「そろそろだぞ、3人とも。準備はいいか?」
「はい」
「おー」
「はいは〜い」
俺たちはそれぞれ俺はスーツ、千束とたきなはドレス姿に着替えて、先生を追跡していた。
その時着替えるために、たまたま出ていたネックレスを指さしてたきなが
「…一護のそれ、ニュースに出てましたね。金メダル取ってました」
などと、ニュースの内容を教えてくれた。
ふ〜ん、そうなんだ。
でも俺は千束みたいに眼がいいわけでもないし、才能なんてものは持ってないのだよ。
「俺の才能はなんなんだろうね〜?」
「女を口説き落とす才能じゃないか?」
「どんな才能だよ!」
人聞きの悪いこと言うなよ、この駄リス!
などと言いながら、目的地に着いた俺たちは、3人で入口前まで来ていた。
「ええっと…どこだ?」
「ここですね」
「おお!すご〜い!映画みたい!」
たきなが壁の仕掛けを見つけてくれて、その中からキーボードが出てくる。
パスワードは確か…これだな。
「おお!流石ウォールナット!」
「2人とも、準備いいか?」
「はい」
「ミッションスタート♪」
■
さてまずはエントランスだが…本当に大丈夫か?
「いらっしゃいませ。失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしようか?」
「わさびのりこ」
「蒲焼幸子」
「蒲焼太郎」
…本当に大丈夫か?
マジで大丈夫なのか、クルミ?
これ駄菓子の名前だろ?
蒲焼幸子ってなんだよ!?
「…確認とれました。ようこそ、蒲焼太郎様」
…いいんだ、それで。
ちょっとデータに頼りすぎじゃないか、あなたたち。
もう少し自分で考えようぜ。
そのまま俺たちは席に通されて、飲み物を置かれる。
「…店長来ましたね」
「うわ、キメッキメじゃん」
「見事にキメてるなぁ…」
少し様子を見ていると、その隣に人が座る。
その人物は…意外な人物だった。
「「…ヨシさん!?」」
常連のヨシさん…吉松さんだ。
なるほど…こりゃ…逢引だな。
『逢引だこりゃ…』
「私としたことが…」
『待て、ミカはそういうことなのか!?お前ら早く言えよ…』
「…行くか。邪魔しちゃ悪い」
俺は2人を急かして店を出ようと、コソコソ動き出す。
不思議そうに首を傾げながら、挨拶するべきだというたきなに、千束が後で教えると言って、強引に言い含めた。
…どうやって教える気だ?
あいつ、腐った伝道書なんて持ってたか?
「手術後、私は千束を君に託した。千束に必要だと思い、一護も君に預けるように細工した。なんの為か、その意味を忘れたのか、ミカ」
「「…え?」」
…まさか…ヨシさんなのか?
俺に心臓を与え救ってくれたのは、ヨシさんなのか…!?
「一護に与えた心臓も、アランの知識の結晶なん…」
「ヨシさん…?」
「「っ!?」」
あ、バカ千束!
なんで今そっちに出た!?
「ミカ…!?」
「ち、違う!」
「先生は違いますよ。千束がたまたま盗み見ちゃったらしくて」
「てっきり司令に会うのかと…すみません、店長」
「一護…たきなまで…!」
千束が出た以上、俺たちも出るしかない。
俺は…あまり会いたくは、なかったんだけどな…。
「今の話…ちょっとだけ!ちょっとだけヨシさんと、話をさせて!」
…動かないところを見る限り、ヨシさんは話を聞いてくれるらしい。
そう思っていると、たきながこっそりと耳打ちしてきた。
「…私、先に出てますね」
「…すまん」
しっかしまさかヨシさ…いや、吉松さんだったとはな。
「あ、あの!お兄ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!ほらお兄ちゃんも!」
「…命を救ってくれた事は、礼を言います。ありがとうございました」
深く頭を下げる千束に押されて、俺も渋々お礼を言う。
「あなたをずっと探していました。私のたった1人の兄を救ってくれた人に、お礼が言いたくて…」
「それを認めることは出来ないんだよ。…そういう、決まりだからね」
冷たく突き放されても、千束は懸命に吉松さんに感謝の念を告げる。
しかし返ってきたのは…
「君はリコリス…そして一護くんはリリベルだろう。君たちは…」
「俺たちの才能の使い方は、俺たちが決めます」
これ以上千束に傷ついて欲しくなくて、俺は千束の前に出た。
「お兄ちゃん…!」
「千束は黙ってろ。吉松さん。確かに俺は、あなたに救われた。その感謝はあるが…それとこれは別だ。押し付けられた使命なんて、知ったものか。俺の命の使い方は、俺が決める。あんたらにそこまで口出しされる筋合いは無い」
「…それが、君の答えかい?一護くん」
「ああ」
俺たちに与えられた使命…そんなものは知りはしないが、薄々見当がつく。
だが、それをやり遂げる気は無い。
俺は…千束の兄として、千束に恥じない生き方をする。
リコリコへ来た時、そう決めたんだ。
「差別だ!」
俺と吉松さんが睨み合う中、クルミの声が響いた。
…何してるんだ、あいつら。
「ちょっと2人とも…」
「アランチルドレンには役割がある。ミカとよく話せ。そして…覚悟はある、そう見ていいんだね、一護くん」
「ああ」
「そうか。…残念だ」
そう言い残して、立ち去る吉松さんを、下まで送りについて行く先生。
そんな背中を、寂しそうに見送る千束を、俺は優しく撫でてやる。
「…また、来てくれるかな?」
「…さあな」
多分来ないだろう。
それを言うのは簡単だが、今の千束にそれを告げるのは、少々酷というものだ。
…先生も戻ってきたか。
「…なんで黙ってたの?」
「…そういう約束だからだ」
つまり先生は、約束を守ったわけだ。
なるほどなるほど…。
「先生らしい」
「やるな〜。私たち兄妹を欺くとは」
「…すまなかった、一護、千束」
「いいって〜!気にすんなよ〜!」
「…すまない」
先生、その謝罪は一体、何に対してなの?
■
翌日、お茶を配るたきなに、常連の阿部が尋ねた。
「あれ?一護くんと千束ちゃんは?」
「今日はまだ…」
「伊藤さん、ボードゲーム参加しません?」
ボードゲームを楽しむ一同の奥で、伊藤は締切に追われていた。
「めっちゃケータイ鳴ってんぞ。編集じゃないのか?」
「鳴ってない」
そんな様子に、言わんこっちゃないとでも言いたげに、クルミがため息をつく。
「たきなちゃん、やっぱ悪人は殺すべきかな?」
「べきですね」
清々しいまでの即答をするたきなに、みんなが顔を引き攣らせていると、奥から黒いタイトドレスに身を包んだミズキが現れた。
「ミズキ!?おま、日の高いうちからなんちゅー格好しとるんだ!?どこに行く気だ!?」
「もちろん、昨日の高級バーよ。お子様連れで入れなかったけど、私一人なら入れますから。そのゴールドカードで」
「そのIDなら消したぞ」
「なぜ!?高級バーよ!?」
「お前が低級だからだ。いいから座れ」
昨日身分を偽るために急ごしらえで用意したゴールドカードで、高級バーを楽しもうとしたミズキだが、それはクルミがとっくに無効化。
それでも諦めきれず、飛び出すミズキの前に立ちはだかるは、犬。
ーー何!?何!?野良イッヌ!メスじゃねぇか!メスはいらねぇぇぇぇぇぇぇ!
「…遅いですね、2人とも」
「…今日くらいは休ませてやれ」
外から聞こえる声を無視して、たきなとミカが静かに話す。
そんな2人は、寂しそうに心配そうに話していたが、不意に外から騒がしい足音が聞こえて…
「「錦木兄妹が来ましたー!」」
元気いっぱい、そんなハイテンションで、一護と千束が現れた。
「おー!2人とも!」
「…待ってたわよ!2人とも!」
「おー!最新話出来ましたー!読む読むー!」
「ちょ!?こら千束!まず着替え!」
「え!?殺したの!?ダメだよ殺しちゃ!?」
「いや聞けよ!というか、全部生かしてたら収集つかんだろうが!完結させるためにも、必要悪はいるぞ」
2人が来たことで、店内が一気に騒がしくなった。
その様子を、小さく笑いながら見ていたたきなは
「一護!千束!営業始まってるんですから、早く着替えてきてください!」
「ほらたきなにも言われたぞ!行くぞ!」
「うわぁ〜!続き気になる〜!」
「後にしろ!」
■
「…よし」
ーーお兄ちゃん!早く〜!
「わかったっつーの!」
■
「俺達には使命がある。…お前の使命はなんだ?」