「祝福されますように……」
そう続けたカタナは、そこで寝てしまった。
無理もない、夜中ずっと話していたんだから。
「悪いことしたかな? もしかして」
カタナは一歩を踏み出す勇気がなかなか出ないやつだ。つい手を出してしまったけど、急過ぎたと言われればそうだ。
「ま、いっか!」
俺はやりたいようにやるだけだ。
ぶっちゃけ興味があるだけだし、恩を押し付けたわけでもない。
そうやって開き直ってルンルンで歩いていると、カタナの家に着いた。
チプタ村は広いけど、要衝として位置づけされてから発展した村だ。元々あった小さな村が、どんどん外側に広がっていったから、村人の生活圏は実際そんな広くない。
とはいえ村の内部も昔に比べるとだいぶ変わったらしいけど。
だから、少し話しながら歩いただけで、すぐに家にたどり着ける。
扉のところにはカタナのお父さんがよっかかっている。
「こんばんは」
「うん……あいかわらず珍妙な事になってるな」
とりあえず、とカタナを引き渡す。
「子守みたいなことさせて、悪いな」
「いやいや、役割を貰えるだけありがたいですよ」
それに、と続ける。
「とても良い村です。まだ長く住んではいませんが良く感じますよ、神の加護を」
「そうか……なあ、やっぱりお前もこの村に」
苦笑すると彼は黙る。
「おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
カタナに引き続き、メイヤーの家に行き、扉をノックする。
「あ〜? こんな時間に……ってお前! うちの娘に何しやがった!」
「いやいや、早いって、結論出すの」
ほいっ、とメイヤーを渡す。
「じゃあ、俺は帰るから」
村長は舌打ちを一つ打つと、
「まあ待てや、茶でも飲んでけ」
と、何やら話がある様子。
大人しく椅子に座って待っていたらお茶を持ってきた。
まずはと口をつける。
「意外と美味いですね」
「……ムカつくガキだ」
ずずっと啜っていると、村長がタンタンと指の先でテーブルを叩く。
「お前はなにがしたい?」
「え?」
「行動原理が見えない、少なくとも整合性が見えてこない」
難しい話は分かりませんけど、と前置きをする。
「ただ、見たい」
「何が」
「2人がどう進んでいくのかを」
それを聞くと、村長は一層眉根を寄せた。
「じゃあ、カタナのアレはなんだ」
「学校ですか?」
そうだ、と溜息をつく。
「いいか……騎士になんてなるもんじゃない」
「知ってるんですか?」
「多少はな……失敗しようが成功しようが茨の道だ。それに、騎士になるなんてのはそれこそ、お前が見たいっていうあいつの未来を狭めるんじゃないのか?」
お茶を置いて、天井を見上げる。
「星が祝福していたので」
「お前の言うことは良く分からん……」
お茶も飲んだので、退散しますか。
「じゃっ!」
すったか走って自分の家に戻る。
「ただいまー」
特に返事は無いが、そのまま布団に突っ込む。
「はー、ヌクヌクだ……」
もう朝だけど、眠いから寝よう。
「願わくば、大地と海に眠る神に祝福されますように……」
奇妙な夢を見た。
父さんと母さんがいて、俺は学校に通っていた。
カタナとメイヤーもいるけど友達じゃ無くて、その代わり、他の友達がいた。
どこにも星は無く、神もいない。
悪夢だ。
友達と笑い合う俺を見てそう思う。
何も満たされない。
もがいても俺はそこにはいないからどうにもならない。
まるで溺れているようだ。
「……はあ」
起きたら汗びっしょりだった。
タライに放り込んで洗っていると、メイヤーがやってきた。
「何してるのー?」
「汗びっしょりだったから洗ってる」
「ふーん……お父さんもたまにそうやって洗ってるなあ」
「メイヤーはどうしたんだ?」
「うん……私も学校通いたいなーって」
手を止めてメイヤーの方をちゃんと向く。
「本当に?」
「うん、カタナがやるなら私もやろうかなーって」
「メイヤーならなれるんじゃない?」
「どうやってなるのー?」
服を洗いながら説明していく。
「ふーん……お父さんがいればいいんだー」
「まあ、村長だからな」
それだけじゃないけど。
「じゃあねー」
どうやら本当にそれだけを聞きに来たらしい。
マイペースに歩き去っていった。
腹が減っていたのでギルド据え付けの食事処で食べていると村長が殴り込んできた。
「おめえ、昨日の今日でこれかよ!」
「どれ?」
「メイヤーが騎士になりたいとか言い出したぞ!」
ちなみに小声である。
「俺と違って村長なら1発でしょ」
さすが村長、権力があって凄いなあ、尊敬するなあ。
「そもそも、俺は何も言ってませんよメイヤーには」
フォークで刺した肉を掲げながら言うとそれを村長はぶんどり、
「始まりはお前だろうが、なんとかしろ」
とか言いながら残りの肉も突き刺して食べ始めた。
まだおなか減ってるんだけど……
「村長の跡を継がせたいんですか?」
「知らん、村長なんて誰かにやらせれば良い」
「じゃあいいじゃ──」
「あのな」
何やら説教が始まるらしい。
「なんで、お前は一緒にやるって言わないんだ?」
「なんでって……」
「カタナは一緒にやりたいって思ってるはずだぞ。それに、素質という点を考えれば、癪だがお前に勝る奴なんてこの世にはいない」
まあ、確かに?
「メイヤーも学校に入りたいって言ってるんだし、この際だからお前もやればいいだろ」
水を飲みながら聞いてるけど、一つだけ思うことがあった。
「稼ぐ方法がありすぎて今更騎士になりたいとか思わないんですよね……」
お給金は良いけど、王国の中央に召集されて警護したり軍の指揮したり前線で戦わされたりするのめんどくさくない?
「職業を金でしか見てないのか……」
「少なくとも、夢にはならないかなあ……」
「夢、か」
そう、夢!
この広い世界で、魂持つ人々の行く未来を見ることこそが俺の夢!
その為なら多少の手間も惜しまない!
モンスターも権力も全部かかってこい!
おおー……と拍手をもらって気持ちよくなっていると
「机に足を乗せてまで演説してるところ悪いが、ベッキーに睨まれてるからやめとけ」
受付を見ると、腕組みをしながらこちらを見ていた。
ごめんなさい……
「まあ、カタナとメイヤーはしっかりしてますし、俺なんかいなくても夢の果てに辿り着けますよ」
「幼馴染として心配じゃないのか? 変なやつに引っ掛けられたりとか」
なんでこのオッサンそんな事気にしてんの?
「それも人生でしょう、それに俺は彼女たちの親じゃない」
そう言うと、何故かギルドの空間にいる全員が理解できないバカを見るような目をこちらに向ける。
「人でなし!」
「あれがマックか……」
「お前それでも男か?」
最後に村長が告げる。
「……お前はやっぱ違うところから来たんだな」
「価値観なんて人それぞれ! 理解できなくて当たり前です! 個人を尊重しましょう!」
やれやれと首を振りながら村長はギルドを後にした。
知り合いの冒険者が近づいて来る。
「お前やば……」
「顔を合わせるなり人にやばいとか言うジンさんも相当ですよ」
「いーや、絶対お前の方がやばい」
一級異物のパイルバンカーをドスンと床に下ろすと村長が座っていた場所に腰を下ろす。
「てかいつまで食ってんだよ、かれこれ2時間ぐらい食ってるだろ」
燃費悪いんすわ()
「ジンさん」
「んだよ」
「ソレ使えるようになったんですね」
「あたりめーだ、俺を誰だと思ってやがる」
ジンさんには時々、遺跡探索に同行させてもらっているけど、偶々俺が一緒に行った時に見つけて、えらく気に入っていたのを覚えている。
しばらくは特訓期間だ、とか言って持ち出していなかったけど、形になったらしい。
「届出忘れるとまた没収されますよ」
「やめろ」
どうやら前のお気に入りだったヒートスタンプを没収されたのがトラウマになっているらしい。
「それより良いのかよ」
「なにが?」
「学校の話」
「さっき言った通りですよ」
「……まあ、稼ぎに困ってないのは確かだな。お前今幾つだっけ」
「11です」
「俺が11の時とか何してたっけ……」
「得意分野ってものがありますから」
「いや、コレは俺の得意分野なんだけど……」
ジンはパイルバンカーを指差して言う。
チプタ村は村でありながら、貿易、戦争、モンスター防衛、遺跡探索全ての最前線だ。そんな場所でジンは探索のランク・実績ともに最高の名を欲しいままにしている。
「まあ、なんでも良いじゃないですか」
そろそろ食べるのもおしまい!
散歩がてら、遺跡でも行くか!
「36200ゼニーになりまーす」
受付に行ってお代を支払う。
ゼニーとはアドラント王国の通貨であり、遺跡から出たものを活用してシステムを作って管理を行なっているらしい。
カードと呼ばれる板状の認識証をかざすだけで金が支払える。
異物さまさまだ。
「あれっ、おいマック」
「まだなんかあるんです?」
ジンは俺の腰に視線を向けている。
「それ……徒手はやめたのか?」
石剣に気付いたらしい。
「この前、良いことを習いまして」
村の西の門へ向けて歩きながら話す。
「へー、そんな凄腕の騎士様がねえ……」
「ええ、良い刺激をもらいました」
「くっそー! 俺もヤりたかったー!」
「いやいや、俺のこと殺さなきゃ……とか言ってたんすよ?」
「そりゃ敵国にやべえ奴がいたら殺さなきゃって思考にもなるだろ」
いやならんでしょ。
「モンスターでもあるまいに……」
「俺だってガキに自分の技マネされて、それがバゲット国のやつだったら気分によっちゃやりかねんぞ」
まあジンさんあんまマトモじゃないしどうでも良いか
「お前今どうでも良いって思ってるだろ」
「基本的に子供は宝ですから……おっと、ここまでですね」
「おう、俺は別のとこ行くわ」
そう言うとジンは再びギルドの方に歩いて行った。
特徴的な赤髪がたなびいて、とても綺麗だと思いました。
さて、遺跡に入るか。
受付でもらった紙を翳す。
「ゲートオープン」
空間に亀裂が入り、そこに足を踏み入れた。