君影草の俺が頑張る話   作:ネコ耳パーカー

18 / 26
あそびのしおり


Play itinerary

長いミカの告白を聞き、クルミは情報を精査した。

 

「…余計な話も混じったかな」

 

「いや、やつの人柄も手がかりになる。…なぜ一護を狙った?」

 

「使命を果たさない者を処分…いや、使命を果たさせるために、その枷を外させる?」

 

「それが目的なら、一護はもう死んでいる。…まあ、これで分かったこともある。おそらく僕を狙ったアランも吉松だし、武器取引を行った真島とも繋がってるだろう。思想的に真島に手を貸すのも理解できる」

 

「つまり真島を捕まえれば、一護の心臓も分かる、という事ですか」

 

そんな2人の話をずっと聞いていたたきなが、2人の間に割って入る。

 

「っ!?聞いていたのか!?」

 

「はい。ミズキさんと一緒に」

 

「ちょ!?私までバラす必要ないじゃない!?」

 

ちゃっかり自分の存在までバラされたミズキは、慌てたように出てきた後、気まずそうに頭を搔く。

 

「やつが探せない以上、動きの派手な真島から追うしかない。たきな、これはチャンスだぞ!」

 

チャンスというのは、この日の昼、一護と千束がいない間にフキたちが来て、DAへの復帰辞令が出たのだ。

…厳密には、千束にも前日に召集命令が出たのだが、当然のように拒否したのだ。

その目的は、大々的な真島討伐作戦。

その作戦に乗れば、一気に真島に近づけるという訳だ。

 

「…断ろうと思ってました」

 

「なっ!?どうして!?」

 

だかたきなは、その話を断ろうしていた。

なぜなら…

 

「一護との最後の2ヶ月だしね…」

 

その言葉に小さく頷くたきな。

一護との時間を、少しでも大切にしたかったのだ。

 

「でも私、召集に応じようと思います。一護が生きる可能性が、少しでもあるなら」

 

その決意に満ちた眼を見たミカが、深く頷く。

 

「なら2人には、私から言おう」

 

「いえ、私から直接。ですが…時間をください。私に考えがあります」

 

「「「?」」」

 

そして翌日

 

「一緒に出掛けましょう」

 

「「え?」」

 

 

「い〜らっしゃいませ!へいらっしゃい!いらっしゃい!へいいらっしゃい!へいへいへいへいら〜しゃい!」

 

「じゃがしぃ!」

 

朝から元気だな、おい。

というか千束、マジでうるさい。

 

「あ、ゴメン。にしても…暇だね〜」

 

確かに…閑古鳥が鳴くなんて、珍しいこともあるものだ。

うちは隠れ家的喫茶店ではあるが、意外にも賑わいがある。

だからここまで静かなことは、あまりないのだ。

そう思っていると、ドアのベルが鳴る。

 

「あ、いらっしゃいませ…おぉ、おかえり」

 

「たきなか。珍しいな、表からなんて」

 

一応従業員用の裏口があるが、俺や千束は遠慮なく表から入るのに対して、たきなは閉店後や開店前を除いて、ちゃんと裏から来る。

 

「ってあれ?私服なんて珍しいな」

 

「2人に話があります」

 

「「え?」」

 

そう言われた俺たちは、座敷に連れてかれ何故か対面で座らさせる。

…何この構図?

 

「なにかの遊び?」

 

「え?」

 

「んなわけねぇだろ…」

 

そんなアホなこと言う妹に、ため息ををついていると、スっとたきなが何かを置いた。

ピンク色のペンギンがついた冊子だ。

 

「あそびのしおり…?」

 

「一緒に出掛けましょう」

 

「「え?」」

 

俺たち、何回これでハモるんだ?

と思っているうちに、いつの間にか千束が先生に許可をとっていた。

 

「いってこい」

 

というわけで、急いで戻ってから私服に着替えたはいいのだが…

 

「たきな、寒くね?」

 

今更だが、こいつ夏服で来やがった。

もうちょい季節感考えろうぜ?

 

「これ、2人が選んでくれたものですよ」

 

「いや夏服だろ。他にはないの?」

 

「ないです」

 

そんなキッパリ…。

やれやれ仕方ない。

 

「千束、やるぞ」

 

「OK!私たちがたきなさんの冬バージョン選んじゃるよー!」

 

「いや、どこの人間だお前」

 

「え、知らない」

 

…そうだな、俺もだった。

などという下らないことを話しながら、たきなのファッションショーversion冬を決行。

 

「おー!いいじゃん!流石お兄ちゃん!」

 

「たきな素材がいいからな、なんでも似合う」

 

「ありがとうございます…」

 

恥ずかしそうにするたきなだったが、スマホのアラームが鳴ると、突然更衣室を出る。

 

「時間です」

 

「え?コートは?」

 

「時間が無いので」

 

「ちょ!?マジか!?」

 

俺は適当に合いそうなえんじ色のコートを購入して、慌てて着いていく。

それからも、たきなのスケジュールはかなり細かく。

 

「時間です」

 

「え!?レース中!?」

 

「時間です」

 

「あと1回で取れそうなんだが!?」

 

「時間です」

 

「もう少し見ようよ!」

 

「時間です」

 

「「まだ食べてる!?」」

 

たきなが作った段階で予想はしていたが、まさかこんなにタイトなスケジュールだとは。

俺も千束もその辺はルーズな方なので、こういうきっちりしたお出かけは初めてだ。

 

「ふぁんへほんふぁにひそふぃふぇるふぉ〜!?」

 

「…んぐっ。飲み込んでから喋れ、行儀の悪い。で?たきなはなんで、そんなに急いでるんだ?」

 

「秘密です。後、なんて言ったか、分かるんですね…あ!?」

 

たきな?

慌てて走るたきなを追いかけると、そこには臨時休館の看板が置かれた水族館が。

 

「あらら…ま、人生計画通りとは行かんわな。よしたきな、着いてきんさい」

 

「お兄ちゃん、どこの人なの?」

 

「知らん」

 

などと言いながら連れてきたのは、釣り堀。

暇な時、ぼんやりとここで釣りをするのだ。

 

「トラブルを楽しむのが、錦木流なのさ」

 

「…釣れませんね」

 

「釣れないね〜」

 

「釣れねぇな」

 

「楽しいですか?2人とも」

 

「「楽しいよ、たきながいればさ」」

 

その時また、たきなのスマホが鳴る。

お、時間ですな。

というわけで移動しているのだが…

 

「最後の欄、秘密です。だな」

 

「たきな、どこ向かってるの?」

 

「秘密です」

 

そうして着いたのは、丘にある公園。

着いたはいいが…寒いな。

 

「へ…ヘックシュン!」

 

「だからコート買った方が良かったのに〜」

 

「ま、まあ…」

 

ったく仕方ねぇな…。

俺は買ったえんじ色のコートを取りだして、タグを外してたきなに着させる。

 

「ほら、お前のコートだ。着とけ」

 

「え?あ、ありがとうございます…」

 

「おー!お兄ちゃんやるー!ほい、たきな。私からもやる!」

 

そう言って千束も、つけてきたマフラーをたきなに渡した。

 

「すみません…」

 

「…で?何を待ってるの?」

 

「…雪。9時から」

 

なるほど、そりゃ寒いわけだ。

俺は曇り空を見上げながら、ぼんやりと笑う。

 

「完璧なスケジュールのはずだったんですが…」

 

「ま、神様っていうのは気まぐれなんだろ」

 

そう言うと、たきなは暗い顔をして俯く。

 

「…今日だけは、やめて欲しかったですね…」

 

なんでだ…?

…まさか、たきなは…。

 

「DAに戻れるのか?」

 

「え!?そうなの!?やったじゃん!いつ!?」

 

「…明日」

 

そうか、そうなのか。

それはめでたいことだ。

本当に喜ばしいことなのに…なんで、そんなに暗い顔をしてるんだ?

 

「嬉しくないの?」

 

「…分かりません」

 

「そっか」

 

それなら確かに、降ってくれた方がロマンチックだったかも。

そう思いながら、俺は明かりの灯った街を見下ろす。

 

「理不尽なことばかりです。そうは思いませんか?」

 

確かにそうだが…それに囚われてる暇はない。

 

「自分でどうにもならないことで悩んでも、仕方ねぇよ。受け入れて、目の前のことに全力!それで大概いい方に転がるもんだ。それに…たきなの計画は大成功してるぜ。すげー楽しかったし、な?千束」

 

「うん!やるな、たきな!」

 

「…やったぜ」

 

そう言って俺たちは、軽く拳をぶつけ合う。

 

「…今日中に連絡しないと」

 

なら急がねぇとな。

俺はたきなの背中を押してやる。

 

「その2つは、俺たちからの餞別だ。もってけ」

 

「…ありがとうございます。行ってきます」

 

そう言ってたきなを送り出した直後。

ふわふわとなにかが降ってきた。

 

「…あ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 

「ああ、降ってきたな…雪」

 

振り返ったたきなと眼が合う。

その笑顔に、その瞳に…その全てに、俺は見惚れた。

…ああ、ちくしょう。

なんで今、自覚しちゃったかな…。

その不器用なくらい真っ直ぐな君に…俺は。

 

「…好きだなぁ…」

 

「お兄ちゃーん!帰るよー!」

 

「おう!今行く!…じゃあな、たきな」

 

どうか君の未来に、幸がありますように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。