そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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ーーあぁ、人の愛よ

 疲労から眠りに落ちたフィールシット、口元にかかった黒い髪をどける。あどけない表情だ。辛そうにしていたように思う。本来ならこんな事には関わらせたく無かった。

 それにしても、こいつが昨日の夜に見たモノの正体が気になる。この状況と必ず関係しているはずだ。

 だが、これは直感だが、一番アテになるはずのフィールシットの記憶が思い出せないあたり、今は追求しても無駄だろう。頭痛が起こるんならアイツの負担にもなるしな。

 レイナの横まで運んで寝かせておく。

 こんな時は体を動かすに限る。霊薬の効果は思ったより長いらしくて、体力が有り余ってしょうがないからな。

 

「差し当たっては……あの家から解体するか」

 

 屋根をどかし、壁を小さく壊していく。一箇所にまとめて置くために何度も往復しなければならない。無くなっていく家屋の破片の下から、苦悶に歪んだ顔が出てくる。すぐに墓を掘ってやりたいが、無理に引っ張り出そうとすれば遺体は更に損壊するだろう。少しずつ、だけど素早く周囲のものを無くしていき、遺体の全てをあらわにする。

 ソレを改めて見て、眉根が寄るのを感じる。だが、今は速度が大事だ。その遺体を持ち上げ、村の裏に持っていき、穴を掘って、その中に入れる。

 一撃で倒壊したのだろう。柱の破壊のされ方がソレを物語っていた。

 

 黙々と、数時間に亘って倒壊した家屋の解体を進め、ソレに伴って出てくる遺体の埋葬も並行して行う。肉体の疲労や単純な精神の疲労とは別で、身体が重くなっているような気がした。

 作業を終える頃には、家屋の埃や、泥、遺体から発生する汚物などで全身が汚れていた。

 

 墓の数は村人だけで約50基にも及んでいた。

 その次は兵士達の分だった。

 遠いところから運び始める。周囲に散らばった装備のカケラが放っておかれないように何度も確認して運ぶ。

 戦っていた者達だ。その死に様は目を背けたくなるような壮絶なものが多かった。雷で全身が焼けていたもの。牙で噛み砕かれ、全身がバラバラのもの。叩き潰されて破裂したもの。腹が裂かれ、のたうちまわった後絶命したもの。

 一人一人を運んでいく。

 ヤツを討伐した時の事を思い出す。コイツらは呆気なく死んでいった。だが、決して、無駄死にでは無かった。コイツらが時間を稼いでくれなければ、今運ばれているのは俺とフィールシットだった。

 25名の遺体を埋葬し、最後に、ある遺体の前に立つ。

 

「グンナール……」

 

 受け取ったモノを見る。

 会話なんてただ一度しただけだ。

 お互いに何も知らない者同士だ。

 俺は、何も悪くなかったはずだ……何も、間違っていないはずだ。正しかったはずだ。

 コレまでに経験した事の無い、まさに地獄だった。

 戦闘中は無意識に心から外していた。

 俺が間に合わなかった結果がここにあった。知りもしない村人や兵士の死体だけがそこにはあった。

 胸が、苦しかった。

 フィールシットは、あるモンスターに故郷を滅ぼされたと言っていた。冒険者に討伐されたのは、故郷が滅んだ後だと。

 その冒険者は、こんな気持ちだったのか? 

 フィールシット……お前はこんな気持ちだったのか? 

 レイナを見つけた時、馬車を探しに行った時、お前はどんな気持ちで一緒に歩いていたんだ? 

 

 グンナールを丁重に運ぶ。

 なぜか、コイツだけは穏やかな顔をしていた。

 

「だから、俺には関係無いんだって……」

 

 全ての墓を埋め終える。

 墓標も何も無いが、まあ、コレぐらいはいいだろう。

 

「腹が……減ったな」

 

 食欲は無かった。だけど、何かを食べておこうと思った。

 心が、疲れ切っていた。

 

 

 ──────

 

 

 目醒めると良い匂いがした。ああ、今までのことは夢だったのか。実はここは家で、母さんが朝飯を作って待っているんだ。

 しかし、目を開けるとそこには母さんはいなかった。倒壊した家のベッドに寝かせられていたようだ。暗闇の中で匂いにつられて歩いていくと、タイクンがいた。血まみれの服がそばにあったけど、怪我を負っているわけじゃなさそうだった。

 昨日みたいに丸太で焚き火を囲って、肉を焼いているだけのようだった。

 隣に座ると、無言で肉を差し出された。

 

「その血塗れの服、どうしたんだ?」

 

「これか……これは、だな」

 

「埋葬、してくださったのですね……?」

 

 レイナがいつのまにか後ろにいた。

 

「ありがとう……ございます……!」

 

 辛そうにしながらもレイナは感謝をしていた。

 

「獣が寄ってきたら、危険だからな」

 

 何故か、タイクンも辛そうな顔をしていた。

 

「私じゃ……家を退かすことは出来ませんでした……代わりにやってくれて、良かったです」

 

 絞り出すような言葉を聞くたびに、タイクンは表情を歪めていく。

 

「私は……この村に残ろうと……思います……旅の方を留めておく訳には……いきませんから……」

 

「やめて、くれ」

 

 嗚咽混じりの声を聞いて、タイクンは苦しんでいた。

 

「本当に……ありがとうございました……」

 

「やめろ!!」

 

 タイクンは怒っているようだった。自分に怒っているようだった。

 レイナがその場を去った後も、頭を抱えていた。

 なんでか、昔の事が思い出された。

 

 

 ──────

 

 

 幸せな村があった。

 数十名の村だった。村民はお互いの名前なんて当たり前のように全員知っていた。

 楽しいことがあれば全員で祝って、悲しいことがあれば全員で悲しんで、大きな家族みたいな感じだった。

 そんな村で私は産まれた。

 おじいさんがいて、おばあさんがいて、お母さんがいて、お父さんがいて、お姉ちゃんがいて……

 小さい頃はお姉ちゃんと人形遊びをしたりしていた。

 たまにいくピクニックが好きだった。

 村の近くにある小高い丘に、お母さんが作ったサンドイッチを携えて歩いて行った。

 村の全部が見下ろせて、手を振れば誰かが振り返してくれた。

 夜に行く事もあった。

 寝転がって空を見上げると、美しい煌めきがそこにはあった。

 

 そんな日々が終わったのは、なんの変哲も無い日だった。

 春の、穏やかな日だった。

 私の、誕生日だった。

 いつものように、楽しい一日が来ると信じて疑わなかった。

 昼下がり、異様な気温の高さに辟易していた時、ソレは現れた。

 近くを通り過ぎただけで木が炎上する、燃え盛る肉体を持ったモンスターだった。突然の襲来に村の鐘が鳴った。既にあちこちで見知った人が燃え死んでいた。

 固まる私の肩をお母さんは掴んで必死の形相で言った。

 

『いつもの丘に行きなさい』

 

 動かないでいると、お母さんは私を無理やりおばあさんに預けて、モンスターに向かって行った。

 おばあさんに手を引かれていたが、いつの間にかおばあさんはいなくなっていた。代わりに、さっきおばあさんがいたところに黒い物体が転がっていた。

 ジリジリと後ろから熱が近付いてきていた。

 訳もわからず走った。

 辿り着いた丘の上から村を見下ろした。

 赤く赤く、大きな炎だけが立ち上っていた。

 いつもみたいに手を振ると、誰も振り返してこなかった。煙だけが風に揺れていた。

 結局、そいつが倒されたのは、村が完全に灰になって、異変に気付いた冒険者が来てからだった。

 その冒険者は私を見つけた時、とても悲しそうな表情をしていた。

 私は、一人だった。

 私はその冒険者に拾われて、チプタに住む事になった。

 その冒険者は私に生きていく術を色々と教えてくれた。私も親みたいに思っていた。

 ただ、彼女は私を見て時々、辛そうな顔をしていた。

 私が冒険者をやり始めて少し、その冒険者は依頼中に死んでしまった。

 私はまた、一人になってしまった。

 その頃だろうか、舐められないようにと、一人称が私から俺に変わり、そして、タイクンと出会ったのは。

 

『暗い顔して飯食ってると、不味くなるぜ!』

 

 一人でご飯を食べていた俺にそう言って話しかけてきたのを覚えている。

 級が近いという事で、同じ依頼をこなす事も結構あった。無理やりくっついてきて、受付で即席パーティを組まされたりもした。

 

『おい、飯行こうぜ。二人で食った方が美味えだろ』

 

『お前、娯楽を何も知らねえのか? よっしゃ! 連れてってやるよ!』

 

 いつも一人でいる俺を会うたびに気にかけてくれた。飯を奢ってもらったり、遊びに誘ったりもしてくれた。理由を聞くと、覚えていないようなフリをするヤツだけど。

 ただ、それだけの関係だった。昼間は霊薬のせいで変なこと言っていたけど、気の置けない友人みたいなもんだと向こうも思っていた、はずだ。

 

 そんなタイクンが、怒っていた。

 自分も死にかけたくせに、人のために、怒っていた。

 不甲斐なさを恥じて、嘆いていた。

 あんなに頑張って戦っていたくせに、まだ足りないと求めていた。

 目の前で苦しむ誰かを思って、同じように苦しんでいた。

 

 それが、とても愛おしかった。

 霊薬を用いてもなお腕に残る深い傷、ソレに目が釘付けられていた。

 ソッと傷をなぞる。触れた手が、とても熱く感じた。

 タイクンはビックリしたように振り向いて、俺の顔を見た。

 ぼうっと顔を見返す。

 何で、お前が泣きそうな顔してるんだよ。

 頬にそっと手を添えられた。

 その手に自分の手を重ねる。

 

「本当は、お前をこんな事に巻き込みたくは無かった……」

 

 そうやって、いつも俺の事を気遣ってくれているくせに、自分が泣きそうなのはどうでも良いんだな。

 

「俺は、為すべきことを為したい。帰る方法を探すのは少しだけ待ってくれ、フィールシット」

 

「マリー」

 

「え?」

 

「フィールシットは村の名前で、本当はマリーなんだ。マリーゴールドがたくさん咲いていた春だったから……」

 

「──マリー、協力してくれるか?」

 

「お前が望むなら何だって」

 

 世界は碌でも無い。

 人はいきなり死ぬし、村はいきなり滅ぶ。だけど人は、終わりに向かって絶望しながら生きている訳じゃ無い。生き延びていれば、誰かがこうやって手を差し伸べてくれる事もある。

 だから、自分も手を伸ばしてみよう。お互いの手が届けば、生きるのも悪く無いって思えるかもしれないから。

 私みたいにな。

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