俺たちしかいない店内で、先生の告解が始まった。
「あの時、私がシンジにオペを頼んだのは、司令官としての利益のためだ。少なくても、あの時はそうだった。そしてその時、ある約束をしたんだ」
約束…。
それはきっと…
「千束を最強の殺し屋として育てる。…それが、シンジとの約束だった。私は、千束を殺し屋にするために!あの時伸び悩んでいた千束の枷を外すために!一護の心臓を治すように依頼したんだ!」
そのまま先生は、頭を抱えてしまう。
千束はそれが信じられないのか、首を振って、先生の言葉を否定する。
「うそ…うそうそ。だって救世主だって…どうして?」
「言えなかった!お前の中で、どんどんシンジへの憧れが大きくなり、そしてその気持ちに応えようとする一護の気持ちが、いつ終わるか分からないその命を支える力になっていった!」
「先生…」
「言った方がよかったのか!?お前の生き方は間違いだ!殺しを重ねれば、シンジはまた、一護を助けてくれるって!言えばよかったのか…!教えてくれ…千束…一護…」
先生のあまりにも重いその重荷に、俺が何か答えを出せる訳じゃない。
でも、これだけは言える。
「…先生。俺はさ、知ってたよ」
「…何?」
「俺の心臓のせいで、千束にこの道を歩ませたこと。千束にこの道を歩ませるために、俺に心臓が用意されたこと。俺のせいで、千束の生き方が決められしまったこと」
全部、知っていたんだ。
相手がヨシさんだったことは知らなかったが、それでもなんのために、この命が与えられたのか、その理由は知っていた。
「お兄ちゃん…?」
「少し考えれば分かることだ。千束の中に眠る、殺しの才能。例え微細な動きから相手の挙動を読めても、それに対応した動きが出来ないと意味が無い。千束にはそれが出来た」
きっと他の分野でも、その才能は発揮されただろう。
だが俺たちが放り込まれた世界は、殺しの世界。
当たり前のように、生死が転がる残酷な世界。
そんな世界で目覚めた千束の才能は、殺しの才能として使う以外他なかった。
「そんな千束がいるのに、俺を助ける理由がない。…千束を精神的に救う以外には」
アランにとって、俺を救う価値は何か?
答えは、すぐに分かった。
…千束しかいない、と。
「だから俺は、それを聞いても揺るがない。俺は俺の生き方を貫く。最後まで、千束の兄貴として…親父の息子として、恥じない生き方をしたい。…お前はどうだ、千束」
俺は言いたいことは、全部言った。
だからここからは、千束にバトンタッチだ。
「…ありがとう先生。選ばせてくれて、ありがとう。多分それ聞いてたら、私負けてた。そして仕方なくリコリスの仕事して、嫌なこととかは、全部先生やヨシさんのせいにするんだ。…それはやだわ〜。うん、ない」
千束は穏やかに笑いながら、テーブルを撫でる。
「私の仕事も、このお店を始めるのも、全部私が決めたこと。それをさせてくれた先生とヨシさん、そしてそれを支えてくれたお兄ちゃんへの感謝は、全然消えない。2人とも私の大切なお父さんで、お兄ちゃんは、大切なお兄ちゃんだよ」
「…すまない、2人とも…すまない…」
「もう泣くなって、先生」
「先生こそどうなのよ?」
そう言って千束は俺の手を引いて、並び立つ。
「この錦木兄妹は好き?」
「ああ…ああ…!自慢の息子と娘だ…!」
「「ふひひひ…!」」
その時、突然サイレンが鳴り響く。
一体なんだ…ん、電話?
「もしもし」
『一護、仕事だ』
虎杖のおっさん…?
こんな時になんだよ。
『テレビを見ろ。延空木が真島に乗っ取られた』
「何!?」
慌ててテレビをつけると、確かにそんなニュースが流れている。
その時お店の電話も鳴り、先生が対応する。
相手は楠木さんのようだ。
『それだけではない。リコリスの存在も、ほのめかされてしまった』
「はぁ!?ラジアータは何してる!?」
『そういう問題ではない。お前は即刻真島を殺せ。最悪の場合は…リコリスは処分する』
そう言い残して、電話を切られた。
クソが…やってくれる…!
「先生貸して。千束です」
楠木さんと話しながら、千束がスマホの画面を俺たちに見せてくる。
そこには、縛られたヨシさんの姿が。
「…楠木、また後でかけ直す」
先生が千束から受話器を取り上げ、そう言い残して電話を切った。
千束がスマホをスピーカーにして、俺たちにも聞こえるようにしてくれた。
『それでいい。下手なマネはするなよ。ずっとお前らを見ているからな』
俺は上を見ると、外からドローンが数機、俺たちを監視していた。
「…罠だな」
「でも放っておけないよ!」
そう強く言い切る千束に、俺と先生は苦笑いして、覚悟を決める。
やるしかない、か。
「一護、武器庫からありったけ弾丸を持ってきなさい」
「了解!千束、あっちはたきなやフキに託すしかない」
「…うん!」
俺たちは直ぐに武装して、車に乗り込む。
車も乗っ取られたか、スピーカーからハッカーの声が聞こえる。
『スマホは置いてきたか!?』
「分かったからとっとしろ、ロボ太」
『もう僕の名前も知られてるのか!?そりゃそうか!僕は世界一の…』
「「早くしろ」」
俺と千束は画面を踏みつけ、ドスを効かせて呟く。
その気迫に押されたか、ナビゲートを始めるロボ太の声を聞きながら、その行先に気がつく。
「旧電波塔か…」
10年前の過去の因縁を、10年前の戦場でケジメをつける。
随分と粋な計らいじゃねぇか。
俺は非殺傷弾用ショットガンを撫でて、小さく嗤うのだった。