【終焉】
【焼き尽くせ】
世界にヒビが入る音がした。
「おい、何だあれ」
「なんか、東に変なのが現れたらしいぞ」
ヒビより現れたるは、この世界には存在しないはずの異形にして呪われし獣達。
崇める神の意のままに暴れ、己が欲望のままに奪う。最も低俗で最も野蛮な怪物の群れ。
『魔軍』と呼称されるソレは、突然現れる。
何が目的なのか、誰も知らない。ただ、慈悲が存在しないことだけは確かだった。
【逃げろ、惑え、弱き者達よ】
まず犠牲になったのは最も近い場所にいた少年だった。
黒い触手に絡め取られ、周囲に見せ付けるように掲げられる。
「うわああああ!!助けてええ!!誰かああ!助けて!!」
「ゲッゲッゲ」
悲鳴を上げる少年を見てそいつは喜んでいた。腕を千切り、目を潰して、反応を見ていた。大きな悲鳴を上げるたびに嬉しそうに気味の悪い声を撒き散らす。
反応が薄くなれば雑巾のように絞り切り、血を飲み干してそこら辺に捨てた。
恐怖に支配され、人々は逃げ惑う。
【進め、信仰を喰らい尽くせ】
「あと一体……!」
「いける、いけるぞ!今のうちに武器を揃えろ!」
「各地に伝令を飛ばすんだ!」
「我々の勝ちだ!!」
「やったぞおお!!―――――え?」
「おい、嘘だろ」
ヤツらは希望を見せることを忘れなかった。少数の怪物を最初に送り込むのだ。
戦力を分析し、人類が倒せる程度の、全力を出せばギリギリ倒せるぐらいの強さの怪物達が都市にやってくる。
そして倒したなら、圧倒的な数でもって包囲する。
「神様……!!」
「誰か……誰でも良い……助けて……!」
「ああ、もう無理なのか……」
知っているのだ、効率よく人類を殲滅するにはどうすれば良いのかを。どうすれば、「神様」とやらを降臨させられるかを。
【さあ、いつも通りの手順だ】
『人の子らよ、諦めてはなりません』
「え……この声は?」
「まさか、神様!?」
『我が祝福を授けます、人の子らよ、武器を手に取るのです』
「手から火が出る!」
「片手で大岩が持ち上がるぞ!」
「やる!やるんだ!!」
街中で希望の光が灯る。冷たくなっていた魂に火が付く。
「外へ出ろ!勝ち取るんだ!」
その熱は世界全体へ広がり、やがて希望が人類を包み込む。
怪物達を討ち取り、押し返す。幾千万もの英雄の前にはさしもの魔軍も負ける事もある。
【この時を待っていた】
勝鬨を上げている場にヤツはあらわれる。
様々な機械を組み合わせたような、胸部に黒い穴のある、歯車で構成された身体。
ヤツが手を翳すだけで、加護が吸い取られていく。
『ダメじゃ無いか、自分で勝ち取ったわけでも無い力で喜んじゃあ』
人のサイズで現れるソイツに、周囲の人間は勘違いする。
「力が無くても、出来る事はある!」
「囲め!潰すんだ!」
『ダメです!逃げなさい!そいつは!』
熱の入った人間に神の言葉は届かない。
人間達が飛びかかった瞬間、ソレは発動する。
誰も、動けなかった。
厳密には首から下がピクリとも動かない。
近くの女傑にヤツが近付いてくる。その女傑は人類をまとめ上げ、希望の星と謳われた女性だ。
『君には特等席で見せてあげよう』
女性はモニターの前に連れて行かれる。肉体を固定され、身動ぎすらできない。
「貴様、何が目的だ!何の権利があって我々の世界を侵略する!」
ヤツにとって人とは、ただ神を吊り出すための餌に過ぎない。ソレ以外の価値を見出していない。
『中々、神様って賢いんだ。私の前に姿を表してくれなくてね』
ヤツが行うのは、公平な一対一のバトルだ。一瞬で作り上げたスタジアムのフィールド上に二人の人間を連れてくる。
『さあ、君が獣だ。そして、君は狩人だ』
英雄の隣に座ると、パチンと指を鳴らす。
獣はその魂すら冒され、異形へと変化する。狩人は弓と剣を与えられ、獣を狩る。
そういう演目だった。
『悠久の時の中で過ごすっていうのは大変な事でね、こういう暇つぶしでも無いと辛いんだ』
「う、うわあああああ!!」
狩人は噛み砕かれ、飲み干された。
「やめろ!やめさせろ!」
『獣が勝ったね、じゃあ狩人の補充だ』
『あっ、あれは君の妹のナルちゃんだ、君に呼び掛けてるね。あれ、すぐ食べられちゃった。弱っ(笑)』
『おっ、君が片想いしている男の子じゃないか、エリックくーん、獣役頑張れ〜』
『アレは近所のパン屋さんのオットーさんだね。メロンパンが人気らしいよ』
『あの子は君が最も信頼している神官のアンちゃんだね。頑張れー!アーン!』
ヤツは全てを把握しており、次の犠牲者の名前を逐一彼女に聞かせる。
「やめて……やめてください……」
『いやいや、折れるの早いって(笑)ほら、あの人なんかは別の大陸で英雄やってたライアットさんだよ』
『面白いよね〜、神様に力を貰ったら英雄になれちゃうんだ』
「神様……お願いします、神様……助けてください……」
『フハッ神様助けてくださいって、この局面にならないと力を振るってくれない神様を信じてるんだから面白いよね』
『本当にすごい神様なんて私が降り立った時点で特定して全力で殺しにくるんだよ、逃げるしか無かったね』
『この星の神様の名前は……そう、マレクト』
『マレクトさーん聞こえるー?』
『貴様……我が子らを良くも』
『いやいや、そういうの良いから(笑)どうせもう次に行く場所決めてるんでしょ?』
「え?」
『いや、だからさ。この星の知性体の事は諦めて、見捨てるんでしょ?』
「う、嘘ですよね……?神様……」
『…………許してください……私さえいれば、知性体は再び芽生える……その為に必要なのです』
『一旦神界に戻って引っ越しの準備だもんねえ……信仰を搾り取るだけ搾り取って、帰っちゃうんだよ、この神様。私もろくなもんじゃ無いけど、神様も意外と資本主義的というか、ね』
「許さない……」
そして信仰が消えた時、ソレは反転する。
「憎い……マレクト……お前が憎い……!」
血の涙を流す英雄を、ヤツは愛おしそうに見つめる。
『ああ、可哀想なヴァルキュリア……悲劇のヒロインだ……さて、お目当てのものはここに無かったし、私もそろそろお暇するか……あ、そうだ、獣と狩人はオートで補充されるようにしておいたから、人類が絶滅するまで楽しんでってね。君一人になったらその枷は外れるから』
ヤツはすでに彼女への関心を失っていた。いや、最初からそんなものなかったのかもしれない。
『ああ、早く見つけたいなあ、残りの鍵はどこにあるんだろう』
【全てが揃ったなら、始めよう】