Elementary, my dear Harry. 作:Hamish
ハリー・ポッターは視線を忙しなく動かしていた。
バーノン・ダーズリーらダーズリー家の面々に何とか頼み込んで連れてきてもらったキングズクロス駅。そこから親切な赤毛の家族に面倒を見てもらい、ハリーは九と四分の三番線、ホグワーツ特急へ乗ることへ成功した。そしてなんとか、最後尾近くの空いているコンパートメントを見つけることが出来たのだが……
……そう、
ハリーが着いた頃には既に一人の少年が新聞紙を広げ、自身の上に被せ寝ていた。一列の座席を犠牲にして。横向きに寝ており、足元は下に下ろしていたため下半身は見えたが、肝心の顔は見え無かった。見ようによっては終電で激務に死んでいるサラリーマンに見えなくもない。スーツと腕時計が少し高すぎ、身体が小さい事に目を瞑れば。
「ここって空いて……この人、君の知り合い?」
ハリーが目の前の爆睡している少年を見ているとコンパートメントの扉が開き、赤毛の少年がひょっこり顔を出した。件の赤毛一家の一人である。
「いや。僕が来る前にはもう寝てたよ。他の場所なくて」
「ホグワーツは変人が多いんだって。運が悪かったと思うしかないね」
うちの兄たちもそうだけど、と付け加えながら赤毛の少年は言った。そのままハリーの隣に座る。少年の足は器用に畳まれていたため、通りづらくはなかった。
赤毛の少年がハリーをチラチラと見ながら上着を脱ぐ。
「僕ロン。ハリーだよね」
「そう。よろしくロン」
「よろしく」
どうやら彼はハリーの事を知っているらしかった。まあそれはそうだろう。あの“生き残った男の子”なのだから。魔法族家系の子供なら耳にタコができるくらい聞かされている。
「それにしても、これ誰だろうね」
沈黙を紛らわすようにロンは言った。
「上級生かな」
「かもね。背も高いし。流石に新入生がこれは無いって」
「だよね」
ハリーとロンは朗らかに笑った。
「見てみようよ、顔」
「ダメみたい」
ハリーは目の前に広げられた新聞紙の余白を指さした。何かボールペンで書かれている。
「『
「こんな混んでる汽車の中で一列丸ごと贅沢に使って寝てるんだもの、そりゃそうだよ」
「でもこう言われると見たくなるよな。覗くだけなら構わないよ。そーっと。そーっと」
悪戯っ子の血筋には抗えず、ロンはそろそろと手を伸ばして、新聞紙をペラリと捲った。
また新聞紙が出てきた。
「『
「『LOOK UP』……上を見ろ?」
ハリーとロンは同時に上を見た。勿論広がるのはコンパートメントのただの天井。何かが貼られている訳でもなく、異変がある訳でも無かった。
ロンはまたペラリと捲った。
「『LOOK DOWN』……またか?」
また二人は同時に下を見た。何も無い床である。
だんだんイライラしてきて急かすようにハリーもまた捲った。
「『LOOK TO THE RIGHT』」
うんざりしたような顔で二人とも同時に横に向けた。
「『LOOK TO THE LEFT』」
二人とも同時に左を見た。何かある筈がなかった。
ハリーとロンは競うように次の新聞紙を捲る。
「『
二人とも何も言わなかった。何だか図星な気がしてきて、なんて馬鹿なことをやっているんだろうと少し心が虚無に包まれた。だがもうここまで来たら引き返すのは勿体ない。ロンが最後の紙を捲ると、綺麗な顔をした少年が出てきた。緩くワックスで整えられたオールバック、ピン付きの赤のネクタイ。
彼がこの意地の悪い一連の流れを生み出した犯人である。
「こんな奴がこんな変人とは世も末だな」
ロンが眉を顰めて言った。見たところいい所のお坊ちゃんのようなこの少年が、ホームレスのように新聞紙を上に被せて寝ている。確かに世も末かも。ハリーはそんな事を思った。
結局、彼らはその後その少年を起こすことは無かった。事実その判断は間違っていなかったと言えよう。ホグワーツのモットー、『眠れるドラゴンをくすぐるべからず』を実に忠実に守っているホグワーツ生の鑑である。
車内販売のおばさんがやってきた。ペットのヒキガエルを無くした男の子がやってきた。次々とやってくる来訪者に、毎度これには流石に起こした方が良いだろう、とハリーがロンを見ても、ロンはどちらも首を横に振った。二人は起こさなかった。まさしく英断、未来の英雄たちはきちんとリスクヘッジが出来るのである。キングズクロスから汽車が出て早数時間、どうでもいい事を喋り散らかしながら、彼らは車内販売のお菓子を消費していた。
しかし無礼にも彼を起こす輩が現れた。
「誰かヒキガエルを見なかっ…………二人ともヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」
偉ぶった声だった。コンパートメントの扉を開けた少女は、右手に見える椅子を占領した新聞から覗くスーツを見て一瞬眉をしかめたあと、ハリーとロンに向き直った。ロンはその反応に目敏く気が付いた。
「きみ、この人のこと知ってるんだね?」
「残念ながら。触らない方がいいわよ」
『DON’T TOUCH ME!!』の文字を一瞥して少女は言った。
「私たちと同じ新入生よ。喋り出したら止まらないイヤミ製造機みたいな人だもの。まあ本人としてはイヤミと自覚してないのかもしれないけど……」
「車内販売が来た時も起こさなかったんだ。大丈夫かな」
ハリーが心配そうに言った。
「大丈夫よ。彼、甘いものが苦手らしいの。きっと車内販売も『低脳な人間が自身の頭の悪さを補うために摂取している糖分なんていらない』って言って跳ね除けるに違いないわ」
「親しいんだね」
「まあまあよ」
素っ気なく少女は言った。しかしハリーは、彼女の口角が少しだけ上がっていることを見逃さなかった。
「……私、ハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャー」
「僕ロン。ロナウド・ウィーズリー」
ハーマイオニーとロンは軽く握手した。
「よろしくロン。あなたの名前は?」
「ハリー・ポッター」
ぎこちなくそう言うハリーに、少女―――ハーマイオニーは目を見開いた。
「あら、
「その通り」
ハリーは少し疲れたように微笑んだ。魔法界にはプライバシーなんて存在しないらしい。自分の名前を言っただけでこの反応だ。
しかしハーマイオニーは意外な反応を見せた。
「私も知り合いに魔法族はいないの。マグルってやつね。参考書を二、三冊読んだ限り、あなたは魔法族に崇め奉られているらしいわ」
「そうらしいんだ」
初めて自分以外にマグル生まれがいると分かって、ハリーは安堵のため息を吐いた。どうやら気位の高そうな女の子だけれど、良い友人になってくれるかもしれない、とハリーは思った。
その時だった。
「どけ」
またまた来訪者がやってきた。今度はオールバック―――と言っても新聞紙の彼とは違い、かっちりと固められたものだったが―――の金髪の偉そうな少年、その脇に体格が大きめの少年二人。どんと身体を押されたハーマイオニーは、寝ている少年の上に突っ込んだ後、慌ててロンの隣に座った。それでもスーツの彼は起きない。ハリーはむしろ尊敬さえ抱いていた。
「失礼な人ね!」
眉を吊り上げてハーマイオニーが言う。ロンも顔を顰めていたし、ハリーは真ん中の少年がこの前のマダム・マルキン洋装店にいた子だと分かり、少し身体を仰け反らせた。その時彼はハグリッドを馬鹿にしたのだ。苦手意識は拭えない。
何しに来たんだこいつら、という三人の視線に晒されながら、真ん中の少年は腕を組む。自分が上位であるというように、顎を上げた。
「ほんとかい?このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話で持ちきりなんだけど」
とんがった声だった。強く関心を示した顔で、真ん中の少年は探るようにハリーを見ていた。
「じゃあ、君が?」
「私たちは無視ってことね」
ハーマイオニーがロンに向かって言った。
「失礼な女だな」
金髪の少年は言った。ロンの方を一瞥した後、鼻で笑う。
「見たところによるとウィーズリーの人間もいるらしい。ああ、なんで分かったかって?赤毛で、汚らしいそばかすで、育てきれないたくさんの子供がいるウィーズリーなんてひと目でわかるさ。そのダボダボのシャツ!」
金髪の少年の言葉に、脇の二人が意地悪そうに笑った。ロンの頬が赤くなる。母親が朝忙しく作ったコンビーフ入りのパサパサなサンドイッチを隠しながら彼が反論の言葉を探しているうちに、ふとハーマイオニーが口を開いた。
「貴方は育ちが良さそうだけれど、彼には敵わないと思うわ」
「彼?」
「彼よ。王室の血縁だもの」
ハーマイオニーが目の前で寝ている少年を指さした。金髪の少年が嘲笑する。
「ホームレスみたいに寝てるやつが?おいクラッブ、その新聞紙を退けてみろ」
脇にいた屈強な少年A―――クラッブが少年に近付き、新聞紙をばさりと叩き落とした。
下から出てきたのは、目をかっぴらいた少年。
その場にいた全員、起きているとは夢にも思わず、身体をのけぞらせた。
「うるさい」
まるで地獄から這い出てきた悪魔が発したような低い声だった。眠さで目つきの悪くなった水色の目を瞬かせながら、その少年はゆっくりと身体を起こした。蛇に睨まれたかのように誰も動かない中、少年は床に打ち捨てられた新聞紙を拾った。
「その自制の出来ない騒音で私の邪魔をしたのは君たちか?」
自前の目つきの悪さで意地悪そうな三人、そしてハリーたちを睨みつける少年。
あ、僕達もなんだ、とハリーは背中に冷や汗をかいた。
「……王室の血縁とは、本当のことか?」
真ん中の少年は唾を飲み込みながら聞いた。スーツの少年は鼻で笑う。
「人のプライベートに踏み込む前に、名前でも名乗ったらどうだ?」
「……僕の名前はドラ」
「いい、興味の無い情報は覚えない」
手で追い払うようなジェスチャーをして、欠伸をしながら少年は言った。
「それに、見た目で自己紹介以上のことが推測出来る」
「あら、そう。本当にそうかしら?」
ハーマイオニーが突然口を挟んだ。ハリーとロンがハーマイオニーを凝視すると、彼女は金髪の少年たちに見られない角度で片眉を上げた。スーツの少年が瞑っていた瞼を上におしやる。
ハリーは気が付いた。成程、イヤミ製造機を稼働させようと言うんだな。
「勿論だ。例えばそこの金髪で背が低いヘアーワックス好きの少年」
席に寝転んだままスーツの少年はぴっと人差し指を指した。
「身なりの良さとオーダーメイドの靴から上流階級の育ち、親を厳しいと思っているが実際は甘やかされて育った世間知らずのボンボン、そのキツいコロンと引き伸ばされたソックス、両脇にくっつけた金魚のフンは自己顕示欲の表れ、虚栄心というよりかは自分の持つ手札で最大限自分をよく見せようとするタイプだな?シャツのイニシャル入りカフスは誕生日に買って貰ったものだ。その傷の付き方から四、五年前。虚栄心の強い人間なら父親の新品のをかっぱらってくるはず。その上、そうそこの少女のように自己中心的で自意識過剰、自分はこの世界の王様で主人公だと思っている。ああ、勘違いしない方がいい、君は彼女よりも頭は良くない。その反面本性はナイーブで傷つきやすく弱虫。おそらく変にちょっかい掛けて自滅していくタイプだ。全てにかけて要領は中レベル周りの人間選びのセンスもなく自分は履かされた靴で踊らされているとも気が付かない憐れで愚かな人間だと早く自覚した方がいい」
一息でそう言い切ったスーツの少年は、ちらりとその脇の二人に目を向けた。
「君たちは……特に言うことは無いな。脳が無いことは誰でも分かるだろう。因みにその少年には友人だと思われていないぞ。精々良くてボディーガードレベルの価値しか見出されていない」
次から次へと流れていく言葉に口を挟むことも出来ない。
二人の大柄な少年は呆気に取られたように口をぽかんと開いていた。あまりに流暢でなめらかに煽りの言葉が滑り出してくるものだから、怒りの感情があまり湧かないようだった。
「相手の態度や威勢だけで敵か味方か判断するタイプだろう。あまりおすすめはしない。人類ならば少しぐらいその低スペックな脳を働かせて文脈を読みとりたまえ。だいぶ頭がマシに見える」
ちなみに挟まれた金髪の少年は今にも沸騰しそうなほど頬をピンク色に染めて、眉を吊り上げている。ロンは嬉しそうに口元をひくつかせた。
「そして君」
しかし餌食にされない訳ではなかった。
「上に五人の兄がいるね?そのお下がりの服装で大体の修理回数と着られた年数が分かる。どれもバラバラだ。そのダボダボのシャツに草臥れたTシャツ、丈の短いズボンにお下がりの杖。そのズックの裏に着いている藁は家畜用のだろう。田舎に住んでいるから自身の世界が小さく、優秀な兄だけを見て育った。何も取り柄がない自身に苛立ちと劣等感を覚えているが改善する気もない。向上心はミジンコほど小さく出世も出来ないタイプ、生涯年収はそこの金髪くんの親御さんの総資産の五分の一にも満たないだろうな。容姿にぐらいは気を配った方がいい、鼻に泥がついているし爪が噛まれた跡でガタガタだ」
今度はロンが赤面する番だった。思い切り飛びかかろうとしたが、金髪の少年たちがぐっとこらえたため、ここで手を出してしまったら自身が幼稚であることになってしまう。ロンは代わりとばかりに全ての元凶ハーマイオニーを睨んだ。
一方ハリーは諦めたように目を閉じた。次は僕の番だ。
「君は―――幼い頃に両親が死に今は自分と魔法の存在を酷く嫌った義両親の元で乱暴な従兄弟と暮らしている。その流行が過ぎ去ったブカブカのTシャツを見れば明らかだ。従兄弟は体格がいいようだな。甘やかされている。一方君はご飯もロクに食べさせて貰えず反抗的な行動をしたら折檻される。横暴でワガママな彼を見下しているが実際そんな君もいい人間ではないだろう?“生き残った男の子”なんて言われて満更でもない。まあそういう意味でなら、ある意味突出したところがないどこにでも代わりがいる平凡な人間だ、おめでとう。負けず嫌いで好き嫌いが激しい。新しく眼下に広がる魔法界という存在に依存し最早家には帰りたくない。やせ細ってセロハンテープでとめただけの壊れかけのメガネをかけた、いじめっ子から逃げ回る人間とは誰もお友達になりたくなかっただろうからいつも一人だったんだろう。マグルの世界で待ってくれる友人もいない」
遂に彼はこの場の六人中五人を敵に回した。理路整然と語られる煽りと人のコンプレックスを的確に突いてくるその手腕は一点物だろう。この場にいるスーツの少年以外の男性諸君は、皆一様に『殴りたい』という衝動にかられた。まあ殴ってもいいと思う。少なくとも彼らにはその権利がある。
「少し刺々しい言い方になってしまったな。まあ考え事をしている最中に邪魔をした君たちが悪い」
クラッブじゃない方が拳を握り始めたのを見て、スーツの少年は腕を組んだ。
「因みに私は君たちが過去に犯した過ちを全て言い当てる自信がある。もしこれ以上私の時間を邪魔しようと言うのならうっかり全校生徒に広めてしまうかもしれない」
ではおやすみ。そう言ってスーツの少年はまた顔の上に新聞紙を乗せて寝始めた。遂にクラッブじゃない方が殴り掛かる。すんでのところで、新聞紙を被せたスーツの少年が手を上げて静止した。
「言っただろう?
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
スーツの少年はジェスチャーをしながら補助するようにそう言った。クラッブじゃない方は素直に深呼吸を繰り返したあと、金髪の少年の後ろに戻った。何故だろうか、従ってしまう声色だった。それを差し引いても頭が悪かったからかもしれないが。
「もう一度私を使おうとしたら許さないからな、グレンジャー」
不意にスーツの少年が言った。その言葉を最後に、彼は黙った。眠りに落ちたらしい。
その場には静寂が充ちた。六人が微妙な顔をしてその場にいた。全員が被害者、誰しもが傷を負っている。無傷だったのはスーツの少年とハーマイオニーぐらいだろう。男子陣は妙に疲れた顔でお互いの顔を見つめていた。
「……因みに、こいつの名前は?」
金髪の少年が言った。
「ハーヴェイ・J・スウィングラー。同い年よ」
ハーマイオニーが眉を八の字にして言った。この死屍累々の面々を見て、彼を焚き付けたことを後悔しているらしかった。
「僕はロン。こっちはハリー」
「僕はドラコ・マルフォイでこっちがクラッブ、こっちがゴイルだ」
彼らは何も言わなかった。ただ、自身の名前を言って別れた。あれだけ最初はふんぞり返っていたドラコも別れ際は少しばかり落ち着いていたし、ロンも言葉数少なになっていた。
人は弱みや苦しみを見せられると、その人間と親しくなったと勘違いする傾向にある。普段はあまり見られないからだ。河川敷で殴り合う不良少年たちが最終的には心の友になるのも、看護師がナイチンゲール症候群に陥るのもその心理現象が全ての原因だ。
ハリーやロン、マルフォイもそうだった。
最初は嫌な印象でしかなかったが、ハーヴェイとかいう物凄い困難を共にすることによって少しばかり相手の印象は良くなったのである。それでも友人には程遠いが。名乗ったと言うだけまだマシだ。困難を共にするということもまた意味があるのだが、今は割愛することにしよう。もうすぐローブに着替える時間だ。
ハリーの後、ロンの前。それがハーヴェイの位置だった。
なんの位置かって?勿論―――組み分けの。
「正直言ってどこの寮でもいい。馬鹿がいなければ」
ホグワーツ城への道中そうハリーとロンにごちていたハーヴェイは、死んだ目をして目の前の段の上に置かれた木製の椅子と、その上にある古びたとんがり帽子を見つめた。
「
周りには目を輝かせたり白黒させたりしている沢山の新入生。その中で五十歳ぐらいの疲労と哀愁を漂わせながら佇むひょろりとした男。完全に場違いである。今からでも入学拒否とかダメだろうか、とハーヴェイは血迷った。
「Swingler.J.Hervey!!」
ミネルバ・マクゴナガルの声が聞こえた。
死刑台に上がるような気持ちでハーヴェイは壇上に上がった。マクゴナガルは申し訳程度に口角を上げて、帽子を被せた。
「
「無理です、lady」
「マクゴナガル先生とお呼びなさい」
「マクゴナガル先生」
ぶつくさ言いながらハーヴェイは椅子に座った。ワクワクのワの字も見えない。
「Uh-huh!!!」
被った帽子が突然大声を出した。新入生たちがざわりと騒がしくなる。見ればまだ残っているロンも不安そうな顔で彼らを見ていた。耳を塞いで顔を顰めたハーヴェイに、組み分け帽子は面白そうに笑っている。
「鼓膜が破れる。少しは自重というものを覚えたらどうだ」
「君は面白い脳をしているな?赤ん坊の頃の記憶を持っている」
「だからなんだ」
「考え方も複雑。知識もあるようだ……フーム、ハッフルパフではないね。グリフィンドール、レイブンクロー、スリザリン……悩ましい……」
ハーヴェイは目頭を押えた。
「グリフィンドールはやめてくれ」
「グリフィンドールは嫌かね?勇気もある、知識については申し分無し、性格は狡猾……レイブンクローかな?………………いや、待て」
やっと決まったかと言う時、帽子は止まった。
「君は、
「……まあ」
ハーヴェイは渋々頷いた。
「切望するのは飽くなき非日常。心躍る謎に、身の毛もよだつスリル」
「よくもまあそんなにペラペラと人の性格が語れるな」
「君の真似をしたまでさ」
帽子はくつくつと笑った。
「一つ君にぴったりの寮がある……危機がこれから溢れんばかりに訪れるであろう寮だ……もし運が良ければ命の危機が何回も」
「それは良い、平坦な日常なんてクソ喰ら……待て」
「その寮にはあの闇の帝王に睨まれている男子生徒もいる」
「待て、まさか」
「君の願いを叶えるならば………………グリフィンドール!!!!」
組み分け帽子は決断を下した。大きな声が大広間中に轟く。
拍手が巻き起こった。既にグリフィンドールの席についているハーマイオニーとハリーからは苦笑を送られている。先にスリザリンに組み分けされていたマルフォイたちは、そっとサムズアップして嵐が避けて行ったことを喜んだ。
「この野郎……」
一方渦中。ハーヴェイは震える声で悪態をついた。
「生徒の望みを受け入れるのが学校としてのホスピタリティじゃないのか」
「これが最大のホスピタリティだよ、ハーヴェイ。グリフィンドールに入寮おめでとう!」
ニコニコとそう告げる帽子に、ハーヴェイは頭の中で散々な悪態をついた。
その後。潔癖で温室育ちのハーヴェイがグリフィンドール生と馴染めるはずもなく。
「テーブルマナーがなっていない!Oh my god、誰が君を育てたんだ?そうか、君は実の両親がいないんだったな!それを直接テーブルに置くな!」
「どうして入寮初日の床の上に衣服が投げ捨てられている?週末にはこの部屋をゴミ溜めにする気なのか?フィネガンへらへらするな、こんな事だったら外にあるゴミ箱を君の代わりに据えた方がまだマシだ、君は寒空の中本来ゴミ箱があった場所で凍え死にたまえ」
「このテープ!このテープから一ミリも侵害してくるな!」
「このベッドのスプリングはどうなっている?何百年ものだ、この骨董品め」
「部屋が狭すぎる!!!!!!!」
ハーヴェイは天に向かって発狂した。
翌朝、目の下に濃いクマを作ったハーヴェイは、ベッドの壁に身体を持たれかけさせて分厚い古文書を読んでいた。寝ぼけ眼を擦りながら、ハリーはハーヴェイを見る。そういえば昨日自分が寝付く前からずっとこんな感じだったような。
「おはよう、ハーヴェイ」
「気持ちの良い朝だなポッター」
「よく眠れた?」
「一睡も。そもそも私はキングサイズのベッドに羽毛布団五枚、枕十二個が無いと眠れないんだ」
「その条件は厳しいと思うよ」
「だろうな」
ハーヴェイはがっくりと項垂れた。流石に入学式終わりの一晩を寝られなかったことがこたえたのか、覇気はなかった。ハーヴェイは腰掛けていた隣に伏せてあった携帯をポチポチと弄って、上を向いてため息をついた。天を仰いだまま、ハーヴェイは口を開く。
「因みにポッター、私の携帯の液晶がとんでもない色に変化している事について、心当たりはあるか?」
「……ハーマイオニーが言ってたけど、ホグワーツの中では一切の電子機器が使えないらしいよ」
「
目が逝ったハーヴェイが高圧ネジ打ち機を持ち出し自分のベッドを魔改造するまで、あと四日。