転生したら転剣の世界でした   作:氷月ユキナ

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ステファン「皆さん、急いで離れて! あと、《魔力障壁》を!
ルビー(僕は《魔力障壁》持ってないんだけど!? どうしろと!?)


87 これが彼の終わり(始まり)でした

『くっそ、キツイな……! 荒れ狂う怨念……ってこれ、どうすりゃ……」

主は衰弱して気を失っています……僕には《怨念無効》があるので平気ですが、《魔力障壁》を張っても僕一人で守れるのは主一人分しか……

「……ステファン、取り敢えず近くに来れる? この状況で分断されたらマズい」

分かりました

 

 ゆっくりと周りを警戒しながら、ステファンがジャンさんを連れてここまで近づいてくる。

 

「僕の手を取って!」

はい!

 

 ステファンの手を握って怨念に流されないようにし、何とか僕たちの結界内に入れさせられた。

 

 ……と言っても、状況はほとんど改善していない。

 

「ウルシはフランの影に入っておいて」

「オン!」

『ステファン! 俺の《魔力障壁》に全員分入れるから、お前の魔力をできるだけ全部よこせ!』

はい!

 

 ステファンが師匠の《魔力障壁》に入り、師匠の刀身に手を当てて魔力を師匠に与え始めた。

 

『よし……後は障壁を出来るだけ縮めて少しでももたす。ルビーはフランに魔力を、フランも《魔力障壁》使って重ねろ! あと《浄化魔術》で結界も貼れ! これで三重だ……!』

「了解。行くよ、フラン。……受け取って、僕の魔力」

 

 僕も《魔力操作》でフランに魔力を流し込み、《魔力障壁》をひたすら強化していく。

 

『ぐゥッ……フラン、大丈夫か……ッ!?』

「ん……ちょっと、きつい……」

「このままじゃ、ジリ貧だね……ッ!」

『そう、だな……なんとか、出口の方へ……』

 

 師匠の言うとおり、出口へ移動しようとしたとき。

 

 ふと、怨念の波が和らいだような気がした。

 

「……は? このタイミングで……?」

 

 何故が緩やかになった怨念の波。

 

 それが僕には、津波が来る前にひいていく潮のように思えて……。

 

「ッ! フラン、後ろッ!」

「んッ!」

 

 僕の指示で咄嗟にフランが《魔力障壁》を張ると、そこには収束して襲ってきた怨念の塊があった。

 

 ──ドガァンッ!

 

『うおっ!?』

うわぁ!?

「くっ、つっよ……師匠、《潜在能力解放》使える!? それで結界保って!」

『おう!』

 

 《潜在能力解放》のリスクは大きいが、それでもここでは出し惜しみしていたら死ぬ。

 

 それに、この状態ならアナウンスさんのスペックがフルで使えるはず……!

 

「ごめん師匠、耐えて!」

『任せとけ! ……って言いたいが、あんまり長くはもたないぞ!』

「大丈夫! 他人任せにはなるけど……ケルビム! 師匠の補助を頼む!」

〈個体名・ルビーの命令を了承。個体名・師匠、《潜在能力解放》の継続を依頼〉

『!?』

「今の状況は?」

〈現事象の解析完了。敵性思念波……『怨念』を吸引中の死霊の王(リッチ)ですが、限界寸前にて吸引を停止……その後、爆発的な怨念放出が開始された模様。現在の状況は非常に危険と判断。172秒後、個体名・師匠は破壊に至り、個体名・フラン及び個体名・ルビー、個体名・ジャン、個体名・ステファンの生命停止確率、87%。早急な対応が必要です〉

 

 まずはケルビムの師匠の能力の捜査権限を譲渡するのが一番か……?

 

『えっと、ケルビムってなんだ? それと、これってアナウンスさんだよな……?』

〈私は、個体名称■■■・■■■■……製作者による削除を確認。個体名称の情報は空白(ブランク)です〉

『……よく分からないが、とにかく出てきたってことは何かいい案があるのか?』

〈是。ですが非常に複雑な演算を要します。一時的に能力使用権限を移譲してください〉

「師匠、お願い」

『……分かった! 頼む』

〈権限の一時移譲を確認。対応を開始します。《時空魔術》クイック・ゾーンを発動。《魔力障壁》の展開により演算能力低下……自己進化ポイントを5ポイント使用。《分割思考》が《並列思考》に進化。演算能力を補います。……自己進化ポイント不足。自己進化ポイントを6使用。鑑定7を10へ成長。新スキル《天眼》の取得条件を満たしていません。新スキルの取得を一時中断、神域へとアクセスを試みます……成功。ライブラリーを参照。アクセス能力の消失と引き換えに、天眼の情報を入手。《天眼》スキルを構築……成功しました。《天眼》発動。レジェンダリースケルトンの場所を把握成功。自己進化ポイントを5ポイント使用。形状変化が形態変形に進化。形態変形発動。魔石値が5521に達しました。ランクアップ開始。自己進化ポイントを55取得。残り自己進化ポイント64。自己進化ポイントを18使用。分体創造1を10へ成長。新スキル《高速思考》を取得。自己進化ポイントを10使用。分体創造10をスペリオル化します。進化に介入──失敗。再試行──成功。複数分体創造SPを取得。複数分体創造SPを使用します。並列思考、高速思考により、高速演算を開始――成功。自己進化ポイントを8使用。火炎魔術1を5に成長。《火炎魔術》、インフェルノ・バーストを使用。自己進化ポイントを10使用。《スキルテイカー》をスペリオル化します。スキルテイカーSPを取得。これにより、再使用条件がリセットされました。《スキルテイカー》の再使用が可能となります。スキルテイカーSPを使用──成功。《封印無効》を奪取。これで《時空魔術》の転移系魔術が有効となりました。使用します、準備はいいですか?〉

『ああ、頼──』

待ってください!

 

 師匠がケルビムの提案通りに事を勧めて、転移して脱出しようとしたとき、声が上がった。

 

 それは、ステファンの声だった。

 

「……ステファン?」

創造主(マスター)を、助けることはできませんか……?

『は? いや……気持ちは分かるが、この状況でそんな余裕は──』

「ルビーさん」

 

 ステファンは、まっすぐに僕の眼を見て。

 

()()()()()()()()()()()

「……どうして、そんなことを思うのかな」

そういう目をしていましたから

 

 真剣なステファンの替えに、僕は後ろめたさを感じて顔を背ける。

 

「確かに考えはしたけど、現実的じゃないよ。やれそうな案も思いついたけど、死霊の王(リッチ)に近付けない今じゃどうしようもない」

なら、ルビーさんが創造主(マスター)に近付ければいいんですね?

「……え?」

 

 二ヤリとステファンは笑い、信じられないことを宣った。

 

僕を殺してください

「……は? 何……言って」

僕には《怨念無効》のスキルがあります。これをルビーさんのエクストラスキル《簒奪》で奪えば、今の状況でも創造主(マスター)に近付く事が出来ますよ

「だから……! 何を言って──」

僕はッ!

 

 それは、僕が初めて聞いたステファンの声だった。

 

……このまま迷宮管理者(ダンジョンマスター)である創造主(マスター)が死ねば、必然的に消える命です

「……だから、僕の《簒奪》を使えって?」

ええ

「でも、そもそも僕の案では《簒奪》を使うことが前提で──」

 

 その時、僕に《簒奪》を与えた神様の言葉を思い出した。

 

 『君のエクストラスキルの《簒奪》を、一回だけクールタイムなしで使えるようにしてあげるのさ』

 

 ……クソ、できる。できてしまう。

 

「だけどっ! それでもそれは──」

ルビーさんだって、助けたいんでしょう? だからずっと、創造主(マスター)のことを複雑そうな目で見てたんでしょう? だったら決意を決めてください! さっきまでとは事が違う! 手を伸ばせば、あなたなら助けられるんです! だから……!

 

 そう叫ぶステファンの目には、強い決意が灯っていた。

 

僕を殺して、創造主(マスター)を助けてあげてください

 

 その言葉を聞いて、僕は目を閉じた。

 

 ……こりゃもう、覚悟を決めるしかないかな。

 

「……ああもう、分かったよ! そこまで言うならやってやる!」

ありがとうございます、ルビーさん

「師匠とフランは? いい?」

『ここまで言われたんだ、やらないわけにはいかないだろ!』

「ん。……わたしも、助けたいと思った。だから、ルビーのやりたいようにやって。わたしがルビーを支える」

「そりゃ頼もしいこった」

 

 師匠とフランに確認を取った僕は、魔剣・死の眼差(デス・ゲイズ)を右手に持って、ステファンの目の前に歩いていく。

 

「ねぇ、ステファン。楽しかった?」

ええ、もちろん

「これで、満足した?」

そうですね……これで、満足です。創造主(マスター)の望む通りに、皆さんと冒険が出来ましたから

「……その先に、得られたものはあった?」

皆さんとの、大切な思い出が

 

 ステファンの肩に左手を置いて、顔を見る。

 

 その顔は、どこまでもうれしそうに笑っていた。

 

……ルビーさん。最後に二つ、お願いしていいですか?

「いいよ、何?」

創造主(マスター)を、必ず助けてあげてください。それと……僕のことを、ずっと覚えていてください

「……分かった、忘れないよ」

 

 左手でステファンを引いて、僕はステファンを抱きしめる。

 

……ありがとうございます。楽しかった……本当に

「こちらこそ、ありがとう」

 

 そして、右手に握られていた魔剣・死の眼差(デス・ゲイズ)が、ステファンの胸を貫いた。

 

 その魂が、僕の魂に吸収されるような感覚がして。

 

「……さて、ケルビム。僕の補助をしてくれるよね?」

『……アナウンスさん、頼む! やってあげてくれ!』

〈個体名・ルビー。作戦の説明を要求します〉

「僕が死霊の王(リッチ)の魔石を刺すのと同時に転移しろ。以上」

『……え、どういうことだ? 何をするつもりなんだ?』

〈了。《時空魔術》次元跳躍(ディメンション・ジャンプ)の瞬間発動の準備を開始します〉

「オッケー、皆はここで待っててッ!」

 

 それだけ告げると僕は、師匠とルビーの張っている結界をコンマ一秒解除してもらうスキマを潜って死霊の王(リッチ)に向かって走り出した。

 

 乱雑に流れる嵐のような怨念の波をステファンから受け継いだ《怨念無効》でことごとく無視して、死霊の王(リッチ)に向かって一直線で走り続ける。

 

 そして。

 

「……うりゃあぁぁああ──ッ!」

 

 掛け声を上げて魔剣・死の眼差(デス・ゲイズ)死霊の王(リッチ)の魔石を貫いた。

 

 そして二度目の《簒奪》を発動して。

 

〈《時空魔術》次元跳躍(ディメンション・ジャンプ)を使用します〉

 

 次の瞬間には誰もいなくなり、その場所に残されたものは数多の怨念だけだった。

 

 

■□■

 

 

 ──ビュオオォォォ!

 

 空気抵抗の音を鳴らして、僕たちは浮遊島から落下していた

 

 脱出できたという事実に浸りたくなるが、今はそんな余裕はない。

 

 まずは怨念を自由自在に操るエクストラスキル《不浄の理》で、自分の中の怨念を感じ取る。

 

 そこにあった()()()()()()()()()()死霊の王(リッチ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()死の眼差(デス・ゲイズ)()()()()()()()()

 

 ……僕がやろうとしているのは、人工的な知性ある武器(インテリジェンスウェポン)の創造だ。

 

 といっても、作中でゼライセがやっていたものとは少し違う。

 

 まず、普通の魂は《不浄の理》では支配できないが、不死魔獣(アンデッド)となり怨念となった死霊の王(リッチ)の魂なら制御可能だった。

 

 そして次に移動させる対象の剣だが、そこら辺のものじゃ無理だ。精神が狂ったり、剣化してしまうからだ。

 

 なので、死霊の王(リッチ)迷宮(ダンジョン)から生み出された()()()()()()()()()()()()()()()、つまり死の眼差(デス・ゲイズ)でなければならなかった。

 

 だから僕はわざわざ魔剣・死の眼差(デス・ゲイズ)で魔石を刺し、死霊の王(リッチ)の魂が通るための繋がりを持たせた。

 

 そうして、僕は死霊の王(リッチ)の魂を魔剣・死の眼差(デス・ゲイズ)の中に納めていく。

 

「後は……『名付け(ネーミング)』で存在そのものを確定させるか。名前……え、名前?」

 

 な、名前かぁ……どうしよ、考えてなかった。

 

 それじゃ、見た目が骨だったからホネ……ホーネ……ホネン……ここから名前を決めるのは無理ッ!

 

 んじゃ、死霊の王(リッチ)から取るか? リッチ……リチ……リーチ……いや。

 

「リーチェル。……少し女の子っぽいけど、そこは大目に見てね」

 

 『名付け(ネーミング)』をした僕は、手に持っている剣に《鑑定》をかけた。

 

 

名称:リーチェル

装備者:ルビー

種族:インテリジェンス・ウェポン

攻撃力:1814 保有魔力:8067 耐久値:5263

魔力伝導率・S-

スキル

詠唱短縮10、風魔術7、鑑定妨害5、恐慌8、恐怖7、再生10、呪言6、瞬間再生4、死霊支配10、死霊魔術10、精神異常耐性9、生命感知6、生命吸収7、大海魔術3、体術7、大地魔術3、土魔術10、読心4、毒魔術8、火魔術6、魔力感知7、魔力吸収7、水魔術10、冥府魔術8、闇魔術5、即死、念話、詠唱破棄、状態異常無効、死霊強化、魔力操作

ユニークスキル

怨念吸収、怨念変換、鑑定偽装

 

 

「……よし、安定した」

〈個体名・ルビー。成功しましたか?〉

「うわっ!? ……ケルビムさんか、びっくりしたー。うん、成功したよ。ありがとね、わざわざ我がまま聞いてくれて」

〈こちらこそ、個体名・師匠及び個体名・ルビーに感謝を。神に存在を許されず、製作者によって存在を抹消……『器』としてのみ存在を許された……そんな私が、最後に主と一人の少年を救うために力を行使することができました。そして……あなた達の道行きに、知恵の神の加護があらんことを〉

「……そう、ありがとう」

〈です、が……個、体名・ルビ、ー……〉

「ん?」

〈私、は……アナウンス、さん……ですよ──〉

 

 その言葉に僕は目を見張り。

 

「……ふふっ、あははははははっ! はは、あはははっ……そう、だね。じゃ、言い直そうか。……ありがと、アナウンスさん?」

 

 そう口にした瞬間に、今までの疲れが一気にが溢れ出し。

 

 作戦が成功したという達成感と、運命様に仕返しできたという嬉しさにあふれながら、僕は静かに眠りについた。

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