バースト・カース~hiSTORY~   作:カスイ

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VictoryⅢ「演技」

 間違った歴史に書かれている方法は、全て失敗談。

 だが、百人もいるのに誰一人として成功しない理由はなんなのか。

 考えられる理由は、三個くらいだ。

 まずは、そいつが強くない。

 例えば、生パスタの日とか、いい○○の日、みたいなのは戦闘に向いているとは思えない。

 そう思ってページを捲ってみると、確かに強そうなのは見当たらない。

 確か、単位を取れそうにない奴や、取る気がないような奴、要は不良生徒がこの単位を取らされるんだったか。

 そんな落ちこぼれの集まりなのだから、まあ、戦って生き残れるようなのがいるわけはないだろう。

 しかし、頭の回る奴がいないとは思えない。

 憲法の制定を祝う、文化の日生まれの奴の頭が足りないわけがない。

 立ち回りさえなんとかなれば、生き残れそうな気もするが、その死因は革命派に殺害されたという。

 革命派につき、宮殿を攻めた時にリナと脱出という計画を建てていたが、それがバレていて、同じ革命派に殺されたとか。

 憲法なんて、綺麗事の羅列でしかないと思っていたが、割と人の欲を理解した上で作られているものだ。

 それに関連した能力を持っているのに、殺されることを危惧しなかった?

 謎だ。

 次に、リナが殺しにくる可能性。

 あり得なくはないが、そこまで有力とも言えない。

 なぜなら、誰一人としてその殺し方をされていないからだ。

 ずっとリナの側近や護衛として傍に居続けた者はいたが、殺され方は革命派が原因のものばかりだ。

 もし殺すなら、革命派にやられるギリギリまで待たずとも、もっと早い段階で殺した方がいいはずだ。

 まあ、もしこの説が当たっていても、犠牲になるのはウミだから大丈夫か。

 そして、最後にあるのは、失敗にさせられている可能性。

 多分、一番有力な説だ。

 あの学者面は、架空の物語だと言っていた。

 では、これは誰の描いた物語だ?

 全世界を探せば、こんな物語は溢れるほどあるのだろうが、それならば誰かがその物語を知っているだけで、正解を辿れるはずだ。

 物語そのものを知らなくとも、似た系統の話を知っているだけで、乗り切り方は分かるはずだ。

 実際、この本の中にある方法で、「これなら乗り切れる」というものを見つけたが、失敗に終わっている。

 しかも、随分と強引なやり方で。

 宮殿を攻めている最中のはずの革命派が、先回りしてリナを殺しに来たなんて、おかしな話だ。

 そんな余裕はすぐには生まれないはずなのに。

 まるで、行動を全て上から見ているかのように。

 そして、その行動に合わせ、登場人物を駒みたいに操っているような。

 考えすぎ、だと思ってはいたが、理不尽や不条理が襲ってくるというのが、この学園であったような気がする。

 理不尽や不条理。

 橋を渡れと言っておきながら、その橋を壊す行為。

 もしくは、渡っている人間を谷へと突き落とす行為。

 そちらの狙いがそれなら、こちらも使わない手はない。

 使わなければ、勝てない。

 守ると、助けると約束した奴を生贄に、目的を達成する。

 谷に落としたと思っていた奴が、実はもう対岸へと渡っていた。

 こういう事実を、作り上げる。

 そして、それに最適な人材。

 それは……。

 

「クレア・ナルヴァ」

 

————————

 

「これからの作戦と、そして、私の覚悟の話だよ」

 

 私の言葉に、クレアは戦勝ムードの残った表情を改める。

 

「覚悟って、リフィール……。お前、なにをするつもりなんだ?」

「ローエン家に仕える人間という身分を用いて、宮殿の地図を書斎から持ってくる。そうした方が、ローエン家をより簡単に潰すことができる」

「……どういうことなんだ、説明してくれ」

 

 私の説明が分からなかったのか、それとも、分かったうえで確認のために聞いているのか。

 そのどちらかは分からないが、クレアの顔はいつもより真剣で、額に汗を走らせていた。

 

「宮殿には、多分だけど逃げ道が用意されてると思う。もし、その逃げ道を先回りで塞ぐことができたら……」

「できたら……?」

「宮殿を襲うだけ襲って、逃げたところを捕まえれば、グランハンの人が大切に思っている宮殿を壊すことなく、しかも、ローエン家の人間を一人残らず殺すことができる」

「……私たちからしたら、思ってもみないくらいの大勝利だ」

 

 クレアの表情に喜びが浮かぶ。

 あの民衆が本気になれば、宮殿なんて容易に破壊できたはずだ。

しかし、テラムの寮舎で止まっているのは、戦勝パーティーのためというのもあるのだろうが、その宮殿を壊したくないという意思があるからではないか、と推測した私は正しかった。

グランハンの民にとって、あの宮殿は国の象徴なのだ。

 

「だからこそ、あの家にある地図が必要になるの」

「で、でも、リフィール。この事態にそんなことをしたら、革命派だって疑われるんじゃ」

 

 私は、頷いた。

 

「よくて地下牢。最悪、処刑かもね」

「リフィール、お前……」

 

 心配そうな顔になった。

 クレアは、予想以上に頭が冴えるタイプなのだろうか。

 攻めているこちらからしても、警備は十分以上にしなければならない。

 今になって革命派の仲間だと言った人間を、数十人規模で近くの物置に収容しているレベルだ。

 つまり、攻められている側はこちら以上に警戒をしている、と考えるのは当然。

 自らの指揮下にある部隊のみを警備に回し、従者には必要最低限の動きのみを命じる。

 それは、従者が殺されるのを防ぐためだけでなく、従者に殺されるのを防ぐために。

 飯を作り、運ぶ。必要があればトイレに行き、一切の寄り道を許さずに所定の場所に帰ってくるように命じる。

 プログラムされた動きをこなすだけのマシンとなる。

 それ以外の動きができるのは、秘書のような立ち位置にいる者のみ。

 少なくとも、それはメイドじゃない。

 もし、それを逸脱するような行動をすれば、それはつまり、自らが裏切り者だと名乗っているようなもの。

 そこまでを、クレアは理解しているのだろう。

 

「だけど、私一人の命で済むなら……」

「ダメだ、リフィール!」

 

 ガシッ、と肩を掴まれる。

 必死に訴えているのが分かる。

 

「お前じゃ、もし戦うことになったら……」

「…………」

「昼間だって、ボロボロになって帰ってきたじゃないか……」

「……あ、あれは、雷が降ってきて……」

「嘘を吐くな!」

 

 本当は逆なのだが、馬鹿正直に話せば変な役割を与えられそうなため、わざと服を破くなり、そこに血を塗るなりして隠した。

 多分、昼間に部隊が来なかったのは花火のせいだと、本気で思い込んでいる。

 そんな訳がないのだが、一人で護衛部隊に壊滅的な損傷を与え、その他強豪揃いの部隊すらも再編成が必要なほどに損耗させた、なんて言われて信じるわけがない。

 現在、攻めてこないのは、この宮殿付近で暴れるわけにいかないからなのだと、そういう筋で考えようとしている。

 

「雷が降ったのは信じよう。でも、もし雷に当たったのなら、生きるてるのがおかしい!」

「……クレア」

「……帰ってくる途中で襲われたんだろう?」

「…………」

 

 科学がこの世を統べる現代社会と違って、未だに宗教信仰が通じる時代は楽でいい。

 元は親が神父であった。

その時のやり方を用いて祈ったら、青天の霹靂が起こった。

こんなお粗末な説明でも、「我々は神に選ばれている」なんて喜ぶのだから、騙す側からすれば笑ってしまうほどに簡単だ。

 

「でも、私だって役に……!」

 

 クレアに強く抱き締められる。

 この温かさに触れたのは、ここに来てからで考えると、ウミ以来だった。

 冷たい潮風を通さない、とても温かな体。

 

「もう、リフィールは十分役に立ってるよ」

「……クレア」

「だから、これ以上無理に頑張るのはやめてくれ……」

「…………」

「折角の勝利も、お前がいないと意味がないんだ……!」

 

 クレアの、鼻を啜る音が聞こえた。

 泣いているのだろう。

 私も、劇団譲りの涙を流す。

 

「クレア……。私、怖い……」

「うん、分かってた……」

「でも、地図がないと……」

 

 クレアは剥がれ、私の肩を掴んだまま向き合う。

 真っ直ぐに私を見つめるその瞳は、覚悟を決めた者のそれだ。

 

「私に任せてくれないか、リフィール」

「……どういう、こと?」

 

 涙を拭いた目で見つめ返す。

 

「私とリフィールは似ている。まるで、双子みたいに」

「……うん」

「なら、私がリフィールと入れ替わっても、違和感はないはずだ」

「……もしかして、クレア」

「私が、地図を取ってくる」

 

 想像通りだ。

 馬鹿が付くほどに素直な奴でよかった。

 

「でも、それじゃあクレアが!」

「私のことは心配するな! 逃げるのは慣れてるって、お前なら分かるだろう?」

「でも、でも……!」

 

 また、抱き締められた。

 二回目で分かったことは、ウミの方が気持ちよかった、ということだ。

 

「絶対に帰ってくるから、信じてくれ」

「…………うん」

 

 信じよう。

 帰ってこない方を。

 

「だから、それまでクレア・ナルヴァの名は預けた」

「うん……。じゃあ、私もリフィール・エンドの名前を預けるよ」

 

————————

 

「私たちで、天国にいるリフィーさんに謝りましょ? ね、お嬢様?」

 

 抱き合いながら泣いている二人組が見えた。

 あれは間違いなく、私の標的だ。

 

「リフィー、ごめんなさい」

 

 私の存在に気付くことなく、ずっと抱き合っている。

 刀身の長い剣で串刺しにできそうだ。

 だが、それは同時に庇い、護るのも楽ということ。

 静かに近付いていき、リナの耳元で囁く。

 

「呼ばれたので参りましたよ。お嬢様、ウミ」

 

 その声に驚いた二人は、頭をゴツンとぶつけた。

 

「「り、リフィー(さん)!?」」

「はい、リフィーです」

 

 笑いかけると、なにに恐れているのか手を使って後ろに下がろうとする。

 魚のように口をパクパクと開き、指をさしてくる。

 まるで、お化けでも出た時のような反応。

 

「な、ど、どうして……!?」

「だ、だって、あなた……!」

「詳しい説明は後です、お嬢様。さあ、ここから逃げますよ」

「逃げるって、どこへ……?」

「ランスツィオです」

 

 ウミは、未だに状況を飲み込めていないのかキョトンとした顔でいる。

 お嬢様の驚いた顔を含め、想定内の反応だ。

 

「ら、ランスツィオとは友好関係にないはず……」

「あちらの皇太子さまと、舞踏会で一緒になったことはございましたよね?」

「え、ええ。でも、それももう十年は前の話よ?」

「どうやら、先程あちらの遣いの方がグラム・ストリートに入ったようです。報せを受けました」

「そ、そんな……どうして……」

「詳しいことは、会ってから聞きましょう。さあ、立ってください」

 

 そう言って腕を掴んで引く。

 力はなく、とても軽い。

 

「革命派は、確実にお嬢様も標的にしています。早くここから離れないと、なにをされるか分かったものでは」

「……でも、父を止められなかった責任が、私にはある。なら、責任を持って」

 

 ペシッ。

 軽く聞こえるが、しかし強い音が響いた。

 あまりにも、まさかといった行動で、こっちの動きすら止まった。

 リナの右頬は、少し赤みを帯びている。

 

「ダメです! 生きるんです!」

「ウミ……」

 

 ウミのあんな顔は初めて見た。

 おとぼけていて、ずっと他人に持ち上げられて生きてきた温室育ちだと思っていたからだ。

 きっと、人の言うことに意思表示なんてできず、有無を言えないまま、流れに身を任せることになるタイプだと思っていた。

 

「悪いのはお嬢様じゃないじゃないですか!」

「そういうわけにはいかないわ! 責任の一端は私に」

「なら、その責任と一緒に生きたらいいじゃないですか!」

 

 驚かされた。

 その場の思い付きで話せるような内容じゃない。

 

「お嬢様が死んだら、お父さんがやったことはなかったことになるんですか! どこかで生きて、この国の方々を支えようとは考えられないんですか!! 生きれば償えた罪、背負えた罰からも逃げるんですか!!!」

「…………」

「嫌でも逃げないで、前を向いて立ち向かうことが、あの方々に対する礼儀じゃないんですか!」

 

 涙をボロボロ流しながら、それでも覇気が溢れている。

 漫画のワンシーンを見ているようだ。

 気付けば、お嬢様も泣き始めてしまった。

 こういうのは、場の空気感で泣くものだと思っていたが、存外そうでもないらしい。

 もし演技ならば名優なんかでは済まされない、天才だ。

 先程、私の死を償うために、死を覚悟した人間の吐く言葉とは思えないところが気がかりだし、こんな言葉を平然と吐けてしまうような彼女の人生に興味が湧いたが、今はその時じゃない。

 

「お嬢様、逃げましょう」

「……ええ、そうね」

「ウミ、お嬢様を担いで」

「わ、分かりました!」

 

 お姫様抱っこだとすぐに理解してくれてよかった。

 私はライフルを構えると、リナを狙ってくる元仲間を撃っていく。

 様々な声が聞こえてくるが、聞き慣れた雑音に過ぎないため、ただ逃げることだけを目指して走り続ける。

 殴り、撃ち、蹴り。

 飽きるくらい続けた後に、気が付けば庭園から抜け出していた。

 グラム・ストリートまでは、山を越えなければならないわけだが、私は知っていた。

 この庭園には、王族が逃げるための隠し通路があることを。

 地図は手に入らず、隠し通路は見つからず、だから攻め込むしかなかったわけだが、本当は隠し通路は一つだけ存在していたのだ。

 宮殿が敵国に攻められた時、山の向こうのグラム・ストリートに逃げるために作られた通路が。

 綺麗に咲く薔薇の花壇を潜り抜け、木で出来た白い台を開けると、壁付けされた梯子が現れる。

 

「こ、こんな場所があったのね」

「恐らく、王国時代の遺産でしょう。さあ、ウミ。早く行く」

「わ、分かりました!」

 

 リナとウミは、その手すりを降りていった。

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