長いミカの告白を聞き、クルミは情報を精査した。
「…余計な話も混じったかな」
「いや、やつの人柄も手がかりになる。…なぜ一護を狙った?」
「使命を果たさない者を処分…いや、使命を果たさせるために、その枷を外させる?」
「それが目的なら、一護はもう死んでいる。…まあ、これで分かったこともある。おそらく僕を狙ったアランも吉松だし、武器取引を行った真島とも繋がってるだろう。思想的に真島に手を貸すのも理解できる」
「つまり真島を捕まえれば、一護の心臓も分かる、という事ですか」
そんな2人の話をずっと聞いていたたきなが、2人の間に割って入る。
「っ!?聞いていたのか!?」
「はい。ミズキさんと一緒に」
「ちょ!?私までバラす必要ないじゃない!?」
ちゃっかり自分の存在までバラされたミズキは、慌てたように出てきた後、気まずそうに頭を搔く。
「やつが探せない以上、動きの派手な真島から追うしかない。たきな、これはチャンスだぞ!」
チャンスというのは、この日の昼、一護と千束がいない間にフキたちが来て、DAへの復帰辞令が出たのだ。
…厳密には、千束にも前日に召集命令が出たのだが、当然のように拒否したのだ。
その目的は、大々的な真島討伐作戦。
その作戦に乗れば、一気に真島に近づけるという訳だ。
「…断ろうと思ってました」
「なっ!?どうして!?」
だかたきなは、その話を断ろうしていた。
なぜなら…
「一護との最後の2ヶ月だしね…」
その言葉に小さく頷くたきな。
一護との時間を、少しでも大切にしたかったのだ。
「でも私、召集に応じようと思います。一護が生きる可能性が、少しでもあるなら」
その決意に満ちた眼を見たミカが、深く頷く。
「なら2人には、私から言おう」
「いえ、私から直接。ですが…時間をください。私に考えがあります」
「「「?」」」
そして翌日
「一緒に出掛けましょう」
「「え?」」
■
「い〜らっしゃいませ!へいらっしゃい!いらっしゃい!へいいらっしゃい!へいへいへいへいら〜しゃい!」
「じゃがしぃ!」
朝から元気だな、おい。
というか千束、マジでうるさい。
「あ、ゴメン。にしても…暇だね〜」
確かに…閑古鳥が鳴くなんて、珍しいこともあるものだ。
うちは隠れ家的喫茶店ではあるが、意外にも賑わいがある。
だからここまで静かなことは、あまりないのだ。
そう思っていると、ドアのベルが鳴る。
「あ、いらっしゃいませ…おぉ、おかえり」
「たきなか。珍しいな、表からなんて」
一応従業員用の裏口があるが、俺や千束は遠慮なく表から入るのに対して、たきなは閉店後や開店前を除いて、ちゃんと裏から来る。
「ってあれ?私服なんて珍しいな」
「2人に話があります」
「「え?」」
そう言われた俺たちは、座敷に連れてかれ何故か対面で座らさせる。
…何この構図?
「なにかの遊び?」
「え?」
「んなわけねぇだろ…」
そんなアホなこと言う妹に、ため息ををついていると、スっとたきなが何かを置いた。
ピンク色のペンギンがついた冊子だ。
「あそびのしおり…?」
「一緒に出掛けましょう」
「「え?」」
俺たち、何回これでハモるんだ?
と思っているうちに、いつの間にか千束が先生に許可をとっていた。
「いってこい」
というわけで、急いで戻ってから私服に着替えたはいいのだが…
「たきな、寒くね?」
今更だが、こいつ夏服で来やがった。
もうちょい季節感考えろうぜ?
「これ、2人が選んでくれたものですよ」
「いや夏服だろ。他にはないの?」
「ないです」
そんなキッパリ…。
やれやれ仕方ない。
「千束、やるぞ」
「OK!私たちがたきなさんの冬バージョン選んじゃるよー!」
「いや、どこの人間だお前」
「え、知らない」
…そうだな、俺もだった。
などという下らないことを話しながら、たきなのファッションショーversion冬を決行。
「おー!いいじゃん!流石お兄ちゃん!」
「たきな素材がいいからな、なんでも似合う」
「ありがとうございます…」
恥ずかしそうにするたきなだったが、スマホのアラームが鳴ると、突然更衣室を出る。
「時間です」
「え?コートは?」
「時間が無いので」
「ちょ!?マジか!?」
俺は適当に合いそうなえんじ色のコートを購入して、慌てて着いていく。
それからも、たきなのスケジュールはかなり細かく。
「時間です」
「え!?レース中!?」
「時間です」
「あと1回で取れそうなんだが!?」
「時間です」
「もう少し見ようよ!」
「時間です」
「「まだ食べてる!?」」
たきなが作った段階で予想はしていたが、まさかこんなにタイトなスケジュールだとは。
俺も千束もその辺はルーズな方なので、こういうきっちりしたお出かけは初めてだ。
「ふぁんへほんふぁにひそふぃふぇるふぉ〜!?」
「…んぐっ。飲み込んでから喋れ、行儀の悪い。で?たきなはなんで、そんなに急いでるんだ?」
「秘密です。後、なんて言ったか、分かるんですね…あ!?」
たきな?
慌てて走るたきなを追いかけると、そこには臨時休館の看板が置かれた水族館が。
「あらら…ま、人生計画通りとは行かんわな。よしたきな、着いてきんさい」
「お兄ちゃん、どこの人なの?」
「知らん」
などと言いながら連れてきたのは、釣り堀。
暇な時、ぼんやりとここで釣りをするのだ。
「トラブルを楽しむのが、錦木流なのさ」
「…釣れませんね」
「釣れないね〜」
「釣れねぇな」
「楽しいですか?2人とも」
「「楽しいよ、たきながいればさ」」
その時また、たきなのスマホが鳴る。
お、時間ですな。
というわけで移動しているのだが…
「最後の欄、秘密です。だな」
「たきな、どこ向かってるの?」
「秘密です」
そうして着いたのは、丘にある公園。
着いたはいいが…寒いな。
「へ…ヘックシュン!」
「だからコート買った方が良かったのに〜」
「ま、まあ…」
ったく仕方ねぇな…。
俺は買ったえんじ色のコートを取りだして、タグを外してたきなに着させる。
「ほら、お前のコートだ。着とけ」
「え?あ、ありがとうございます…」
「おー!お兄ちゃんやるー!ほい、たきな。私からもやる!」
そう言って千束も、つけてきたマフラーをたきなに渡した。
「すみません…」
「…で?何を待ってるの?」
「…雪。9時から」
なるほど、そりゃ寒いわけだ。
俺は曇り空を見上げながら、ぼんやりと笑う。
「完璧なスケジュールのはずだったんですが…」
「ま、神様っていうのは気まぐれなんだろ」
そう言うと、たきなは暗い顔をして俯く。
「…今日だけは、やめて欲しかったですね…」
なんでだ…?
…まさか、たきなは…。
「DAに戻れるのか?」
「え!?そうなの!?やったじゃん!いつ!?」
「…明日」
そうか、そうなのか。
それはめでたいことだ。
本当に喜ばしいことなのに…なんで、そんなに暗い顔をしてるんだ?
「嬉しくないの?」
「…分かりません」
「そっか」
それなら確かに、降ってくれた方がロマンチックだったかも。
そう思いながら、俺は明かりの灯った街を見下ろす。
「理不尽なことばかりです。そうは思いませんか?」
確かにそうだが…それに囚われてる暇はない。
「自分でどうにもならないことで悩んでも、仕方ねぇよ。受け入れて、目の前のことに全力!それで大概いい方に転がるもんだ。それに…たきなの計画は大成功してるぜ。すげー楽しかったし、な?千束」
「うん!やるな、たきな!」
「…やったぜ」
そう言って俺たちは、軽く拳をぶつけ合う。
「…今日中に連絡しないと」
なら急がねぇとな。
俺はたきなの背中を押してやる。
「その2つは、俺たちからの餞別だ。もってけ」
「…ありがとうございます。行ってきます」
そう言ってたきなを送り出した直後。
ふわふわとなにかが降ってきた。
「…あ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「ああ、降ってきたな…雪」
振り返ったたきなと眼が合う。
その笑顔に、その瞳に…その全てに、俺は見惚れた。
…ああ、ちくしょう。
なんで今、自覚しちゃったかな…。
その不器用なくらい真っ直ぐな君に…俺は。
「…好きだなぁ…」
「お兄ちゃーん!帰るよー!」
「おう!今行く!…じゃあな、たきな」
どうか君の未来に、幸がありますように。