バースト・カース~hiSTORY~   作:カスイ

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VictoryⅣ「正史」

「ほら、怪異(先生)。これが事の顛末ですよ」

「な、なぜ、観測できず……」

「恣意的に選んでたんですよね? 見たいエピソードを」

 

 怪異の手元に残る一冊の本。

 題名は、「正しい歴史」。

 

「私には革命に対する強い意志がある。だから、革命派に入った。そういう理由で納得したつもりになってた。どう、違いますか?」

「ちがう、のか……?」

「読めば分かる通り、私にとっての革命なんて、道具に過ぎないですよ。リナを効率的に助けるための道具」

「だが、それならこの本さえあれば、君の心は読めたはず」

「歴史書は、人の気持ちを確実に当てることなんてできない。民主的な政治をしていた大統領が突然、独裁的な政治をしたとして、それを教科書で『これこれこうやって、こう決意したから~』なんて書いたとしても、それが事実とは限らない。そうでしょ?」

「な、に……」

「歴史は流れの学問。冷静な独裁者が唐突にヒステリックになって、独裁が崩れたという時に、なぜとち狂ったのかというところに正確な理由を当てはめることはない。できない。野菜が大好きな独裁者専用の畑に、女性ホルモンを撒き散らしたとか、そういった辻褄が合うように解釈しようとする。実は影武者に入れ替わっていたとか、元から頭がおかしかった、という仮説は、冗談か、人物像に合わないという理由で採用されない」

 

 ひれ伏しながらもなにか考えているのか、怪異は黙る。

 折角、喋らせてやったのに、と思ったが、深い慈悲の気持ちで見下すことにした。

そして今、ようやく怪異の中で一つの辻褄が通ったのであろう。

 私に関する、唯一正しい辻褄に。

 

「あの話をした時から、君は……」

「おお、なにが分かったんですか?」

「イメージに合わないから国民は歓迎しない。あれは、流れに合った事実が歴史であるという意味だが、あそこから君は、流れに合わない事実は、合わせた事実に隠すことができると、そう……?」

「まあ、言っちゃえばそういうことですよね。より正確に言えば、革命に対する欲求を強く思いつつも、心の奥底ではそんな欲求を持っていないってわけです」

「心が、二つ……?」

「どっちかというと、仮面ですよ」

 

 後ろ髪を掴み、グイッと顔を上げて覗く。

 絶望にも、憤怒にも見えるその顔を、私は恐らく、愉悦溢れる笑顔で見ていたのであろう。

 憤怒がやがて、悔しそうな表情に変わっていったからだ。

 

「あなたの敗因は二つ。まず、ウミに注意を払い過ぎたこと」

「海美、だと?」

「ご存知でしょう? ウミ・ヒラセ。扉が閉まるギリギリで入って来た子。事前に授業を受けていた私なら、少しは性格とかが分かるだろうけど、あれは未知数だった。だから、どれだけの脅威度があるか知りたかった」

「なぜ、そんなことが」

「だって、もしウミに警戒していなければ、革命に対する野心の場面をずっと見ていたはずですよね? もっと掘り下げたかったですよね?」

 

 全てが手に取るように分かる展開。

 こいつが見ていた物語を少し読み返してみたが、明らかな描写不足があった。

 冷静そうに振舞っている私が、唐突に変な思想に目覚めたり。

 それを勝手な憶測で補完して、ウミを見た時点で私の術中にハマっていたのだ。

 

「そして、もう一つは、私のことをそこら辺の馬鹿と同等としか見ていなかったこと。心の奥底で、この馬鹿がって、どうせ子供だろって思って舐めてましたね? だって、もし私が話題のヒーローだったら、もっと用意周到で、かつ綿密な計画の元、ちゃんと葬られるまで見届けてましたよね?」

「……ヒーロー?」

「黒木達也、みたいな名前でしたよね? あなたの同僚を殺し、バースト・カースとか言われてた」

 

 私の、いま一番興味がある話題。

 

「じゃあ、なんで私にそれをしなかったのか。それは、分館に来るレベルの不良生徒だと思ってたからじゃないですか?」

「…………」

「暴力で弱者をいたぶり、クズ山の王になる世間一般の不良生徒とは全く逆の、無能無力な子供。そんなの、舐めてかかっても負けるわけがない。ましてや、本館という場所で一時期は前線を張っていた自分が、そんなガキに負けるなんて想像できない。小指一本でも勝てる」

 

 頷ける部分がないとは言わない。

 私も、そう思うかもしれない。

 

「でもですよ? 仮にも先生なら、一人一人の生徒に寄り添って、適切な処置をしなきゃいけないと、私は思いますよお」

「ぐっ……ふぅ……!」

「あと、私がここに送られてきた理由は、単位を取る能力がないからじゃなくて、ゾンビと戯れていた方が楽しかったからですよ? あんなことよりも、よっぽど楽しかったから」

「……君、あれが元々何だったのか分かって……」

「私と同じ、人ですよね? でもまあ、悪い人は倒さなきゃいけないわけで」

「……狂っている」

「作ったのはあなた達でしょ、棚に上げないでくださいよ」

 

 この怪異とかいう奴の程度が知れてきた。

 全員が全員そうではないのだろうが、もう話していて退屈してきた。

 話すこともないわけだし。

 

「もう、あなたと話すの疲れました。終わりにしましょうか」

「……残念だったな。私は死ねないようにもう記述されてある。君がどうしてところで、貴様が私を殺すことなどできない!」

「ああ、そうですか。でも、大丈夫ですよ?」

 

 私は、ノートに書きこんだ。

 挟まっていたペンの書き心地は、まあまあ良く、こいつのでなければ欲しいくらいだった。

 古めかしい、古書店の奥底にありそうな埃っぽさと重量感を感じるが、人一人の全てが詰まっているのなら、分からなくもない。

 まあ、それもこのページで全てが終わるわけだが。

 

「最後の最後に、大どんでん返し~。どうですか? 字、上手いですか?」

「……っ!?」

 

 鼻歌混じりに書いたその一文に、怪異は怯え始める。

 見ただけで、震えているのが分かる。

 これからどうなるのかが想像できない、そういった苦しみであろうか。

 

「や、やめろ……! やめろぉ!」

「ページ、破いてもいいんですよ? 文字を消すことは許せないので」

「ふ、ふざけるな!」

「今、ふざけてるのはあなたでは? あなたの人生……まあ、いっか。とにかく、命はこれからも続きますよ」

「はあ、はあ……っ!」

「あっ。いつまでもそんな格好してなくてもいいですよ。そういうのが好きでしたら、上から踏んで差し上げますけど……」

「く、くそっ……くそおっ!」

 

 怪異でも痺れることはあるのだろうか、フラフラと立ち上がる。

 小鹿のように頼りない立ち方、歩き方。

 黙って私の方に歩いてきているが、ちょっと蹴ればまた距離を置けそうだ。

 だが、敢えてそんなことはしない。

 今のこいつほど、手すら出さないで殺せるものはない。

 

「お前は誰だ?」

「わ、私は、私は……。れ、歴史の」

「それは嘘の歴史。本当は違うでしょ?」

「ち、ちが、私はっ! 私は、歴史の」

「本当にそうなんですか? 嘘じゃないんですか?」

「わ、私は、私は……」

「その体は自分の物? その意識は自分の物? その経歴も? この場にいる理由は怪異だから? お前は誰だ? どうしてここにいる?」

「はあ、はあ、はあ……」

 

 呼吸を乱し、立つこともできなくなったのか、足場を壊された建造物のように醜く倒れる。

 頭を手で抱える。恐らく、記憶が出ていかないようにしているのであろう。

 だが、無意味だ。

 

「どうして生きているの?」

「う、うあああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

 叫びながら、自らの右腕をナイフのようにし、それを何度も何度も胸に刺す。

 恐らく、死なないと思っているのだろうか。あるいは、ただ狂っただけか。

 

「偽物の体、偽物の意識、偽物の歴史、偽物の価値。お前は嘘塗れ。なに一つとして事実がない、嘘に塗れた愚かな人形。死ねないことも、生きていることも、全て嘘」

「あ、ああ、あぁ」

 

 何度も刺していたせいか、胸から、まるで噴水のように血を噴き出しながら、怪異は倒れていった。

 信じていた人に裏切られて死んだ者は、こんな顔をするのだろうと、そう考えながら見下す。

 自分の思い描いた通りに物事を運ぶことができるということは、その仕組みを知られたら最後、他人の思い描く通りにしか生きられなくなる、ということ。

 理不尽は完璧じゃない。

 消え去ろうとする本を投げ捨てる。

 すると、そこから二つのバッジが出てきた。

 「歴史」と書かれている。

 

「……ウミ、全て終わったよ」

「私も、終わらせてきました」

 

 扉から出てきたウミは、泣き腫らした顔を、エプロンで拭いていた。

 

「……リナは、なんて?」

「お嬢様は、『この命を無駄にはしない。リフィー、ウミ、ありがとう』、と」

「そっか」

 

 ウミは、心残りあるような笑みを見せてくる。

 

「お嬢様も、こっちの世界に来れたらよかったのですけど……」

「登場人物には、物語における役割がある。だから、そういうわけにはいかないよ」

「……分かってます、分かってます」

 

 でも、と言いながら裾を力強く握っている。

 また、涙が流れてきたのだろうか。

 

「……ウミ、命令してもいい?」

「……なんですか?」

「私を、抱き締めてくれない?」

「……はい」

 

 少し汚れたメイド服に抱き着いた。

 自分の服についた血はつけないようにと、配慮しようとしたが、ウミがあまりにも気持ちよかったせいで、それはできなかった。

 ウミに抱き締めてもらったのは、初日以来だっただろうか。

 まるで、寄せては帰る波のような鼓動には、海に包まれているみたいな安心感を感じずにはいられない。

 汚れきった私の心を、波が洗ってくれているようで、とても心地いい。

 

「一つ、聞いていい?」

 

 服のせいで、くぐもった声が出た。

 でも、ウミには通じていた。

 

「なんですか、リフィーさん」

「私が駆け付ける前は死のうとしてたのに、どうしてリナと逃げるってなった時に、あんなに怒ったの?」

「……リフィーさんがいたからです」

「私?」

「リフィーさんと一緒にいたかったから、です」

「……そっか」

 

 染みこんだウミの涙を上書きするように、私は顔を埋めた。




 お久しぶりです。
 カスイです。
 いかがお過ごしでしょうか?
 確か、10月の末に投稿したので、もう2週間ぶりくらいでしょうか?
 随分とお待たせいたしました。
 リフィール・エンドというキャラクターが恐ろしいと思ってもらえるような結末にしたので、少しでも「怖っ」って思ってもらえたなら、もう満足です。
10万文字でライトノベル一冊分と考えると、これは短編の部類に入るのでしょうが、僕的には長編を書いている気持ちだったので、もう色々と大変でした。
 現在、バースト・カース本編の安部マリアと、私のリフィール・エンドが絡む(物理)三次創作を書いている最中なので、そちらの方もご期待してくだされば幸いです。
 以上で、このあらすじは完結です!
 閲覧、ありがとうございました!!
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