猛き竜には武装をさせよ。〜最強+最強、武装とロマン全開竜種で往くVRMMO譚〜   作:レヴァ剣竜

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強き竜には武装をさせよ。

黒光りする堅固な鱗と、全てを貫く鋭利な爪牙。

そして、見上げねばならない程の巨体を宙に浮かべる二枚の翼膜。

 

正しく、全ての生命の頂点に立っていると言っても過言ではないほどに、その生物—— ()()()()は、圧倒的だった。

 

それが、地に足をつけた途端、飛沫した粉塵によって隠れた、使役者——相手が手を突き出したことによるたった一度の指示で、ソレは攻撃体制へと移り、炎を吹かしながら、空へ舞うと、数発の火球を吐き出す。

 

当然、威力は凄まじい。俺を襲う爆風と熱に耐えること暫し、火球が飛んでこなくなったために、思わず息を吐く。

 

けれど、ソレが持つ武器は、決して爪牙だけでも、翼だけでも、ましてや口から吐き出す炎だけでもなかった。

 

竜は、自身の持つ武装——ただでさえ堅固な竜鱗を包む装甲たる鎧の背に搭載された砲台を可変させ——一筋の光芒を放った。

 

刹那、激しい地響きと共に、大地を抉りながら向かってくる光芒は真っ直ぐに俺を貫く。

強い痺れと熱が胸の辺りを襲い、一気に減少する視界の端に表示される数値。

 

しかし、僅かに残っていたとして、決してソレは容赦しない。

 

次の瞬間、隆々たる双腕、そして、羽撃く翼によって勢いづいた大剣によって、立ち込めていた煙を打ち破り、その竜は再び姿を現した。

顔すらも覆う鱗と鎧の中、覗く真紅の瞳は、決して獲物である俺を捉えては離さず、一瞬、背筋を冷たいものが駆ける。

 

しかし、撃ち放たれた剣戟は、止まることなく俺を穿って。

 

凄まじい衝撃と、全身を襲う痺れと共に俺は吹き飛ばされ、一気に視界の端に映る数値はゼロへと変貌する。

 

けれど、「敗北」の二文字が表示され、視界がブラックアウトする直前まで……。

 

俺は、強力な武装に身を包む、雄々しいその姿に、ただ、ただ見惚れていた。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

——VRゲーム。

 

近年の急速なVRデバイスの発達によって形作られた、仮想空間で興じる娯楽。

 

現実世界から切り離した五感を以って楽しめるVRゲームは、FPSからアクション、パズルに音ゲーと、人気なだけに、次々とジャンルを広げていき——その中でも、特に俺がのめり込んだのは、VR空間で行う対戦型のカードゲームだった。

 

幼い時から子供館やカードショップ、果ては公園でのカードゲームに明け暮れて。

日曜朝に起きてはカードを扱うホビアニを見てきた俺にとって、まるでアニメの主人公かのように、自身が召喚したドラゴンを実際に使役することができると言うのは素晴らしい体験だった。

 

しかも普通のドラゴンじゃない。そのままでも十分に強いであろうその巨躯を、ゴリゴリの武装で包み、爪牙や炎と言った元々持ち合わせているものに限らず大剣やバズーカー、果ては身体ごと機械に置き換えて、独立して攻撃する超ハイテクなビーム兵器まで装備して。

まさに、最強+最強——究極を体現するその姿に、ずっと俺は魅了され続けていた。

 

「……これで、レートいくつだ?」

 

しかして、浪漫と戦績とは比例しないもの。

視界がブラックアウトした——要するに敗北したのちに飛ばされた観戦場のベンチに座り込み。

そっと指を滑らせて表示させた戦績を一瞥して、俺が一度、ため息をついたその時だった。

 

「いやー、しっかし、これで何連敗だ? 《シグナ》。本当に今月も最高ランクまで来れんのかよ?」

 

そんな嫌味ったらしい文句と共に——ご丁寧なことに俺のプレイヤーネームまで口にしながら——昔馴染みのプレイヤーが、隣に腰掛けてきた。

 

「……余裕だね。三回攻撃だぞ、三回。一度目はブレス、二度目はレーザー、三度目は直々に剣を振り下ろしてくれるときた。ほんっと、最高だよな」

「でも見合わないだろ、コスト。ファンデッキをランクマに持ってく度胸だけは誉められたもんだけどさ」

「ファンデッキじゃねーよ。丁度ミラーしてたし、一定数いるはずなんだって」

「そのデッキで戦った数百戦のうちの一戦だろ? しかも負けてるし。……本当にどんな使用率だよ、それ」

「うっせー、一生攻略サイト徘徊してTier1でも回してろ」

 

軽く皮肉を込めた返しをしつつも俺は、丁度話題に出ていた手元のカードを見つめる。

例えバーチャル空間だとしても、丁寧に紙のカード特有のホロやレリーフが再現されたそれは、例えポリゴンでできていたとしても、見飽きることがなく。

何よりも、その美麗なイラストが目を引いていた。

 

鎧、大剣、バズーカー、そしてそれを装備するドラゴン。

何度見ても浪漫の塊でしかないものだ。そりゃあ一日でも摂取しなかったら死んじまうわな、こんなの。

 

「……まあ、ドラゴンがどうたらって趣味嗜好の話はともかく……。そういや、そろそろ生放送の時間か……」

 

なんて、感傷に浸っていた時、そいつが口にしたのは、新弾の発表含む、生放送の話題だった。

 

「ん、ゲームショウの企業ブースだっけ? 一緒に観に行くか?」

「おうよ……って言いたいとこだけど……俺、今日は外せない用事があるんだ」

 

生放送にてライブ感を楽しむ時の感覚は、筆舌に尽くしがたい。

特にここ2年でVR機器が一気に普及してからは、お手軽に会場にいるかのような感覚を味わうことができるために、それが際立っていた。

しかして、当然ながら発表された情報を共有する相手も欲しい、というのは昔から変わらない。

そしてたった今、「ま、後で情報くれ。それじゃ」とばかりに、完全に丸投げしてくる言葉を残して立ち去っていくそれを逃してしまったことに対する複雑な感情もまた、筆舌に尽くしがたい。

 

「……」

 

いくら見た目が良かろうと、物を言わぬカードに視線を落として。

 

ため息をつきながら、俺はその場を後にした。

 

◇ ◇ ◇

 

◇ ◇

 

 

相変わらず、止まるところを知らない熱気と湿気。

夏場のイベントならデフォルトで兼ね備えているその不快さまでもなぜか再現してしまった、バーチャル上のイベント会場を踏み締め。

 

俺は、今しがた発表された新カードの情報とPVの内容を脳内で反芻していた。

 

特に俺が欲しかったタイプのカードはなし。カードイラストも人間キャラばっかり、解散。

……と言いたいところではあったが、一応は友人の端くれとして最後まで見てってやるか、と濁った瞳でステージを見つめること十数分。

 

結局は、最後までキャストとプロデューサーのトークが続き、番組は終了。

 

俺がログアウト準備をしている中で、そのまま、枠が同じ企業の運営する他のゲームへ引き継がれようとしていた時……。

 

突然、会場がどよめきに包まれた。

 

一瞬、何事かと手を止めて。思わず視線を戻した時、そこには誰もおらず、代わりに視界に入ったのは——

 

——頭上に広がる果てない蒼穹と……それを貫き、天高くそびえる一基の塔だった。

 

「……っ」

 

そして、俺が声を漏らしたのはきっと、困惑していたから……だけではなかったのだろう。

 

俺が立っているらしいのは、高台で。

眼下に広がっていたのは、河や森、街らしき物まで。

所々には遺跡らしきものも点在し、捉え切れないくらい果てまでそれが続く——そんなフィールドが果てしなく広がっていた。

そよぐ風は肌を撫で、深く息を吸ってみれば、澄んだ空気が肺を満たす。

あまりにも繊細な感覚表現だ。

よく見てみると、ぽつぽつと点らしきものも見える。

それは、よく見てみると人らしきものや、ゴブリン、スライム——ファンタジーでよく見るようなモンスターだった。

 

現在のVRゲームでは見たことのないレベルで鮮明かつスケールの大きい絶景に、自然と感嘆の息が漏れた時。

 

まるで空気が重くなったかのような異様な気配を、俺は感じた。

それと同時に、先ほどまで広がっていた青空が一瞬にして暗雲に包まれ、そこから姿を現したのは——触手によって身を包んだ異形。

 

ぬらぬらとした触手が伸びる肥大した上部は、絡みついた蔦のようなものによって、一切構造がわからない。

 

その不気味さゆえ、だろうか。

 

思わず冷たいものが首筋を伝った時——突如、世界が光に包まれた。

 

それに一拍遅れをとって、響き渡るは耳をつんざく甲高い音。

 

そして、視界がようやく認識できるようになった時、周囲に広がっていたのは——焦土と化した大地だった。

 

一瞬、何が起きたか理解できず、少しばかり立ち尽くして。

辺りを見渡したのちに……ようやく、あの異形がこの景色を作ったのだと、理解した時だった。

 

 

「グォォォォォッ!」

 

 

俺は、その音に引き寄せられるように、視線を空へと移した。

 

——暗雲を切り裂き、咆哮と共に、頭上を掠める一体のドラゴンが、そこにはいた。

 

身を包む鎧、背に据え付けられた砲台、手に持つは大剣。

ソレが翼を羽撃かせるたびに起きる衝撃が空気を震わせ、向かう先はどうやら異形の方らしかった。

 

しかし、異形も簡単には近づかせようとはしない、幾つもの触手を動かしてドラゴンの進路を阻もうとする。

 

それに対して、ドラゴンが行ったのは、たった一度の呼吸だった。

 

——一度目はブレス。

 

刹那、放たれた灼炎によって焼き尽くされた触手がボトボトと地に落ち。

 

——二度目はレーザー。

 

瞬時に可変した砲台によって放たれた一筋の光芒が、阻むもののなくなった異形を穿つ。

 

そして、身を包んでいた触手すらも焼き尽くし、核と思わしき物体を異形が露わにした瞬間だった。

 

隆々たる双腕、そして、羽撃きによって勢いづいた大剣。

 

——三度目は、大剣による振り下ろし。

 

一直線上に駆け抜けた剣閃が、異形もろとも空気を震わし、間違いなく核をも破壊し数瞬——一切の残骸すらも残さず、異形は塵となって飛散し……。

再び晴れ渡った空の下、ソレが——ドラゴンが、こちらを向き、紅のその瞳と視線がかち合った時……唐突に、景色は会場のものに戻った。

 

いつの間にやら、プロデューサーも、観客もそこには戻っていて。

もしや、今の俺と同じ体験でもしたのだろうか。

止まるところを知らないどよめきが会場を包む中、それを裂くように、ステージ上から声が響いた。

 

 

『——皆さん、ただいまご覧いただいたものは、当社を中心として開発した、V()R()M()M()O()R()P()G()の新作【Beyond World Online】のプレイ風景です!』

 

 

——VRMMORPG……だって?

 

——あのグラフィックで、か?

 

——おい、見たか? あのマップのサイズ……。

 

あまりにも唐突なサプライズに、そんな声が周囲を飛び交う。

なにしろ、たった今発表されたのは、未だにVRゲームが届いていなかったジャンル——MMOの新作だ。

それも、あの高精細なグラフィック……当然だ。

 

けれど、俺の興味の全てが注がれたのは、未開のジャンルでも、スライドショーに映されていた、制作協力としてクレジットされている多数の有名企業のロゴでもなく。

 

 

『——また、このゲームではアバターの種族として、ゲーム内に登場する、一部のボスモンスターを除いた全てを選択することができます!』

 

初めてのVRMMOでありながらも、信じられないくらいに大味な調整を施したことを示唆する発表の中、スライドショーに羅列された、幾つもの文字列の一つ——()()()()のみ。

 

 

——ほんっと、最高だよな。

 

 

先ほど、自分の口にした言葉が脳裏をよぎる。

 

 

もしも、さっき見たドラゴンのように、空を飛行できたら、業火を吐くことができたら、レーザーを放てたら、大剣を振るえたら。

 

ずっと、強く焦がれていた、最強と最強を掛け合わせたあの肉体を——自分で操れるのなら。

 

そんな時が、訪れるかもしれない、だなんて。思ってもいなかった。

 

 

……嗚呼、ほんっとうに、最高だ。

 

 

もう、頭の中は、先ほど見た景色で埋め尽くされていた。

 

 

それほどまでに強く、羽撃き、武装を振るう竜の姿は、幼い時から、今、この時まで。

 

 

ずっと、俺の心を突き動かしていた。

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