そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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おじさんたちが失ったもの

「ソレにしても先生、なんたってリリスは正体不明の怪物の対処を一ヶ月も放っておいたんだ?」

 

 旅の準備をしながらアキトはウェッジに疑問をぶつける。被害がそこまでのものでは無いと聞いたとしても、一ヶ月の間に何かしらの手を打つぐらいは当然の事として考えるだろう。

 

「所在が全く分からなかったからだよ」

 

「あー、被害が少ないって言ってたもんな。出没の発見数も比例してんのか」

 

「どんなヤツなんですかねえ! 私結構楽しみですよ!」

 

「そういや先生、最初の頃はリリスが訓練の相手してくれてたけど最近あいつは何してんだ?」

 

 この国の軍団長は名をアマリリスと言う。女性の身ながら軍部のトップに君臨する女傑だが、明るい性格をしており、他国からいきなり現れた戦闘を生業とする人間にも丁重に接する人格者だ。

 そんなアマリリスだが、アキトが食い倒れていたところをウェッジに助けられてしばらく、身体が鈍って仕方がない、というアキトの要望に答えて自ら相手をしていた。

 アキトも兵士も流石にアマリリスを止めたが、アキトの剣捌きは凄まじく兵士達では相手にならなかった。そのためアキト以外に誰も彼女を止める者がいなくなった結果、アキトが剣を振るう時はアマリリスが付き添うようになったのだ。

 彼女は26という若さでトップについているが、地位の近い人間は歴戦のジジイどもばかりなので息が詰まっていたのだろう。

 アキトを見かけると嬉しそうにするが、周囲の状況を思い出して顔を引き締める様子を見て、ジジイどもは涙腺を緩めていた。

 

「うう……嬢ちゃんにも春が」

 

「懐かしいなあ、この感じ……」

 

「う、うるさいぞ!」

 

「おーい! リリス! こっち来いよー!」

 

「ア、アキト……今は仕事中だから」

 

「あらやだ、もう呼び捨てで呼ぶような仲になっちゃって」

 

「最近の子は進んでるのね」

 

「ジジイども! どっか行け!」

 

 ワーキャーと女子のような走り方でどっかに行くジジイども。呆れるアマリリスとその光景を見て爆笑するアキト。嫉妬するリン。

 しばらくそんな日常が続いていたが、最近はアマリリスを見かける光景が減り、アキトも少し退屈していた。リンが代わりのように相手をしてはくれるが、このままではまたも腕が鈍ってしまう。

 

 そんな風に思っていた矢先のウェッジからの依頼なので渡りに船ではあったが、ずっと気になっていた疑問をぶつけてみる。アキトとしては何気ない質問なので、スッと答えが返ってくるものと思っていたが、中々返ってこない。

 

「先生?」

 

 ウェッジは返答に窮していた。完全に予想外の方向から矢が飛んできたのだ。

 アマリリスは軍団長である前提を思い返してほしいが、彼女は文字通り死ぬほど忙しい。あの若さでトップになる為には並大抵ではないスペックを持ち合わせていなければならないので、逆説的に軍部の仕事の皺寄せが彼女にいくのだ。周囲の老輩もやり手ではあるが、いかんせん脳味噌が古い。結果として彼女はアキトに会うための時間を捻出出来ずにいた。

 そして、何故そんなに大量の仕事が発生しているかというと、件の正体不明の軍事力の算定や被害規模、被害人員数などその他様々軍事的に意味のあるデータに関して諜報部から集まってくる情報を最終的にまとめる業務を彼女が行なっているからだ。

 本来なら、情報が既にまとまった状態で彼女の手元に入って来るのを基底状態として、そこからどうするかというのが彼女の業務だ。実際、平時はそうなっている。

 しかし、ここで軍部の構造が災いした。現在、この国の軍部に専門的な文官というのは存在しないのだ。階級は存在するが、基本的には戦闘を行う兵士、戦場で指揮を行う指揮官、各戦場の状況を戦場内と本部に伝達する伝令兵、そして全情報を統括する本部のみが存在し、場合によってはほぼ全ての軍団員が戦場に赴く場合もある。そしてそうなった場合、文官の役目を負うのは本部の人間なのだ。

 

 現在、正体不明の怪物とこの国は、事実上の戦争状態にあった。市民の混乱を防ぐためにこの情報は伏せられているが、多くの兵士が、壊滅した村に派遣されて怪物の痕跡の探索、生存者の救助、怪物に関する聞き取りを行っている。

 そしてつい最近、北方に向かった一団が怪物と遭遇したという連絡が入った。

 一団の30人のうち、生き残ったのは4人だけ。彼らはいずれも精鋭揃いの一団だった。

 そして不運なことに、4人は錯乱してしまっていた。怪物の詳細について、誰も詳しいことを説明出来なかったのだ。

 これにはアマリリスも頭を抱えた。

 約30名の精鋭が薙ぎ倒されたという事で、100名での討伐を組む。その程度の方策しか生み出せなかったのだ。小出しにするのは正直上策とは言えないが、怪物が一体とも限らない。想定の包括範囲を広げなければならなくなってしまった。

 

 そんな状態であるアマリリスに今会わせるのは、アキトの素性がハッキリしない現在、内情を必要以上に知られてしまう可能性を考えるとあまり得策とは言えないのではないか。

 しかし、そんな懸念を持ちつつも、現在この国にいる人間の中で最も戦力が高いのはアキトだ。

 彼に今回の件を任せる以上、ある程度のリスクを切り捨てても、内情を教えたほうがいいのか。

 ウェッジは迷っていた、そして

 

「……あの子はとんでもなく忙しいから、今会うとかなりピリついているかもしれない、オススメできないな。しかし、ソレでも会いたいというなら…………」

 

「ん?」

 

「いや、誤魔化すのは止めよう」

 

「統括長、良いんですか?」

 

 リンが仕事の顔に切り替えて判断の結果を問うてくる。

 この決断が吉と出るか凶と出るかは、未来の私に託そう。伝えた事を後悔しないような未来を自らの手で掴み取る。

 

「アキト殿、貴方には選択肢がある。これから私が話すことを聞いて協力するか、ここでの事を全て忘れて次なる旅に出るか、だ」

 

「協力するぜ!」

 

「アキトさん! 好き!」

 

「俺も好き!」

 

「……え!?」

 

 この若者は……

 やはり、彼は何かこう我々一般人とは違う精神性で動いているのかもしれない。

 飛びついて来たリンを抱きとめてぐるぐると回すアキトを見て、私の覚悟やらなんやら、肩透かしを喰らってしまったが、ソレと同時に彼ならば……という思いが出てくる。

 

「来てくれ、歩きながら話そう」

 

「ああ、頼む」

 

 

 ──────

 

 

「そうか、そんな事が……じゃあもしかして、俺ってリリスの邪魔してたんじゃないか?」

 

「ソレは違いますよ!」

 

「リン、そうなのか?」

 

「ええ! 軍団長はアキトさんの事を邪魔だなんて思っていません! むしろ、アキトさんがいないとダメな所まで来てます!」

 

「それって大丈夫なのか?」

 

「アキトさんがちゃんと責任取れば問題無いです! 勿論私も併せて!」

 

「お、おう……」

 

 私としてもこれだけの戦力を国に引き入れられれば嬉しいが、アキト殿にその気があるか正直怪しいところだな。

 そもそも彼のような旅人をひと所に留めておくとストレスで死んでしまうのではないだろうか? 

 

「二人とも良い娘だ、私が保証しよう」

 

「ほら! 統括長もこうおっしゃってます!」

 

 軽い援護射撃に留めておこう。外野が人の恋路に関わると碌なことにならないしな……

 

「おっ、この豪華な扉が軍団長室か? 悪いな、文字読めねえから分からねえや」

 

「気にしなくて良い、君にそう言ったものは求めていない。力を発揮してもらうのは別の箇所だ」

 

「ははは、旅をしてると魚の種類とかはある程度読めるようになるんだけどな。こういう場所で使われてる文字なんか全部ワームが這ったようなもんにしか見えねえんだわ」

 

 こっちを見て笑いながら扉に近寄り、コンコンコンとノックする。

 

「アキトだ、今大丈夫か?」

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 

 ガタンガタンと物を激しく移動させる音が扉を越えて聞こえて来る。アキトは肩をすくめると少し扉から離れる。

 中で何が起きているか大体は想像できるが、待つこと暫し、心なし高めの許しの声が出る。

 

「入って良いぞ」

 

「おう、失礼するぞ」

 

「どうしたんだ、珍しいじゃないか。お前がこの部屋に来るなん……て……」

 

 嬉しそうに出迎えようとして、リンもいる事に気付いたのか固まっていく。あれ、なんか化粧してる? まあ、濃い隈は隠し切れてないみたいだが、精一杯取り繕おうとしたんだろうな。

 ちょっとこの場にいるのが後ろめたいが、事情説明は私の役目だから外せないしな。

 

「この3人で例の奴の調査に行くことになったものでね。一応報告を、という事で赴いたわけだ」

 

「はあ……それはどうも……」

 

 イヤに気の抜けた声だな。というかなんか落胆しているように見えるぞ。アキトといちゃつきたかったのは分かるけど、もう少し取り繕ったほうがいいのでは? それだけ疲労が濃いというわけか。

 

「うーん、この書類の山、遊び呆けてて申し訳なくなってくるな」

 

「気にしなくて良い、これが私の仕事だからな…………って、え!? ダメだダメだ! なんでいきなりアレの調査に行くことになっているんだ!」

 

 疲労で鈍っていた頭に情報が入って来たのか、遅れて反応が返ってきた。というかそんなに鈍っているなら寝たほうが良い。

 調査に行く前に寝かせる事を決意していると、アマリリスがアキトに詰め寄っていた。

 

「危険だぞ! 精鋭が30人やられたんだ! それに、調査だって100人規模での編成を予定している! 君が行く必要なんて何処にも無いんだ!」

 

「あー……リリス、ちょっとこっち来い」

 

 アキトはアマリリスの両手を引いて客用のソファに誘導すると、そのまま引っ張り込んであっという間にアマリリスを横たわらせてしまった。

 彼女の頭はアキトの膝の上にあり、リンがムキーッとでも言えば良いのか、そんな表情をしている。

 

「やめてくれ、私には仕事が……あっ……」

 

「お前の今の状態じゃ仕事なんかできない事くらい誰でも分かる」

 

「と、統括長……!」

 

「なんだい?」

 

「私もアレ! アレやってもらいたいでふ!」

 

「なんて?」

 

 うーん、恋とは恐ろしいな。あの軍団長が大人しく膝枕されて頭を撫でられている光景を見ることになるとは……

 寝るよう説得する手間が省けて良かったけどな。

 彼女が寝付くまでの間に今回の調査に関する計画書を纏めておくか。




髪の話はしてないです
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