「ではみんな!今回の依頼内容を説明します!とっても楽しいお仕事ですよー!」
電車脱線から1ヶ月後の夜、普段ならミズキからの説明だが、今回は千束がノリノリで説明するらしい。
「ミズキさんじゃないんですか?私はもう読みましたよ?」
「今回やたら乗り気なのよ」
「計画も超考えてたぞ」
「ちょいちょい!そこ3人!私語はシャラップ!あとそこのリス!…ゲームしてるだろ」
「聞いてるよー」
グダグダと話してから、やっと説明が始まった。
今回の依頼者は72歳男性。
妻子を殺し屋に殺されてから、アメリカへ移住。
「現在は筋…きん…」
「筋萎縮性側索硬化症」
「そう!それだ!それで去年余命宣告をされたので、最後に日本、しかも東京を見て回りたいって!」
つまり自分では動けない。
そしてまだ命を狙われている可能性があるため、俺たち3人でボディーガードをすることに。
「そもそも、なぜ狙われてるんですか?」
「それが大企業の重役で、敵が多すぎるのよ〜」
ただ俺は、この依頼を聞いてから妙な胸騒ぎがしていた。
この依頼、色々出来すぎな気がする。
色々と都合が良すぎるのだ。
「一護?どうかしましたか?」
「いや、なんでもねぇ。タイムスケジュールは千束が考えてあるから、それに従って行動するぞ」
「なんなら旅のしおりでも作ろうか?」
「クルミ!それだ!」
というわけで翌日。
来店した依頼人…松下さんを見て、俺はしくじったと思った。
あの手では、しおりをめくることすら出来まい。
俺はクルミに視線を送り、それに気づいたクルミが、何気ない仕草で声をかける。
「千束、データで渡そうか?」
「え?…っ!?」
ハッとしたように、手に持っていたしおりで口元を隠す千束の背中を、俺は軽く抓る。
俺たちから視線が外れてる間に、俺は千束を軽く窘める。
「千束、あういう時は何も反応しないのも、一つだぞ」
「うん…」
あー、もう。
そんなシュンとするなよ、仕方の無い妹だな。
「千束。笑顔で、な?」
俺たちが笑ってないと、松下さんも楽しめないだろう。
だからそんな辛気臭い顔はなし、ってこと。
「…うん!さぁ、松下さん!行きましょう!」
「千束、まだ転送が終わってません」
「あ」
「…うちの妹が騒がしくてすみません」
さて、クルミがデータを転送してる間、俺たちは雑談をすることに。
『今や機械で生かされてまして。おかしいでしょう?』
「いや、そんなことないですよ。俺もですし」
そう言って俺は、自分の心臓部分を親指で指さす。
『ペースメーカーですか?』
「いんや、丸ごと機械なんですよ」
「え?」
『人工心臓ですか』
「あんたのは毛でも生えてるんじゃない?」
「機械に毛が生えるかよ」
そう、俺の心臓は機械仕掛けだ。
あるものを代償に与えられた、アランからの福音であり、同時に俺たち兄妹を縛る呪い。
俺がいなければ、千束にはもっと幸せな生活があったのかもしれない。
俺が千束の未来を、幸せを奪った。
だから俺は、千束のそばにいる。
たとえこれが…制限時間付きだとしても。
「お兄ちゃん?」
「よし、出来たぞ」
お、終わったか。
さてと、頭を切り替えないとな。
「よし!千束、たきな。行くぞ!それでは松下さん!今日は楽しみましょう!」
■
墨田区中を走る水上バスを利用して、浅草寺を始め、色んな場所を回る。
途中祭りを冷やかしたり、射的で大人気なく千束と二人で景品を総ざらいしたり、お面を買って一緒に写メったりなど、結構しっかりした計画に、内心驚いていた。
『ちょっと日差しが強いですね…。中で休ませてもよろしいでしょうか?』
「じゃあ、私がついて行きますね」
「千束、頼むぞ」
途中まだ暑い日差しに当てられたからか、疲れてしまった松下さんが中に行くと言い、それに千束が同伴した。
千束なら、松下さんを飽きさせないだろう。
さてと俺は…
「で?なんか用か、たきな」
俺はたきなから差し出されたコーラ缶を受け取りながら、そう問いかけた。
たきなは少し迷う様な顔をしてから、俺の胸元を見てくる。
「おーい、流石に恥ずいぞ」
「…今朝の話、本当なんですか?」
「ああ、本当だぞ。鼓動なくてビックリするけど。すげぇぞこれ」
そう言うと、何を思ったのか、突然俺の胸を触ろうとしてくる。
「チョイチョイチョイ!何しよる!?」
「何って、確かめようと思いまして…」
「別にいいけど、男のものとはいえ、公衆の面前で乳を触ろうとするな!」
全く…この天然ちゃんは…。
俺たちは次の目的地である、江戸城にある学術文化ミュージアムに向かいながら、クルミたちと通信していた。
「…クルミ、ずっとつけてくるあのバイク、何者?」
『待て。調べてみる…出てきた。ジン。暗殺者だな。その静かな仕事ぶりから、サイレントジンとも呼ばれている。ベテランの殺し屋だとさ』
『サイレント…』
おや、先生の知り合いか?
何でもリコリスの訓練教官になる前、一緒に仕事をしていたらしい。
『ジンは本物だ。確かに声を聞いたことがないな』
それ静かすぎでしょ…コミュニケーション大丈夫なのか?
ミズキさんが発信機をつけてから、移動を始める予定だったが…
『クソ!バレてる!』
『ジンはマズイな…』
そのまま予定変更、予備のドローンとミズキでジンを補足後、1人人員を回して攻撃に出ることに。
しかし途中で、ミズキと連絡がつかなくなってしまった。
「私に任せてください!」
「たきな!」
「…たきなに任せよう。千束、松下さんを頼む」
俺たちは松下さんを連れて、東京駅に向かうことに。
一度人混みに紛れてから、ここから移動を始めることに。
『…ミズキがジンに発信機をつけてた!死んでも情報を残したぞ!』
『死んだと決まった訳では無い』
…こんな時に気の抜ける会話をするなよ。
通信機越しに聞こえる会話に、俺は思わずため息をつく。
そのままたきなとジンが、戦闘を開始したらしい。
『千束、一護』
「松下さん、ちょっと失礼。…こちら一護」
『ミズキが無事だったらしい。今そっちに向かってるから、店に返ってこい』
そうか…無事だったか。
それは良かった。
思わずホッと息をつくと、千束と目が合う。
「良かったね、ミズキが無事で」
「ああ。さてと、松下さんと移動するか」
「そうだね!おまたせ…松下さん?」
しまった…!
見失った…!?
「探すぞ!千束!」
「うん!松下さん…どこに行ったの!?」
駅周辺を走り回ったからか、割と直ぐに見つかった。
『…ジンが来てるんだね』
「「っ!?」」
なぜその事が…!?
『やつは私の家族を殺した。確実に私を殺しに来るはずだ』
その時、クルミからたきなが撒かれたという情報が来る。
まずいな…ここでじっとする訳にも…。
「と、とにかく今は一度帰りましよう!それからどうするか…」
『私には時間がないんだ』
…なんだろうな、この違和感。
この人、なにか変…って!
「松下さん!」
『千束!一護!逃げて!』
たきなとジンが同時に発砲する。
俺は咄嗟にカバンを盾にして、銃弾を防ぐ。
そのままたきなは、ジンにタックルして工事現場へと落下していく。
「っ!?たきなぁぁぁぁぁぁ!」
「クソ!千束!ここは頼む!クルミ!たきなの元までナビゲート!」
俺は工事現場に侵入して、銃を握りながら走る。
『そこを右!その先の足場を登れば、ジンの上を取れる!』
『一護急げ!たきなが足を負傷した!』
「間に合え…!」
見つけた!
俺は直ぐに引き金を引いて、とりあえず牽制した。
「っ!?」
流石に走りながらだと当たらないが、お構い無しに2マガジン分撃ち続ける。
マズいと思ったのか、こっちを撃ちながらがら逃げるように走るジンに、俺は障害物を飛び越えて追いかける。
ここで弾切れに。
俺は実弾から非殺傷弾に変更。
鉄骨の間を走り抜けながら、カバンに上着をまきつけて、それを投げる。
「っ!何!?」
それに気を取られた隙に、俺は鉄骨を支えに回転。
そのまま鉄骨の間から飛び出して、一気に接近。
「ヌゥン!」
俺はその銃口を、ジンの腹に突き刺す。
銃にはコンペイルセイターと呼ばれる、
そして、ゼロ距離射撃による全弾掃射で、ジンを吹き飛ばしたのだった。
「…ふぅ」
「任せてって言ったのに…」
「たきな!足は大丈夫か!?」
俺は直ぐにたきなに駆け寄って、足の怪我を見る。
出血は派手だが…問題無さそうだな。
「手当するから、スカートめくって。ああ、俺の上着被せていいから」
俺はカバンと上着をすぐに回収して、ワセリンと消毒液、ガーゼとテーピング、包帯を用意して、手早く応急処置を施す。
「これでよし。…1人でよく頑張ったな。でもあんな無茶やめてくれよ?こっちがヒヤヒヤするからな」
「…ありがとう…ございます…」
「2人とも!大丈夫!?」
そこへ千束が合流、それぞれの無事を確認していると
『殺すんだ!』
…松下さん?
どうやってここに?
『そいつは私の家族の命を奪った男だ!殺してくれ!』
「…」
『君はアランチルドレンなのだろう!なんのために命を貰った!』
…ああ、そういうこと。
つまりこれは…そういうことか。
「俺は…あんたの仇をとるために、生きてるわけじゃない。使命も知ったものか。俺の命の使い方は俺が決める」
今の俺は、千束に恥じない兄でありたい。
千束の兄として、妹の支えになりたい…それだけだ。
「私たちはね、松下さん。人は殺さないんだ。お兄ちゃんを救ってくれた人みたいに、誰かを助けられる人になりたい」
『何を言って…千束…一護…』
「「ん?」」
『それでは…アラン機関は…その命を…』
その時警察のサイレンが鳴り響く。
まずいな…派手にやりすぎた…!
「あのとりあえず…松下さん?」
どうしたこんな時に…って松下さん?
松下さんは、なぜか動かなくなった。
■
その夜、帰りの車内でミズキからの報告を聞いた。
「クリーナーから連絡が来たわ。指紋から身元が判明。先々週に病棟から消えた末期の薬物中毒患者らしいわ。もう自分で動いたり喋ったり出来ないらしいわよ」
なるほどな…。
目はゴーグル、音声はスピーカー、車椅子は遠隔操作か。
つまり
「松下さんは存在しない…?」
「じゃ、じゃあ、一体誰なの!?なんで私たちに殺させようとしたの!?なんのために!?」
こんなこと出来るやつ、俺は一つだけ心当たりがあった。
…アラン機関。
どうやら、そろそろタイムリミットらしい。
「…荒れそうだな…」
「え?なんて言った、お兄ちゃん?」
「何でもない」
俺たちはそのままリコリコについて、一息入れることに。
座敷に寝っ転がる千束は、俺に甘えるように膝枕を要求してきたので、仕方なくしてやることに。
「いっぱい話したのに…いいガイドだって言ってくれたのも、全部嘘か…」
「…千束は色々調べてたし、ガイドとして良かったのは、間違えねぇよ」
「そうですよ。千束のガイド、分かりやすくて楽しかったです」
「…ありがとう」
俺はぼんやりと外を見ながら、千束の頭を撫でていると、不意に身体に重みが。
「たきな?何しとんの?」
「今は私たちだけですから、いいでしょう?」
そう言いながらたきなは、なぜか俺の手を抱きしめ、そのまま俺の胸に耳を当てた。
「…本当に、聞こえないんですね、鼓動」
「…そうだぞ、すごいだろ」
さて、皆さんの気持ちを言いましょう。
…お前かい!!!
というわけで、千束ではなく、一護の心臓を人工心臓にしました。
あえて変えてみようと思い試しましたが、皆さん色々思うでしょうが、ねーわーとか、無理だわーって人は、すみません。
それでは失礼します。
ありがとうございました。