状況で今、使えるようになったのか。
「疑わない事、それが強さなんだろ?」
覇気とは要するに気迫だ、気合だ。
殺気や威圧などの本人の発する意思だ。
ゆえに心揺らげば成り立たず、心乱れれば発動しない。そんな不安定で不確かな力をボスは身に着けてられたのか。オールマイトにプロヒーロー、私や轟君のような自分より強い存在を見ても。
「疑わねえよ、自分の強さを」
ボスは言う、自身の思いを。
「疑えるはずないんだよ」
その思いは強く、
「お前が俺をヒーローって言うから」
何よりもまっすぐで。
「俺はお前を従える最強のナンバー1ヒーローになる男だぁっ!!」
貴方は最高だ。
「そうですねマイヒーロー」
自然と浮かぶ笑みとともに私も全身に覇気を纏わせる。こうなればもう六式だけでは相手にならないだろうから。
「一段階戦いのステージを上げて、全力で戦いましょう」
そこからの舞台はぶつかり合う衝撃のみが響き渡った。ボスは武装色の覇気を纏うことで拳打と爆破を同時に放てるようになりその威力は絶大、身体能力も大幅に上昇。反応に関しても覚醒しだした見聞色の覇気の作用で私の攻撃を先読みできるようになった。実力としては海軍中将に劣るくらいだろう、だが前世の肉体ほどに鍛え抜かれていない今の私とは充分に渡り合えるほどだ。とはいえ覇気は消耗する、覇気の使い方に一日の長がある私が長期戦へと持ち込めばそれだけで勝つことができるだろう。だがそれは合理的判断であって全力で戦うことではない。命令に従い全力で戦うなら、こちらもまた打ち合う。武装色の覇気と鉄塊拳法の併用なら爆破でのダメージも最小限だ。
ぶつかり合う覇気を纏う拳同士、威力の増した爆破による機動と六式の高速移動、まさに雄英高校体育祭の最後に相応しい激戦が繰り広げられた。
だが、それが、
私でも気付かない内に呼び起こしてはならないものを起こしてしまっていた。
(強いな、倒さなきゃ、覇気使い、強者、殺す、確実に)
この世界では初めて、前世でもあまり無かった覇気を用いた戦闘。それが私の前世の記憶、戦う時の思考パターンを引き摺りだしてしまっていたのだ。
「榴弾砲着弾っ!!」
よりによって相手が一番の隙をさらす、必殺技を放つタイミングで。
「絶死銃」
全ての覇気を指先に集中する殺す為だけの技。
いかなる防御も肉体も穿ち貫きその生命を内部から破壊し尽す一撃。
多くの命を奪ってきたソレを私は無意識化で放とうとし、一部のヒーローがその危険に気づき止めようとした所で。
あの日手をのばしてくれた少年の顔が私の脳裏によぎり、心臓の位置に指先が触れる寸前ギリギリで止まることができた。
間近で驚くボスの顔を見ながら、私は爆炎に呑まれて吹き飛んだ。
かつてないほどに自らの未熟さを恥じ入り、大切な人の命を奪わなかったことに安堵して。
『緑谷君場外!!よって爆豪君の勝ち!!』
激突した観客席の壁に大きく凹みと罅を作りながら、私はボスの勝利を見届けた。
『以上で全ての競技が終了!!
今年度雄英高校体育祭1年優勝は、
A組爆豪勝己!!!』
勝利したにも関わらずにどこか呆然と立ち尽くすその姿を。