最近なんだか物騒らしいけど、そんな事は関係無かった。
日がジリジリと照り付け、水路には多くの魚が泳ぎ、冒険者はいつにも増して活発にギルドを訪れていた。
「大鮑の収穫手伝い、これだな!」
「アマネナツドリ20匹か……いや、ファントムの討伐……うーん」
「ロードトーチャーに関する生態調査の依頼、『氷竜』の活発化に伴い発生した洞窟の調査、デロムニアの捕獲……どうしよっかな〜」
モンスターが最も活発に動き回る時期が来ていた。なぜこんな暑くて外に出るのが嫌になる時期にモンスターは元気になるのか、詳しいことは解明されていない。
空に浮かんでいる太陽から力を吸収しているとかなんとか教本に載っていた。
長期休みだったので私とカタナは学園から出てきていた。
とは言ってもどこかへ出かけたりみたいなのは無くてチプタのギルドでダラダラしていた。
どこか行こうかなあ、なんて少しは考えたりしていたんだけどお父さんに猛反対されて無かったことになった。
「それにしてもギルドは涼しくて良いねえ」
「ね〜、外で遊ぶ気にならないや」
二人して椅子にもたれかかり、ジュースを飲みながら他愛ない事を話して過ごす。
「おいベッキー、お前受付だろ。あの二人何とかしろよ、邪魔だよ」
「無理ですよ……ギルド長の娘さんとその友達なんですよ? 下手なことしたら私のクビが飛ぶじゃないですか……というか受付の仕事じゃ無いでしょそれ」
「ただでさえ人が多いのにあんなガキどもに席占領されてたらたまったもんじゃねーぞ……ガキは外で遊んでろよ」
冒険者、あるいは探索者でも無い二人がギルドの酒場にあるテーブルを一つ占領してしまっているので、当然そんな事も言われる。
しかし二人ともそれを聞きつつ知らぬ存ぜぬでその場を占領し続けている。学園で色々な交流を経て嫌な図太さを身につけてしまっていたのだった。
そんな様子を見ていたベテラン冒険者のランゴとジェット、そのうちのジェットは世も末だとばかりに溜息をつく。カウンター席で水を呷る二人はどちらも三級冒険者として名を連ねる実力者だ。長く活動をしており、昔からチプタにいたからこそカタナとメイヤーの様子を嘆いていた。
「前はマックに連れられて二人とも活発に外で遊んでいたのになあ……」
「あの規格外に引っ張られていただけだったってこったよ。それよりマックのやつは最近全然見ねえけどどうしたんだ?」
「なんでも二人が学院に入るってんで自分は将来のために別の道に行ったらしい。アイツならどこでもやってけるだろうが勿体ねえなあ。冒険者としても探索者としても一流になれたのに」
「なんつっても『明け星』が唯一定期的に探索に連れて行ってたんだからな。まあそのせいで他の奴らに避けられてたのに気付いてなかったのは笑えたけど」
「そうなの?」
「うおっ……何だガキ、あっちでジュース飲んでろ」
「マックの話してたでしょ」
いつのまにか二人の近くに来ていたカタナに気付かなかったジェットは、しっしっと犬を追い払うようにカタナを邪険に扱うが全く意に介さない。
「僕、マックの冒険のこととか色々聞きたいな」
「はあ? 俺が知りてえよむしろ……どうやったらいきなり一級探索者のトップからスカウトもらえんだよ。俺も一級冒険者と一緒にやってみてえよ」
「何で知らないの?」
「何だこいつ……そもそも俺は冒険者でアイツは探索者だろ。畑がちげえんだよ畑が」
「ふーん……マックって避けられてたの?」
カタナは先程の発言で1番気になっていた部分を質問する。あんなに明るくて、人を引っ張る力に長けたマックが避けられていたなんて正直信じられなかった。
「嫌われてたわけじゃねえが……いや、人によっちゃ嫌ってただろうがな。それこそ妬み嫉みなんてのはありふれた話だ。俺は冒険者だが、それでも羨ましくはあるしな、同業者なら言わずもがなだ」
「そうなんだ……」
ジェットはめんどくさそうにしながらも、カタナの相手をしていた。チビチビと水を口に含み、聞かれた事に対して答えていく。ランゴは興味なさげに自らの武器を弄っている。
そのうちメイヤーもやってきて座談会のようになった。
「お父さんっていつも何してるの?」
「いや知らねえよ……ギルド長なんだからふんぞり返って酒でも飲んでんじゃねえの? ていうか家族なんだから聞けよ」
「おじさん、僕もう少しジュース飲みたい」
「何なんだこいつら……おーい、ジュース二杯頼むわ」
カウンターに置かれたのは先程二人が飲んでいたのよりも上等なものだ。
「これおいしいね、メイヤー」
「うん……高いのかな」
少し不安そうな顔をするメイヤーにジェットが気にするなと手を振る。
「腐っても3級冒険者の稼ぎ舐めんなよ、こちとらお前らの目指す騎士様よりよっぽど高級取りだぜ」
「あー……だからマックってあんなカード持ってたんだ」
得心が言ったとばかりにカタナが頷く。
「カード? ああ、異物のやつか。あれクッソ高いらしいけどやっぱ持ってるんだなマックのやつは」
「異物?」
「お前、異物知らねえのか?」
「知ってるよ、でも異物のカードってそんな買い物で使えるものなの?」
「詳しい事は知らねえが、大量にそういうのが出てくる遺跡があるんだとよ。大量っても一般人が持てるほどでは無いらしいな」
「ほえー……お父さんも持ってるのかなあ」
メイヤーは自身の父親の事を思い返す。
買い物の時にそんなもの持っていただろうか、正直あんまり覚えていない。というか私は買い物の途中でマックに引っ張っていかれて、最後まで一緒にいることの方が少なかった気がする。
「最大ギルドのトップが持ってないわけないだろ」
「お父さんに今度聞いてみよー」
「僕はマックのを使った時以外見た事無いなあ」
「お前人のカード使って買い物したのかよ……ていうかアイツは何してんだ」
「なんか入学祝いって言ってたよ」
「はあ……それがどれだけ凄い事か分かってねえんだろうなあ……」
少し影を背負ったように見えるジェットは水を一気飲みしてジョッキを机に乱暴に置いて立ち上がる。
「ちょっと! 壊さないでよ!?」
ベッキーがそれを見て怒るが無視、一枚の依頼紙を持って近づいて行く。
「こいつを受ける」
「聞いてるんですか!? 丁寧に扱ってください!」
「わかったわかった。マウンテンドラゴンの討伐一体を引き受けまーす」
「全く……はい、これが依頼書です。無くさないでくださいよ」
「ういー」
マウンテンドラゴンとはその名の通り山に生息する亜竜種だ。ドラゴンとついているから勘違いするルーキーがいるが、伝説上のドラゴンとは全く関係ない。
しかし3級のジェットが受けていることから分かる通り、決して駆け出しの冒険者が相手取れるモンスターでは無い。
土の精霊の眷属であり、自在に周囲の大地を操って質量による攻撃を仕掛けてくる。
長寿のモンスターであり、育った個体は山をも動かす。鳴動崩山と呼ばれる事象を引き起こし、一級モンスター相当の扱いがされるコトもあり、育つ前に討伐しなければ大きな災害となりうるのだ。
武器を弄っていたランゴの背中をバチンと叩くと声をかける。
「おらいくぞ、今回はてめえにもついてきてもらうからな」
「……はあ、行くか」
面倒くさげに立ち上がったランゴはカタナとメイヤーの二人を虚な目で見やる。当然そんな眼で見られた二人は怯むわけだが、ランゴはポツリと告げる。
「あの化け物が守っていたのがコレとかよく分からんな」
心底理解できないと放たれたその発言は酒場の空気を凍り付かせた。さっきまでカタナ達の相手をしていたジェットはそれを咎める事をせず、そんな空気を無視して酒場を出ていった。中にいた冒険者達は顔を引き攣らせながらお互いの顔をチラッと見たり、我関せずと下を向いたりしており、少しして再び空気が動き始めた。
──────
「何だよアイツ! 避けてるって話ならともかくマックの事化け物なんて呼んで! 失礼しちゃうよね!」
「うん……」
「聞いてるの!?」
「き、聞いてるよお……でも……私たちの知らないマックの事だから、本当にそうなのかもって……」
「メイヤー!」
「うひっ!」
「僕たちが知ってたかどうかなんて関係無いよ! マックを悪く言うやつなんて……そんなの……許せないの!」
メイヤーはカタナのその激烈な様子に驚いていた。これまでの日々を過ごす中でマックに振り回されてきたけど、なんだかんだ落ち着いていたカタナにこんな一面があった事に、今更ながらにメイヤーは気付いていた。
「そ、そっか……」
「そうなの!」
でも、激しい感情を表すのに慣れているわけでは無いのか若干語尾が怪しくなっていた。
普段のカタナは、なの! なんて語尾につけたりしない。
「お、落ち着いてカタナ……声大きいから……」
「メイヤーは何とも思わないの!?」
「いや、だから私たちの知らないマックがいても不思議じゃ……」
「むぅ!」
むきーっ! と怒るカタナをどうどうと宥めながら、メイヤーは心中でマックに語り掛けていた。
マック、君がいなくなってから私たちは、知らない事や知ろうともしなかった事に出会ってばかりです。君が私達から離れたのってこのためだったりして。
時折出てくるアドバイスの紙はとても役に立っていますし、一枚一枚丁寧に保管しています。
あと、カタナが全然物静かじゃなくて驚いてます。もっと落ち着いてると思ってたんだけど、君と二人の時はこんな感じだったのかな?
会えない事はとても寂しいですが、どんな時でも君が見守ってくれているような気がします──本当に見てたりして、なんちゃって。
だから、次に会う時は君を驚かせられるように、目一杯成長した姿を魅せようと思います。楽しみにしててください。
「いや、なんでカタナがあんなに騒いでんの!? ベッキーはなんで止めないの!?」
「あ、お父さん」
結局騒ぎを聞き付けたレクスが出てきて、カタナにゲンコツをお見舞いして外に放り出した事で場は収まったのであった。