学校案内
「メイヤー、そっちじゃないよ」
「あれー?」
「ほら、こっち」
カタナはメイヤーの手を引いて先導する。あちこちを物珍しそうに見るメイヤーは、何も考えていないような顔でカタナに質問をした。
「ねーカタナ、私達って同じ部屋ー?」
「確かそうだよ」
「どれくらいの広さなんだろうね?」
「その質問、もう100回ぐらいしてなかった?」
あれー? と首を傾げるメイヤーに、カタナは自らがしっかりしなければ、と決意を固める。
程なくして部屋の前に着き、扉を開ける。
そこは質素な部屋だった。ベッドと机、それとタンスがあるだけだ。
「わー、狭ーい」
「そう、こんなもんじゃない?」
メイヤーは市長兼ギルドマスターの娘のため、ソレなりに広い家に住んでいるし、自室もこれよりは広い。
一方でカタナの家庭はごく普通の家庭であり、自室もあるにはあるがこの部屋よりは遥かに狭い。
感想としてはそこらへんが参照されての言葉だった。
「ベッドかたーい」
「えー? 柔らかいよ、これで充分」
ベッドに飛び込んだ感想も違ってくる。
彼女らの育ちの差というのは実際、普通に生きていたら決して交わる事が無いぐらいの差ではあったのだ。
「んー、荷解きしなきゃねー」
モゾモゾとベッドの上で這い回り、ベッド脇の荷物に辿り着く。荷紐を解いて次々と荷物を出していくメイヤーと違い、グチャグチャに紐を結んであったカタナの荷はなかなか解けなかった。
「あー、もう! 何でこんな固いんだよ!」
「だから言ったじゃーん……ほら、見して」
荷を解いて、整理して、なんてやっていると時間というのはあっという間に過ぎていく。
「……あれ!? 今どれくらい経った!?」
「んー……多分二刻行かないぐらい……」
「じゃ、じゃあ先生の案内が始まっちゃうよ! 行こう、メイヤー!」
「えー? 別に良くなーい?」
「ダメだよ! 多分他の生徒もみんな集まってるよ! ほら、起きて!」
「ぐぇ──……もう、じゃあおぶってってよー」
「ええ? もう、しょうがないなあ」
カタナはいつもマックがやっていたみたいにメイヤーをおぶってみる。
「うわっ!」
圧倒的筋力不足、カタナはメイヤーに押し潰されてしまった。
「お、重いよ……無理……」
「むー……重く無いよ! マックは簡単そうにやってたじゃん!」
「マックがおかしいんだよ……ど、どいて……」
メイヤーの手を取って立ち上がり、学校案内に必要そうなものを纏める。
「何持ってけばいいんだっけ……あれ、袋の底に何かが入ってる」
カタナがソレを手に取ると、紙の切れ端に何かが書いてあるようだった。
〜これだけは持ってけシリーズ1〜
何か新しい発見があった時に、メモを取れるようにしておこう!
必要なモノは
1:ノート
2:ペン
コレだけだが、あると便利だぞ!
親愛なるマック
「マックって本当に凄いね……」
「なになに〜? どうしたの?」
メイヤーにも紙を見せると、嬉しそうに笑う。
「どこかから見ててくれてるのかもねー?」
「まだ入って1日も経って無いのにソレはないでしょ……」
書いてあったものを手鞄の中に入れて、部屋を出る。
教室に行くと、半分くらいの生徒が集まっていた。
「結構集まりましたね。時間もそろそろですし、案内を始めますか」
イカロフ先生に着いて学校内を見て周る。
広い部屋に入る。天井もかなり高い。
「ここは実験室、魔導クラスのみなさんが魔導術式をいくらでも練習できる部屋です」
壁を見ると、廊下とは少し違うように見えた。触るとブニブニとしており、予想外の感触に驚く。
「今、カタナさんが触っていましたが、みなさんも触ってください」
そう言われてみんなが触りだす。ブニブニとした感触にみんなが驚いているのを見てイカロフ先生は説明し出す。
「細かい原理は省きますが、幽玄鳥の皮膜で部屋全体の下地を作って、ソレらをネビュラスライムで化粧しているため、おおよそ全ての魔導を吸収して無効化する事ができます。みなさん一旦そちらに寄っていてください」
『燃やせ、炎の神よ』
何かを唱えると、構えた右手に火球が形成され、壁に向かって放たれた。先ほどの言葉通り、壁に当たると消えてしまった。
「かっこいー!」
「すげー!」
みんな興奮していたし、かくいう僕も興奮していた。魔導の事は散々調べていたけど、実際に見るのは初めてだった。
「どうやってやったのー!?」
「アレはなんていう魔導なのー!?」
みんなが先生のところに詰め寄って質問攻めにしていた。
「はい、魔導術式という起動に必要なモノを唱えて、神というか世界というか……まあとにかく魔導術式というものを皆さんが覚えれば行使できます。今のはレベル1、フレアという初級の攻撃魔法です」
イカロフ先生は一つ一つの質問に丁寧に答えていく。
生徒の中には手を構えて、んーと力んでみる子もいた。当然何も出なかったけど、僕もやりたいなあ。
ちょいちょいと肩を叩かれて振り向くと、エメリッヒが立っていた。
「やあ、カタナとメイヤーは魔導についてどれくらい知っているんだい?」
「私ー? う──ん……全然知らなーい」
「僕は結構知ってるよ! レベル2のファイアとかレベル3のグロウフレアとか!」
おー、とエメリッヒが拍手をする。
「エメリッヒはどんなの知ってるのー?」
「ふふふ……」
メイヤーの質問にエメリッヒは不敵に笑った。
「なんと! この僕は! レベル1の魔導を使えます!」
「ええ!? すごい! 何が使えるの!」
「レベル1の回復魔導ヒールだよ」
「凄い凄い! いっぱい勉強したんだね!」
驚いて詰め寄ると少し照れたのか、謙遜をし出した。
「家庭教師の人が凄い教えるのがうまい人でね。僕なんか全然だよ」
「ソレでも凄いよ!」
「ほう……ヒールですか。12歳で一つだけでも魔導が使えるというのは才能がありますね」
先生が感心したように頷いている。
「今はみなさんの中で魔導を使える人、使えない人、いるでしょう。ですが今の状態は関係ありません。いずれみなさんも基本的な魔導に関しては使えるようになってもらいます」
実験室の扉を開けて外に出ていく先生にみんながついていく。
「ただ見て周るのも飽きたでしょうし、この学校の伝説でも軽く教えましょうか」
学校に伝説とかあったんだ。とんでもない歴史のあるとこだとは聞いていたけど知らなかったな。
「この学校はアルバート騎士学院という名前なのはみなさん知ってると思いますが、初代学長の名前はアルバートではありません。アルバートというのは2代目学長の名前なんですね。そしてなんと、この騎士学院の初代学長は冒険者と呼ばれていたと言われています。これはちゃんとした文書が残っているため、冒険者というのが途轍もない歴史のある職業である証拠として挙げられています」
「はーい! 初代学長の名前はなんて言うんですか?」
「ソレは、コレから向かう図書館に答えがあります」
そしてイカロフ先生に案内され、図書館の扉を開けると──
「ひ、ひっろ──ーい!!」
「なんだこりゃ……」
先ほどの実験室が霞むほどの広い空間が広がっていた。
「ここは特別な場所でしてね。遺跡はみなさん知っているでしょうが、その遺跡の中に図書館を作成したんですね」
入り口から進むと、広間を見下ろす場所である事がわかる。階段が広間に向かって下っていたので、早速降りていく。
広間は六角形をしており、そこから外側に向かって本棚が配置されているようだ。
床にはフラクタルな幾何学模様が形成されていた。
どこまでも続く本棚には、見た事の無い本ばかりがある。
「何年も、何年もの間、魔導を使う者たちが研究してきた文献や、王国内で発行された図書がここには蓄積され続けています。初代学長の計画でそういう風に定められたらしいですね」
自慢げに説明するイカロフ先生は、全6方向を順々に指差していく。
「第一書廊はレベル1の魔導を修めた者が、第二書廊はレベル2の魔導を修めた者が、というようになっています」
「せんせーい、こっそり入れたりしないんですかー?」
「はい、仮に必要レベル未満のものしか修めていない者が入ろうとした場合、単純に言えば死ぬので無理です」
「ええ!? 嘘でしょ!?」
「無理です」
笑顔で説明する先生にドン引きしていると、大丈夫です、と付け加える。
「魔導を修めてから入れば良いだけですから。それに、この広間だけでもかなりの蔵書数を誇りますし、飽きる事は無いと思いますよ」
どうやら広間にある本は市井で刊行される娯楽本などが中心になっているようだ。
確かに入り口から見下ろした時、広間の大きさだけでも外から見た時の学校ぐらいあった気がする。
「それで初代学長? の名前はどこで分かるんですか?」
ニコリと笑うと6の数字を指さした。
「第六書廊、その最奥で分かりますよ」
そりゃ無いよ……