目を覚まして窓から外を見ると、お日様が顔を覗かせていた。
ベッドから降りて扉を開けたら朝ご飯の匂いが流れてきて、自分が空腹である事を強く実感できる。
お母さんが焼いてくれる目玉焼きは絶品だ。お店でも開こうよ、そう言っても笑われるだけだけど、私は本気でいつもそう思っている。
「メイヤー、そろそろ降りてきなさーい」
「起きたよー……」
しょぼしょぼする目を擦りながら階段を降りる。
「顔、洗ってきなさい」
「うん……」
手洗い場に向かうとお父さんも顔を洗っていた。
「おはよう、メイヤー」
「おはよう……」
「お父さんはもう行くから、ご飯ちゃんと食べるんだぞ」
「分かった……」
いつも通り、お父さんはギルドに出勤していった。
「はい、どうぞ。目は覚めた?」
席に座るとお母さんが朝ごはんを置いてくれた。
目玉焼きと芋の盛り合わせにスープがいつもの朝ごはんだ。
「いただきまーす」
朝なのであんまし手に力が入らない。
ゆっくりとご飯を食べ終えて、やっと身体が目覚めた気がする。
今日はカタナと待ち合わせているから、時計塔に行かなきゃ。
「いってきまーす」
「気をつけるのよー」
ギルドにある時計塔は、いせき? っていう場所でみつかったとってもすごいいぶつだとお父さんが言っていた。
時計塔が見つかってからは、色んなことが効率的? になったらしい。
水路沿いの道を歩いて行くと、マックが向こうの通りを土埃を巻き上げながら走って行くのが見えた。
「ふふっ……」
朝からあの元気な姿を見れて何だかラッキー、と思って時計塔に行くと、カタナは先に着いていた。
「あれ? メイヤー機嫌良い?」
そう言われて自分の顔を触る。
「そうかな? そうかも?」
「? 変なの」
まあいいや、とカタナに手を引かれる。
今日は学校入学に向けて、色々と必要なものを集める為に二人で村を周ることになったのです。
いつもは南の草原か村の中心部あたりで私たちは過ごしているけど、今日は外縁寄りの後発発展地域? と呼ばれる場所でお買い物をします。
まずは着る物から!
「ボ、ボクはこれで良いかな……」
「えー、折角なんだからこういう服にしてみなよー」
「ちょっと冒険しすぎじゃない?」
「いやいや、こういうのも似合うってー」
カタナは一人で選ばせるといっつも地味目なのしか選ばないから、私がしっかりついていなきゃ!
「お嬢さん達はあんまりここら辺では見かけないねえ、観光かい?」
「私たちは村の真ん中でいっつも過ごしてて、あんまりこっちには来ないんですー」
店主のおばあちゃんが物珍しげに話しかけてきた。確かに私たちはあんまりこっちの方には来たことないかも。
チプタ村って最初からあったところはそんなに大きくないけど、後からどんどんどんどん大きくなっていって、今ではアドラント王国の王都に匹敵するぐらいには大きいらしいし。
「あぁなるほどね……それにしてもそっちの子は青い髪をしているし、この服なんか似合うんじゃないかい?」
「え?」
またボク?
とでも言いたげな顔で聞き返すカタナ。この際だから服選びとはなんたるかをみっちり教えてあげなきゃ。
「ひ、ひぇ〜〜……」
チプタ村の一角にある服屋からはその日、子供の悲鳴が聞こえたそうな。
「きょ、今日は服じゃないんだよね?」
次の日も時計塔の前で待ち合わせをして、今度は文具なんかを買いに行く。
昨日一日服について叩き込んだお陰で、いつもの芋っぽい服から少しはマシになっていた。でもどうやら、少し昨日のことが心の傷になっているみたい。
「あれ、お前ら二人何してんだ? カタナはいつもと違ってめかし込んだ格好してるけど」
何故かマックがその場に現れたので、カタナの服についてどう感じるかを聞いてみる。
「ん? ……あぁ! 似合ってるぞ!」
マックはニカリと笑うけど、カタナはあんまりそういうのに慣れてないので、顔を真っ赤にしていた。
「お前ら今日はデートでもすんのか?」
そんな事を言われた暁には恥ずかしさが一周回って「バカ!」と叫んでいた。
文具を買いに行くことを説明すると
「あぁ、そういやそうだったな。とりあえず俺は用事があるからここら辺で、んどもー!」
と、気を使ったのかそうでないのかさっさとギルドの建物内に入ってしまった。
さて、私たちも文具を買いに行こう。
「わっ、色々なのがあるんだね。これなんか何に使うんだろう」
「それかい? それはね、こうして綺麗な丸を描くのに使ったりするんだよ」
「へー、じゃあこれは?」
「これはね──」
ここは王都で創業したお店が出店しているっていう文具の名店。
カタナは初めて見る文具に興味津々で、店主さんに色々聞いたりしている。
私はおとうさんのおしごとを観に行った時に見たことがあるから初めてでは無いけど、初めて見た時でもあんなに興奮していなかった気がする。
やっぱりカタナはこういうちょっと普通とは違う物が好きらしい。
「メイヤーちゃんは前に村長さんと一緒に来たことがあるよね」
「うん! この子はカタナって言うんだ! 私の友達!」
「そうかい、君がカタナちゃんかい。村長さんが褒めてたよ。良い子だって」
「あ、ありがとうございます」
「今日はお使いできたのかい?」
「学校に行く為に買いに来たの!」
「そうかいそうかい……ところで結構文具は高いんだけど、カタナちゃんはお金、大丈夫かい?」
確かに、カタナが色々買おうって誘ってくれて昨日から服も買ってるけど、そこまで裕福な家じゃないのに大丈夫なのかな?
「えと、マックがこれがあれば大丈夫だろうって渡してくれたんだ……」
そう言ってカタナは肩から下げていた袋をごそごそと漁る。そういえば昨日も持ってきてたような……
カタナが手を袋から出すと、そこには一枚のカードがあった。
「こ、これって──」
店主さんが何やら絶句している。
よくわからないけど凄いものなのかな?
「昨日もこれでお金を払ったんだ」
「だから昨日は先に行ってって追い出したんだー」
「お、追い出したわけじゃ……お父さんから絶対に失くすなって言われたから、念のために……」
「そうだね、あんまり外には出さない方がいいだろうね」
店主さんがうんうんと頷いている。
「とりあえず、お金の心配が要らないことは分かったよ。好きなだけ見ていきなさい」
「やったー!」
カタナがカードを再び袋にしまって、色々と物色し出す。私も良いのを見つけなくっちゃ!
「それは書き心地が──」
「でも頑丈って書いてあるし──」
ペンを見たり
「最高級羊皮紙だから学校向きじゃあ──」
「一冊ぐらい持ってても──」
ノートを見たり
「これなんかは王様が──」
「ええ!? ……ご、ごひゃくま──」
「そのカードなら──」
「いやいや──」
とんでも無い値段の文具を見せてもらったりと色々楽しませてもらった。
「楽しかったね」
「うん!」
ホクホク顔のカタナはしかし腕一杯に荷物を抱えてちょっと苦しそうだ。
「やっぱり私も持つよー」
「いや、騎士になるものとしてこれぐらいは……」
「私もなるんだからおあいこでしょ」
「うぐぐ……うあっ」
重さに耐えかねてその場に荷物を置く。
「ほら―、そっちのやつ渡して?」
「あ、ありがとう……」
流石に観念したのか、ペンとかの入った袋を大人しく渡してくる。
えっちらおっちらとまずカタナの家まで運んで中に入り、カタナのお父さんお母さんに挨拶をして荷物を机の上に置かせてもらう。
「おぉ、いらっしゃい……ってこの荷物は?」
「あらーメイヤーちゃん、どうしたのかしら? ──え、学校用の文具?」
カタナがガサガサと袋に手を突っ込んで自分の物を出す。それを二人は持ち上げ、マジマジと見る。
「随分と良いもの買ってきたんだなあ……どこで買ってきたんだ?」
「あら、印字してあるわね。えーと、シェープシフト……って王室御用達のあの!?」
「なに!? 王室御用達!? カタナ、コレいくらしたんだ?」
それを聞いてカタナはポケットを漁ると、店主さんから受け取った紙を取り出す。
「え、えと……きゅうじゅうはちまんななせんぜにー」
「きゅ、きゅきゅきゅ98万!?」
「あばばばば……」
カタナの家が阿鼻叫喚の大騒ぎになってしまった。
両親の叫びように動揺してカタナはオロオロしているしどうしようかな、と見ているとちょうどお父さんがやってきた。
「おいーっす、酒でも呑みに……何これ」
「お父さん、どうにかして」
「まず何なんだよこれ……」
事情を説明する。
「文具に98万か……そりゃこうなるわ」
アイツまじシめる。と不穏なことを言っているけど、マックのせいなのかな?
「なんだ、そのー……まあ、とりあえず俺がアイツと話してみるわ」
「た、たのむ……」
溶けた氷みたいな顔でカタナのお父さんは頼んでいる。相当ショックだったみたい。
「子供に高い金を持たせるのは良くないってこういうことなのか……」
しみじみと呟くお父さんがとても印象的だった。