そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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空気を読まないという選択が既に空気を読んでいる

 特徴的な傷を持つ男が廊下を歩いている。ムッツリとした顔付きで手元の紙を見ながら、先ほどの入学式のことを思い出していた。

 面接でなるべく質の高い子供を選んだつもりではあるが、突出した何かを感じさせるような子はいなかった。

 それでも時たま、水底に沈んでいる苔だらけの黄金のように、いきなり輝きを放つものがいる。その輝きを放つのがこんな、血生臭い未来しか待ち受けない場所であるというのが少し残念だが──

 

「ガイスト先生、お待ちください」

 

「おや、ハーピー先生、如何されたかな」

 

 あまり面白くない考え事を中断したのは寮長ハーピーの発した声だった。

 まあ、用件自体は分かっていた。

 

「如何されたかな、ではありません。先ほどの挨拶はなんですか、まったく……仮にも子供たちの指導を担うものとしてあんな事を口にするなど、許されるものではありませんよ」

 

「そうだろうな」

 

「分かっているなら今後は慎んでください。それにしてもなぜあのような事を?」

 

「去年受け持った奴らはオイタが過ぎた……あれは新入生に向けたものでは無い。当然、思い当たる奴らはバツが悪そうにしていたがな」

 

 クツクツと笑うとハーピーは微妙な顔をする。

 

「校長先生だけは分かっていたようですが、私達も混乱してしまうので予めある程度の連絡はお願いしますよ」

 

「ああ、すまなかったな」

 

「はい、それでは私は寮の方に戻りますね」

 

 忙しなくパタパタと去っていくハーピーを尻目に目的の場所に向けて歩き出す。

 

 

 

「あれ、お早い到着ですね、私も相当急いだんですが教練はもう終わりですか」

 

 教練場の待合室に腰掛けているとイカロフが直接転移してきた。

 

「今日は無しにした。なんせ子供たちの大事な入学式だからな」

 

「ハッハッハ、それじゃあコレ、行きますか」

 

 クイッと片手を傾ける動きに合わせて立ち上がる。

 

「おっとそうだ、その前に……『響け、肉の神よ。別れろ、魂と共に。従え、骸のように』……ヨシッ、じゃあこっちは任せて行きますか」

 

 二人に分かれたイカロフのうちの片方を連れ立って学校を出る。

 空を見ると珍しく幽幻鳥がとんでいた。

 

「おっ、幽玄鳥だ。最近あんまり見なくなった気がしてたんですけど、縁起悪いですねえ」

 

「まあ戦時じゃ無いからな……お前は前の戦争には参加してないんだったか」

 

 幽玄鳥は鳥と言っても球体の身体に目がついて浮いているだけのモンスターだ。戦争が起きるとほぼ確実と言って良いほど大量発生する為、気味悪がられている。

 しかし戦闘能力は無い為、こうして村や街の上空に昼間から居ても無視されているというわけだ。

 

「その時は私はまだ子供でしたからね。まあ加工された後の商品なら何度でも目にしましたけどね! アッハッハ!」

 

「あの時は平野の空を埋め尽くしてたからな……」

 

 幽玄鳥の皮は引っ張りに対して強く、さらに魔力の通りが非常に良い為、大量発生した際は乱獲されるのが常となっている。

 冒険者が身につける武器や防具でも使われているし、魔導師が羽織るローブなんかの外皮部分は全体が幽玄鳥の皮で作られていることも多い。

 敵の魔導師やモンスターが放ってきた魔導攻撃を幽玄鳥の皮で受けることで、周囲に受け流すことができるのだ。

 

「あ、ほら、あんなふうに私も良く遊びましたよボールで」

 

 子供たちが遊んでいる広場があった。

 ボールを蹴って遊んでいるそれを見て、昔の記憶を思い出す。

 

「昔から変わらんなあ」

 

「そうですねえ……」

 

 他愛無い会話を続けながら目的の酒場に入ると、少し違和感を感じる。

 ギルド併設であるこの酒場は常に活気溢れており、こんな真っ昼間からでも呑んだくれ達の溜まり場になっている。それ自体は変わらない。今日も変わらず酔っ払い達がグダグダとやっている。

 

「なんか裏方が忙しいようですね?」

 

「ん……ああ、そういうことか」

 

 確かに、受付のカウンターの向こう側がやたら慌ただしい。しかも誰もがその顔に焦燥の面を貼り付けているようだ。

 

「遺跡から漏れたりしたんですかね」

 

「さあな、とりあえず座るか」

 

 人の多い空間特有の湿度の高さに髪が少し張り付いたような感覚を覚え、かきあげる。

 酔い潰れたやつをイカロフがどかして席を作ったので二人で向かい合って座り、喧騒に負けないように声を張り上げる。

 

「おーい! 酒!」

 

「あ、それと鳥の丸焼き!」

 

 給仕のジジイが手を挙げたので会話に戻り、手元の炒り豆を弄りながら気になっていたことを聞く。

 

「それにしても、どうだよ今年のガキどもは」

 

「うーん……まあ見た感じだと平凡って感じですかね」

 

「俺も概ね同じだが、お前が言うなら間違いないな」

 

「まあ超越者級の、それこそ『明け星のジン』みたいなのを求めてるわけじゃ無いですしねえ。替えの効く一定レベルの騎士を輩出できた方が健全ですよ」

 

「まあそうなんだがな」

 

「なんか、今年だけやたらと質に質にって拘りますね」

 

「うむ……少し、後悔してる」

 

「え? 話が見えないんですけど、会話してくださいよ」

 

 なんかやたらと毒がある返しだな。

 

「そもそもですねえ、子供達に対してバカだの愚か者だのと、良くないですよ本当に」

 

「うむ、そこは反省を……」

 

「大体なんで僕が子供の面倒を見ないといけないんですか? 僕は研究だけしてたかったのに、ガイスト先生のお言葉じゃなきゃ断ってましたよ? 分かります?」

 

 顔を上げるといつのまにか届いたのか、木ジョッキを持って顔を赤くしたイカロフがいた。

 こいつ酒弱かったのか……イカロフが学生の時も一緒に飯を食べたりしたが、あの時は酒を飲んでなかったから知らなかったな。

 

「聞いてるんすか?」

 

「ああ、聞いてるぞ」

 

「僕は知ってるんですからね? マックとかいうやべえやつがいるの」

 

「む……」

 

 一瞬言葉に詰まる。

 それはイカロフがマックの事を知っていたからとかそういう事では無い。

 視線だ。いくつもの視線がいきなりこちらに飛んできたのを感じた。

 視線の方向は受付の方だ。同業者の嫉妬か? と思うが、微妙に質が違うような気がする。

 これは緊張で張り詰めただけのソレだ。

 

「おっと、豆が……」

 

 炒り豆をわざと落として、拾うタイミングでさりげなく受付の方を見やると、こちらを見ているのはギルドの裏方ばかりだ。

 

「なんか、チョロチョロとこのギルドを彷徨いてあの『明け星』と同じ遺跡に潜ったりしてたんでしょう?」

 

「そうだな、確かにそんな事をやっていた」

 

「まあ〜そんだけのやつを騎士にできたら間違い無く戦争は有利に進みますけどねえ、そんな奴を騎士長が御せるとは思いませんね。確かに騎士長も強いけど遺跡に潜ってる奴らと比べたら、ねえ?」

 

「ああ、そうだな」

 

 やはり、ギルドの奴らはこちらに視線を向けている。そして今の会話の中に違和感の種がある、間違いない。

 良くぞここまで酒を不味くしてくれる、お陰で酔う気にならない。

 チビチビと酒を口に含んでいると、丸焼きが届いた。

 

「おっ、ミンミン鳥だ! 僕これ好きなんですよね!」

 

 特徴的な橙の身色に気付いたイカロフが次々と口の中に放り込んでいく。

 

「あーうめえ、うへへ」

 

 完全に出来上がったイカロフは歌まで歌い出した。

 それに釣られるように他の酔っ払いまで歌い始め、半分地獄みたいになった酒場に良く見知った顔を見つける。

 

「ロウさん、こっち」

 

「おっ、スマンな。ご相伴にあずからせて頂くぞ」

 

「いやいや、ロウさんとならいつでも」

 

「ほっほ、それじゃあ芋酒でも頼むかの」

 

「おーい! 芋酒! あと炒り豆もな!」

 

 注文を終えると、ロウが懐をゴソゴソとまさぐる。何か見せたいものでもあるのだろうか。

 んー、と少し時間をかけた後に出てきたのは細長いナニカだった。

 

「これは?」

 

「ん? 芋虫、門のところで行商人に分けてもらったんじゃ」

 

「え゛っ」

 

「意外とイケるぞ、食ってみい」

 

 南の方にある国では虫を良く食べると話には聞いたが、これがそうなのか……? 

 逡巡していると横から伸びてきた手がヒョイッと一匹掴んで持っていく。

 

「ん──……美味い!」

 

 通りがかりの酔っ払いだった。

 酔っ払いはすぐさまぶっ倒れたが、その感想を聞いて一つ口に運ぶ。

 

「ふむ、確かにいけますな」

 

 良い意味で少しクセのある、中々の味だった。

 

「ワシの言葉はスルーしたくせに……」

 

「拗ねんでくださいよ」

 

 拗ねてるジジイなど気持ち悪くて仕方ないのでやめていただきたいところだ。

 そういえば、とロウがイカロフに会話を飛ばす。

 

「お主あれじゃろ、たしかガイストの下で学んでおったよな」

 

「え? あれ? 確か門番さんですよね? 何でここに?」

 

 若干頭を左右に揺らしながらも相手が誰かを認識できているイカロフは、口の中に食べ物を詰め込んでいた。

 

「いやー研究ばっかしてたんで中々こういうところに来る機会が無くて」

 

「こいつは今学校で教師として働いてるんです、まだ新人の域は出ませんがね」

 

「ほうほう……今日は確かパルメダス騎士学院の入学式でしたな。どうしてこんな真っ昼間から酒場に?」

 

「あっ、炒り豆が届きましたよ!」

 

「おっ、ロウさんじゃんじゃん呑んでください」

 

「全く……」

 

 やはり酒の力は偉大だ。

 

「そういえば、ギルドで何かあったのですか? イヤに空気が重いというか」

 

 ロウさんならなにか知っているのではないかと思い尋ねてみると、芋酒を軽く口に含んだ後に首肯した。

 

「ジンのやつが──に行きおった」

 

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