そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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同じ傷を負う者達

「ん……」

 

 目を覚ますと、すぐ前に男の顔があった。というかタイクンだった、なんでこんなに近くに──

 昨日のことが即座に思い出され、顔が熱くなった。

 

「お、俺はなんであんな小っ恥ずかしい事を……うあああ……」

 

 ひとしきり悶えると冷静になったが、改めて自分の今の状態を認識する。

 一緒のベッドで寝ていた。ソレどころか、目の前の男に片腕で抱きすくめられ、もう片方の腕で腕枕をされていた。

 

「はあ……」

 

 大人しく腕枕に頭を預けてタイクンの顔を眺める。戦っている時の苛烈極まりない表情は鳴りを潜めていた。

 ペタペタと顔を触る。普段はあんまりこういう、なんかこう……距離感というか……そういう関係じゃなかったからな。顔を触ったりとか無かったし。

 昨日はなんかそういうの飛び越しちゃったけど……

 

「おい」

 

 でも、なんだかんだこいつも俺のことを大切に思ってくれているのは分かってたし、ソレがこういう関係に落ち着いただけって考えれば……

 

「おい」

 

 でも、こ、告白は期待しろとか言ってたし……どんな風にやってくれるのかな…………いや、でもあれって霊薬の効果でおかしくなってた時の発言だったな……

 

「おい、いつまで人の頬をいじくってんだ」

 

「あいたっ」

 

 ペシッと額をはたかれる。

 なにすんだ、という抗議の意思を込めて睨むと何故か顔を赤くして逸らされた。

 

「叩かなくても良いだろ」

 

「そ、そうだな、悪かった……よしよし」

 

 はたかれた額を今度は撫でられた。

 一つ気になったことを聞いてみる。

 

「そういやタイクン、具体的には今後どうすんだ?」

 

「ああ、まずはレアメトの王都を探して、アレを届ける」

 

「あっ……」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもない」

 

 撫でられるのが意外と気持ち良かったので、やめられた時に思わず声が出てしまった。

 

「そうか──コイツだ」

 

 タイクンは雑嚢を漁って、グンナールから預かったという遺品を空に翳す。

 それは、いわゆるペンダントというやつだった。俺はつけた事ないけど、女の子はつけたりするらしい。

 

「ペンダントか……」

 

「ああ、探索者連中は結構付けたりしてるやつもいるな」

 

「なんか特別な機能でもあんのか?」

 

「あるらしいな、そういうのが」

 

「ふーん……」

 

「さて、起きるか」

 

「おお……」

 

 タイクンが上体を起こし、ついでに背中に回った片腕で抱き起こされる。気恥ずかしくなって軽口を叩く。

 

「なんかコレまでと扱い違くねえ?」

 

「なんだマリー、もっと雑に扱って欲しいのか?」

 

「……」

 

「ほら、とりあえずレイナさんのところに向かうぞ」

 

 ニヤッと笑って返され、何も言えなくなってしまった。

 少し遅れて着いていくと、昨日はマジマジと見る暇がなかった村の破壊の度合いが目につく。

 

 根本からへし折れた柱や引き裂かれた壁、血の付いた机や跡形も無くなった家だった場所。

 さっきまでの浮ついたような感覚が消えて、腹が底冷えしていくような、嫌な気持ちが溜まっていくのを感じる。

 脚が動かなくなっていく。

 

「ほら、行くぞ」

 

 タイクンに手を繋がれて少しその感覚が治る。手の温もりに集中して、周りを見ないようにする。

 

「目隠しするか?」

 

「大丈夫」

 

「無理すんなよ?」

 

「わかってる」

 

 さっきより近付いて、密着して歩く。身体中が暖かくなった気がした。

 

「……」

 

 無言のタイクンに頭を撫でられる。心地よさに身を委ねていると、そんなに広く無い村の中のレイナが一時的に寝泊まりを決めた家にすぐ着いた。

 手を繋いでるのを見られると恥ずかしいけど、離すのも嫌だな、なんて思っているとタイクンは何も気にせずにレイナに声を掛けた。

 

「レイナさん、おはよう」

 

「……おはようございます」

 

 レイナはチラッと繋がれた手を見たけど特に言及せずに挨拶を返す。

 やはりその声に生気は感じられない。だけどタイクンは慰めるよりも、敢えて先の事について話すらしい。

 

「レイナさん、やっぱり一旦王都に一緒に行こう」

 

「え……? いえ、わたしは……」

 

「あの馬車にレイモンドがいたのか、確認しよう。俺たちも護衛するからさ」

 

「…………」

 

「レイモンドが本当に死んだのか。ソレを確かめなくて良いのか?」

 

「やめて!」

 

 突然にレイナは叫んだ。

 無視してタイクンは続ける。

 

「レイモンドが生きていたなら、レイナさんを置き去りにするわけがない、というのは勿論わかってる」

 

「聞きたくない!」

 

「いいや、聞け。あの場に残っていたはずの4人は全員気絶していた。もし、レイモンドが怪我を負っていて、馬を操ったのが他の3人のうちの誰かなら、まずは帰還を優先して王都に向かうはずだ」

 

「うるさい!」

 

「レイナさん……」

 

 子供の頃の惨劇、そして、2人目の母さんを亡くした時の事……レイナの気持ちが痛いほど理解できる。何となく、ここからは俺が話さなきゃいけないんだと感じた。話を続けようとするタイクンを止めてレイナの手を握る。

 

「気持ちは分かるよ」

 

「──軽々しくそんな事言わないでよ!!」

 

 レイナは髪を振り乱しながら、涙を流しながら、叫んでいた。

 

「こんな気持ちがわかるわけない!!」

 

「分かるよ」

 

「嘘よ!!」

 

 胸を押さえて苦しそうに泣くその姿に、夜も眠れずにいた5年前の自分を思い出す。

 

「10年前、俺も故郷をモンスターに滅ぼされたんだ」

 

「え…………」

 

「生き残ったのは俺1人だった」

 

「そんな…………」

 

「今でもたまに夢に見るよ、全てが炎の中に消えていったあの光景を」

 

 涙が勝手に流れていく。

 心配したのか、タイクンの手が肩に乗るのを感じた。

 

「大丈夫だよ」

 

「ああ」

 

「俺も当時は絶望した。何もやる気が起きなかったし、生きてても良い事なんて無いって、そう思ってた」

 

 それでも今、肩に手を乗せているお人好しが支えてくれて今がある。だから、レイナにも諦めてほしくなかった。この先の人生で待っているだろう楽しい事を期待できずに、ここで沈んでいってほしくなかった。

 

「…………」

 

「でも、生きてるとやっぱり楽しいこともある。だから、まずは生きようよ。綺麗事かもしれないけどさ、先輩からの助言だよ」

 

 泣いたままのレイナは、呆然とこちらを見ていた。

 

「私と、同じ……」

 

「偶然って、あるんだな──―レイナさん、一緒に王都に行こうぜ?」

 

 笑いかけると、眉根を寄せてもう一度涙を溢れさせたレイナは下を向き、ぐしぐしと服の袖で顔を拭いた。

 こちらを向き直すと、無理矢理取り繕おうとして変な顔になったけど、涙を流しながらソレでも気丈に言った。

 

「少しだけ……考える時間をください」

 

「うん、今はそれでいいよ」

 

 握手をする。

 俺の拙い言葉でも希望を持ってくれて良かった。

 

「でも、その前に……」

 

 もう一度顔を拭ったレイナは立ち上がって、村を見回す。

 何も無いはずの村の中に何かを探しているようだ。

 

「ここまでの事をして下さったあなた方に……何もお渡ししないのは村の一員として恥です」

 

「いや、気にしなくても……」

 

 断ろうとしたらギュッと強めに肩を握られて振り返ると、タイクンが首を振っていた。

 ソレを見て考え直す。

 

「……ありがたくいただきます」

 

「はい……ぜひ、受け取って下さい。村のみんなも、そう望んでいるはずです……」

 

 自身も辛いだろうに精一杯、村の生存者として、代表する者として振る舞おうとする姿を見ると胸が痛くなる。

 レイナは一番大きな建物の跡に向かうと、床を足で叩いて確認している。

 おそらく、隠し金庫か何かがあるんだろうな。

 

「あった……」

 

 パカンと開いたそこにはやはり金庫があった。

 レイナが慎重にロックを外していくと、扉が開く。

 

「持っていくこともできませんし、お好きなだけとってください」

 

 三級モンスターの討伐報酬は数万だったと思うけど、どれくらい入っているんだ? 

 金庫の中を覗き込むと、金貨と銀貨がそこそこ入っていた。タイクンが1枚をヒョイと拾ってマジマジと見る。

 

「……見たことねえ金貨だな」

 

「え? 本当ですか?」

 

「ああ、俺の国とは違うな。申し訳ないんだが、どれくらいの価値なのか教えてもらって良いか?」

 

「ええっと確か……1アーク金貨が1000アーク銀貨で、1アーク銀貨が100アーク銅貨、です」

 

「なるほど……コレは提案なんだが、レイナさんも生活のために金が必要だろう?」

 

「それは、そうですね……」

 

「俺たちは正直、この国に来たばかりで分からないことが多すぎる。だから、ソレを教えてもらいたい」

 

「構いませんけど……ソレとこの金貨になんの関係が?」

 

「コレは知ってるか?」

 

 タイクンは何故か空間ポケットを開いた。というかあれ? 昨日は魔導使えなかった気がしたんだけど、気のせいか? 

 

「え!? な、なにそれ!?」

 

 レイナはとんでもなく驚いているようだった。冒険者を知らないみたいだし、魔導を見たこともないのか? 

 

「コレは空間ポケットって言ってな。色んなものをこの中にしまえるんだ。だから、王都に行くって決めたらこの空間ポケットを使って、レイナさんが必要だと思うものを全部王都まで運ぼう」

 

 タイクンが空間ポケットに手を突っ込んで説明しているのを見て、レイナは心配そうにしている。

 

「手、手は大丈夫なんですか? それ」

 

「大丈夫だ、レイナさんも手を入れてみるか?」

 

「い、いえ、やめておきます……」

 

「じゃあ、とりあえずその金をこの中に入れちまうか。あ、別に持ち逃げとかは無いから……」

 

「はい、そこは信じております。見ず知らずの私達のために戦って、下さったのですから……」

 

 どうやら、レイナからの信頼は勝ち取れていたらしい。だが、彼女の目からはまた涙が一滴溢れていた。

 タイクンはそんな彼女の肩に手を置く。

 

「これから俺は食べ物を確保しに行く。どこか良い狩場を知らないか?」

 

「──えっと、あんまり分からないです……川の位置なら」

 

「ソレでも良い、どっちにある?」

 

「アッチです」

 

「ありがとう、じゃあ──フィールシット、お前はレイナさんを頼むな」

 

「わ、分かった」

 

 タイクンは朝飯のために川に走って行き、俺とレイナの2人きりになった。

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