Elementary, my dear Harry.   作:Hamish

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Fun Potions Class

 

 けたたましい音が鳴った。

 ぐっすりと眠っていたハリーたちが一斉に身体を起こし、音の原因を寝ぼけ眼で探す。いや、探すまでもない。既にグリフィンドールの珍獣として名を馳せている人物……ハーヴェイ・J・スウィングラーの、黄色いテープで区切られたテリトリーからだ。

 ハリーたちの大事な朝の微睡みを邪魔した張本人は、未だ目の前の木板と格闘している。

 「Good morning, boys.素敵な朝だ。一睡も出来なかった私にとっては悪夢のような朝だがね。ああ、勿論私は悪()なんて見てない。言葉の綾だな。これは私の悲嘆にくれる心情を実に上手く表した比喩であって」

 「なあハリー。あいつ狂っちまったのか?」

 「元からだと思う」

 最早クマの常態化した目を血走らせて、ハーヴェイは止まることなくペラペラと話し続けている。手には高圧ネジ打ち機、その先にはベッドの柱。怪訝そうに疑問を呈したシェーマスに、ハリーは微妙な表情で答えた。

 「Nightmareという言葉はゲルマン民族に伝わるMareという悪霊から来ている。眠っている人間の胸元に座り込んで悪夢を見せるんだ。クロアチアでは夜になると美しい女性に化け、長い年月をかけて生命力を吸い尽くすらしい。しかし考えてもみたまえ、睡眠というのは人間の生命における約四分の一程の時間を」

 「アー、一応聞いておこうと思うんだけど」

 寝癖でくしゃくしゃになった髪を掻きながら、ロンが口を開いた。ハーヴェイはなめらかに独り言を続けながら淀みない手つきでネジを打ち込んでいく。低い音が断続的に響いた。どうやら先程のけたたましい音は高圧ネジ打ち機の起動音だったらしい。

 「なんだロバート・ウィーズリー」

 ハーヴェイがやっと返事をした。

 「ロナルドだ。君は一体何をやってるんだ?」

 「見て分からないのか?リフォームだよ、リフォーム。DIYだ」

 ハーヴェイの隣には、木の屑にまみれた『初心者でも簡単!DIY講座』という雑誌が置かれていた。既にベッドには四つほどネジが打ち付けられている。初心者にしては手際がいい。

 「そういうことを言ってるんじゃないんだ」

ロンはすっかり目が覚めたようで、目を丸くしながら言葉を続けた。

 「君がその凶器を使ってその狂気的な行動をしている意味を」

 「凶器で狂気?」

 ハーヴェイは爆発したように笑い出した。手元のブレた高圧ネジ打ち機が床の板をガリガリと削っている。ネビルはシリアルキラーでも見たような顔をして、ベッドの上で後ずさった。

 「やっぱり壊れちゃったのかもしれない」

 ハリーは前言を撤回した。

 ハーヴェイが爆発的に笑い出して数秒後。なんの前触れもなく彼の顔からすとんと表情が消えた。

 「何が面白いんだ。そんな遊び心のない駄洒落ははじめて聞いた」

 「頼むから精神を安定に保ってくれないか?」

 「君に私に命令する権限は無い」

 ロンを無視してハーヴェイはまた作業を再開し始めた。順調に一枚、板がベッドの柱に定着する。血走らせた目をぐわりと開いて、ハーヴェイはネジを付けていく。

 「大体そんな改造しちゃって、怒られるんじゃない?」

 「私が卒業したら物を直す呪文を使いたまえとダンブルドアに言っておく」

 「大改造するなら厳しいと思うよ」

 「ダンブルドアなら出来る」

 「しかもほら、あんまりにも部品が無くなったら修復以前の問題だし」

 「だったら他のベッドを複製すればいい。複製の呪文くらいあるだろう」

 「大きくなれば大きくなるほど魔法は難しくなるんだよ」

 「ダンブルドアなら出来る」

 大魔法使いへの信頼と言うよりは、便利屋としての信頼では無いだろうか。

 「因みに朝から騒音を出したことへの謝意はないの?」

 「あと八分で朝食の時間だ。寧ろ感謝して欲しいね遅刻続きのジョシュア・フィネガン」

 「シェーマスだ」

 片眉をぴんと上げたシェーマスは念を押すようにそう言うと、構ってられないと言う風にベッドから起き上がった。

 「Whatever(なんでもいい)

 ハーヴェイはボソリと呟いた。既に三枚目の板に取り掛かり始めている。黄色いテープの向こう側に転がった木材の種類の多さを見る限り、だいぶ手の込んだものを作るようだ。『初心者でも簡単!DIY講座』の下に精巧な図面が書かれた紙が隠れている事に、ハリーは気が付いた。

 「プロに頼んだ。流石の私でもアマチュアで設計図は書けない」

 ハリーの心の中を見透かしたように、カンカンカンカン何やら打ち付けながらハーヴェイは答える。余っ程ホグワーツのベッドがお気に召さないらしい。安っぽいシーツで熟睡を極めていたハリーとロンは、そっと目配せをした。癪に障るけど、今目の前で精神崩壊寸前の友人を見たら楽な性格をしていて良かったなと思う。

 「ハーヴェイは朝ごはん食べないの?」

 「食べない。既に睡眠欲が食欲を大きく上回っている状態だ。これを完成させるまで寮の階段は降りない」

 「授業は?」

 「勿論欠席に決まっている。例え近くの死火山が活動を開始して大噴火を起こしても、機密機関のバイオ研究所によって死のウイルスが撒き散らされても、月が無くなって超大型隕石が地球に降ってきても邪魔をするな。さもなければテロ組織を焚き付けてスコットランドを火の海にしてやる」

 「オーケー。ここには近づかないよ」

 寝間着からローブに着替えながらハリーは言った。ネビルが遠くの方でがたがたと怯えていた。

 「誰か階段を駆け上ってきてない?」

 「あーあ、上級生からのクレームだ。面倒なことになるぞ」

 外からバタバタと音が聞こえる。ロンがため息を吐くと、扉が勢いよく開かれた。

 「おい、朝っぱらから煩いぞ一年生!」

 「ヴァージン卒業おめでとう」

 

 流れる数秒の静寂。

 

 「……ヴァージンが、なんだって?」

 上級生―――仮にケビンくんとしよう。ハリーたち一年生から視線が針のように突き刺さる中、ケビンくんは顔を可哀想なくらいみるみるうちに真っ赤にして、唇を震わせた。羞恥と怒りが混ざったような表情でハーヴェイを睨んでいる。

 「その寝間着の皺とボタンに引っかかった長い髪で一目瞭然だ。上手く処理出来ていない所を見ると初心者、寝不足で少し目が充血している。夏休み中離れていた恋人と用心に用心を期して入学式から落ち着いた四日目の真夜中に性交渉をしたんだろう。身長、肌、汗のかき具合から推測した部屋番号から推測するに君は今三年生。良かったな、同級生より先に大人の階段を登れて」

 「な、な……」

 「寮生活だから自室でやるのは不可能、という事は場所は談話室か寮の外だな。右足の付け根についたその傷を見るに……」

 「おい、口を謹んで差し上げろ」

 ロンは持っていた紙を丸めて、邪推を続けるハーヴェイをパコンとはたいた。

 その場にいた視線がそちらに向いた瞬間に、ケビンくんは転がるように脱兎のごとく部屋から逃げ出す。可哀想に、とハリーたちが出口に向かって憐憫の目を向ける中、一人ハーヴェイはぽかんと目を丸くしていた。

 「……?」

 「あのなハーヴェイ、僕達もいつかは行く道なんだ。辱めてはいけない」

ロンはしゃがんで、ハーヴェイの両肩に手を置き、まるで三歳の子供を諭すような柔らかい口調で宥めた。無垢な目をしたハーヴェイが首をこてりと傾ける。でも目は血走っているので全く可愛くない。

 「君が行けるのか?」

 「ぶっ殺すぞテメェ」

 掴みかかったロンをハリーとシェーマスが引き剥がすのは、随分骨が折れた。

 

 「なんでアイツはああも人の神経を逆撫でする事に無頓着なんだ?よくもまあ今まで背中を刺されずに生きて来れたな」

 「腹は刺されてるかもしれない」

 ハリーとロンが手の中に収まったハーヴェイ宛の紙をぴらぴらとはためかせながら話していると、ハーマイオニーが近寄ってきた。

 「何持ってるの?」

 「ハーヴェイ・J・スウィングラー宛のマクゴナガルからの怒りの罰則状と、フリットウィックからの嘆きの罰則状」

 「内容は?」

 ロンは眉を顰めながら、まるで裁判官が罪状を発表するかのように紙を伸ばした。

 「アー、変身術の魔法界における重要性と自身の行った愚行に対する反省を羊皮紙三巻き分と、浮遊呪文に関する自習を一巻き分だってよ」

 「あら、反省文。()()()ね」

 「マクゴナガル先生とハーヴェイのバトルなんて一生見たくないよ。入学五日目にして見ることになったけど」

 「あの人魔法全般が嫌いだから、その反省文とんでもない事になるわよ、きっと」

 「なんで嫌いなの?」

 「科学的に証明出来ないからって。自分の推理が魔法でめちゃくちゃにされるのが怖いのよ」

 「マクゴナガルにロックオンされること間違いなしだね。変身術の時は遠くに座ろう」

 ロンとハリーは頷きあった。そういえば、とそのまま二人の目線はハーマイオニーに向かう。

 「なんで君はずっとハーヴェイと組んでるんだ?」

 「あの人ああ見えて学年で一番頭がいいからやりやすくって」

 「ああ見えても彼の頭の良さは分かるよ。悪目立ちしてるから」

 「頑張ればあの人だって他人を慮ったり敬ったり余計な事を言わなかったり紳士な言動が出来るはずなの。でもそれに執着すると思考の八十パーセントが持っていかれるんですって」

 「八十パーセント。つまり僕たちがハーヴェイみたいに全てを投げ捨てれば残りの八十パーセントの脳が使えるようになるのかな?」

 「そこまでして頭良くなりたい?」

 「全然。僕は人間をやめたくない」

 ハリーは首を横に振った。

 「そもそも意識しないとマトモなコミュニケーションが出来ないことがおかしいんだよな」

 「猫被ってる時は今まで読み漁ってきた心理学の文献と知り合いの態度を参考にして、その場に適した最善の行動を取ってるの。プログラミングの応用らしいわ」

 遂にハーヴェイが人間か否かの雲行きが怪しくなってきたところで、ふとハリーは疑問を呈した。

 「君ハーヴェイのことよく知ってるよね。聞いたの?」

 「ええ、聞いたわ。彼の生態に学術的な興味があるの。でも勘違いしないで、好きじゃないから」

 恐らくこの三人の中で最もハーヴェイを人間扱いしていないのはハーマイオニーじゃないだろうか。

 自分より頭のいい人の今まで会って来なかったから。別に友達になりたいとかそういう訳じゃなくて。ハーマイオニーはそうブツブツ言い訳をし始めた。コンパスの長いハーヴェイの横を小走りでついて行く様は傍目から見れば懐いているように見えなくもないのだが、どうしても認めたくないらしい。ダイアゴン横丁で色々、本当に色々言われたので。

 一人で言い訳を延々と喋り続けるハーマイオニーを見て、大概こいつもいい性格してるよな、とロンはハリーに目配せをした。

 

 

 

 「素晴らしきかな、魔法薬学。魔法って面白い」

 ハーヴェイという人物を知っていれば一度は耳を疑うような台詞をハキハキと喋りながら、ハーヴェイは鍋を掻き回していた。隣で蛇の牙を砕いているハーマイオニーが頬をぴくりと引き攣らせる。にこにこと不気味なまでに笑うハーヴェイは、正直言って精神崩壊気味な時の方がマシだと思えるくらい寒気がした。

 昨日半日かけてやっと自分の満足いくベッドを完成したハーヴェイは、満足いくまで惰眠を貪った。取り寄せた最高品質の羽毛布団三枚、枕五個。横に長い棺桶の様な形をした異様なベッドに、なにかの巣のようにそれを敷き詰め身体を滑り込ませたハーヴェイは、ベッドの扉を閉めてうっとりと血走らせた目を閉じた。

 ああ、やはり睡眠こそ至極の贅沢。スウィングラー邸のよりかは劣るが、ホグワーツのベッドも悪くない。

 最早棺桶ベッドからホグワーツ要素など銀河の彼方に飛んでいっているのだが、ハーヴェイにはそんなこと関係なかった。例え外で「鎖を巻きつけて鍵を掛けよう、今ならまだ間に合う!」「落ち着けシェーマス!こんな奴のために君が人殺しになることはない!」とルームメイトがギャーギャー煩くても、扉の隙間からマクゴナガルとフリットウィックからの罰則状が差し込まれても、ハーヴェイの心は平穏だった。

 だから怖いのである。いつもフルスロットルのマシンガンが、突然静かになったのだ。当然弾切れでは無いことなど周囲は認知済みで、ハーヴェイを異常に怖がるネビルなど、笑顔で話しかけられた瞬間脱兎のごとく逃げ出していた。

 「魔法薬学の何がいいのかまったくもって理解出来ないけど、君は取り敢えずハリーに謝った方がいいよ」

 「なぜ?」

 「死んだ顔をしている人の隣でそうニコニコ喋るもんじゃない」

 ハーヴェイはロンの言葉に横を向いた。ハリーが死んだような顔で蛇の牙を砕いている。パキャ、と変な音を出して大きな塊が砕けた。

 「授業の最初のアレ、見てただろ?あのイビリ方は正気じゃないぜ。きっとハリーに親でも殺されたんだ」

 生徒を見て回っているスネイプがこちらに気が付いていないことを確認しながらロンが言った。ハーヴェイはにっこりと笑ってハリーの肩に手を置く。

 「大変面白いものを見させてもらったよ。久々に心から笑った」

 「昨日も君、僕のくだらない駄洒落で弾けるように笑ってたぜ」

 「残念ながら昨日の記憶はほぼ無いんだ」

 ゆったりと微笑むハーヴェイ。

 「ハーヴェイとかハーマイオニーならあの質問、全部答えられたんだろうな」

 アスフォデルの球根が何とかとかトリカブトが何とかとか。授業の最初の出欠で異例の詰問を受けたハリーは思い出したのか眉を顰めた。

 「残念ながら魔法界の知識は最小限に留めている。私だって知らないものは答えられない」

 「君に知らない事なんてあったんだね」

 「勿論だとも」

 「なんでこの国Britain(ブリテン)って言うの?」

 「アングロ・サクソンが侵入してくるより前から定住していた先住民であるケルト系のブリトン人から派生している」

 「ハーヴェイって一家に一台欲しいね」

 ハリーはため息をついた。

 ハーヴェイはハリーの様子を見て、鍋を掻き回しながら少し考え込んだ。

 「凡人だとそう悩むこともあるのか」

 「凡人じゃなくても悩むと思うかな!」

 あの苛め方は例え誰であろうと心にくるだろ、君以外。とロンは言った。ハーマイオニーから蛇の牙を受け取りながらハーヴェイは不思議そうな顔をする。

 「弱みを握ればいいじゃないか」

 「そうか、分かったぞ。君は変な方向に天然なんだ。じゃなきゃそんな顔でそんな恐ろしいこと言わないはずだもんな」

 「一週間ぐらい観察していればその人間の大体の人となりが分かってくる。過去に過ちが無い人間なんて無いんだ、揺すれるネタが出るまで掘り起こせ……と知り合いが」

 「その君の知り合いに今度会ったら殴り飛ばしちゃうかもしれない。その人が居なかったら多分学生生活がもう少しラクになっただろうから」

 「奴はフェンシングと少林寺拳法を嗜んでいた筈だから傷を負わせるのは難しいと思うけど、喧嘩する時には私も手伝おう」

 「ありがとう」

 入学式より幾分か落ち着いた―――というか今までがイライラしすぎていたのだろうが―――ハーヴェイは、未だに睡眠の幸福が続いているのか、ぽやぽやとした雰囲気で頷いた。

 「大体セブルス・スネイプの過去に薄暗いものがあるなんて一瞥しただけで明白だろう。寧ろ後暗いものしかないはずだぞ。もし私が君なら彼の過去を徹底的に調べあげるだろうな。勿論並大抵の者じゃ出身すら当てられないだろうが、今ある材料だけでも私は推理することが出来る。なんで叩くんだ?ハリー。例えばウォーミングアップに初恋の人なんてどうだ?あの使い古されたローブを入学式から着ているから執着心が強いタイプ、初恋の人は幼い頃に―――――おや、こんにちはスネイプ先生」

 ハリーがバシバシと叩いて後ろを向くように言っても喋り続けたハーヴェイの隣に、感情を殺したようなスネイプが現れた。ハーヴェイは前を向いて、少しばかり黙って鍋を掻き混ぜた後、ハリーに向き直る。

 「それで、初恋の人の話なんだが」

 「なんでこの状況で続けようとしてるの?」

 「ポッター、スウィングラーと私語をするな。グリフィンドールは一点減点」

 その後の授業で、スネイプはハーヴェイのことを居ぬものとして扱った。ハリーとロンは何とかしてハーヴェイにスネイプの弱みを調べて貰えないかと頼み込んだが、「私が殺されてもいいのか?」という彼の一言に閉口してしまった。彼らの苦難は続く。

 

 

 

 『やっと電話を掛けてきたな無能』

 「ホグワーツで電子機器が使えないこと言わなかっただろ性悪」

 『お世辞か?』

 携帯の向こうからくすくすと笑う声が聞こえる。ハーヴェイは額に青筋を立てないように携帯を握り締める。

 「インターネットに接続出来ないとはどういう事だ、情報規制も甚だしい。ここは英国だぞ?」

 『やはりそうか。空間認識を阻害する魔法も掛けられているらしいから軍事衛星で見つけることも出来ないし、困ったな……』

 「困ったと言う時にはきちんと困った振りをした方がいい。少なくともその薄ら笑いをやめろ。……そういえばマクシミリアン殿、この携帯に内蔵されていた追跡装置はうっかり壊しておいた。今見るも無惨な姿で私の手の中で転がってる」

 『なぜ?』

 「世界の平和とお前に作る貸し何百を天秤にかけてギリギリ世界の平和が勝ったから。ホグワーツを抑えた時点でお前は魔法界掌握に動き始めるだろう?いくら魔法使いが隠蔽したとて彼ら側にはしこりが残る。第三次世界大戦を防いだんだよ私は。感謝したまえ」

 手の中で潰れた追跡装置を弄びながらハーヴェイは言った。

 『因みにこの電話が逆探知される可能性は考えなかったのか?』

 「その可能性も考慮して中国の違法サーバーを経由してる。逆探知した先はどうだった?」

 マクシミリアンがその場に居たらしい部下になにやら話した後、口を開いた。

 『中国が広東省、深センだ。あそこには世界有数のチャイニーズマフィアがいる』

 「恐らくこのサーバーのバックに付いてるだろうな」

 『そちらに行っても脳はふやけてないようで安心したよ』

 マクシミリアンはやっと探りを入れることを諦めたらしく、ハーヴェイは欠伸をしながら足を伸ばした。現在時刻は十九時、皆が夕食を食べに大広間に集まっている時刻である。

 『眠いのか』

 「大変だったんだ、携帯が通じるギリギリの境界線を探るのが。色々確かめたんだが、どうやらホグワーツのバリアは校長室を中心として球体状に広がっているらしい。わざわざ距離まで測って計算したから間違いない。隙を見て境界の外に出るのもダンブルドアにバレそうだし、次からは飛行術の時に隙を見て上空で通話か、ホグワーツの抜け道を探して他の場所に出るか、バリアの届かない地中からだろうな。次の連絡は遅くなると思う」

 『一ヶ月猶予をやるが……地中からは電波が届かないだろう』

 「確かに」

 『脳がふやけ始めているらしいな、気を引き締めなさい』

 「分かってる」

 電話の向こうのマクシミリアンが息を吸い、声色を変えた。

 『……ハーヴェイ、学校生活はどうだ?』

 「やっと保護者らしい質問をしてきたな。まあまあだよ」

 『本音は?』

 「あと二、三日の命ってところだ」

 『嘘だな、本当は楽しいんだろう。猫を被る必要が無くなって』

 「まあ……それは、否定しない。ベッドも作り替えたし今のところ快適だ。近いうちに誰の目にも留まらない小部屋にサンドバッグを置こうと思ってる。流石に身体が鈍ってきた」

 ハーヴェイは寄りかかっていた手すりから身体を離した。今いる場所は城の正面に敷かれた石畳の橋の上。向こうに見える玄関の更に向こうの大広間に、夕食を食べるハリーたちがいるのだろう。流石にお腹がすいてきたな、とハーヴェイは舌打ちした。

 『……乱されるなよ』

 「勿論。何度言ったら分かる、私は魔法が嫌いだ」

 『好きになりようがないだろうな。魔法のせいで親に捨てられたジェームズくん?』

 「そんな過去はとうの昔に捨てた。覚えてない」

 『捨てて貰っては困るな』

 「なんだと性悪」

 『信頼(trust)だよ、ハーヴェイ。信頼とは弱点に裏打ちされて初めて意味がある』

 ハーヴェイは目頭を押してため息をついた。

 「婦人は今何を?まさか孤独死してないだろうな」

 『手紙が毎日行ってるくせに何を言う……そういえば昨日の夜、セントバーナードの仔犬をブリーダーから引き取ったらしい。明日の朝には可愛いハーヴェイ・ジュニアの写真が同封された手紙が届くだろう』

 「嘘だと言ってくれ」

 『ああ、嘘だよ。名前がハーヴェイ・ジュニアだとは限らん。それに犬はいいぞ。従順で利口だ』

 「Damn it(クソッタレ)!! 私は猫派なんだ」

 『異教徒になる前に犬派に改宗したまえ』

 アルカイックスマイルで微笑むマクシミリアンの顔を想像してしまったハーヴェイは、苦々しい表情で電話を切った。

 

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