学校案内は図書館で解散となり、次の日、カタナとメイヤー、それと僕ことエメリッヒで図書館の広間を探索していた。
どうやら2人はこの国がどんな地形をしているかに興味があるらしい。将来騎士になるなら地政学に通じておくのは悪く無いと僕も思う。
僕? 僕は家にいる時にある程度学んだからね。とりあえず2人に付き添うことにしてる。
「へー……チプタってこんな形をしてるんだね」
「いつも端から端まで走り回ってだけど、全然知らなかったねー」
「へえー……チプタって結構デカいよな。見かけによらず2人とも体力あるんだな」
確かにチプタは村として運営されてるし、国の方でもチプタ村として認定されてはいるけど、その大きさは首都スチレスに準じている。
村っていうのが不釣り合いなぐらいの広さを誇る街を走り回ってたというんだから、元気なものだ。僕もそういう風に過ごしたかったなあ……
「いや、2人ともマックに担がれてただけだよ」
「うんうん」
「どういう事!?」
2人とも担がれてた!? マックってもしかして馬か何かなのか!?
「念の為聞きたいんだけどさ……マックって人間だよね?」
「たぶん?」
多分!? 人間じゃない可能性があるのか!?
「あははは、エメリッヒって良い反応するよね。僕はてっきり、もっとクールな性格なのかと思ってたよ」
「いやいや、僕も自身のこと冷静な人間だという自信はあるけどね? 君たちが嘘をついているとは感じ取れないし……」
「あー、お父さんが仕事でたまに行ってたスチレスってこんなところにあるんだー」
「君も君でマイペースだね!?」
それでなんで僕が直接反応するとカタナの後ろに隠れるんだ。
「メイヤーは人見知りなのか?」
「あー……うん、あんまり人と関わってこなかったから」
かくいう僕もメイヤーの事をあんまり言えないんだけどね、とカタナは照れ臭そうに言った。
「まあ、そこにどうこう言うつもりは……」
いや、あるな。騎士になるんなら人との関わり、それも癖の強い奴らと付き合うのは必至だろう。それに向けて、技術だけじゃなくて人間関係についても向上させる必要がある。
いや、癖が強いのはこの2人もだけど。
「……まあいいか」
まあまだ学院に入って一日だし、そのうち鍛えられるだろ。
「次はどこか気になる街はあったりしない?」
「うーん……こことか──―」
「ここは──―」
ある程度地図を見たら2人とも飽きたようで、人気な物語の本を読みに行った。当然のように2人は文字を読めるようで、カタナに関しては毎日新聞を読んでいたというんだから驚きだ。あれって結構なお値段するんじゃなかったっけ。
そして僕はというと、第一書廊の様子を見に来ていた。
とんでもなく広い広間を抜けて、階段を登るとソレが有る。僕以外にも第一書廊に来ている人がいたけど、その人たちはアッサリと階段を抜けて書廊に向かっていた。
しかし、僕が入ろうとすると、いつの間にか階段の方を向いて立っており、イカロフ先生の言っていた記憶を失うという意味が分かった。
何とかして入れないだろうかとウロウロしていると、チョイチョイと肩を指で叩かれる。
「君、何してるの?」
振り向くと、魔導クラスで見た覚えのない女の子がいた。
「いや、入ろうとしてるんだけど、先生の言った事を実感してた」
「アハハ、最初はやっぱ気になるよねえ」
「うん、僕はエメリッヒ、君は?」
「私はアイリスだよ、二年生!」
指を2本立てて二カッと元気よく笑う女の子はアイリスと言うらしい。
「そうなんだね、それじゃ僕は忙しいから……」
「あ、うん……っていやいや、まだ続けるの?」
「当たり前じゃないか、もしかしたら100回やったら通れるかもしれないし」
「いや〜、流石に無いんじゃないかなあ……」
「あ、そうだ! アイリスは第一書廊に用があるの?」
「え、そうだけど……」
「僕が入った後、どんな行動をするか観察してほしいんだけど」
「そんなの見るまでも無いわ。書棚まで辿り着かずに、後ろに引き返して終わりよ」
「なるほど、先人も同じ事をやって来たんだね?」
「そういう事、ちなみに私があなたを引きずって書棚の所まで連れて行こうとしたら、私も記憶を失って2人揃って階段の方を向く間抜けな絵面になるだけよ」
「う──ん……じゃあ、例えば一度死んで、書廊の中で蘇生したら入れるのかな」
アイリスはゲェッという顔をした。少し後退りまでしている。
「イカれてるの?」
「いやいや、うちの家訓は『死んでも試せ』だからね」
「とんでもない一家ね……」
どうやら良くない印象を与えてしまったみたいだ。
まあレベル1の魔導を修めるまでは我慢するしかないのかな?
「時間をとって悪いね、レディ、僕はお暇するよ。今度、僕の友達と一緒にお茶でも楽しもう」
「お、お茶? よく分からないけど楽しみにしとくわ」
それじゃ、と手を振って階段を降りる。
メイヤーとカタナはどこかなーと探していると、カタナを見つける。何やら読み耽っている様で、コッソリ覗き込むと流行りの恋愛小説を読んでいるようだった。
「やあ」
話しかけるとババッと上半身で覆い隠すようにして見えなくされてしまった。
「ど、どどどこいってたの!?」
「いやあ、ちょっとした実験だよ」
「そ、そうなんだ……」
「君は何を読んでいたんだい?」
「え? な、何だろうなあ……」
「まあ、何でも良いよね。借りていくなら、あそこの司書さんのところで借りれるらしいよ。僕はメイヤーを探してくるから、カタナは先に受付をしておけば?」
「そ、そうするね……あはは、じゃ、じゃあ行ってるね!」
スタタとこちらに表紙が見えないように本を持って行ってしまった。さて、メイヤーはどこにいるかな?
──────
メイヤーはどこにいるのかなあ!?
いや、学院の広さと同じ広間の時点で、カタナが見つかったのが奇跡だったんだけどさ! いねえ! いねえよあの子!
「メイヤー! どこだあ!」
「な、何……?」
「ええええ!? いたああ!!」
凄え……音声認識だ!!
……音声認識ってなんだ? まあ良いや、メイヤーも何か本を抱えているようだし、何を持っているか聞いてみよう。
「私? コ、コレはねえ、遺跡の図鑑だよ。探索者達が遺跡で描いてきた絵が描いてあるゅんだってさー』
「なるほど、遺跡か……前から興味があったの?」
「そうだよー」
まあ、学院を出た後に騎士にならずに探索者になるという道も一応無いわけではないか? それこそチプタ出身の『明け星』のジンなんかはこの学院にいたらしいし。
「それは借りていくのかな?」
「う、うん……部屋でゆっくり読みたい、から……」
「じゃああっちに司書さんがいるから一緒に行こうか」
僕の数歩後ろをトテトテとついてくるメイヤーは、やはり受け答えからしても人見知りのきらいがあるようだ。
それにしても探索者かあ……探索者になりたいなんて言ったら、うちの親はなんて言うかな……
『名誉あるケーン一家の長子が探索者だとお!? 許さんぞエメリッヒィ!』
うん、父さんならこう言うだろうな。
『あらあら、良いじゃないですか貴方。一級になれるなら』
うん、母さんはさりげなくプレッシャーをかけて来そうだな。
『あらエメリッヒ! 探索者になるの? 良いじゃない! 私は応援するわ!』
従姉妹のライザ姉さんならこう言ってくれるだろう。やっぱ従姉妹って最高だわ!
もし僕が探索者になりたくなったらライザ姉さんに相談しよう。ついでに結婚しよう。
それにしても、こんだけ広いのに、僕たち学生だけが利用するのって勿体なく無いのかな? 実は学生じゃない人でも入れたりするのかもしれないな。
「メイヤー、エメリッヒ、結構戻ってくるの遅かったね? 何かあったの?」
司書さんのいるカウンター付近まで戻ってくると、小走りでカタナが近づいて来た。
「結構広いからね、メイヤーを探すのに手間取っちゃったよ」
「うん、私も少し迷ってたところだったから、助かったよー」
メイヤーは図鑑を司書さんに渡して、記録紋を転写してもらう。
司書さんの説明によると、この紋章が学校外に許可無く出た時に転移が発動するらしい。
多分すごい高度なんだろうな……
──────
「じゃあねー」
「また明日、教室でね!」
「うん、また」
結局、メイヤーは一度も目を合わせてくれなかったな。
それにしても、また明日……か。
ここに来るまでは貴族として相応の振る舞いを求められていたから、同年代の気兼ね無い相手なんていなかった。同年代がいたとしてもどちらの家格が上だのセンスが上だの、どうでもいいことばかり気にしなきゃいけなかったからな。
友達って、良いな。
無理を言ってこの学院に入れてもらって良かった。
さて、大浴場で体をサッパリさせたら明日の準備をして寝るか。