バースト・カース~hiSTORY~   作:カスイ

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HistoryⅣ「準備」

 間違った歴史を、パラパラと捲る。

 今、私が進もうとしている道が間違っていないのかを、確かめるために。

 応戦、応戦、逃亡、応戦、攻撃、逃亡、応戦…………。

 血の気の多い生徒がたくさん、というよりは、そんな能力を持っているのがたくさんいたのだろうか。

 革命が起きる事実を知っていながらも、その事実をこの家の人間に知らせることはできない。

 タイム・パラドクスというものなのだろうか。

 つまり、この国で革命が起きないという運命は辿れず、リナが死ぬ運命も辿れず。

 革命が起きたが、リナは逃げ切った、という歴史を改変することはできない。

 この世界で、辻褄を合わせなければならない。筋を通さなければならない。

 戦うか、逃げるか。

 革命派に入る選択をした者はいたが、内部分裂を計画していたのがバレて、殺される。

 或いは、革命派と関わっていたことがバレて、ローエン統領の前で処刑させられる。

 死に瀕した人々の感情というのは、なんとも過激なことか。

 

「私に、できること」

 

 従者用の寮は、とても寝心地がよく、革命派がメイドを見て武器を携帯していた理由が、なんとなく分かった。

 格差、というよりは、統領の残酷な気遣いとでも言えようか。

 この小さな部屋を照らす、明るい明るい蝋燭も、その一部なのだろうか。

閉じた本を頭の横に置き、色々なことを考えながら瞼を閉じた。

 

————————

 

「昨日は、帰ってくるのが遅かったそうね。なにかあったの、リフィー?」

「申し訳ございません、お嬢様。犬が私に懐いてくれなくて」

「か、嚙まれたりしてないの、リフィー!?」

「は、はい、大丈夫です、ご心配なさらないでください」

「そう。それならよかったわ……」

 

 多分、心から心配しているのだろう。

 本当に良い人だ。

 

「今日は、これからなんのお仕事を?」

「本日は、アデラール様の近辺のお世話を」

「そう、お父様の……」

「……いかがなさいましたか?」

「い、いえ。気を付けてちょうだいね?」

「……はい、心に留めておきます」

 

 なんともスッキリとしない言葉を吐かれたところに、ウミが来た。

 相変わらず、スカートや胸を大胆に振っている。

 言った通りに動くことに慣れたか、或いは、素の自分を出しているだけなのか。

 どっちにしても、使命を果たしてくれているだけありがたい。

 どうせ気付かれないが、それとなく目配せすると、私は足をリナとは違う方向に向けた。

 気を付けて。

 この国で革命が起きる理由が分かりそうだと思いながら、重く、そして大きな扉を開く。

 すると、そこに広がっていたのは……酒池肉林であった。いや、この使い方は誤用だったか。

 

「君は誰かね?」

「申し遅れました。私は先日より、この屋敷に仕えることになったリフィール・エンドと申します」

「リフィールか。どうだ、君もこの中に入るか?」

 

 白髪混じりの、後退した……意図的にこのような髪形にしている可能性もあるか、それに高い背丈をした男、アデラール・ローエンだろう。この国の第一統領である男だ。

 その周囲には、白地に金のボタンを幾つもつけた、きちっとした服装の男が三人。

 耳に入ってくる、静かに咽び泣くその声は、この円陣を組まされている少女たちのものだろう。

 全身裸で、靴だけ履かされ、四つん這いの状態で足を外に向けている、この少女たちの。

 もし現実世界にこいつらをぶち込めたら、何罪で裁けるだろうか。

 こんな風景を見るのは嫌なことこの上なかったが、いつもの表情で堪える。

 

「いえいえ。私は、彼女たちほど美しくありませんので」

「そうか? まあ、いい。従者に手を出すと、後が怖いからな」

「私の瞳には、彼女はここに入れられるほどの逸材に映っておりますがねえ」

「見たところ、まだ十八にもならない少女ではないか?」

「私は、君に興味があるがねえ」

 

 そう言って、あの中の一人の男が私に近付いてきて、そして肩を組んできた。

 ローエンの取り巻きは、ボサボサ髪のデブ、背の高い禿、角刈りの眼鏡といった感じで、その中で私に触ってきたのは、角刈りだった。

 三人並べて中くらいの背があるせいで、見上げれば眼鏡の隙間から嫌らしい目が見えてくる。

 

「どうだい、私と別室に行かないかい?」

 

 そう言うと、私の右胸を触ってくる。

 南国風のせいで、随分と薄い生地をしているメイド服のせいで、胸の形を把握された上に、それを粗雑に握られてしまう。

 コルセットは、肌を守るためのものであって、こういう手から胸を守ってくれるものではない。

 今すぐにでも殺してやりたい衝動を抑える。

 

「いえいえ。アデラール様から与えられた職務を、放棄するわけにはいかないので」

「つまり、アデラール第一統領から許可を貰えば、一緒に寝てもいい、と?」

「そうなりますが……いいのですか? 私、娼婦の子どもで、出身も貧民街なんですよ。それなのに、ここでメイドとして雇わせてもらうほどの教養を得たその方法、知りたいですか?」

 

 そう言うと、角刈りは私から離れていった。とても、嫌そうな顔で。

 

「だから言ったろう? 従者に手を出すと、後が怖いって。お前は、そこの書類の整理でもしていろ」

「はい、かしこまりました」

 

 少女の泣き声を背景に、書類に目を通す。

 内容を少し見ていたところ、重要なことは書かれていない。商人街の揉め事に関する法改正案だの、区画整理案だのと、そんなものばかりだ。

 軍事政権において、商人の優先順位など、底についているのだろうか。

 期限の近いものと、遠いもの。商人のものと、一般労働者のもの。それらを日にちで分けて重ねるだけだが、その書類に宛先である本人は、少女の足を引っ張って別室へと連れて行った。

 周りを見てみると、もう慣れたことなのか、機械のように書類を捌いている。

 私も、機械となった。

 

————————

 

「疲れたわ、ウミ」

「私もです、お嬢様」

「私も、って……。あなた、見ているだけだったじゃない」

「見ているだけでもってやつですよ~」

 

 そう言うと、お嬢様は笑った。

 しかし、見ているだけで疲れた、というのは本当の話で、朝から音楽やら料理やらと、昔ドラマで見た花嫁修業みたいなことばかりをやらされているのを見ていると、それはなんとも大変そうというか、自由がなくて可哀想というか……。とにかく、なんだか窮屈に見えてきて、苦しい思いになる。

 

「こんなにお嬢様に色々なことをやらせるお父様っていうのは、よっぽど素晴らしい人なんでしょうね!」

「ふふっ。そうだとよかったんだけど、ね」

 

 お嬢様の、どこか遠くを見るような目。多分、何も考えたくないと訴えるような。

 

「ごめんなさい、お嬢様。私……」

「ううん、気にしないで。ただね、ウミ」

 

 お嬢様は、私に。私だけに小さく呟いた。

 

「お父様を殺して、この国を良くすることができる人を、私は望んでいるの」

 

————————

 

 昼間の、国のトップとはかくあるべし、と見せつけるかのような痴態に嫌気が差していた私は、気が付けば番犬の散歩をしながら地図を描いていた。

 ほとんど無意識でメモしていたのは、嫌気が溜まっていたからであろうか。

 それを、夜の蠟燭の下で見直す。

 狭くとも、従者に一人部屋を与えてくれたことには、感謝以外の感情が湧かない。

 

「宮廷護衛隊の寮舎は、リスクが高いし、兵の練度も高い。テラム伯爵持ちの部隊は練度が低いが、ここを攻撃しようものなら、その途中で発見されて集結、数の差で撃破される。かと言って、今の武器の数では、宮廷を襲ったところで全滅。どうせ革命派は、兵士から奪った武器しか持ってなくて、そんなの底が見えているようなもので、当てにできない。それに、この国では銃弾は流通していない。軍が占有している銃弾を奪わなければ……」

 

 昼間の醜態を見るからに、ざるな警備体制を敷いているものだと思っていたが、想像以上に考えられて配置されていた。

 アデラールの忠臣であり、民衆鎮圧部隊の総指揮であるレイル公爵の部隊が宮廷の右側を、宮廷治安維持部隊の総指揮、ウォント公爵の部隊が左側の寮舎に鎮座している。つまり、民衆が宮廷に入ろうものなら、宮廷護衛隊とその二大公爵の部隊の挟撃に遭う。

 では後ろから、と思ったが、後ろはアデラール直属の部隊、要は宮廷護衛部隊の寮舎である。

 話を聞いてみたところ、練度の高さは宮廷護衛部隊が一番らしい。

 宮廷を囲むように強い防壁を張り、その中に少し頼りのない伯爵以下の寮舎を置く。

 正しく、合理的で完璧な防衛陣。

 この小さな国に、なんでこんな数の人間がいるんだと言いたくなるが、小さいと言ってもセルビア程度の敷地はありそうだ。

首都が海に面していて、そこにしかいないから分からないが、東にも人々がいて、その中の貧困層の子どもを取り上げているか、貴族の長男以外を徴兵させているか、恐らくそのどちらかでこの強大な軍隊が整備されている。

 改めて、軍事国家とはなんたるかを教えられているかのようだ。共和国という概念、そして技術は近代に近付いているというのに、未だに騎士時代のような階級や部隊名称を使っている理由が分からないが。

 私がどれだけ暴れられたとしても、民衆が死ねば元も子もない。

 いや、待て。

 もし、私が囮になっている間に、民衆が敵の穴を突けたら。

 地図をもう一度見直す。

 三層の防壁があり、一番外、つまり三層目には最高練度の三部隊、凡そ三個大隊規模。

 二層目に待ち構えているのは、侯爵の部隊。三個中隊規模といったところであろうか。

 そして、一層目に待ち構えるは、宮廷内護衛部隊。いたとしても、一個小隊規模。

 三層目で消耗させ、二層目で勢力を完全に削ぎ、あとは少ない数で潰す。

 非常に合理的な作りになっている。

 では、それを潜り抜ける方法。

 

「そうか」

 

 簡単な話だった。私の持つ能力を活かせばいい。

 この時代の寮舎の強度など、たかが知れている。

 これはあの学者面が設けた規則だろうが、この世界にまだない先進的すぎる技術、例えるなら飛行機や戦車を使うことはできない。しかし、大砲や小銃であれば、この時代に存在しているため、能力の限り出し放題使い放題、ということになる。

 その攪乱の後に、目標を二層の右側面にいるテラム伯爵の寮舎兼武器庫に縛り、そこを占領する。

 宮廷内で変なドンパチ騒ぎは起こせない、正確に言えば起こしたくないであろう中枢の思考を、人質に取らせてもらう。

 悪くない、どころか実に有効的な方法だ。

 私は、この計画書の中の「自分が囮になる」という記述を、「花火で騒ぎを起こす」に書き換えた。

 それから、この従者用の寮舎を抜け出して、革命派の拠点へと駆けて行った。

 

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