幻想信人録   作:毛玉Ω

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第二話 人間の里にて

~守矢神社~

 

『昨日はお世話になりました』

 

「なあに、困った時はお互い様よ、でもまああの者は何でこの山に落としたのかしら?」

 

幻想郷に降り立ち(落ちた)、雛様に助けて貰い、幻想郷のお酒を体験した次の日の早朝。

 

自分は今立っている場所……昨日名前を教えて貰った守矢神社の鳥居の前にいる。

 

そして前方、鳥居の手前で地面から少し浮きながら座っている女性は八坂 神奈子と言う神様であった。

 

体中に巻いてある注連縄と背中にくっついている巨大な注連縄、それと胸元に光る黒い鏡が印象的である。

 

「まあいいわ、さて、昨日私や諏訪子、早苗や山の他の神の話を聞いて君は何処へ向かうのかしら?」

 

(ん~何処に向かおうにもな……まあ宿探しとかか)

 

昨晩は宴会に参加しながら色々話を聞いていた。

 

この山は妖怪の山と言い、この神社は山の一角に建っている。

 

そして名前の通り妖怪の多く住んでいる山らしく、昨晩の宴会も自分以外殆ど妖怪であったらしい。

 

(人喰い妖怪がいなくて本当良かったな……居たら食われてたかもしれないし)

 

何でも自分のような人間は外来人と言われ格好の獲物らしい。

 

正確にはこの幻想郷の人間は数が少ないため、外来人を食べたほうが効率が良いそうだ。

 

(自分もその為に落とされたのか……それとも別目的か……)

 

紫の考えはわからない為なんとも言えないが……多分別目的であろう。

 

と言うよりは妖怪の餌目的だとしても特に気にしない。

 

「一応言っておくと、貴方が何処に行こうと私達は咎めたりしないわ、君の命は厄神……鍵山 雛が助けた命だからね」

 

(そりゃあそうだろうな……鍵山 雛様か……)

 

雛様は朝には既に居なくなっていた為今何をしているかはわからない。

 

聞いた限りでは彼女は純粋な神では無く妖怪の一種であるそうだ。

 

昨晩の時も本人がそう説明していた気がする。

 

その為、神奈子様と諏訪子様のような神社は持っていないのだとか。

 

(……まあこの神社に良く立ち寄るそうだから来れる時に行けばいつかまた会えるか)

 

「それでどうするのかしら?」

 

取り敢えず今は神奈子様の質問に答えるのが先だろう。

 

どうするのか……一応一箇所目星がついていた。

 

ボードに書く。

 

『博麗神社に向かおうと思います、そこで何かまた話が聞けるかもしれないので』

 

「なるほど、確かにあそこの神社にはあの者も良く立ち寄ると聞くわね、まあ巫女がまた不思議な性格をしているけれど」

 

(不思議な性格?こちらの人間は皆不思議だと昨日聞いたが……)

 

つまりこの幻想郷においても更に不思議ということであろうか?

 

まあ行ってみればわかることである。

 

「でもまあ良いんじゃないかしら、んで行くのは良いけれどどうやって行くのかしら?」

 

『歩いて行こうと思います』

 

「ほう、歩いてね……え!?」

 

神奈子様が驚いたような声を上げて此方を見ていた。

 

何か悪い事を書いてしまっただろうか?

 

(……あ、ここから博麗神社は遠いのか?)

 

なら驚かれてもしょうがないであろう。

 

でも時間掛かるだけであれば特に気にしないが。

 

「いやいやそれは自殺行為だと思うわよ、距離はどうにかなっても妖怪に襲われる危険性は回避できないし」

 

(ん~、しかし自分は歩く事しか出来ないからな……)

 

「同じ外来のよしみでもう少し泊めてあげることは出来るけれど……昨日の感じだと貴方がそれを好まないのよね?」

 

頷いて答えた。

 

昨晩の宴会中神奈子様と諏訪子様へ挨拶に向かった時、早苗さんが数日間此処に泊まっては?っと提案してきたのだ。

 

勿論厚意はありがたいのだが紫の行っていた事と自分の意志で来たことを含めてそれは却下させて貰ったのである。

 

此方に来てまだ2日、自分は幻想郷についてまだ殆ど知らないのだ。

 

なら歩いて理解することも必要だろう。

 

「はあ……まあ良いけれどね……」

 

少し呆れたような声でそう呟く神奈子様。

 

どうやら歩いて行く事を止めないでくれるようである。

 

深々と礼をした。

 

「行く前に一つ聞いても良いかな?」

 

顔をあげると神奈子様がそう呟いた。

 

断る理由も無いし、一晩泊めてもらったのであるから質問ぐらい幾らでも問題ない。

 

頷いて答える。

 

「うむ、では聞くのだけれど……貴方は恐怖を感じないのかしら?」

 

(その質問か……まあ気づかれるとは思っていたがこれがまたな……)

 

そんな事を思いつつ自分に問いかける用に考え始めた。

 

実の所これは一年前……ちょっとした事件の時から悩み続けていることである。

 

「昨日の事象を経験して普通の人間ならもっと慣れるのに時間が掛かると思うのだけど……自分でどうしてかもわからないといった感じかしらね」

 

神奈子様が何か察してくれたのかそう呟いていた。

 

実の所、自分は一年前からある程度の事象では恐怖を感じる事が少なくなっている。

 

昨日の落下中も自分はある程度冷静な判断が出来た。

 

あの時は恐怖よりもどちらかと言うと驚愕……驚きと言った感じであろうか?

 

それに今もさらっと人喰いがいる森を歩いて行くと言ってしまった。

 

まあ此方はまだ実感が無いだけかもしれないが。

 

理由はわからない……と言いたい所だが、一つ可能性があるとしたら4年前の事であろう。

 

「……一応自分の中で原因と思われる事は知ってるみたいね、顔に出てるわよ」

 

そう言われてしまったので一応自分の顔を擦ってみる。

 

そんな事がわかるほど表情に出ているのだろうか?

 

「冗談よ……まあ頑張ってみなさい、後は貴方の自由なのだから」

 

そう言って神奈子様が社の方へ戻っていく。

 

こちらも鳥居を抜けて石段を降り始める。

 

「あ!この神社は何時でも参拝者募集中よ、後博麗神社にも分社があるから信仰は忘れないようにお願いするわ~」

 

(ちゃっかりしてるんだな、神様って……)

 

そんな事を思いつつもゆっくりと石段を降りてゆくのであった……

 

 

 

~妖怪の山、麓~

 

(さて……どっち行こうかな?)

 

石段を下り、妖怪の山と呼ばれる森に足を踏み入れてから早数時間。

 

自分は完全に道に迷っていた。

 

今は休憩がてら開けた場所で適当に見つけた大きめの石の上に腰掛けている。

 

(一応降りてきてはいるみたいだがな)

 

視線を少し上に向けると遠くの山の上に先程自分が居た守谷神社が見えていた。

 

結構進んではきたようである。

 

(しっかし、静かだ……)

 

今現在、ここまで来る道のりで妖怪と思われる存在に襲われたりすることは無かった。

 

しかし妖怪では無さそうな羽の生えた子供に水を頭からぶっ掛けられているが。

 

(一目散に何処かに逃げていったから追わなかったが……あれも妖怪かね……ん?)

 

そんな事を考えながら空を眺めていると不意に体が何かを感じ取った。

 

よくわからないが……何かが近くに居るような気がする。

 

(気配を感じ取れるような人間じゃないのだがな……何だこの感覚は?)

 

今の状態で目を瞑ってみる。

 

もしかしたら何かわかる気がしたのだ……気がしただけだが。

 

(ん?……これは後ろか?)

 

何故か知らないが急に背後……正確には少し離れた後ろの方に何か居るきがした。

 

何というか……見られている感じと言えばよいのだろうか?

 

とにかく落ち着かないのである。

 

(……振り向いてみるか)

 

目を開けると同時に後ろを振り向いてみる。

 

すると手前の木の少し奥、木々の間から此方を覗き込む人影が見えた。

 

(やっぱり居たのか……)

 

石から降りてその人影がある方へ一歩進んだ。

 

「っ!」

 

こちらに気づかれたとわかったらしくその人影は森の奥へ走って行ってしまう。

 

しかし一瞬だけ木々の間から漏れる光でその姿を捉えた。

 

(ん?女の子……?)

 

多分であろうが髪の伸び方からして少女であろうか。

 

茶髪のセミロングに白い着物を着た少女が奥に消えていった。

 

(今の子も妖怪なのか……?)

 

まだそんなに見たこと無いため妖怪の区別がつかないが雛様も妖怪の一部に入ると言っていた為今の子も妖怪なのだろう。

 

何故女性の姿をしているのかは知らないが。

 

(……まあいい、取り敢えず適当に進むとしよう)

 

そう決めてそのまま下に向かって歩いて行くことにした。

 

多分歩いていれば博麗神社につかなくとも何処かには出るはずである。

 

そんな事を思いながら進んでいくのであった……

 

 

 

~人間の里~

 

(まさか本当に着くとはな……)

 

朝守谷神社を出発してから何時間経ったであろうか。

 

自分は今、幻想郷で多くの人間が住む場所……人間の里にたどり着いていた。

 

門を潜って中に入る。

 

(何か昔にタイムスリップしてきたような感じだな)

 

歩きながら里の雰囲気を堪能していた。

 

木造の建物が立ち並んでおり、周りを歩いている人が着ている服は着物ばっかりである。

 

(時代としては江戸末期? または明治初めぐらいか……?)

 

雛様のような服装の人も居るかと思ったがこの里にはいなさそうである。

 

やはり特殊な部類なのだろうか?

 

(ってそんな事よりもまずは宿を探すか、ん?待てよ……)

 

いざ宿を探すと言っても人間が住むのは基本此処のみと聞いた。

 

つまり宿屋必要無いということで存在しないのでは無いだろうか。

 

それにこれだけ現代と違うと金銭や物流も違うだろう。

 

(お金があれば少しは外でも暮らせるだろうが現代のは……ん?)

 

さり気なくポケットに手を入れると入っている筈の財布が無くなっていた。

 

代わりに紙切れような物が入っている。

 

そっと抜き出して見ると綺麗に折りたたまれた紙であった。

 

(何だこれ?)

 

紙を開くと黒い筆か何かで文字が書かれていた。

 

内容はこうである。

 

 

 

橘 恭へ

 

初日の生還記念にお金を荷物にいれておきました。

これで里と博麗神社に行った時も少しの間は問題なく過ごせるでしょう。

しかしこれも試練の一貫としてなのでお金は最小限で留めさせて頂きます。

ちなみに、貴方の財布の中身は全てお酒に変えて有り難く頂きましたわ♪

 

八雲 紫より

 

 

 

(おう、何故勝手に人の財布の中身を全て酒に変えるかね……はあ~)

 

呆れつつもとりあえずリュックの中身を確認する為下ろしてみる。

 

朝や道中は気づかなかったが確かに初日より重くなっている気がした。

 

(この袋か……)

 

リュックを開けると布袋が一つ入っているのが見えた。

 

取り出して軽く振ってみると中から金属の擦れる音が聞こえる。

 

(お札ではなく硬貨が結構な数入ってそうだな……)

 

袋を解くと中には銅貨が大量に入っていた。

 

一枚取り出してみる。

 

片面には龍と思しき絵が、もう片面には二銭(にせん)と書かれている。

 

(銭っていつの貨幣だよ……)

 

中に戻して枚数を数えるとざっと五十枚、つまり百銭である。

 

価値を知らない為多いのか少ないのかもわからない。

 

(まあいいか、近くで何か食べればわかるだろうし取り敢えず宿屋を探すか……)

 

そう心で呟きながら里を徘徊するのであった……

 

 

 

~人間の里、茶屋~

 

(うむうむ、やはり甘い物は格別だな!)

 

そんな事を心で感心しながら串団子をまた一つ口に含んだ。

 

結局探している最中に空腹に襲われて近くの茶屋に入ったのである。

 

(まあ甘いもの食べられればそれで満足だったんだがな)

 

「お旅の方や、まだ何か食べるかい?」

 

丁度横を通った店のおばあちゃんに聞かれて少し悩む。

 

まだ食べ足りないのもそうであるがお金にも限りがあるのだ。

 

(……でもお腹は正直なんだよな~)

 

取り敢えず店のお品書きを指さして数枚の厘(りん)銅貨を渡す。

 

少し待つと三本の串団子がお皿に乗って運ばれてきた。

 

ちなみに、最初に一本買ったところ二銭を渡すとお釣りが一銭と二厘である。

 

(さて、これ食べたらもう少し探すとするか……ん?)

 

適当に周りの店を見ていると不審な動きをしている人影がみえた。

 

良く見ると一人の少女が里の門の隅から中を伺っている。

 

(あれ?さっき見た気がするなあの子……)

 

よく見ると先程森で一瞬見かけた子に似ている気がした。

 

里に入りたいのだろうか?

 

(……さっきの子なら気になるし行ってみるか)

 

残りの串団子を掴むと店のおばあちゃんに皿を返しながら軽く会釈してその場を後にした。

 

そしてさっき入ってきた門の方へ向かうと少女がまだ柱の隅で中を伺っていた。

 

視界に入らないように近づいて行く。

 

(何故自分は隠れながら進んでいるんだろうな……)

 

っと考えつつも柱の裏に回り込むのに成功した。

 

そしてそのまま門の外に出る。

 

「っ!?」

 

やはり柱の脇にその少女はいた。

 

薄汚れた白い着物にセミロングの茶髪、やはり森で見かけた子である。

 

(っておいおい……)

 

柱に隠れていて見えてなかったが彼女の左肩は悲惨な事になっていた。

 

何かに斬られたのだろうか、縦に深い切り傷が見えており血が着物に染みている。

 

(……これだけの出血と傷を負っても平気とは……この子は人間じゃないのか?)

 

「……」

 

少女の顔を見る。

 

特に化粧をしている感じはしないのに整った顔立ちをしていた。

 

そして薄っすらと赤い瞳はどことなく人では無い何かであると感じさせる。

 

敵意を向けたような顔ではないが明らかに警戒していた。

 

(取り敢えず聞くか……)

 

リュックからボードを取り出して書き始める。

 

取り出す時、少女は一歩後ろへ下がったがそれ以上は動かなかった。

 

『君はさっき森のなかで見かけた子かな?』

 

「え……?」

 

少女はきょとんとした感じの声でそう呟いた。

 

此方の質問がそんなに意外だっただろうか?

 

そのまま続けた。

 

『さっき森の中で君のような子に出会ったんだが君だよね?』

 

「……うん」

 

少女は頷きながらそう呟いた。

 

やはりこの子に見られていたようである。

 

『そうか、それでその傷はどうしたのかな?』

 

「森の中で襲われた……でも妖怪だからこれなら平気……」

 

(やっぱ妖怪か……にしてもこんな傷でも平気って……良く顔色一つ変えないな)

 

少女は傷を押さえる事もせず此方をずっと見据えていた。

 

痛くないのだろうか?

 

(ん~まあ妖怪がどういうのかはよく知らんから良いか……)

 

『なるほど、でもその傷のままじゃ里に入れないよね?どうするの?』

 

「うん……今その方法を考えていたの……どうしよう……」

 

そう言って困ったように目を細める妖怪の少女。

 

方法と言っても隠す以外に無いと思うが。

 

『里には何か用があるの?』

 

「ううん……ただ美味しそうな匂いがしてたから……」

 

(美味しそうな匂いって事は食べ物か?……まさか人間とか言わないよね……)

 

少し不安になってしまった。

 

この子がどのような妖怪かは知らないが人を食べるのであれば最悪自分が襲われるであろう。

 

『ちなみに、美味しそうな匂いって何?』

 

「それ……」

 

指さしたのは此方のボードを支える左手に握られている串団子であった。

 

つまり、これが食べたくて里の前にいたようである。

 

(団子か……)

 

先程勝ったばかりではあるが少しぐらいならあげても良いだろう。

 

それで彼女の気が済めばだが。

 

『これが食べたいのなら一本あげるよ?』

 

「えっ……いいの?」

 

『ああ、空腹ならお互い様だしね』

 

そう書いて一本を彼女の前に差し出す。

 

それを一瞬躊躇しながらだが彼女は受け取ってくれた。

 

「その……」

 

そう呟く少女を見ると少し遠慮しがちに団子を握っていた。

 

何か気にしているのだろうか?

 

『お金はいらないし見返りもいらないよ、好きなように食べて良いよ』

 

「は、はい……ありがとう……」

 

そう言い残すと少女はそのまま道の奥へと走って行ってしまった。

 

向こうは自分が来た方角……つまり妖怪の山である。

 

(何というか素直な子だったな……さて、こちらも宿屋を探すとするか!)

 

そんな事を心で意気込みながら里の中に戻って行くのであった……

 

 

 

~人間の里、宿屋前~

 

(ん~やっぱり無いか……)

 

日が陰り出した頃、自分は未だに里の中を彷徨いていた。

 

もう店じまいを初めた店舗もチラホラと見えている。

 

やはり夜は里の中でも危険なのだろうか?

 

(となると自分もさっさと寝床を確保しないとやばいな)

 

急ぎ一日でも泊めてくれそうな場所を探さなければならない。

 

来て二日目にして食われるのはさすがに勘弁である。

 

「ねえねえ?何してるの?」

 

横から聞こえてきた声に顔を向けると子供が二人、横の家の扉を開けて出てきていた。

 

短髪の男の子とおかっぱの女の子である。

 

「何か見たことない服着てるね、真っ黒だけど」

 

「うん、何か暖かそう」

 

交互に話す二人は此方の上着に興味があるようだ。

 

確かに此方にはまだ存在しないのかもしれない、素材的に。

 

ボードを取り出して答える。

 

『それはそうだろうな、自分はここの人間じゃないからね』

 

「そうなんだ。それじゃあ家は無いの?」

 

男の子の方が答える、どうやらこの子が優先的に自分に興味を持っているようだ。

 

『ああ、無いよ。だから探しにここへ来たんだよ』

 

「なるほど、だからずっと里の中を歩きまわってたんだね」

 

どうやら見られていたようである。

 

確かにこんな格好じゃあ里で目立っても仕方ないだろう。

 

「お兄ちゃん、お爺ちゃんに言われた事話さなくて良いの?」

 

「あ、そうだった。えっと兄ちゃん、ここで宿やってるけど来る?」

 

(え?宿屋やってるって……)

 

目の前の家を見る。

 

確かに周りの一軒家よりも少し大きめの建物である。

 

宿にも見えなくないが看板が見当たらなかった。

 

「お爺ちゃんが昔宿やってたんだって言ってたよ」

 

(そうなのか、でも何故自分を……)

 

ちょっと考えようとしたが今は甘えておいても良いかもしれない。

 

一応お金もあるし問題なかろう。

 

これで今夜を怯えて過ごすような事はしなくて済みそうである。

 

『それじゃあお願いしても良いかな?』

 

「うん!あやね、お爺ちゃんにお客さん捕まえたって言ってきて、僕は兄ちゃんを案内するから」

 

「うん、わかった!」

 

そうして先に女の子が中に戻っていった。

 

その後を続くように自分たちも入ってゆく。

 

この子達が嬉しそうなのは久しぶりの客だからであろうか?

 

(まあ、これで暫く問題無さそうだな……)

 

そんな事を考えながら中に入ってゆくのであった……

 

 

 

~宿屋~

 

「おお、やっと来たようじゃな」

 

先程宿の中に連れられてから数時間。

 

夜も既に更けた頃、自分は宿のある一部屋に御邪魔している。

 

あの後部屋に案内された自分はそのまま子供達と夕飯を頂き、しばらく遊び相手を務めていた。

 

そして二人が寝静まった後ここの家主、泰蔵(たいぞう)さんの部屋に来たのである。

 

部屋にはちゃぶ台の上にお酒を用意して泰蔵さんが既に待機していた。

 

取り敢えず遅れた事を謝っておく。

 

『遅れて申し訳ないです泰蔵さん』

 

「ふぉふぉふぉ、気にするでない。あの子達は元気じゃからな、まあ立ってるのもあれじゃ、座りなさい」

 

そう笑って答える泰蔵さん。

 

外見からは結構な歳に見えるが元気そうな声である。

 

ちゃぶ台の横に腰掛けた。

 

「久しぶりの客人じゃからな、お持て成しの酒を用意しておいたわい、ほれ、飲みなさいな」

 

そう言って瓶の日本酒を酒枡に注いで此方に渡してくれた。

 

酒枡で飲むのは初めてである。

 

それを有り難く頂いた。

 

「ぷはー、いやいや外来人のお客さんとは何年ぶりかの」

 

(やっぱり外来人というのはバレていたか……)

 

先程子供達と遊んでいた時に少し聞いたのだが。

 

子供達の話によると泰蔵さんは最初此方を見た時に外来人と確信したそうである。

 

どうやって見分けたのだろうか?

 

「お主の行動を見ていて一発で外来人と判断できたわい、儂とてこれでももう八十じゃからな」

 

そう言って酒枡を一気に飲み干す泰蔵さん。

 

どうやら色々自分の行動に何か出ていたようである。

 

「さて、お主に話す事が二つ程あったんじゃったな」

 

と言って姿勢を正しながら酒枡に次のお酒を注ぎ出す泰蔵さん。

 

話す事とは一体何であろうか?

 

「まず此処に泊まる金じゃが、お前さんからは取らん」

 

(は?)

 

いきなり驚いてしまった。

 

ここに泊まるお金……宿泊料はいらないと言うのである。

 

「声が出なくて不便なお前さんから金を取るのはちょっと気が引けるしの、まあ一番の理由は外来人というところじゃがな」

 

(しかし……良いのだろうか?)

 

「もう一つはあの子達、茂(しげる)と彩音(あやね)と定期的に遊んでやってはくれないかの?」

 

もう一つの話は子供達と定期的に遊んで欲しいということであった。

 

それはお安い御用であるが……お金は本当に良いのだろうか?

 

「何故か? という顔をしておるな、話すとあれじゃが……親が居ないんじゃよあの子達は」

 

(親が居ない……)

 

つまり此処に住んでいるのはあの子達と泰蔵さんのみということであろう。

 

あの子達の親はどうなってしまったのだろうか?

 

「儂の息子に嫁が出来た時は喜んだもんじゃが……あの子達を産んだ後二人は火事に巻き込まれてしまっての……」

 

(……)

 

家族を失う気持ちは良くわかる。

 

自分の家族も今は……何処に行ってしまったかも不明である。

 

「子供を残していくバチあたりの息子じゃ……だからあの子達の遊び相手になってやって欲しいんじゃ、お前さんが住んどる間は」

 

(それなら尚更だな……約束しますよ)

 

『わかりました。あの子達の遊び相手は空いてる時はいつでも引き受けます』

 

「おおー頼まれてくれるか。そなたは心が広い者が多くて助かるのお」

 

そう言って酒枡をぐいっと飲んでいる泰蔵さん。

 

お金を払わない分、他に手伝える事は手伝いたい。

 

「しかし、注意するんじゃぞ。お前さん以外にも外来人を泊めたことが昔あったが……誰も外にいったまま戻ってこなかったんじゃ……」

 

(誰もって……)

 

つまり自分以外のここに泊まった外来人は皆食われたか他の方法で死んだかもしれないということであろう。

 

それだけ外は危険ということだ。

 

「じゃからなるべく夜は里の中か何処か人がいる所に居るんじゃぞ」

 

『心にとどめておきます』

 

そう書いて此方も酒枡を一気に飲み干してみた。

 

でも、やっぱり喉が辛い。

 

「ふぉふぉふぉ、まあ今日はゆっくりお酒に付き合ってくれ、明日良いものをくれてやるからの」

 

(良いもの?なんだろうな?)

 

『はい、お酒に付きあわせて頂きます』

 

そう書いてお酒を注いで貰った。

 

まだ幻想入りしてから二日目、ここまでは順調に進んでいる。

 

しかしここまでは運が良かっただけであろう。

 

(まあ明日こそは博麗神社に向かえる事を祈るか……)

 

そんな事を考えながらもこの夜はゆっくりと明けていくのであった……




毛玉「里にはカフェもあるそうだけどあえて茶屋にしてみた。まあ複数あっても問題無いかと……」
恭(調べたら俺の全財産1円だったのだが……)
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