千束のスマホが鳴る。
この3分クッキングの音は…たきなか。
「…出ていい?」
黙って頷く真島を確認して、千束が電話に出る。
『千束、一護と一緒ですか?今どこです?定期検診行ってないんですか?』
「ごめんごめん!急用でさ!ちょい遅れるって山岸先生にも言っといて!」
そう言って通話を切る。
「健康は大事だぜ?身体が資本だろ、俺らはさ」
「それ、銃突きつけながら言うセリフじゃねぇし」
「殺すにはまず、生きてないとな」
そう言って俺と千束へ1発ずつ、発砲してくる。
そう来るとと思っていた俺は、あっさり躱して、千束もその眼で見切る。
「ハハ!すげぇな!どうやってんだ?」
「「…秘密」」
「妹もできる見てぇだし、心臓にタネがあるって訳じゃ無さそうだな」
「…なんで知ってるコノヤロウ」
「フッ…秘密だ」
お互い睨み合うと、不意に銃を置いて、出しっぱなしになっていたDVDのパッケージを手に取る。
「ガイハードじゃん!好きなの?」
…は?
突然なんだこいつ。
「へ?う、うん…」
「お前ら誰が好き?」
別に特にないけど、しいていうなら
「パウエル」
「俺はマクレーン」
あの主人公のぶっ飛び具合が、いかにも映画って感じで好きだ。
「妹は警官か。マクレーンと合ってもないのに、あの相棒になる感じ…」
「「「そいでラストシーンで!…」」」
…クッソォ…意外に映画の趣味が合うのが、なんか腹立つ。
深いため息と共に、色々吐き出すと
「コーヒー淹れるけど?」
「苦いのダメなんだ。他のない?」
「図々しいわ」
などとツッコミを入れながら、千束とコーヒーを淹れて、すっかりお話モードに。
「で?なんの用?」
「ドンパチしに来たって訳でもねぇだろ」
「お前ら、俺の事覚えてるか?」
俺と千束は首を横に振る。
「そうか。なら昔話をさせてもらうか…電波塔事件」
そこで語られたのは、こいつがあの時のテロリストの仲間であること。
そしてその時の俺たちが、いかにも怪物だったかってこと…っておい。
「人を怪物みたいに描写するな」
「実際バケモンだったぞ、お前ら。ていうか思い出したか」
そして同時に、真島という名前への聞き覚えに、やっと理解出来た。
あの時たまたま聞こえてきたから、慌てて探したが…お前だったのか。
まあそれはいい。
気になってたモヤモヤが、スッキリしただけだし。
ただ知ってると知られるのは、なんか癪だ。
「「いや?お前のことなんか知るか」」
「ははは!だよなァ!」
真島は爆笑しながら、懐から何かを取りだした。
それは…!?
「俺も持ってるぜェ、それ」
アランのネックレスだと…!?
こいつ、マジで何者だ!?
「っ!?じゃあなんで、こんなことしてるの!?」
「は?」
「それ持ってるからには、なんかすごい才能があるんでしょ!?人を幸せにするような!あんたがやってることは逆でしょ!?」
千束…それは違うんだ。
アランはそんな善人集団じゃない。
表向きの一面しかフォーカスされないだけで、実態は…そうじゃないんだ。
「お前らだって殺し屋じゃねぇか」
「おい一緒にすんな!私たちはちゃんと人助けしてるー!ね、お兄ちゃん!」
「…まあな」
小さいことだけど、人のためにはなってるだろう。
「おい妹…お前はアランを平和推進機関かと思ってるのか?」
「あんた以外は、みんなそういう結果を残してるでしょ」
「『私もメダリストみたいに、世界に感動を与えたい!』…てか?ハッ!おめでたいヤツだな。兄貴の方は…どうやら分かってるみたいだな」
うるせぇよ、そこで俺に振るな。
あとその声、クソきめぇよ。
「妹、あいつらはそんなやつらじゃねぇぞ」
「なんと言われても、私は私が決めた誓いがある。お兄ちゃんを助けてくれたヨシさんみたいに、私も誰かを助けたい。ただそれだけ」
「っ!?千束!」
余計なことを言う千束に、釘を刺したがあまりにも遅かった。
「ヨシさん?…アラン機関のやつか」
「あんたには関係ない!」
全く…このアホ妹は…なぜこう、感情的になりやすい。
「アランのやつと接触してるのか?」
「あんたが何を知ってようが、私は私のやりたいようになりますー!」
「…ハハ!イイねぇ、兄貴の方はおもしれぇと思ったが、妹もいいじゃねぇか。こうじゃねぇとバランス取れねぇよなァ。俺たちは同類だよ、兄妹」
そう言って真島は銃をチラつかせる。
「俺たちは、殺しの腕を買われたのさ。なぁ、兄貴?」
「絶対に違いますー!ねぇ、お兄ちゃん?」
「…」
真島の言葉は…正しい。
殺しの腕を買われて、心臓を与えられた。
「…俺から言えるのは、アラン機関は良くも悪くも純粋だってことだ」
「ハハ!んだよォ、やっぱ兄貴の方は分かってんじゃねぇか。そう、純粋なんだよ。殺しを肯定できるくらいにな」
そう言うと、銃を閉まって立ち上がる真島。
…え、帰るのか?
この空気で?
「え?帰るの?」
「お前らの仲間が来たからな。あぁ、あと兄貴の方。果物ナイフは閉まっとけ」
「っ!?チッ…」
こいつ、気づいてやがったのか…!?
コーヒーを淹れた時、こっそりと忍ばせたのだが、どうやら気づかれていたらしい。
こいつ…かなりできる!?
数発の銃声が聞こえ、慌てて駆けつけると、
「たきな…」
本当にたきなが、そこにいたのだった。
■
夜、閉店後のリコリコで、俺たちは情報共有をしていた。
「真島が家にきた〜!?」
「ミズキうるさい」
俺は目の前のミズキを、片耳塞ぎながら睨むが、どうやら効いていないらしい。
「あいつも…アランのネックレス持ってた」
「「「「っ!?」」」」
才能ね…。
確かにあいつには、殺しの才能がありそうだな。
それにしてもあいつ…一体どうやってたきなの接近に気づいてたんだ?
…ご!…ちご!一護!聞いてましたか!?」
「…あ、悪い。なんだって?」
「私の電話には、3コール以内に出てください!もし出なかった場合、次のワン切りで、すぐに向かう合図とします!分かりましたね!?」
「さ、3?それはいくら言っても…」
「分かりましたね!?」
「…はい」
■
閉店後、俺は地下の射撃場を借りて、射撃訓練をしていた。
…こんなもんか。
「…ふぅ」
「お疲れ様です、一護」
「たきな?お疲れさん」
たきなが降りてきた。
俺になんか用か?
そう思っていると何も言わずに近づいて、そっと俺の銃を撫でていた。
「…一護の銃も、支給品とは違いますよね?」
「ああ、オリジナルカスタムだ」
俺の銃Ruger-57は、支給品が馴染まず困っていた俺に、先生が見繕ってくれて、一緒にカスタムしてくれた一点物だ。
「よく分かったな」
「こんな特徴的なコンペイルセンターは、一護と千束だけですよ。服や鞄も?」
「そ、リリベルには無いからな。都市部に溶け込むには必要だって、散々言いまくって用意させたんだよ」
男がサッチェルバックは、流石にダサいしな。
普通のバックに変えてもらった。
技術局には迷惑かけだろうな。
というか、さっきからなんだ?
「…吉松氏からでは、ないんですね」
「…まあな」
そういう事か。
あいつの銃は吉松さんからの贈り物だしな。
「一護は、吉松氏が来ないことに、何も思わないんですか?」
「ないな。むしろ会いたくないし」
千束にとっては俺を助けてくれた救世主だろうが、俺からしたら千束を縛り付ける契約をもちかけた悪魔だ。
…いや、それに同意してしまった俺の責任なのだろう。
その象徴を見たくない…そういうことだ。
「…これをどうぞ」
「ん?これって…」
「ハロウィンの贈り物です」
…驚いた、まさかたきなから貰えるとは。
袋を開けると中には、銀の銃弾が入っていた。
「これは…」
「銀の銃弾は、魔除けにもいいそうなので。もちろん偽物です。というわけで…はい」
「はい?」
「Trick or Treat」
…おおっと、マジか。
流石になんもねぇぞ、どうする…?
「無いんですか?」
「いや待て…上行こう!上でコーヒーでも…」
「ないんですね。ではTrickです」
俺の言葉をぶった切って、ズンズン迫ってくるたきなに圧されて、壁際まで追い詰められる。
「ちょ…たき…な!?」
グンと襟首を掴まれ、たきなの方に引っ張られた俺は、そのままの体勢で…
ーーチュッ!
「…へ?」
「…なるほど、こういうことですか」
今…何された?
今の暖かくて柔らかくていい匂いだったのは…なんだ?
「それでは私はこれで。お疲れ様です」
「お、おぅ…」
何事も無かったように立ち去るたきなを、俺は呆然と見送るしか無かったのだった。
その横顔は、心なしか赤くなっていたのは、俺の見間違いだったのだろうか?
■
翌日、昨日行けなかった定期検診に来ていた。
「ささ、さっさと済ませてね?終わった?おおお、おわおわ、終わった?ねぇお兄ちゃん?終わったの?」
「もう少し」
「…はい、終わりましたよ」
俺が千束と一緒に定期検診を受ける理由…それは、千束が大の注射嫌いだからだ。
本人曰く避けられないかららしい。
…まあ避けちゃダメだしな。
「ぃやっと終わったー!」
「いつもこんな風なんですか?」
今日は山岸先生ではなく、代理の看護師が担当している。
「痛いのもあるけど、異物を入れられるのがね〜。山岸先生はビタミン剤だって言うけど…」
「千束。いいから着替えろ」
俺がそう言って、千束に背を向けた時
「…今日のは違いますけどね」
「…え?お兄…ちゃん…」
千束の力のない声と、倒れる音を聞いて、咄嗟に銃を抜きながら振り向くと、千束に銃を突きつけた状態で、俺を見る看護師がいた。
「…一応言っておく。この距離なら、千束を傷つけずにお前を撃ち抜けるぞ」
「私からも言っておきましょう。私を殺せば、解毒剤の所在は分からなくなりますよ。それに…こうすれば撃てませんよね?」
そう言って看護師は、千束の身体を盾にして、銃すら千束の身体に隠れるように握る。
チッ…仕方ない。
俺は銃を捨てて、両手を上げた。
「そこにあるアタッシュケースの中の電極を、自分の胸につけてください」
「…てめぇ、吉松の部下か」
「余計なお喋りをする暇はありませんよ」
…タイムリミットか。
まあ、悪くない人生だったな。
俺は上を脱いで、自分の胸に電極をつけた。
その時、俺のスマホが鳴る。
「…出なくてよろしいのですか?」
「そんな暇ねぇんだろ?ウザってぇ」
…たきな、頼む。
気づいてくれ。
そして千束を…救ってくれ。
「…これでいいのか」
「ええ、そこに寝てください」
俺は医務室のベッドに寝かせられる。
わざと慎重に動いて、時間を稼ぐ。
だがそれもあまり意味はなく、ついに時がしてしまった。
「…それでは、彼女の解毒剤について、お教えしましょう。…ただの睡眠剤ですので、そんなのありません」
っ!?
ハメられた!
「てめぇ!」
直ぐに起き上がろうとした直後、俺の胸に大量の電流が流れ込んだ。
「ガアァァァァァァァァァァ!?」
クソ…意識が…!
俺はあまりの電圧の強さに、気を失ってしまったのだった。