一般冒険者タイクン
俺の名前はタイクン、5級冒険者だ。
今回は俺たち冒険者がどんな風に日々を暮らしているかを教えてやろう。
俺たちの朝は早い。借りている宿の主人が料理の準備をしている音で目が覚める。
これは俺が特別というより、冒険者ならみんなこうだ。モンスターの肉ばっか食ってるから肉体がモンスターに近くなっているらしい。それで音や匂いに敏感になるってわけだ。
体力が爆発的に増えるから睡眠を取る必要性も薄くなるし、腕っぷしが強くなるので男としては願ったり叶ったりだな。
ちなみに宿に出てくる朝飯は焼きたてのパンと雑魚猪の肉だ。雑魚猪ってのは、水路にいる魚ばっか食ってるからそう呼ばれてるらしい。ウンコは決まったところにするから水路も汚さないし、放し飼いにしてても勝手に戻ってくるから便利なもんだぜ。
「オッサン、飯ー」
「オッサンじゃねえ、ほらよ」
「うひょーいただきます!」
なんか最近の新人は宿に泊まってもそこの主人とコミュニケーションを取りたがらないらしい。知り合いの6級冒険者から聞いた話ではあるが、人と話をしないでどうやって冒険者をやっていくってんだろうな? 酒も呑みたがらないらしいし、そういうところから依頼が来たりする事もあるのに勿体ねえな。
「オッサン、なんか依頼とかねえか?」
「アホ、5級が何言ってんだ。4級になってから出直してこい」
「約束だぞ! すぐ4級になってやるからな!」
「おーおー、いつも怪我ばっかのくせに威勢だけは良いねえ。それと食べながら喋るな、叩き出すぞ」
「あ、はい」
こうして朝飯を食べ終わるとやる事は、武器の整備だ。
俺が使ってるのは長剣が1本と機構式炎弓だ。基本的には整備屋に持ち込んでいるけど、今日みたいに依頼を受けようって日の朝は自分で何か不具合が無いか確認する。
長剣は指を置いた時に切れればヨシ!
弓は目串を使って一度解体し、隙間に何か詰まっていないかを確認する。
簡易的だが、俺はこれまでこうしてやってきて失敗しなかったからな。
これでヨシ!
冒険者は肉体の回復も早い。切れた指もすぐに血が止まる。
弓は折りたたみ式だから持ち運びには困らない。オッサンには関節部があると耐久力が〜とかよく分からん指摘をされたけど、分かってないな。
モンスターの素材はとんでもない靭性を持ってるからな。破壊に対してめちゃ強いんだぜ。
そう説明しても首を捻るばかりでよく分かってない顔をしていたから多分料理以外の才能が無いんだな。
「いや、モンスターってそういうもんだっけ?」
「? そうだろ」
とかよく分からない事を聞かれたけど、なんか変な話を吹き込まれたんだろうな。
さて、変な話はおしまいだ。
武器を背負って宿を出る。防具は4級モンスターのオウカンマイマイ製の防具だ。5級なのに4級モンスターを倒せる俺が4級に上がれないわけはないな!
……とも言えないんだよな。
8級から5級まではモンスターを倒しとけばとりあえず上がるんだけど、4級からは筆記試験とかいうのが必要になるらしい。
ふざけんな! こちとら文字が書けねえから冒険者になったんだぞ!
差別反対!
ベッキーに対してそう喚いたら4級冒険者に絡まれてボコボコにされた。
回復が遅くなるぐらいボコボコにされてマジで死ぬかと思った。
這う這うの体で宿に帰ったね。その夜は情け無いやら腹が立つやらで全然寝れなかったけど、4級冒険者のあの強さだけには憧れた。
文字が書けるようになれば良いんだよな……
という事で最近は文字を書く練習と読む練習をしてる。オッサンがどっちも出来るって事で暇な時間を見つけては金を払って教えてもらってる。
難しいけど、オッサンの宿の名前だけはとりあえず読めるようになったし書けるようになった。
「生きとし生けるもの亭」って名前らしい。
なんかよく分かんねえけどセンス無いのは間違いない。
ちなみにベッキーには後日謝ったし文字の練習をしてる事を告げたら褒められた。
……脈アリかも!?
そう話したら6級冒険者が少し不機嫌になってた。
お前も狙ってるのか? と聞いたらどつかれたのでアレは図星だね、間違いなく。
ベッキーを見て口説かないのはチ◯コ付いてない奴だけだね。
なんかたま──に、ベッキーにやたらと好戦的な口調の赤髪の男がいるけど、ああいう三下にはなりたく無いね。
素直になれないだけならともかく、暴言を吐くなんて許せないな。そう勇んでそいつの肩を掴んだと思ったら次に目が覚めたのが病院だったのは何だったんだろうなあ。奇妙な体験をしたぜ。
さて、お待ちかねの依頼の時間だ。
村の外壁修理
小麦の収穫の手伝い
薬品調合の助手
上の方はこういう簡単な依頼ばっかだ。勿論、肉体的な危険が少ないという意味での簡単であり、薬品調合の助手なんかは文字が読めるなんて当たり前で、薬品に関する資格を持っていないと依頼を受ける事が出来ない。
だから、俺みたいなモンスター専門の冒険者ばっかってわけじゃ無いらしい。
とは言え、やっぱモンスターと戦うってのはロマンだよな。一番多いのは俺みたいな奴らだ。
なんか没個性って言われてるみたいでムカつくな。
まあ良いや、下の方を見て行こう。
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クロマプレスの群れの間引き(目安:20匹)
アントパライアの討伐(5体)
ネレイェーグの討伐(1体)
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ドラゴンの発見
ドラゴンの討伐
まあ大体いつも通りって感じだな。
クロマプレスは猿みたいなモンスターで、特徴としては両腕が槌みたいになってる事と、周囲に合わせて体色を変えられる事だな。
コイツは6級モンスター、まあ6級冒険者がギリギリ狩れるぐらいのモンスターだ。1人で群れに突っ込んだら死ぬわ。
アントパライアとネレイェーグはどっちも5級モンスターだな。
アントパライアは群れから逸れたアリが異常成長したモンスターだ。
そいつが5体もいるってのは随分奇妙な話だけど、俺がやりたいのはコイツじゃねえ。
ネレイェーグだ。
コイツはネレイドって海の精霊とオーグが交わってできた雑種らしい。
ネレイドは2級のモンスターだが、ネレイェーグはネレイドの持つ特性を失っているから5級らしい。
ネレイドが持っている特性ってのは、水の中にいる限り傷を負っても回復し続けるっていうとんでもない特性らしい。
今の俺にゃあ突破口が見つからねえが、まあネレイドと戦うのは当分先だろう。
「ベッキー、これを頼む」
「はーい、署名は代筆で行いますか?」
「いや、今回は俺が書くぜ」
少し前までは文字が書けなかったからベッキーに代筆して貰っていたけど、俺も練習したからな。
自分の名前くらい描けるようになったぜ!
心無しかベッキーの言葉にも愛情が籠っている気がする。
「タ……イ……ク……ン、ほら書けたぜ!」
「わー! すごーい! たくさん勉強されたんですねー!」
「へへっ、まあな」
とりあえず今の所の目標は、ラブレターを書く事、だな!
目標と言えばドラゴンネストの奴ら最近見ねえけどどうしたんだろうな。新人が加入したとかで話題になっていたけど、どこ行っちまったんだ?
前は3級冒険者パーティとしてブイブイ言わせていたのに、そもそもここんところギルドに来てたっけ?
……まあいっか、取り敢えず俺は今からの討伐に集中するか。
向かうはアドラントの南部に広がるアレハンドロ大密林の更に南端、マティス海岸。
今回は長丁場になること必至だな。
「おうタイクン、今回はどんな依頼だ?」
ガタン、ガタン、と不規則に揺れる硬い床に尻を打ち付けながら、フィールシットが問い掛けてくる。
「今回はネレイェーグだよ、お前は何を受けたんだ?」
フィールシットは歳の近い6級冒険者で、顔を合わせれば近況報告をする程度には仲が良い。冒険者なんて仕事をしていると、来年には顔見知りが1人減ってるなんてこともあるからな。
こうして話しておくのは、生きた証を残すって意味でも大事だと俺は思う。話せる相手がいるのは、気分が良い、とまでは言わないけど必要なんだよな。
「俺はライズディアだ、なんか大量発生してるらしい」
「そいつぁ良いな、鍋食べ放題だ」
「はんっ、アホ言え。硬くて食えたもんじゃねえだろ」
「燻すと結構いけるらしいけどな」
「ほー、やってみるわ」
こういうどうでも良いような会話でも、のんびりと進む馬車旅では貴重な癒しになってくれる。
その日の夜、フィールシットは食べ物の採取、俺は火の番をしていた。最初の頃は自分の力だけで火を起こすんだ! と躍起になって錐揉み式で起こそうとしたりしていた。今考えれば良い枝を見つけるのが面倒くさいし無駄な体力を使うしで、恥ずかしい記憶の一つだ。
門番のロウさんが教えてくれたから頑張ろうとはしたんだけどな。
今はほら、炎弓を起動して迸る炎を火に近付けとけばいいからな。
この武器が完成した時に例の知り合いの6級冒険者に自慢したら「野宿する時に便利ですね」って茶化されたんだけど、実際これが使いやすい。
火打石がいらないから荷物を減らせるし、燃やすものがなくても最悪この弓で直接食材を温められる。
火を無心で見つめていたら
「ほれ」
「うおっ、いきなり死体を近付けんじゃねえよ」
「ははは、大成果だ。鳴かずウサギ、ついでに沢でいい感じの魚も取ってきたぞ、そしてなんとこれ! これって迷い苺だよな!?」
「……おー」
突然目の前に紐で吊るされた獲物たちを近付けられたので驚いてしまった。しかし、なかなかの成果だ。
特に迷い苺は見つける事が出来ないことで有名だ。
パチパチと拍手をすれば、転がってる岩の上で獲物を解体し始める。
「ウサギと魚は焼けば良いけど、苺はどうするんだ?」
「まだ熟れてねえからな、切って添え物にするわ」
慣れた手つきで獲物の解体を終えると、内臓部分や食えないところは焚き火に突っ込んで燃やし切る。
ウサギの皮だけは器用に一枚の状態で残すと、肉と魚をを石の上に置いた。
肉の焼ける香ばしい匂いが漂い出し、腹の減りを意識させる。
「それにしても、よくもまあ迷い苺なんか取ってこれたな、なんかあったのか?」
「いや……別に迷ってはいないはずなんだけど、珍しい事もあるよな」
迷い苺に関する逸話として、旅の途中で道に迷った者が死を覚悟した時に突然視界が開け、迷い苺の群生地に辿り着く事ができるという話がある。
実際、同じような体験をしたという話は知り合いからも聞いたりする。
そして何故か探索者が見つける事が多いという不思議な苺だ。
「どこで見つけたんだ?」
「それが……良く覚えてないんだ」
フィールシットが言うには、鳴かずウサギと魚を獲ったところまでは記憶があるらしい。野営地に戻る時の記憶が無く、いつの間にか迷い苺を手に持った状態で野営地の近くに来ていたとのことだ。
「嬉しいけど、少し不気味だよな……」
「お前変なキノコでも食べてないだろうな?」
「食ってねえよ、いや覚えてないけど」
「うーん、まあ、取り敢えず食べてみようぜ。めっちゃ美味いらしいじゃん」
「お、おう」
スライスした苺を口に運ぶと、まだ熟れていない青い果実であるにもかかわらず、柔らかい口触りが感じ取れた。仄かな甘さに野菜特有の青臭さが上手くマッチしている。
確かにこれは美味いと言わざるを得ない。
「うーん……」
フィールシットも思わず、といったように唸り声を上げていた。
「まあ、取り敢えず、美味いから良いんじゃねえか? あとはウサギと魚を食べて、俺がまず火を見とくからお前は先に寝とけ。もしかしたら疲れてるのかもしれないしな」
「そう、だな……そうするわ、そろそろ焼けるし食うか」
こうして夜は更けていった。