絢爛豪奢な集団が広い街道を歩いていた。
先頭には旗手が掲げた国旗がたなびき、甲冑を着た集団がそれに続く。細剣の鞘は全体で見ると細いにも関わらず、その権威を示すかのように赤を基調として金をアクセントとして用いており、身体のパーツとして最も目立っている。
その次に祈祷師だろうか、頭の先から手の先まで隠すような服装に身を包んだ集団が通る。目だけしか見えない彼らはなにかを唱えており、通り沿いに見ている子供たちは怖がっている。
そして、輝く集団の中で最も目立っているのがその次の輿である。
大きさはそこまででも無いのだが、文字通り光り輝いている。それは日光を反射してとかそういうことでは無く、自ら光を発しているのだ。
「キレイだねー」
「カッコいいねー」
そんな光景を見て羨望の眼差しになる者もいるし
「アレは見せかけだな……」
「ええ、本命はあちらでしょうね……」
分析する者もいる。
他国からの使節団という事で、多くの人の目に触れる。それは相手側からすれば監視の目になり、軍事力・国富の誇示、用心警護、最低限この3つをする必要性が出てくる。
しかし単純に見せつければいいというものでは無い。殊更に長年争ってきた相手に対しては、自らの限界がどこかを分析できるような隙を与えてはならない。
勿論、軍事的には使節団から相手の力を測るようなことはしない。あくまで他国や過去の使節団と比較する程度であり、本当に測るとするならもっと綿密に行う。
これは相手国の国民に対しての話だ。
そんな使節団は眼差し強く、威風堂々と行軍していく。
そして王都から北に200kmの地、サバットという都市に入る。
「ようこそおいでくださいました。何も無いサバットでは御座いますが、寛いで行ってください」
「盛大な歓待、感謝痛み入る」
市長の出迎えにより都市で一時の休息を取る事になった使節団は、用意された宿で一休み……とはいかない。
「調べ終わったか」
「はい、怪しい物は見つけ次第排除しました」
「良し、では休憩に入れ」
このように、盗聴、監視の類を排除してからやっと一休みというわけだ。
そして先程休憩の指示を出した騎士隊の長、ユウナも自室でベッドに座って休憩を行っていた。しかしその様子はアドランドに派遣された騎士をまとめる長としての凛々しい態度とは違っていた。
何かを思い出しては首を振り、しかしまた思い出しては歯軋りをする。
何かに取り憑かれたようなその姿に、訪れた副隊長はため息を吐く。
「まだ例のガキのことで悩んでんのか」
「……当たり前だ、あいつは必ず我々の脅威になるだろう」
「お前の技を一瞬で盗んだ、ねえ……」
彼女の技量とその研鑽の過程を知る者として、そんな事はあり得ないと思うのだが、他ならぬ彼女が言っているために否定しきれない。
しかし、だからといっていつまでもその事を引き摺っているようでは任務に支障が出る。
「とにかく、使節団の仕事に支障をきたすんじゃねえぞ」
軽く頭を撫でてやれば、犬のように気持ち良さそうにそれを受け入れる。
「分かってる……ん……」
頭をこちらに預けてくるので、隣に座って肩を抱き寄せる。
そうして体重を預けたまま、彼女はぼそっとつぶやいた。
「ちょっと……眠い……」
本当に犬みたいだ、この可愛い隊長様は。そう思いながら上体をベッドに横たえてやる。
「ふふっ……」
「何がおかしいんだ」
「やはり私はお前がいないとダメなようだな」
「……」
小っ恥ずかしい事を言いやがるので誤魔化すように髪を撫で続ければ、すぐに寝息を立て始めた。
昔はあんなにトゲトゲしていたのに、こんなに懐かれるとは思いもしなかった。こうして無防備に寝ているのは信頼の証なのだろう。
「……さて、ちょっと調べますか」
隠密に2、3指示を出して、自身も街中へ繰り出す。やる事は山積みだった。
一方、サバット側も色々と動いていた。
使節団が来る以前から備えはしていたが、来たことでその動きを加速させていく。
「盗聴機・監視機は破壊された、まあ予想通りだな……やはり異物に任せるのは不安点が大きい、引き続き魔調に情報収集を続けさせろ……なに? 騎士隊の一部が街の飲食店を利用している? 念の為にそこの店の従業員等も含めて出入りや行き先を監視しろ」
使節団の一挙一動に対して対応を変えていかないといけない為、舞い込んでくる報告に対して逐次市長が指示を出していく。
「隠密部隊と見られる人間が国境方面に向かった? …………なんらかの報告をしに行ったのか? 分からん、とりあえず監視をつけさせろ」
「市長、次は」
「ええい! 少し休憩だ! マッコス! 引き継いでおけ!」
連日働き通しでいい加減脳みそが働かなくなってきたと感じた市長は副市長に後を任せた。
「どこに向かわれるので?」
「市内を見て回ったのち、休憩だ!」
「では護衛を一人──」
「いらん! そんな事に人員を裂くぐらいなら監視の目を増やしておけ!」
「失礼しました」
ドスドスと粗野な足音を鳴らしながら市長は扉を開けて出て行った。
扉が閉じた瞬間には副市長が既に市長の席に着いており、業務を引き継いで開始していた。
「オブライエン起動」
市長は部屋を出るなり、メガネを装着して機能を起動する。
『おはようございます、市長。どのようなご用件でしょうか』
「私の視界内で不審な動きをする者がいないかチェックしろ」
『了解いたしました、サーチモードに入ります』
「……便利なものだ」
かつて手に入れたこの異物、オブライエンは市長の仕事を進めていく上で非常に有用である。
再現性が無いことは痛いが、それを含めても十分に活躍している。
「市長、お疲れ様です」
「あぁ、少し見回りに行ってくる」
市庁舎を出ると、早速サーチに引っかかる者がいる。
その服装や顔つき、歩き方などから分析が行われ、瞬時にバゲットの人間であるということが分かる。
使節団到着時のデータには無い為、別で入国したのだろう。
市庁舎を張っている人間がいるのは予想は出来るが、どこからも報告が無かった。余程隠密に長けているのだろう。
魔調ですら見つけられない物を細部まで分析できるこのオブライエンに今まで何度助けられたことか。
対象は強調表示され、こちらを追跡していることが文字として表示される。
「裏は無理だな……」
はあ、とため息を吐く。煌びやかな使節団が訪れる裏ではこうして暗い仕事というのが常に行われている。
市長として、日々、街の秩序を守るために隅から隅まで見回りたい物だが、こういう時は薄暗がりなどに踏み込むことができない。
自衛を行う能力はあると自負しているが、それとは別に、トップに立つ人間がわざと危険に突っ込むのは正しくないとも認識している。
今回は大人しく表通りの視察に止めよう。
「あ、市長だ」
「市長ちゃーす」
「こんちわー」
こうして気軽に挨拶をして貰えるのは、頻繁に街に繰り出しているお陰だろう。軽く手を振って答える。
「今日はどうしたんだい?」
「昼飯がてら視察だ」
「あらっそうなの? じゃあうちのご飯食べてきなさい!」
「そうしよう」
敷居をくぐって中に入り、カウンター席の隅に着く。
「あんたも奥ゆかしいねえ。市長なんだから堂々と真ん中に座ればいいのに」
「関係無いだろう……とりあえずお任せで」
「はいよ」
座っていると、ゾロゾロと客が入ってくる。
「やっぱり昼はステーキだな」
「バカ言え、もっとあっさりしたものの方がいいだろ」
昼飯に何を食べたいかなど、暫く考えた事がなかったな。今度はもう少し食べるところを吟味するか。
様々に話している内容を聞き取りながら客の様子を観察すると、オブライエンのサーチに引っかかる者がいた。
先ほど追跡してきたやつか? そう思うがデータが表示されるより先に顔を見て分かった。
「確か、騎士隊の副隊長か」
名前は確か……ジェラルドとか言ったか。
そいつは真っ直ぐにこっちに向かってきた。
「これはこれは市長、奇遇ですな」
「おお、副隊長殿、貴方も昼飯を?」
「ええ、隣に座っても?」
「どうぞ」
こんな公衆の面前で接触を図ってくるとは大胆な事だ。
だが、目的が読めないな。
『魔導サーチに感知あり、内容分析中』
オブライエンの探知に魔法の使用反応があったらしい。
まあそれは後で確認するとして、とりあえず今は運ばれてきた飯に手をつけるか。
「ではお先にいただきます」
「はい、お気になさらず……普段からこうして街中に来てらっしゃるんですか?」
「市長として、市民の様子を伺っておくことも必要ですから」
「素晴らしいお心掛けですね、市民の皆さんにもさぞ慕われているのでしょう」
「そうだと嬉しいですがね」
妙だな、わざわざ接触を図ってきた割にはこんな意味の無い会話をするなんて。
「おっ、私の分が届きましたね」
「ここのご飯は美味しいですからね、ぜひ味わってください」
「ちょっと市長さん、あたしのセリフを取らないでちょうだいよ。お兄さん、うちのステーキは絶品だからね。ほっぺたが落ちないように気をつけなね」
「ははは、いただきます」
本当に昼飯を食べるついでに私の事を見にきただけだったか。この役職に着くと人の行動にいちいち疑問を持たなければならないのが嫌になる。
いわゆる職業病というやつか。
「さて、私は食べ終わりましたし、いつまで居ても邪魔になるでしょうから、お暇する事にします」
「どこかに行かれるのですか?」
「もう少し街の様子を見ていこうかと」
「そうですか、お身体に気をつけて」
「お互い様ですね、それでは失礼します」
店を出ると、先ほどサーチに引っかかったやつがピックアップされた。
昼飯も食べずに仕事熱心な事で。
心の中で皮肉りながら、街を見て周る。使節団が来たことでいつもよりは空気が浮ついている感じはあるものの、特段に注意するべき事は無く、満足して視察を終える。
自宅に戻り、扉を開いて、本当の仕事に取り掛かりはじめた。