そんなに都会が良いのか!?   作:goldMg

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【悲報】世界、治安悪い

 道中、いきなり頭がおかしくなってしまったのでどうなるかと思ったけど、その後は特にトラブルも無く馬車旅は王都スチレスの近くまで来ることが出来た。

 

「うわあ……こんな所からも王城が見えるのね」

 

「そういやアイリスはスチレスに来たことないんだっけ?」

 

「うん、ずっと地元にいた」

 

「じゃあ明日は色々見て回ろっか」

 

「ありがと」

 

 王都前に広がる平野からは街区の中心に聳える王城が威容を垣間見せる。

 スチレスに来た旅行者はまずこの光景を見てアドラント王国の国力の大きさを思い知らされるわけだ。

 

「あの靄みたいなやつがスチレスを守ってるっていうバリアかあ」

 

 そして次に気付くのはスチレスを丸ごと取り囲むバリア。王城を中心に展開しており、国の要を守る為にあれで邪悪な輩を検知、排除しているらしい。

 モンスター避けの役割もあり、噂によれば王城に巨大なマナクリスタルを用いた設置式魔導陣を組んでおり、そこから恒常的にバリアを発生させているとか。

 

 ちなみにチプタにはそんなものない。

 敵が来たら殴ってわからせるのがスタイルだ。

 とまあ、国内でも村や街によって外敵からの防御策は異なっている。

 遺跡の寡多によってその町が持つ戦力が露骨に変わるのが関係しているだろう。

 

「止まれ、中を検めさせてもらうぞ」

 

「どうぞー」

 

 スチレスの門前で馬車を停められた。基本的には通行証さえ掲げていれば問題なく素通りできるはずだけど、近頃は物騒だ、なんて話も聞くし警備レベルを上げているんだろうな。

 幌を上げて中を覗いた門番と目が合う。

 

「あ、どうも」

 

「あ、これはどうも……問題は無いな、うん、はい、行っていいぞ!」

 

「はいよー」

 

 合図とともにノロノロと馬車が動き出す。

 門を通り過ぎるとスチレスの見慣れた街並みが広がっていた。

 まあ半年ちょっとでそうそう変わるわけ無いよね。

 間も無く厩舎に到着し、ジュラが顔を覗かせる。

 

「とうちゃくぅ〜長旅お疲れ〜」

 

「いやいや、こちらこそお世話になりました。いつもこれぐらい旅が快適なら良いんですけど」

 

 僕も結構金持ちの家に生まれたから、馬車とか竜車とか乗ったりしたけどこんなに道程が素晴らしい旅は初めてだった。

 

「ははは、それは良かったよ。またのご利用をお待ちしております、ってね」

 

 お茶目にウィンクを寄越したジュラは踵を返すと馬をゆったりと厩舎の中に連れて行く。

 さて、僕達も目的の場所に行かなくちゃな。

 

「アイリスこっちの方だよ、行こうか」

 

「ええ、案内頼んだわよ?」

 

「逸れないようにしなきゃね」

 

 以前のお茶会の時のように手を繋いで二人は歩き出した。

 

 

 ──────

 

 

 厩舎に馬を留め置いた後、ジュラは宿に来ていた。

 外壁は汚れのない白の石材を用い、エントランスの床は数え切れないほどの材料を用いて幾何学模様に装飾されている。

 黄金に輝く内壁は貧乏人が訪れるのを躊躇するほどの圧力を感じさせ、マナクリスタルを削り出して作られた照明は優しい光でもって空間を照らし出していた。

 王都スチレスで最も高級な宿と称される『六花』がジュラの宿である。

 入り口を抜けたジュラの元にすぐさま宿の支配人が近付いて来る。

 

「ジュラ様、ようこそおいでくださいました」

 

「ああ、相変わらず成金趣味だな」

 

「ははは、ご容赦を……それにしても、申し付けてくださればチプタ村だろうがどこだろうが、私共が迎えにあがりましたのに」

 

「黙れ」

 

 物理的な圧力が支配人を跪かせた。

 何が気に障ったのか支配人は思考を回転させるが、圧力によって思考が途切れ途切れになってしまう。

 

「も、申し訳、ございません……」

 

「俺の趣味に口を挟むな」

 

 圧力が消える。

 支配人は目の前の超人の寛大な対応に感謝した。わざわざ何が駄目だったのかを教えてくれたのだ。

 ジュラは支配人に荷物を預けて自室に向かった。

 

「恐ろしいお方だ……」

 

 当然聴こえているだろうが、口に出さずにはいられなかった。

 

 部屋に着いたジュラは冷蔵庫を開け、まずは水を呑む。

 どっかとソファにもたれ掛かると天井を見上げ、何事かを思案した。

 そして一息ついたのち、衣装棚を押し開ける。

 分厚い肉体をギチギチに押し込めていた薄いシャツとズボンから、キナガシという服装に着替える。これは『堕ちた黄金郷』という遺跡で手に入る異物の一つであり、ジュラは好んで着ていた。

 上下一つなぎでゆったりとした着心地が特徴的な衣服だ。

 隠れているつもりの気配に向かって声を掛ける。

 

「ヤツに伝えて来い、ジュラが到着したとな」

 

 気配は音も無くその場からかき消えた。

 

「時間停止ボタンの強奪、『明け星』の失踪、モンスターの異常活性、まったくワーグめ……相変わらずサバット以外に興味が無いな」

 

 ジュラはサバットの市長、ワーグの腰の重さに悪態をつく。

 

「せっかく『あんな便利な物』を持っているのだからさっさと動いてくれれば良いものを、おかげで俺はとばっちりだ全く」

 

 短く切り揃えられた白と黒の混ざった髪を撫で付けるともう一杯水を呑む。

 

「はあ……やつの淹れたコーヒーが飲みたいな」

 

 ワーグは今この時も家にふんぞり返ってコーヒーを飲んでいるのだろうなと恨めしく思うが、無いものねだりをしても虚しいだけだと思考を切り替え、懐から四つのナイフを取り出す。

 

「単純に整理しよう。武力で解決出来るとして、俺が介入するのはフェアなのか? …………時間停止ボタンに関しては超越者たるゴルディウスが引き起こしている。既に只人の関与できる範囲を超えている以上、俺やアイツら以外では対処出来ないだろう」

 

 投げられた一本目のナイフが壁に突き立つ。

 

「では『明け星』に関してはどうだ。ヤツが自由行動なのはいつものことだ、それに関して俺がどうこういう資格も義理もない。だが、くっついているガキ……ガキ? ……アレはガキでは無い、どちらかというとアイツに近い存在だ。今度は俺の対処できる範囲を超えてしまう故に関わるのは不適切だ」

 

 二本目のナイフが隣に突き刺さる。

 

「モンスターの異常活性、これは複雑だ。過去こんな事象は一度しか無かった、あの時に照らし合わせるなら、いずれ俺が出張る場面というのが必ず発生する。俺から動きを見せるのは場を混乱させかねないから悪手だな」

 

 三本目のナイフはどういったカラクリか、先に刺さったナイフを二本丸ごと切り裂いた。

 最後のナイフを手の中で滑らせ、クルクルと回す。

 

「面倒だな……結局のところ、これら全ての事象は相互に関係した事柄である可能性が高い。一つ一つに対処していては他が独り歩きしてしまうだろう」

 

 最後のナイフを握り締めるとベキベキと異音が部屋中に撒き散らされ、開いた拳の中には粉々に粉砕されたナイフの残骸があった。

 

「一点の曇りすら無く、世界が歪み始めている事は明らかだ……なあ?」

 

「──陛下がお待ちです」

 

 妙齢の女の声がジュラの耳に届く。

 王国お抱えの隠密の一人たる彼女はジュラの熱量に圧倒されながらも、それをおくびにも出さずにそこに佇んでいた。

 それを鼻で笑い、椅子に先程よりも深く身体を沈み込ませる。

 

「まあそう焦るな、一刻過ぎようが過ぎまいが大局的な変化は起きまい。それなら美人に一杯酒でも注いでもらってから向かった方が、癇癪を起こした誰かさんが国王を縊り殺すなんて事になる可能性も低くなるだろう」

 

「…………」

 

 彼女は崇敬する国王に対して無礼どころでは無い物言いをする目の前の男に殺意を抱いたが、背後から肩を優しく抑えられて脂汗が止まらなくなる。

 瞬きすらしていないというのに、隠密術を極めた自分の視線を掻い潜って背後をとられたのだ。

 ジュラは優しく諭す。

 

「君に今出来ることは、私に対して酒を注ぐ行為だけだという事は十二分に理解できたかな?」

 

 コクコクと頷くことしかできない彼女を、自らが先ほど座っていた椅子の隣の椅子に座らせる。

 

 ジュラはグラスを手に持ち、酌を楽しんでいた。

 

「酒の質はまずまずだが、やはりこの状況というものが俺は好きだ。お前も光栄に思うがいい、今後二度と、こんな機会は訪れないのかもしれないのだからな」

 

 ふざけるな、そう心中で思いながらも口に出すことが許されない自らの弱さに腹が立つ。

 

「近い未来、俺は否応無しに英雄になる。その時に身近な友人にでも自慢するんだな」

 

 こんな妄言を吐くような大馬鹿者だが己が敵わない実力者である事には変わりない。とはいえ超越者でもあるまいし、多少強い程度で英雄などという大それたものになれるはずが無い。彼女の目にはいっそ滑稽にすら映っていた。

 

 

 ──────

 

 

「ふう……ここが僕の生家だよ」

 

「……大きいわね」

 

 荷物をえっちらおっちら運んで辿り着いたのは中心部の貴族宅が集合する地域から少しだけ外縁側によった高級住宅街。

 

「腐ってもアルケイン家の分家って事さ」

 

「御坊ちゃま、お待ちしておりました。御学友……もご一緒ですね」

 

 老紳士がエメリッヒに向かって一礼し、アイリスをチラッと見て後ろ手に何事かしている。

 

「あ、アイリスって言い、申します。いつもお世話になってます……」

 

 にこやかに微笑んだ老紳士はエメリッヒとアイリスを見て、何かを察した様子だ。

 

「どうやらいつも御坊ちゃまがお世話になっているようで。この老体では着いて行くことも叶いませんから、ありがとうございます」

 

 道に置いた荷物をメイドたちが一つ一つ持っていき、手ぶらになった二人は老紳士に促されるままに邸内に入る。

 

「ちょっと……! 私こんな豪邸来るの初めて何だけど?」

 

「いや初めては何だって同じなんだからいつ来ようが一緒じゃん」

 

「せめて説明とかあるじゃない……!」

 

 ヒソヒソとエメリッヒに抗議するアイリスに対して老紳士は再び優しく話しかける。

 

「そんな硬くされないでください。精々無礼を働けば旦那様から懲罰があるかも、といった程度です」

 

「ひっ……」

 

「ちょっと爺や、何だよその面白くも無い冗談。見ろよ、アイリス震え上がってるじゃん。そういうノリは外に出しちゃダメだってあれ程……」

 

「おっと失礼」

 

「アイリスー? 大丈夫だからなー? 怖くないよー?」

 

「金持ち怖い……」

 

 エメリッヒはアイリスの頭を撫で撫でしてあやす。そんなエメリッヒにヒシッと抱き付くアイリス。

 老紳士は温かい眼差しを向けていた。

 

「只今はお仕事の関係で出掛けておりますので旦那様はいらっしゃいませんが、奥様がいらっしゃいます」

 

「母上だけ?」

 

「え? エメリッヒのお母さん!? そ、そうだよね……ちょっとエメリッヒ、私の髪とか服装とか大丈夫? ああ〜どうしよう、もっとおしゃれな服とか持って来ればよかった……」

 

「そんな大袈裟な……別に厳しい人じゃ無いよ」

 

「さ、こちらです」

 

 老紳士は扉の前で立ち止まり、中に入るよう促す。

 エメリッヒは躊躇いなく扉の取手に手を掛け、開ける。アイリスは恐る恐るといった様子でそれに着いていく。

 

「母上、お久しぶりです」

 

「お、お邪魔しておりましゅ……」

 

「……おかえり、エメリッヒ。それと貴方がアイリスさんね? いらっしゃいませ。エメリッヒ、大事にしなかったらぶっ飛ばすわよ?」

 

「──母上?」

 

「なに?」

 

 エメリッヒは違和感を感じた。

 だが、それをうまく言語化することができずニの句を継げなかった。

 

「さあさ、私なんかと話していても疲れちゃうしまずはお風呂に入らなきゃね? ジェフ、アイリスさんを案内してあげて。エメリッヒには話があるから少しだけ残りなさい」

 

「うん、アイリス、先に行ってて」

 

「わ、分かった」

 

 アイリスは積もる話があるのだろうなと予想し、特に何か言うことも無く老紳士についていく。

 ただ、部屋を出る前に見たエメリッヒの顔に少しだけ険があったのだけが気になった。

 

 

 ──────

 

 

 部屋に残ったエメリッヒは母に対して問いを投げる。

 

「それで母上、話とは?」

 

「ええ……最近色々物騒なのは理解しているでしょ?」

 

「まあ何となくですけど」

 

「ええ……昨日、あの人が本家に呼び出されたの」

 

 まさか父上が何かやらかしたのか? と一瞬邪推したエメリッヒだが、あの清廉な父親が何か変な事をするとはあまり考えられなかった。

 

「どんな要件で?」

 

「ええ……ショックを受けないでね?」

 

「はい」

 

「ライザが何者かによって殺された事が確定したわ」

 

「────は?」

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