そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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それは信頼でも信用でも無く

「ありがとうタイクン、俺はどうやら自惚れていただけみたいだ」

 

 気絶から治ったアキトは、タイクンを見た時に感じていたのが嫉妬を極大化させたモノであり、劣等感だった事を理解した。

 曇っていた眼は叩きのめされる事で晴らされ、かつて己が修行していた時のような新鮮な気分になっていた。

 

 タイクンはあまり頭が良くない。

 だが、モノを見定める目は持っていた。

 目の前のアキトの精神性が正常化した事を悟り、笑顔でソレを祝福する。

 

「そうか! じゃあ、今度こそ握手をしよう」

 

「ああ!」

 

 こうして場は整った。

 何の憂いもなく、6人は一まとまりの集団として王都に向かう準備ができた。

 

 

 ──魂が震えていた。

 

 

「じゃあ、明日出発だな!」

 

 タイクンは宣言する。

 つい先ほど大立ち回りを繰り広げたとは思えないほど元気、というかうるさかった。

 

「ガハハ! やーっと人心地つけるぜ! お前らちょっと肩に力入りすぎなんだって!」

 

「お、おう」

 

 二人が水を浴びて体をキレイにした後、改めて6人で焚火を囲み、丸太に座り込むとタイクンは隣のウェッジと肩を組んだ。

 

「おいタイクンいきなり絡みすぎだろ、ウェッジさん困ってるぞ」

 

「うるせえ! 困ってるのは俺たちだ!」

 

「まあソレはそうだけど……」

 

「あー! 酒が飲みてえ!」

 

「何でいきなりこんなテンション高いんだよ……」

 

「分からないか、フィールシット……分からないかあ! ハッハッハ!」

 

「うざっ」

 

「お前たちは理解する必要がある」

 

 タイクンはいきなり真顔に戻ると、落差に引いてる5人に語り始める。

 

「間違いなく今日、この時、俺たちの物語は前に進んだ」

 

 見るべきモノを見逃さないタイクンは、思考によってでも直感によってでもなくこの状態を理解していた。

 膨大な経験からくる予測ではない。

 ただ、肌が粟立つような、魂が震えるような感覚があった。

 この感覚を、タイクンは前にも味わったことがあった。

 そして、6人で王都へ向かうという選択を取った事がコレを齎している事も何となく分かっていた。

 

「俺たちは──俺は、選択を間違えなかった。敵対し、お前らを殺し尽くし、そのまま王都に向かうという選択を選ばなかった」

 

「なっ……」

 

 絶句するアキト。先ほど和解したばかりなのに、あまりにもタイクンは冷めていた。

 誰もがその発言の真意を測りかねているとマリーは思い出す。

 

「タイクン、それって前に言ってた……」

 

「そうだ、魂が遺跡を通じて未来を観測したんだ」

 

「い、いせき?」

 

 突然出てきたオカルト単語にアキトは混乱する。いや、タイクンとマリー以外の4人は漏れなく混乱していた。

 

「いせきってなんですか?」

 

 リンはすぐさま質問する。

 

「そりゃお前…………なんだろう」

 

 タイクンは遺跡について改めて考えると、これが説明出来ない事象である事に気付いた。

 おそらくここには遺跡が無く、魂の蓄積という概念も存在しないであろう事は予想できた。

 そうなるとまず遺跡について説明し、更に魂について説明しなければならないのだが、自身は冒険者だ。探索者では無い。

 そもそも遺跡について詳しいわけでは無いのだ。

 かつて自身を拾った老人、ロウに言われた事をそのまま話しているだけだ。

 

「フィールシット、助けてくれ」

 

「えええ……」

 

 マリーは心底がっかりした。

 今の雰囲気、めっちゃかっこよかったのに……

 

「遺跡ってのは、俺たちがいた場所に現れたなんか変な場所だよ。こう、扉がここに立ってるとするだろ? 普通は扉の向こう側には俺たちが今立ってる草原が続いてるけど、特別な鍵みたいなのを使うと全然違う場所に行けるんだ。その全然違う場所ってのが遺跡だ」

 

「うーん……分かったような分からないような」

 

 リンは首を傾げて曖昧な表情をしていた。

 マリーも説明したは良いがこれで良いのか正直自信は無かった。

 

「俺だってそこまで詳しいわけじゃ無いんだよ……そもそも畑が違うっていうか」

 

「まあ詳しい理屈はともかく、タイクンは時々先を読むことができるってわけだな?」

 

 アキトは重要なところだけを反芻して確認した。

 

「なるほど……凄まじい力だ」

 

 ウェッジは戦慄した。もし未来を読むというのが本当ならば、星詠み達など比にもならない。王国のどの部門も欲しがるだろう。

 自分たちの選択が、引いては王国の行先が正しいのか否か、ソレを指し示す方位磁針。

 王を導く賢者が持つべき能力だった。

 

「念の為に聞きたいのだが……」

 

「んぉ? なんだ?」

 

「冒険者、だったか? 君たちは全員そのような能力を持っているのか?」

 

「いんや、これは俺だけのモンだ。どうもそういう祝福みたいなのが俺には掛かってるらしい」

 

 タイクンは自慢げに言った。

 

「祝福?」

 

「ああ、アドラントでは『願わくば、大地と海に眠る神に祝福されますように』っておまじないがあってな。その祝福なんじゃないかって言われてた」

 

「大地と海に眠る神……」

 

「いや、どういう神かは俺らも知らねえけどな」

 

「我々の国では三柱の神がいるが……ソレとは違うようだな」

 

「タイクン、俺もう疲れたから寝たいんだけど……」

 

 マリーは宗教の話をした途端にピリつき始めた空気を感じ、すぐさま流れを無視してタイクンに対して眠いと駄々を捏ね始めた。

 

「ええ? いきなりだな……しゃあねえ、悪いなお前ら、明日に備えて寝るとしよう」

 

 そして男というのは女に甘えられると嬉しくなってしまうもので、上機嫌にマリーを抱き寄せると村の方に歩いていった。

 そして後ろにレイナ、王都から来た3人が続く。

 仲睦まじい光景を後ろに見せつけるタイクンとマリーを見てアキトとリンはヒソヒソと邪推、というか見たままを話す。

 

「やっぱりあの二人って……」

 

「ああ、完全にデキてるな」

 

「良いなあ……チラッ」

 

「……」

 

「うへへ」

 

 無言で頭を撫でるアキトにデレデレするリン。

 

「私もレイモンドと……」

 

 レイナはレイモンドの事を妄想し、何故か広がるピンク空間にウェッジだけがとんでもない気不味さを味わっていた。

 

「えーと、残ってるベッドは……ちょうど四つだな」

 

「……そうか、では私はあちらにしよう。そこの二組は程々にな」

 

 ウェッジには何がちょうどなのかさっぱり分からなかったが、さっさとこの気不味い空間から抜け出そうと挨拶をしてベッドに向かう。

 それは家と呼ぶにはあまりにもお粗末だったが、短い期間雨風を凌ぐだけなら十分な小屋だった。

 村の惨状を考えると、モンスターとやらとの戦闘後にあの二人が建てたのだろうな、ありがたく使わせてもらおう。

 ベッドに腰掛け、フーッと一息吐く。

 肉体的にはそこまでの疲労では無い。ただ、精神的な疲労がとてつもなかった

 

「異邦の旅人……冒険者……モンスター……遺跡……魂……」

 

 新しく脳味噌の中に入ってきた単語をただ口に出す。脳みそを素通りしていくそれらの情報は、この国、いや、この世界で明らかな異変が起きている事を示していた。

 幸いなことは、タイクンとフィールシットが悪性の存在では無い事だろうか。

 あの鮮烈な武、あれほどの者が我らに仇なすなどと考えたくない。

 それほどにただ、美しかった。

 ──いや、絆されるな。

 彼らが我々に牙を剥かない保証などどこにも無い。

 個人として好ましいと思う感情と、王国の公人としての判断を天秤にかけるなどあり得ない。

 

 ウェッジは統括庁という立場だ、それはつまり、彼の判断は文官全体の判断という事になる。

 彼らがどのような性質を持つのかは、ウェッジもそうだが、これから関わる王国民が見定めていくのが正しい筋道という事だろう。

 

 判断がつかない現状、王都に連れて行く事は当然リスクが付きまとう。王都に行った途端に邪悪なる本性を表して暴虐の限りを尽くしました、なんて事になったらウェッジは呪いを自らに掛け、自死を選ぶほか詫びる術がないだろう。

 

 しかし、これは考慮する意味の無い事だ。

 仮に彼らが悪性の存在だった場合、私達──少なくともこの場の3人にその侵攻を止める術は無い。それは先ほどのアキトとタイクンの戦いが証明している。

 故に、信じるしか無いのだ。

 

 それに、善性の存在である可能性の方が高いことも認識している。

 わざわざ会話をして、稽古を付けるように手合わせをして──なんて、迂遠すぎる。仮にそこまでの手順を踏んで、それでも悪人だったならもう拍手でもしてやろう。

 

「寝るか……」

 

 つまり、私が悩んだところでこれから起こる事にそれほど多くの分岐は発生しないという事だ。

 狭い選択肢の中で私はそれらしいものを選んでいくしか無い。

 やはり、私が直接来て正解だったな。

 それにしても……あの二組はいちゃつきすぎじゃなかろうか? 

 

 

 ──────

 

 

 ベッドの中で並んで横たわるタイクンとマリー。

 しかしマリーは少し不満そうだった。

 半月前、確かにタイクンと結ばれた。

 なのにそれ以降、タイクンは手を出してこようとしなかった。

 とはいえ自分から誘うのも恥ずかしい乙女心、自分の魅力の無さが原因かと自信を少し失いつつあった。口調は男っぽいし、胸も無い。やっぱりレイナのような女性らしい女性の方がタイクンも……

 そして当のタイクンは今日も素知らぬ顔で天井を見上げ、何事かを考えていた。

 しかし不意に、タイクンは顔を自分の方に向けた。

 緑色の瞳に見据えられ、少し緊張する。

 

「なあマリー」

 

「な、なんだよ」

 

「しよっか」

 

「え……」

 

 上体を起こしたタイクンが体勢を変え、覆い被さってくる。

 

「そんな……わ……い、いきなり……」

 

 突然のことで思考がまとまらず、あの、とかその、とか意味のない単語の羅列となって声が漏れていく。

 

「ごめんな」

 

「あ……」

 

 自身のそれより大きな手に頭を撫でられる。

 ずるい。

 俺は……私は、これに弱い。

 かつて、ギルドで一人ぼっちだった時からいつも、こうして撫でてくれたからだ。

 

「放っておいてごめん」

 

「……ん……」

 

 両手を広げると抱きしめられ、額に唇を落とされる。

 次は鼻先へ、頬へ、伝うように、なぞるように。

 一度タイクンは顔を離すとまた私の眼をしっかりと見つめてきた。

 耳が熱くなるのを感じた。

 今までに感じた事がないくらい恥ずかしくなり、眼を背けてしまう。

 

「こら」

 

「うう……」

 

 右手が顔に添えられ、無理やり正面に向き直させられる。

 

 まだまだ夜は長かった。

 

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