そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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序編
チプタ村


チプタ村

アドラント王国語で入口を意味する名を冠したこの村は、村でありながら都市ほどの大きさを持ち、名の意味する通りに隣国からの要衝として重要な位置を占めている。

計画都市として作られたこの村は円形をしており、北半分でバゲット国と接している。

中央にある建物の尖塔ではいつも監視が目を光らせ、治安維持を行なっている。

そんな村を中央から南に走る水路で、3人の子供が遊んでいた。

 

「待ってよカタナ!マック!」

 

水路ではカタナとマックという二人の子供が泳いでいるが、水路には入れず、川路から追いかける少女がいた。

 

「こっち来いよメイヤー!」

 

マックに囃し立てられる少女こそ、この村の村長が猫っ可愛がりする愛娘メイヤーである。

 

「いやいやマック、メイヤーには無理だって。やめてあげなよ」

 

「そうだよ……前みたいに原っぱで遊ぼうよぉ」

 

「うるせー!泣き言言ってんじゃねえ!俺らより年上だろうが!」

 

調子乗りのマックと冷静なカタナは11歳、泣き虫のメイヤーは12歳と1歳違いではあったが、毎日仲良く遊んでいた。

 

「くぉらぁー!お前らウチの娘いじめてんのかぁ!」

 

川路に沿って並ぶ建物の一つである喫茶店で休んでいた村長が飛び出して大声で叫ぶ。

 

「やべっ、逃げるぞ!」

 

「承知!」

 

「わっ!……あはは!おとーさーん!」

 

拳骨を落とされるのは御免だと、マックはメイヤーを担ぎ上げ、カタナはマックが脱いでいた上着を回収して南の原っぱの方へスタコラ駆けていく。

担がれたメイヤーは笑いながら父親に手を振っていた。

 

「まったくあのガキはウチの娘に怪我させたら許さんぞまったく……」

 

「ぶつくさ言ってんじゃねえよ良い大人が」

 

「うるへー……おかわり!」

 

「あいよ、ったく昼間から酒呑みやがって」

 

木製のジョッキに注がれたエールを呑んで思う。

駆ける子らの背中を見ながら呑む酒は最高に美味い。

 

 

一方の駆ける子ら

 

「ねーマック、いつものアレやってよー」

 

肩の上でモゾモゾ動きながらメイヤーがお願いをすると、マックもしゃーねえなーとメイヤーの細い腰を掴んでシャキーンとそのまま天に掲げる。

 

「うわー!あはははー!」

 

メイヤーは両手を伸ばして風を感じ、マックはメイヤーを更に楽しませようと蛇行して走る。

 

「ちょっと……速すぎ……ちょっと……待って……」

 

しかし服を持っているだけのカタナは、子供とはいえ人間を天に掲げながら蛇行して走るマックに突き放されていた。

 

「ごめんごめん、ちょっと調子乗っちゃったわ」

 

「あーー……」

 

お楽しみの時間が終わってガッカリのメイヤーは天に掲げられたまま両手をダランとし、干された布団のようになった。

しかしその時間を終わらせたカタナは息を切らしており、微塵も悪いなどとは思っていないし悪くない。

ひとえにマックが異常なのである。

 

「ほいっと……次はお前だー!」

 

「うわわわ……」

 

「あーーずるーい!えいっ!」

 

疲れたカタナを先ほどのメイヤーのように掲げるマック。

しかしカタナが疲れている事を思い出し、お姫様抱っこに変える。

そしてメイヤーは背中にしがみつき、そのままマックは走り出した。

 

「おっ、マック達だ」

 

「またやってんな」

 

「元気でいいね!」

 

「ウィーーーーー!!!」

 

叫びながら道を突っ走り、村の端まで来ると一旦立ち止まる。

 

「門衛さーん!どもー!」

 

「はいはい、ちゃんと持って帰って来るんだよ」

 

「あざーー!!」

 

老いた門衛から通行証を受け取ると門を抜け、また駆け始める。

 

「わっ、なんだ!?」

 

「あらららら、ななななんなん?」

 

「あれが有名なマックか……」

 

「知っているのか雷電!?」

 

「うむ」

 

門から抜けると、バゲット国や村での貿易を行う人、村から国の中に向けて行く人がおり、そんな人達ともすれ違う。

 

「マック、そろそろ大丈夫だよ」

 

「おっ、そうか」

 

カタナをヒョイと下ろすとメイヤーが背中から降り、カタナの汗を拭く。

しかし涼しい顔で辺りを見るマックに二人は顔を見合わせる。

 

「あの程度じゃマックは汗もかかないんだからね」

 

「変なのー」

 

「「ねー」」

 

「んだとー!」

 

ワーだのキャーだの言いながら逃げる二人を追いかけ、そのままいつもの原っぱにたどり着く。

最終的にマックは二人に襲いかかって地べたに3人まとめて寝転んだ。

 

「せっかく拭いたのにー」

 

カタナの顔を見てぼやくメイヤーの顔にもついた土を、グシグシと自らの服の裾で拭くカタナ。

 

「さーて、今日は何して遊ぶか」

 

「えー、ちょっと眠くなってきたよー」

 

「うん……」

 

マックは遊ぶ気満々だが、二人は寝たいようなので放っておいてマックは一人で周りを散策する。

カタナに関しては寝転がってすぐに瞼が閉じかけていた。

 

「ここら辺に……あった」

 

暫く歩いたマックはとある場所で立ち止まると地面を掘り返し、何かを取り出した。

それは木製の柄に石の剣身が取り付けられた、いわゆる石剣だ。

 

――ほれ、良いもんやる――

 

これを彼は門衛から貰って隠していた。

軽く振るとフォンという音が鳴る。

剣筋には一切のブレが無く、狙ったところでぴたりと刃先が止まった。

鍛えていなければ成人男性ですらこうはいかない。

マックは膂力のみでそれを行った。

 

「……なんかちげえや」

 

しかし彼はその結果に大した感慨を得られなかったようで、一度振ったのみで再び先ほど掘り返した穴の中に放り投げた。

土で埋め直すと、棒を一本刺しておく。

 

最近は、ただ遊ぶことに飽きていた。

二人と遊ぶのは楽しいけど、何かが足りない気がしたのだ。

走り回ったり、泳いだり、イタズラしたり、それでも何か、どこか足りないのだ。

そこで、門衛のお爺さんのところに行った。

知恵者として知られるお爺さんなら知っているのでは無いかと。

その時に渡されたのだが、イマイチしっくりこなかった。

 

「二人は寝てるかな、と」

 

先ほどの場所に戻ってメイヤーとカタナを見ると、仲良く並んでいる。

 

「……絵になる、ってやつだな」

 

どちらも顔が整っており、青髪のカタナと金髪のメイヤーが緑の絨毯の上で寝転がっている様子はそれこそ絵画として切り取られてもおかしくない風景だった。

どうせなら、と草で冠を作って二人の頭に被せる。

その完成度の高さに、世界で最も美しい種族と音に聞くピクシー達も思わず振り返る事間違い無いだろう、と悦に入っていると、マックの頭上に影が差す。

 

「美しい……」

 

「……えっ誰?」

 

そこに居たのは麗人と呼ぶに相応しい人物だった。

 

「失礼、私は北のバゲット国からやってきたユウナというものだ」

 

「ふーん……使節団の方ですか?」

 

「難しい言葉を良く知っているね、その通り、私は使節団の一人なのさ」

 

短めに切り揃えられた銀髪と、使節団の一部が身に付けている甲冑、そして腰に佩びた細剣。それだけなら男でもおかしくはないが、その歩き方から女性であると見てとる事ができた。

 

「こんなところにいて大丈夫?」

 

「美しいものを見る為ならばきっと」

 

「お姉さん分かるのか、この美しさが」

 

「君こそ若いのに堂々としているね」

 

ニンマリとした笑顔で頷くマックに、だがと続ける。

 

「私ならこれで満足はしないな」

 

「……」

 

やってみろ、と麗人を目線で煽るマックの目の前で草を摘み取りはじめる。

立って眺めていると、片腕に抱えるぐらいの量の草を集めた。

 

「これくらいで良いか……ハッ!」

 

その草を宙に投げると腰の細剣を抜き放つ麗人。

肘から先がブレる程の速度で振るわれると、ピュンッという音が折り重なってあたりに響く。

草が下に落ちる事はなく、パサッという音と共に一着のローブが地面に横たわった。

 

「おおー」

 

「フフフ、中々できるだろう?」

 

「でもなんで一着しかないの?」

 

「……確かに」

 

ドヤ顔をしていた麗人が口元に手を当てて動きを止める。

カワイイなこの人、なんて思いながらマックは先程埋めたばかりの石剣を掘り出して持ってくる。

彼女には瞬きの間にマックが石の剣を手に出現させたと見えただろう。

 

「え……いつのまに石の剣なんて」

 

問いを無視して草を集めるマック。

麗人が先ほど集めた量と同じぐらいを手に持つと同じように放り投げる。

 

「そんな私の真似をしようと……しなく……て……も…………」

 

マックの目は捉えていた。

先程、この麗人がどのようにして草の服を一瞬にして編んだのかを。

一閃一閃がどのような軌道を辿り、どのような理をもって剣術となっているのかを。

その時、カチリと何かが頭の中でハマったような音がした気がした。

 

「これで、もう一着だな」

 

麗人が編み上げた服の隣にもう一着、全く同じ草の服が完成していた。

 

「おねえさん、ありがとう!おい、カタナ、メイヤー起きろ!」

 

「ん〜やめてよ〜……なにこれー!」

 

「なんなの……わあ」

 

ゆさゆさと揺らされて文句を言いながら起こされた二人だが、草で編まれた服を見て思わず声を上げる。

 

「このおねえさんと俺が作ったんだぞ」

 

「おねえさんだれー?」

 

メイヤーが服を手に持って目をキラキラとさせながら麗人に尋ねる。

 

「ありえない……そんな……」

 

しかし彼女は俯いて何事かを呟くばかりで反応が無い。

 

「ありがとうございます!」

 

「私は……私の……」

 

カタナが礼儀良く感謝を述べてもやはり反応は無い。

 

「ユウナ!何やってんだこんなところで!」

 

そこにまた一人乱入者が現れた。

麗人の名を呼ぶと腕を引っ張って行く。

 

「あんな……有り得ない……殺さなければ……」

 

なんかめちゃくちゃ物騒なことを言っていたがそのまま連れて行かれた。

使節団の仲間か何かだろう。

 

「ねえねえ」

 

メイヤーがちょいちょいと服を摘んでくる。

 

「あの人は結局誰だったの?」

 

「うーん……たぶん、通りすがりの変態」

 

「へんたいってなに?」

 

「近寄ったら危ない人のこと」

 

「でもこれ、作ってくれたんでしょ?」

 

「色々種類があるんだよ」

 

「ふーん」

 

服の上からさらに草の服を着込んだ二人は、俺に見せつけてくる。

 

「どう?」

 

「僕も、どうかな?」

 

「二人とも似合ってるぞー」

 

「それにしても……」

 

「ん?」

 

「あの人はカッコよかったなあ……」

 

どうやらカタナはあの麗人に惚れてしまったらしい。

カタナが起きた時はずっとぶつぶつ言ってただけな気がするんだけど。

 

「どんな所がカッコよかったんだ?」

 

「着てたやつと剣!」

 

「なるほどね……」

 

カタナは騎士が好きなのか。

 

「じゃあカタナは明日から学校行かなきゃな」

 

「学校はよく分かんないし……」

 

騎士になるなら学校だろ。

 

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