「あ、きたきた」
「あの人だよね、このあいだの……」
「うん、私見たもん、門の前で待ち合わせてたの」
「街の中でもめっちゃエスコートしてたよ」
先日はなかなか楽しかったな、また近いうちにお茶に行く約束もしたし気分が良いぞ。今度はカタナ達も連れていくのも良いかもしれない。
そんなことを考えながら何気なく窓の外を覗くと庭師が造園作業に勤しんでいるのが見えた。生垣の伸びた部分を高枝鋏で切って成形に整えていく。自分に家にも専属の庭師がいたことを思い出し、それと比較してみる。
なんかこっちの方がやけに早い気がするな……かなりの凄腕の庭師らしい。今度、実家の庭の手入れをしてもらえないか聞いてみよう。
いつも通り教室に向かっているのに、今日はなんか見られている気がするな……まさか、僕のこの友達欲しいオーラがみんなにも見えているのか?そ、それじゃあもしかしてこの後、みんなが僕の友達になろうと話しかけてくるって、コト!?
緊張と興奮で全身が熱くなるのを感じる!
「うわ、なんかいきなり全身から湯気が出始めた……」
「ほんとだ……やっぱどこかおかしい人なんだね……」
みんながザワザワし始めた!ま、間違いない!みんな僕に注目している!
故郷では遠目にヒソヒソ言われるのがデフォルトみたいなところあったのに、こんなに近くで僕の話をしている人たちがいる!
ウキウキワクワクと歩いていると、水を差すように後ろから忙しない足音が近づいてきた。
振り返ると当然だがメイヤーとカタナだった。
「エメリッヒ、君の噂でもちきりだよ」
「……誰か見てた人から噂が広まったみたいだね」
「?」
何のことかと思ったけど、多分先日の「お茶」の話をしているんだなと思い当たる。
「あの日の朝は確かに目立つ格好してたからね。でもすぐに普通の服に切り替えたはずだけどな」
「いや、服の話じゃないよ……まあ、服の話も少しはあるけど」
どうやら予想が外れたらしい、そうなると何の話か分からないなあ。一応お茶の日の話であるのは間違いないっぽいけど、アイリスと過ごしていてなんかあったっけ……
「僕たちもその日は少し欲しいものがあったから学園の外に出てたんだけど……」
「ノートとか買い足したりねー?」
2人も昨日は出かけていたらしい。それならどこかですれ違った可能性もあるのかな?
「それで?」
「うん、例のアイリス先輩だっけ?その人とデートしてたでしょ?見てた人が大勢いたからソレの事で寮内朝からもちきりだよ」
「確かにデートはしてたけど、そんな目立ってた?」
「目立つなんてもんじゃなかったでしょ……水路沿いにあんな用意して陣取っておいて。しかもなんか動きのうるさい奴がいるって結構見られてたらしいよ」
「あー……」
友達と出かけた事無かったから分からなかったけど、ああいうのってやらないのか?
「ていうか、いつの間にかアイリス先輩と付き合ったの?」
「え?フフッ何言ってんの?」
「何笑ってんだこいつ……」
「友達に決まってんじゃん。一回デートに行ったくらいじゃ流石にさあ……君たちそういう時期なのは分かるけどちょっと早計だよねえ」
「……カタナ、エメリッヒってマックの同類なんじゃない?」
「そうかも……」
ヒソヒソと僕に聞こえない声量で何か話している2人の視線の感じから、悪口を言っている空気が伝わってくる。なんか地元の事を思い出して嫌な気分になったな、話題を変えよう。
「そういえば、今度の長期休暇では2人は何か予定はあるのかい?」
「え?……わたしは何も無いかなー、一旦実家には帰るけど」
「僕も特にって感じだね、エメリッヒは?」
まあ2人は地元で通ってるからね、実家に帰るのも大した時間はかからないしこんな感じなんだな。
……つまり、2人は暇という事じゃな?
「僕も実家に帰るつもりさ、そこで提案があるんだけど」
「「?」」
友達を誘うということでドキドキしながら2人にあることを提案する。
「僕の家に来ないかい?」
「……はあ」
「……バカなの?」
「あれえ!?」
なんか、バカを見るような目で見られてる!?おかしいな、結構仲良くなったような気がしてたのに……しかも、かなり心に来たぞ……あれ、僕ってもしかして結構メンタル脆いのか?
「あのさあ……ついこの間に女の子とデートしたのに、その噂も無くならないうちに別の女の子を自分の家に誘おうとするとか最低のクズだよ……」
カタナの言葉、鋭すぎないか?最低のクズって……そうなのか……?僕ってクズなの……?僕はこの街に来て結構楽しんでるから、2人も故郷じゃないところに行けば楽しめるんじゃないかと思って誘ったのに……
「せめて、アイリス先輩だけ誘うとかさー」
「あれ?っていうかこの前アイリス先輩が恨めしそうに見てたのって……」
「うわー……マックも大概だけど、エメリッヒ、デート以来アイリス先輩と話したりした?」
メイヤーの質問に対して記憶を掘り起こす。
「ええ?……いや、してない、かも……そんな問題、あった……?」
「もう終わりだよコレ……」
終わり!?終わりって何!?もしかしてなんかやらかしてるのか!?
「今の聴いた?とんでもないね……」
「わたしは気付いてたよ、彼がとんでもないやつだってことにさ」
「アイリスちゃんかわいそう、あんなクズに騙されて……」
グサグサと言葉の槍が廊下のあちこちから僕に向けて飛んでくる。ついでに視線も体を貫いて穴を開けそうなほど敵対的だ……難しいな、人間関係って……いや、難しいの自体は分かってたか。
「ま、まあ、とりあえず教室に向かおうか」
「そもそもエメリッヒって男の子の友達いるの?」
「え?…………え?」
「え、本当にいないの?」
…………
――――――
エメリッヒがフリーズした少し後、廊下をどしどしと歩く者がいた。鼻息荒く、なんて言うとおお怖い、乙女にこんな言葉を使うのは失礼だったかな。ともかく肩を怒らせながら歩くその姿に、すれ違う人間は少々の恐怖を抱くほどだ。
本当にムカつく!何なんだあいつ!デートではあんなに私のこと気にしてるみたいな雰囲気だったのに!
全然図書館に来ないから顔も見れないし、折角見かけたから話しかけようと思って近付いたら、いつもつるんでるメイヤーさんとカタナさんを実家に連れてこうとしてた!
別に意識して欲しいとか、付き合ってもないのにそんな事思ってないけどさ!………いや思ってるよ!あんな思わせぶりな事しといて、デリカシーとか無いの!?
ムカムカが頂点に達してその場にしゃがみ込む。
……あの時は『このままいけば恋人に〜』とか言われて、こんなのってある……?
私ってそんな魅力無いのかな……それか、結局のところデートがエメリッヒにとっては楽しく無かったとか……?
デート以来、メイヤーさんとカタナさんを連れてきた時を除いてエメリッヒは図書館に来ないし……
こんな事ならもっと色々準備しとくんだったかなあ……
うじうじと思考は巡れど何の解決策も湧いてこず、ムカムカとした感情だけが残っていた。
諦めて立ち上がり、本日最初の講義に向かうために歩みを進める。
――――――
「――はい、というわけで魔導というのは大気中に漂う魔力に対して、意図的に歪めた祈祷、要は魔導術式の詠唱を行う事で連鎖的、副次的に現象を発動させるモノである、ということがみなさん理解できました?…………大丈夫そう、ですかね、それじゃあ復習も兼ねて論述式の小テストをやるので解いてください」
講義の最後に行われる小テストの問に対して答えを書き込んでいく。講義の写しは取っていたけど、正直あんまり集中して講義を聞けていなかったので、答えられないところが多々ある。
まあ、朝のアレが尾を引いてるんだけど……
ため息が口から漏れる。この学院に入ってこんなに心が乱れてるのは初めてだな……
結局、満足に回答することができないまま講義を終えて
図書館に来てしまった。前はそこまで高い頻度で来るわけじゃなかったのに、最近はもう『アイツ』のせいで抗議が終わったら来ることが習慣になってしまった。
あんな浮気者の事だ、どうせもう図書館には来ないんだろうな……そんな風に思いつつも何故かいつもの席に座ってしまった。3人席のうち1席を自らが座る席に寄せて荷物を置き、中を漁る。
ノートを机の上に広げて先の講義の内容を復習する。
「えーと、祈祷の起源は………えー……」
予想通り全然集中できない。コレはダメだと早々に諦めて、そこら辺の書架から面白そうなタイトルを探す。恋愛モノ、史書、新聞、多様な種類の本の中から興味を惹かれる物がないか視線をあちこち向けるけど、今のテンションで読みたいと思えるようなものが無い。仕方がないので目を瞑って適当に引っこ抜くと、恋愛小説の一巻だった。
「なんだかなあ……」
ぼやきつつも、他に読みたいものもないので取り敢えず持って自分の席に向けて歩く。本を持った手をだらんとぶら下げたまま書架の角を曲がると、3席のうちの残りの1席に人が座っていた。
「よっ」
指を2本立てて自信に満ちた顔で笑い、いつものようにエメリッヒがそこにいた。
「…………はあ」
「なんでため息付いたんだ、失礼だな」
なんか、気を張っても無駄なんじゃないかって気がしてきた……いつも通り勉強しようかな。
「私勉強するから。ほら、あんたもさっさと教本出しなさいよ」
「ああ、えーと……」
「なに?」
「なんでちょっと険があるんだよ……」
「は?全然そんなことないから」
「ま、まあいいんだけど、その……」
いつもと違ってハッキリしないその姿にムカつきが深まり、少し問い詰める。
「なんなの?こっちばっか振り回して」
「あ〜その件に関しては大変申し訳なく……」
「何が?」
「いやいや、そうじゃないんだ。そんな事を言いに来たんじゃない」
「なんか用があるならハッキリしてよ」
「すーーっ……あれ、っかしいな、あいつら誘う時はあんなすんなり言えたのに……」
「……」
正直、何を言おうとしているのか大体分かったけど、それを自分から言うのも癪だし様子を眺めていると覚悟が決まったのか、強い眼差しに切り替わった。
「今度の長期休みなんだけどさ……うちに来ないか?」
真顔で喋っているけど耳が赤くなっていてちょっと可愛いな、なんて思って見ていると居心地悪そうに顔がモニョモニョし始めた。
「なんか言ってくれると助かるんだけどな……」
それでも見ていたら、少し残念そうにため息をついた。
何だろうと思うとエメリッヒは立ち上がってしまった。
「そうか……邪魔したな」
「ち、ちがうちがう!行くよ!行く行く!」
「え?本当!?良かったぁ……てっきりフラれたかと思ったよ!」
「ご、ごめん……ちょっと顔見てて反応忘れちゃった」
「そういうことなら良いんだ」
さっきまでのオドオドした感じはどうしたのか、私の腰に手を当てて席に押し戻らせる。隣の席に座っていつもの余裕そうな表情を浮かべた。
「本当はメイヤー達も誘おうとしたんだけどさ――ぶぐぁぁ!」
ばか!