そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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生存本能

「あ……う……?」

 

 ここはどこだ? 

 しかし次の瞬間には先の出来事を思い出し、その疑問は無くなっていた。全魔力を短剣に注ぎ込んだ結果、能力解放後に気絶してしまったんだ。アイツは倒せたのか? それに、短剣の力を解放する直前、タイクンが吹き飛ばされていたはずだ。

 ヨロヨロと立ち上がる。倒れていた場所は、何かの溝の中のようだ。

 短剣を突き刺して、溝の壁を上がっていく。上がり切って地表に出ると、周囲はメチャクチャな状態になっていた。ファル……レオだっけ、アイツが最後に雷を纏っていた時の影響と、タイクンとの最後の攻撃同士の衝突のせいだな。

 タイクンが突き破って吹き飛んでった巨木を探すと、すぐに見つかった。身体の気怠さを感じるけど、まずはタイクンを見つけなくっちゃな。

 

「あいつ、どれだけの傷を負ったんだ……」

 

 最後の瞬間、タイクンはモンスターの放った攻撃に飲み込まれていた。全身にアレを浴びたら、俺なら死んでいた。

 空間ポケットを漁り、回復薬を取り出す。見つけたらすぐ飲ませないと……

 ふらふらとゆっくり歩きながら進んでいくと、タイクンは見つかった。しかしその全身は爛れており、一部は黒く炭化している。その姿はまさに痛ましいと言って差し支えなかった。

 

「タイ、クン……」

 

「う、ぐ……フィール、シットか……無事、みてえだな……」

 

 呼びかけに応える程度には余力があるようだ。ホッとして近寄る。

 

「喋らなくていい、これを飲め」

 

「ん、ぐ…………」

 

 後頭部に腕を差し込んで少しだけ起こし、口元に回復薬の瓶を寄せる。ゆっくりと飲んでいき、問題なく飲み干せたことに安堵する。

 すぐさま薬が効いたのか、炭化した部分がポロポロと剥離して、新しく変わっていく。

 

「ぐ、が……」

 

 急速な回復に痛みが走るのか苦しんでいるが、しばらくしたら治り、気怠げに上体を起こす。

 ──なっ……!? 

 

「ば、ばか! 前、前!」

 

「あ? なんだ前って、なんでソッポ向いて…………ブッハハハハ! 見ろ! 命の危険と回復薬飲んだ効果でガッチガチになってらあ! ガハハハハ!」

 

「は、早く服着ろ!」

 

「ハァッハハハハ!!」

 

 ガサガサと予備の服を着る音が聞こえ、その間も笑い声が止まない。めっちゃ恥ずかしかったのに何でこいつは気にしてねえんだよ、ムカつくな……

 

「い、いつまで笑ってんだよ」

 

「これが笑わずにいられるか! 3級のモンスターを倒したんだぞ! ハハハハハ!」

 

 そういう問題では無いと振り返り、文句を言おうとしたらいきなり衝撃が来た。

 

「おい」

 

「え、な、な、なんだよ! やめろよ!」

 

 それが正面から抱きしめられたのだという事に気付いて、顔が熱くなる。

 

「めっちゃムラムラするわ」

 

「はあ!? 何言ってんだお前!?」

 

「あんな戦いの後だし、お前もムラムラしてんだろ? 一発やろうぜ」

 

「し、してねえよ! いきなり盛んな! バカ!」

 

「ん──、めっちゃ良い匂いするわ」

 

「髪を嗅ぐなバカ!」

 

「……どうしてもダメか?」

 

「う…………は、初めてだし……」

 

 なんで俺はこんなことを答えさせられてるんだ……でも、しょぼくれた顔で覗き込んでくるのは反則だろ……

 

「初めてか……そっか……流石にベッドの上がいいよな……」

 

「うん……じゃねえよ! 何言わせてんだ! 離せよ! そもそも俺たちつ、付き合ってもねえだろ!」

 

「じゃあ付き合うか」

 

「ヤダよ! 何でこの雰囲気でそんな話になってんだよ! や、やり……だけだろ!」

 

「違うよ、俺はお前のことを真剣に好きだよ」

 

 何でそんなところだけ真面目な顔で正面から見てくるんだよ……! 

 

「あんなに心配してたのに!」

 

「……そっか、ありがとな」

 

「ん、ばか…………」

 

 今度は優しく抱きしめられて、頭を撫でられた。生き残ったんだ、と安堵してタイクンの胸元に頭を寄せる。

 

「じゃな──い!!」

 

「おお……」

 

 バッ、と拘束を脱する。危うく雰囲気に流されるところだった……! 

 

「そこに直れ!」

 

「ええ……?」

 

「ほら!」

 

「ああ、はい……」

 

「そういう事はだな! もっとお互いの事を知り合ってから!」

 

「俺たちもう5年ぐらいの付き合いじゃん」

 

「……うるさい! うるさいうるさーい!」

 

「でも分かった。俺ももう少し雰囲気考えて言うよ」

 

「そ、そうだよ! こんな状況で口説こうとするな! 況してや、あんな、い、一ぱ……なんて! 変態!」

 

「分かった、じゃあ今度な。期待しとけ」

 

「…………」

 

 今度!? 今度って何だ!? 俺はどうなっちまうんだ!? 

 

「さて、落ち着いてきたし、やるべき事をやらねえとな」

 

「だから! やらねえって!」

 

「…………」

 

「……? なんだそれ」

 

 タイクンは雑嚢から何かを取り出して右手に持って見ていた。

 

「アイツらの生きた証だ」

 

「ソレってあの兵士たちの……?」

 

「レアメト王国のグンナール、そう言っていた」

 

「レアメト王国? どこだそりゃ、リア=マトじゃねえのか?」

 

 その時、ガサガサと木立が揺れる。

 

「下がれ! …………? あっ、武器がねえ!」

 

「これ使え!」

 

「ヒィッ! 謝るから殺さないで!」

 

「ん?」

 

 タイクンが茂みを漁ると、女の人がいた。

 

「……誰?」

 

「わ、私はレイナ、レイモンドの姉よ」

 

「レイモンドって誰?」

 

「えっ? ……あなた達、王国の兵士じゃ無いの?」

 

「兵士では無いな」

 

「えっ!?」

 

 何驚いてんだ、この人。

 

「盗賊じゃ、無いのよね……?」

 

「違うな、俺たちは冒険者だ」

 

 タイクンの腕に縋り付いたレイナは、一縷の望みを託すような顔をしている。

 

「お、お願い! レイモンドを助けて! 村のみんなが、殺されて……うぅっ……兵士が……あぁ、みんな……!」

 

 タイクンがサッと片膝をついて、レイナの肩に手を置いた。

 

「アイツは倒した、もう心配しなくて良い」

 

 パァッと明るい顔になるレイナにしかし、タイクンは申し訳なさげに告げる。

 

「だが、ほとんどの兵士は死んだ……ヤツを倒すために」

 

 希望から絶望に叩き落とされ、泣き崩れる。

 

「4人の兵士が生き残ったが、その中にいなければ……レイモンドは死んでいる」

 

 泣き崩れる肩を支えて、タイクンは無理やりレイナを無理やり起こす。ここに放っておいたら助けた意味が無いからな。

 

 泣いているレイナをタイクンが背負い、馬車がある場所まで歩いていく。正直、レイモンドってやつが生き残ってる可能性は低いだろう。

 だけど、仮にそうだとしても、現実を早めに見せた方が傷は浅くて済む。タイクンもそう考えてのことだろう。

 小枝を折る音や土を踏む音、あとはレイナが静かに泣く声だけが森の中で聞こえる。

 

 

 ──────

 

 

 馬車があると聞いていた場所に辿り着く。

 レイナを降ろして周囲を探索するけど、そこには誰も、何もいなかった。

 

「轍が向こうのほうに向かっている……起きたやつが自分で馬を向かわせたのか?」

 

「レイモンド……レイモンド……レイモンド、レイモンド、レイモンド……」

 

「おっと」

 

 ヨロヨロと辺りを見回し、レイモンドがいないと脳が理解した途端に気絶してしまったレイナを、タイクンが受け止めた。無理も無えな。確定して無いとは言え、いきなり家族を全て失ったんだから。

 

「フィールシット、一旦村があった場所に戻ろう」

 

「分かった、俺も疲れたしな」

 

 

 ──────

 

 

「ヨイショ、と」

 

 気を失ったレイナを、タイクンは破壊された家に残ったベッドに横たえた。

 レイナは参っていたけど、俺も正直どうすればいいかわからない。レアメト王国なんて聞いた事も無いし、俺、帰れんのかな……

 地面を見ていたら、タイクンが顔を覗き込んできた。

 

「なーに暗い顔してんだ」

 

「……」

 

「ウジウジしてんじゃねえ! やる事がたくさんあるんだよ!」

 

 手を無理やり引かれて、崩壊した別の家の前に連れて行かれる。

 

「ここに何があるか分かるか?」

 

「……壊れた家」

 

「そうだ、これを片付ける」

 

「…………」

 

 何でそんなことを俺が、と思っているとデコピンされた。ドカッと丸太の上に座りこんだタイクンに俺も座る様に促される。

 

「ごちゃごちゃめんどくせえ事考えやがって、もう一旦依頼のことは忘れろ! チプタのことも、家のこともだ! 分かってんだろ? こんなのは普通じゃねえ」

 

「……うん」

 

「良いか? 俺たちは協力しなくちゃならねえ、ギルドの規約云々を抜きにしてだ。嫌って言うなら仕方ねえ、俺は単独で帰る方法を探すだけだがな」

 

「嫌なんて言ってないだろ! 何でそんなこと言うんだよ!」

 

 かつての記憶が脳裏によぎる、一人ぼっちになったらと思うと身体が震える。恐怖に涙が溜まっていく。

 

「いや、悪い。今のは仮にの話だ、落ち着け」

 

 タイクンは頭をガシガシと掻いて、俺の目をまっすぐに見た。

 

「なあ、正直なところを話すと、お前の様子はおかしい

 。昨日の夜、何があったんだ?」

 

 昨日の夜、火の番をしている時にあったこと…………

 

「うっ……」

 

 突然の頭痛に蹲る。

 

「おい、大丈夫か!」

 

「思い出せない……あんなに怖かったのに……」

 

 恐怖以外の何も思い出せない。靄がかかったように。あったはずの記憶が擦れて見えなくなっていく。ソレがなおさらに恐ろしい。

 ギュッと目を瞑っていると、背中を優しく叩かれる。

 

「大丈夫、大丈夫だ、ここには怖いものはいない」

 

 魔力切れも合わさった精神的な疲労のせいか、俺はいつの間にか眠ってしまった。

 

「願わくば、天と大地と海におわします神よ。彼女に祝福を授けたまえ……」

 

 眠りに落ちる前に聞こえた、タイクンの唱える祝詞がいつも聞くものと違った気がした。でも、何だか、いつもより穏やかな気分だったような気がする。

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