ーーお兄ちゃん…!
これは夢だ…懐かしい夢。
まだ俺が●●●●で、双子の妹の●●●●と引き離される直前。
あの時、手を伸ばす妹に俺はなんと言ったんだっけ?
ーー●●。これをお前にあげる。いつかまた会えるさ。その約束だ。
ーー…うん!絶対だよ!お兄ちゃん!
…そうだ、この時リボンをあげたんだっけ?
それにしても…とんだ嘘つきだな、俺は。
子供ながらに、もう出会いないことは分かっていた。
なのに…また出会えた。
もし神様とやらがいて、なにか授けてくれたのなら、この再会こそ贈り物なのだろう。
なのに俺は…
「…おお…勢揃いだな…」
この奇跡を、手放す時が来てしまったのだ。
■
山岸に診断をしてもらいながら、一護は自分の置かれた状況の説明を求めた。
「どんな感じ?」
「…急激な過充電で、ハードとの接続が出来なくなった。…もう充電出来ないよ」
「「…え?」」
「あら〜…マジか…」
単純だが、効率的な破壊方法ではある。
一護はどれだけ動けるか、山岸の話を聞く。
「充電直後だったから…もって2ヶ月。動き回らなければ、もうちょい持つよ」
「まあ、じっとしてるとか無理だろうしね〜」
「待って…待ってよ…」
「2ヶ月って…何が…ですか?」
一護が何も言わずに曖昧に笑っていると、代わりにミカが答えてくれた。
「余命だ。…一護の余命」
ミカの言葉に、千束が崩れ落ち、たきなが口を震わせながら叫ぶ。
「そんな…そんな!?壊れたところを直せば!」
「出来ないのよ!悔しいけどよ!私たちの技術じゃ、どうにも出来ないのよ」
これはアランの結晶だ。
そうそう手に入るものじゃないし、たとえ手に入っても、その頃には一護はとっくの昔に死んでるだろう。
つまり…詰みだ。
「…ッ!」
「ちょいちょい!どこ行く気だよ、たきな?」
「あの看護師を始末します!」
「いいから」
「いいわけないでしょ!?」
「いいんだよ」
一護の言葉に振り返ったたきなは、初めて一護の顔を見た。
「…あ」
「元々長くなかったんだ。生きてるだけマシってやつさ」
どこか達観したような、穏やかなその顔を見て、たきなはそれ以上何も言えなくなった。
一護はそのまま、蹲る千束へ視線を向ける。
「千束」
「いや…」
「千束」
「いや!聞きたくない!」
「千束!」
いやいやと駄々をこねる子供のように、一護の言葉を拒否する千束だったが、一護の強い声にビクッとしてから、恐る恐る顔を上げる。
「千束、おいで」
千束はフラフラと立ち上がり、一護の腕の中に倒れ込むように抱きつく。
「ごめんなさい…私のせいで…」
「いいんだよ。千束が無事で良かった」
「お兄ちゃん…!お兄ちゃん…!うぇぇぇぇん!」
一護は千束が泣き止むまで、頭を撫でる手を止めなかったのだった。
■
それからというもの、千束もたきなもやたらと俺の代わりに何かをやろうとして、俺の負担を減らそうとしてくる。
…ん、電話か。
「はい、喫茶リコリコです」
『じき死ぬにしては元気そうじゃないか、一護』
「…おや、こっちに電話なんて珍しいね、虎杖のおっさん」
虎杖のおっさんがここに電話なんて、本当に稀なことだ。
いつもなら俺のスマホに直電なのに…。
『ふん。せっかく鍛えてやったのに、何も残さず死ぬ気か、小僧』
「はいはい。せっかくなんだから、楽しくお話しようぜ、おっさん」
『ふん。貴様と話すことなどない。死ぬまで走り続けろ、狂犬』
そう言い捨てて、電話を切るおっさん。
…マジでなんなんだ?
あの人はハッキリと、俺たちを使い潰しの駒として見てるから、こんな死にゆく者に電話はなんてしてこないだろうが…?
「お兄ちゃん!そろそろ仕事だよ!」
「おー。着替えるわ」
直ぐに着替えて仕事を始める。
とはいえチンピラを捕まえるだけだから、特に苦労なく、アッサリ終わった。
「うん。そう、よろしく」
クリーナーに連絡していると、視界の端でなにかが動いた。
見ると、捕まえたやつが一人、逃走を図っていた。
「たきな、逃げてるぞ」
「え?あ!?ま、待ちなさい!」
「仕方ないな…。千束、ここ見てろ」
俺は直ぐに追いかけて、逃げたやつを捕まえるが何故か千束もついてきてきた。
「…おい、残りは?」
「「…あぁ!?」」
「全く…こいつ頼むぞ」
俺は直ぐに追いかけて、非殺傷弾で無力化する。
…あいつら、本当に気にしすぎなんだよ。
「バカ…」
雨に降られながら、俺は先生からくすねたタバコをふかした。
「…マッズ」
■
「…タバコ、吸うんだな」
誰もいないリコリスの店内で、ミカとクルミが話していた。
「罪悪感を覚えると吸いたくなる。自分を痛みつけるのには、ちょうどいい。…まあ、一護がマネてしまっているのは、悪影響だがな」
「そんなマズそうな顔をするなら吸うな」
「…それで?天下のウォールナットは、なにかわかったか?」
ミカの問いかけに、クルミは肩を竦めながら呟いた。
「ダメだ。吉松とアランについて、全て消された痕跡しかなかった。だからこうして慣れない茶など入れて、直接知る人物に聞こうとしているんだ。気付いているだろう?ジンを使い、2人に殺しをさせようどしたのも、一護の心臓を壊したのも、吉松だと」
そう言われたミカの傍には、クルミが淹れたコーヒーが置いてあった。
そのコーヒーを一口啜って、重い口を開いた。
「…10年前の話だ」
■
それは一護と千束が、それぞれ機関の協力施設に引き取られてすぐの話。
お互い直ぐにファーストになるだけの実力を示していたが、千束がどうにも伸び悩んでいた。
「…すごいな。銃でこの子たちは殺せないかもしれない」
「だが…」
動画を見てそう驚いていた吉松だが、共に見ていたミカが一護の方を指さした。
そこには苦しそうに蹲る一護が映っていた。
「先天性心疾患…病が彼を殺す。そして、その存在が、千束のことを縛り付けている」
まだ兄離れ出来ない千束は、いつも兄の影を追いかけるようにフラフラしており、それをフキが止めるのが日常になっていた。
「なるほど…。つまり、千束の枷を外すために、一護の命を救って欲しいと。…いいでしょう」
それからしばらくして、ミカの元へ人工心臓が届けられた。
ただその人工心臓には、ある欠点があった。
「耐久性に問題が…。恐らく、成人までは…」
「リコリスとリリベルも、17,8が平均だ。それまで生きれば…」
「それまでに殺せばいいと?…結構。どんな才能であれ、世界に届けられるなら、それでいい」
それからしばらくして、ミカは千束の才能を伸ばすために、家族ごっこを始めた。
■
ミカは重く話す口を一度止め、コーヒーを啜った。
そんな様子を見ながら、クルミは続きを促した。
「お前も2人を道具として見ていたのか。…いつからだ?」
■
一護の手術前、千束はごく稀に病院に訪れていた。
だがその時の一護はかなり危ない状況で、ほとんど意識がないことが多かった。
そのため、その時の事は一護は知らず、物心着く前だった千束も、ほとんど覚えていなかった。
「あなたがお兄ちゃんをたすけてくれる人?」
だからだろう…当時、吉松に既に出会っていたことを、覚えてなかったのは。
「…いや、私ではないよ」
「うそだよ!だってここに、そんなかっこいいスーツきてる人、あなただけだもん!ねぇ!なんてお礼したらいい?」
そんな風に近づく千束に、吉松は曖昧に笑うだけだった。
そこへやっと、ミカが追いついた。
「千束!っ!?」
「…君には大きな使命がある。それを果たしてくれ。私そのために…そうだな、さしずめ、君のお兄さんの救世主になったんだ」
そう言い残して立ち去ろうとする吉松に、千束は抱きついた。
「ありがとう、きゅうせいしゅさん。私、お兄ちゃんをたすけてくれたあなたみたいに、私もだれかをたすけたい!」
それからしばらくして、一護の手術が行われ、その後千束に銃が贈られた。
「救世主さんからだ」
ミカはそう言ってそれを手渡してから、千束を鍛えた。
それから数ヶ月後、2人はそれぞれの機関に引き渡され、そして旧電波塔にて、兄妹は再会したのだった。
■
「それから千束とミズキと共にDAを出て、この店を始めた。そしてその2年後、一護がこの店に来たんだ」
「ん?同時期じゃないのか?」
クルミはてっきり、一緒に出てきたのだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「この店ができた頃、よく千束を狙う輩が多くてな。その中にはリリベルもいた。そのことに怒った一護が、部隊を壊滅させた後、虎杖と交渉、千束の動向を監視するという名目の極秘任務につく形で、リコリコに来たんだ。そしてこの店は…そもそも、いつか一護を迎え入れるために、千束が作りたいといった店だったんだ」