事件から一夜明け、保須総合病院。
職場体験移動中から脳みそヴィランによる電車の襲撃からヒーロー殺しとの戦い。
ヒーロー殺しの凶刃で負傷した僕と飯田君は数日間入院することとなっていた。
短期間の職場体験がさらに短くなることを残念に思うけど、飯田君を助けられたこととヒーロー殺しとの戦いの経験は良かったことなのだろうと思う。
ちなみに僕の連絡で駆けつけてくれた轟君とかっちゃんはこの場には居ない。二人ともあんな戦いをしたにも関わらず無傷だったためだ。
(差を感じるな)
あの戦いを思い出すとそう感じてしまう。
かっちゃんは僕にとってもヒーローだった。
誰よりも近くにいた、誰よりも凄い存在。
オールマイトからワンフォーオールを受け継ぐまではそこまで気にならなかった。
無個性であったことが、勝てなくて当たり前だと思えたからだ。
けど受け継いでしまった今ではそう割り切れない。
同じ土俵に上がれたからこそ、積み重ねた差を理解できてしまうのだ。
来久はいい。
来久は根本的に違うステージに立っている、違うステージにいる場違いな存在が理由があってこちらにいるような感じだから気にならない。
本質的にヒーローではないのだから。
けどかっちゃんは違う。
あの時同じ存在に憧れて、同じ夢を見た、そんな存在だったのだ。
今では遥か先にいるけれど。
(しかし鍛えようにも六式に覇気はね)
来久の話によると今は無理だそうだ。
悪魔の実という存在と六式に覇気は上手く噛み合うから個性も同じだろうけど、肝心のワンフォーオールが来久の見立てでなんかガチャガチャしてるらしい。ガチャガチャって何さと聞いたけど、ワンフォーオールの中で会議したり言い争いしてるっぽい気配がするとか。いや怖いんだけどどうなってんだ。
ワンフォーオールがこんな調子なら自分を信じる覇気は難しいし、六式はどうやら身体能力強化個性とは相性が悪いみたいなんだ。
六式は技そのものよりも、六式を出来る身体能力を身につけることに意味があるそうだ。
技も有用だけど、そもそも身体能力が高ければ六式みたいなことはできるからだ。
だから個性で身体能力を上げてしまえば、コツを掴めば六式はできる筈だそうだ。
いや鉄塊は流石に無理だよと思ったんだけど、なんかオールマイトやってみたら出来てたんだよね(その後血を吐いたけど)。
どうすれば強くなれるかな。
既にかっちゃんと来久は卒業後のヒーロー活動を見据えて準備に入っている。
雄英高校で強くなろうとすること自体が周回遅れってくらい差がついているのだけど、それでも一番足りなくて成長の余地が一番あるのは強さだ。
ヒーロー殺しに手も足も出なく言葉に呑まれた僕と、ヒーロー殺しに立ち向かえて臆さず反論できた彼。先ずはその差を認識して、自分のいる位置を見定めることから始めようと思う。
同じように感じた飯田君と雑談していると。
「おおォ、起きとるな怪我人共!」
「グラントリノ!」
グラントリノが飯田君の職場体験先であるマニュアルさんと見知らぬ誰かを連れてきた。
「お前にはすごいグチグチ言いたいが。その前に来客だぜ。保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」
「掛けたままで結構だワン。
君達が爆豪勝己君と轟焦凍君と共にヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」
ワン、て語尾はキャラ作りかな?
やや気になることがあるけど、わざわざ警察署署長が病室まで足を運んだのは僕達がそれだけのことをしたからだ。あえて個性を武に用いないことにした警察、それでは防げない被害を止めるために台頭したヒーロー。そしてそれが認められているのは先人たちがモラルやルールを遵守してきたからだ。個性が使いたいからヒーローを目指す者も少なくない数がいるが、それがどれだけのことか理解すべきなのだ。
そう、ヒーロー殺し相手とはいえ個性で相手を傷つけてしまったことを。
規則違反、ゆえにマニュアルとグラントリノと僕達二人は罰を受けなければならない。
保須に来てエンデヴァーから戦闘許可をされたかっちゃんと轟君とは違って。
項垂れる僕達を見て、それでもと署長さんは話を続ける。
「警察としての意見は以上だが、処罰云々はあくまで公表すればの話だワン」
そうこの状況で僕達二人の目撃者は限られている。だからこの違反は握り潰せるそうなのだ。
そう飯田君がヒーロー殺しからネイティブを庇って、僕がかっちゃん達が駆けつけるまで時間を稼いだ事実も無かったことにすれば。
世間に知られればこんな僕だって多くの人に称賛されるかも知れない。けどそもそもそんなことのために戦ったわけじゃない。飯田君が助かった、それで良い。
称賛だって充分だ、だってわざわざ会いに来てくれて英断と功績だと伝えてくれる人もいるのだから。
飯田君もその言葉を受け入れてマニュアルに頭を下げる、それを彼は注意して許してくれる。
「共に平和を守る人間としてありがとう」
きっとその本心からの言葉こそが何よりも大きな報酬なんだろう、僕はそう思えたんだ。
「そういえばかっちゃ、爆豪勝己君はどうなりましたか?」
僕達は公表されない、ではかっちゃん達はどうなるのだろう。エンデヴァーを功労者にして擁立するなら彼らもいかに戦闘許可はされても表沙汰にはされない筈だけど。
「まあすぐ知ることになるだろうがワン。
彼、爆豪勝己君は現在とても大変なことになっているのだワン」
そう、世間は今大変な騒ぎとなっていた。
ただでさえ有名なヒーロー殺し。その逮捕だけでも大変な騒ぎなのに調査から明らかになる彼の素性に思想に余罪。
そしてその逮捕を成し遂げた若きヒーロー。
その場の誰も彼も、あのナンバー2ヒーローエンデヴァーすら呑まれた気迫に唯一人立ち向かい叫びを上げた少年。
ダイナゴッド 爆豪勝己。
雄英高校一年主席にして雄英体育祭一位の実績を持つ彼は、超新星として世間にその名を知らしめたのであった。
なんでもあの時の場面が一般の人に録画されていて動画として投稿されてしまったらしい。
中にはヒーロー殺しの言葉だけピックアップされたりもしてるけど、かっちゃんの言葉に救われている人も多いそうだ(特にヒーロー殺し被害者ヒーローの遺族の方とか)
ヒーロー殺しの生き様は感染、影響する危険性があるようだけど、今のヒーロー達を肯定するかっちゃんの言葉もまた広まっているらしい。
エンデヴァーが自分の手柄にすることを断固拒否したため、ヒーロー殺し捕縛の名声に栄誉そして莫大な報奨金がかっちゃんに渡されることになる(ちなみに轟君も拒否、僕達同様何もしてない扱いになった)
偉大なヒーローは学生時代から伝説を作るという。
雄英高校在籍一年目の職場体験中に、オールマイト以降単独犯罪者では最多の殺人数を持つヴィランを捕縛する。そんなとんでもない伝説を彼は創り出したのであった。
「ふっ」
幼馴染のそんな姿を想像し僕は現実逃避気味に思うのであった。
あの時授業で『大爆殺神ダイナマイト』を強引に改名して本っっっっっ当に良かったと。
補足 エンデヴァーは自分の息子でないなら庇い立てする理由は無いし、実力は認めても生意気な小僧の功績を横取りすることはプライドが許しませんでした。