真島の拠点への突撃に失敗した私たちは、延空木を守ることに。
その作戦リストに、千束の名前があり、思わずリコリコまで飛び出してしまったが、一護も千束も店長も、スマホだけ置いていなくなっていた。
仕方なく戻って合流した私のインカムに、クルミからの通信が来た。
『一護の心臓、もうひとつあるぞ!』
っ!?
なんですって!
「どこに!?」
『多分吉松が持ってる。改良型の人工心臓が開発され、それを吉松が持ち出した』
「吉松はどこに?」
『分からない。ここ数日の足取りがさっぱりだ』
吉松はどこに…?
いや、待って。
一護たちはどうしてスマホを置いて、どこかへいなくなった?
…まさか。
「クルミ。リコリコに行ったんですが…」
『ああ…閉店してたろ。すまん、あいつらの希望でな』
「スマホだけ置いて、一護たちがいなかったんです。2人のスマホ、解析できませんか?」
もしかしたら、吉松になにかあったのかもしれない。
それなら千束が動くだろうし、千束が動いたら2人も動く。
『何かあったか…。分かった、ちょっと待ってろ』
私はクルミに託して、しばらく進んだ。
延空木につき、外の非常階段を登っていると、再びクルミから通信が来た。
『たきな!千束のスマホを見ろ!』
慌てて確認すると、椅子に縛りつけられた吉松の姿が写っていた。
これなら確かに、千束たちが動く理由になる。
『今ミカの車は押上だ!おそらく3人は、旧電波塔に向かってる』
っ!?
まさか…そういうこと!?
『つまり一護が、心臓の持ち主のところに向かうということだ!やったなたきな!これで万事解決だぞ!』
いえ…おそらくそれは違いますよ、クルミ。
そして私たちも見誤っていた。
「さっさとこいよ!他チームに負けちゃうだろ!」
…ここにいても、一護は救えない。
だったら、私のやることはひとつだ。
「…すみません。私はここで」
「お前…!?またかよ!?」
「たきな、どういうこと!?」
「バカが移ったか?任務中だぞ」
サクラやヒバナ、フキさんが私を問いつめる中、エリカだけは違った。
「フキ!行かせてあげて!私がたきなのポジション埋めますから!」
そんなエリカを、サクラが嘲笑う。
「ハハ!ムリムリ!そもそもこいつがクビになったの…あんたがヘマったからだろうが!」
「…そう!全部私のせいよ!」
そう言って、エリカが私を抱きしめた。
最後に、私にボソッと一言。
「…あの時は…本当にごめんなさい」
そう言い残して、上に登っていくエリカと、それを追いかけるヒバナ。
その様子を黙って見ていたフキさんが、私に静かに問いかけた。
「…これを降りれば、もう戻れんぞ」
「分かってます」
「最後のチャンスなんだぞ」
確かにそうでしょう。
でも、私の心はもう決まってる。
私は…私の直感に従う。
したいこと、最優先です。
「ここでは一護を救えない、それだけです」
「…行けよ」
最後に送り出してくれたフキさんに一礼して、私は階段を駆け下りた。
待ってて、2人とも…!
そして真島…お前もそこにいるんでしょう、旧電波塔に!
■
「さぁ〜てと!暴れますか!」
俺は車から降りて、身体を伸ばす。
ここまで来たら、あとは身体張ってぶつかるだけだ。
「先生、行ってくるね」
「本当にお前たちだけで行く気か?」
「大丈夫だって。店戻って、コーヒー飲んでなよ」
「そうか。…シンジによろしくな」
さてと、まずは狼煙を上げますか。
俺は上を飛んでいたドローンを、撃ち落とした。
「「行ってきます」」
「…行ってこい」
まず扉を開けて、火災報知器を鳴らす。
…なんのために?
気分だ。
「は〜い皆さん、逃げて〜」
軽いノリでボタンを押す千束に続いて、エレベーターに乗る。
ドアが開いたところで、俺は一度顔と銃を出す。
「…クリア」
その言葉に千束が動き出し、俺の肩を叩いて走り出す。
次は俺がそっとドアを開け、千束が確認する。
「…クリア」
俺は千束の肩を叩いて、先を急ぐ。
わざと足音を響かせて、俺は千束を上に持ち上げる。
よしよし、キタキタ…。
「準備はいいか?」
「OK。…いらっしゃいませ〜」
上から千束が一撃で沈める。
そっとそいつを、俺が支える。
「1名様ごあんな〜い。おおっと!千束、あと3人捌ける?」
「余裕のよっちゃん!」
俺が引きずり隠してから、千束が3人を無力化する。
「おおっと、階段は危ねぇからな。気をつけなはれや〜」
そう言って3人を寝かせてから、俺たちは終点をめざした。
「よし、ここからは外だな」
「行きますか…!」
俺が変形した扉を数発撃ち、千束が蹴り開けると、すぐそこが抜けていた。
「「うぉぉぉぉ!あぶなぁ!?」」
慌ててドアを掴む千束と、その千束を掴む俺。
上を確認すると、案の定見張っていた。
「…よし、行くか妹よ」
「…うん、行こう兄よ」
俺たちは同時に鉄骨に飛び乗って、上を目指した。
飛び移りながら、上から撃つやつを無力化したはいいが、前のめりになってしまい落ちそうになる。
「やっべぇ!」
だがそいつは、千束が撃つことで、無事事なきを得る。
「ナイス千束!」
「そりゃお兄ちゃんの妹だからね!ってわぁ!?」
チッ…下にもいたのか!?
このままだと挟まれるな…!
「千束!掴まれ!」
「お兄ちゃん!…まさか!?」
「そのまさかだ…行くぞ!」
俺は落ちそうになる千束の手を掴み、遠心力を利用して、そのまま上までぶん投げた。
そのまますぐに下のやつらを撃ち、上のフォローに入る。
どうやら千束も、無事らしい。
「ぃよいしょ!お兄ちゃんやる〜!」
「そりゃ千束の兄貴だからな!」
数発撃って無力化させた時、1人が落ちかけてギリギリでふちに掴まりぶら下がった。
お、良く頑張ったじゃん。
「お!えらいえらい!もうちょい頑張って!」
千束がそこまで移動して、俺もすぐに追いかける。
よし、追いついたっと。
「お兄ちゃん、速すぎでしょ」
「そうか?よゆーよゆー」
などと茶化しながら、這い上がってきたやつに、銃口を突きつけた。
「「はい、よく頑張りました♪」」
俺たちは同時に引き金を引いて、無力化する。
さてと、やっと着いたな…って、弾切れか。
この銃、リロードが面倒臭いし、もういいか。
そう思い俺は、銃を放り捨てる。
「私も弾切れだ〜。えいっ!」
「いやお前も捨てるんかい」
などと言いながらも、俺たちの視線は旧電波塔の中に向けられていた。
「…またここだね、お兄ちゃん」
「そうだな。ここで始まって、ここで終わるのか。…粋じゃねぇか」
お互い愛銃を取りだしながら、中に乗り込む。
さてと…いるな、間違えなく。
どうするかな…?
「ヨシさーん!錦木兄妹が来ましたよー!」
「…アホか〜…」
何でそんなでかい声だすかな、この妹は?
ほら、敵さんワラワラと出てきたじゃん。
「って多いな!?どこにこんなにいたんだよ!?」
「うひゃあ!?流石に予想外!」
俺は非殺傷弾から実弾に変更。
千束みたいな芸当は出来ないから、今は遠くから狙うしかない。
「お兄ちゃん、フォロー!」
「OK!…行くぞ!」
千束が飛び出したのと同時に、俺も敵の両肩へ引き金を引いて、次々に動けなくする。
その間に千束が弾をよけながら接近、非殺傷弾を撃ち込んでいく。
だが数が多すぎて、少しずつ後ろを取られるようになってくる。
「っ!?」
「お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「前見てろ!いいから走れ!」
くっそぉ、腕掠めた〜…いってぇ!
さてと、どうするかね。
俺たちは今、壁に隠れて後ろの追っ手の迎撃をしている。
「…千束、スタンとスモーク、全部よこせ」
「何するつもり?」
「俺が抑える。お前は先に行け」
恐らく吉松の傍には、真島が待ち受けている。
だからそっちは千束に任せる。
俺は、こいつらと遊ぶとしよう。
「ダメだよ!いくらお兄ちゃんでも、この数は…!?」
「千束。吉松を頼むよ」
俺は千束の頭を撫でながら、先へ急ぐようお願いする。
悪いな、千束。
兄貴の我がまま、聞いてくれ。
「…絶対に死んじゃダメだよ」
「おう」
「絶対絶対ぜ〜ったい!また会おうね!」
「おう」
千束は俺にありったけのスタンとスモークを押し付けて、一気に走り出す。
おっと、追いかけさせねぇよ?
「シッ!」
しっかり急所を外して撃ち、実弾から非殺傷弾に変更。
それと同時に、スモークのピンを外して、それを転がしたのだった。
「…さあ、ショータイムだ」
■
相手は2人、しかもガキ。
それが真島の部下たちの考えだった。
だがそれは、瞬く間に覆された。
次々にやられていく仲間たちを見て、自分たちも本気にならねばと、そう思いなおした。
そんな時だ。
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
突如吹き出した煙に包まれていた自分たちに、明確な悪寒が走った。
尋常じゃないほど強烈な殺気。
なのに、その殺気の発生源の気配がまるでない。
「次」
その一言が聞こえた瞬間には、一人、また一人と、意識が分断されていた。
尋常ではない殺気と、己の存在を悟らせない隠密性。
単独で集団を相手取れる戦闘力。
そしてそれらを全て計算し、こうなるように誘導する頭脳。
これが、錦木一護。
天性のものではなく、多くの訓練と実戦の中で磨き上げられた実力。
そしてそれこそ、歴代最凶と恐れられる所以。
リリベルはリコリスに比べて、軍としての気質が強い。
そんな中に置いて、単独戦闘を好む異常性。
意識が飛びそうになるほどの、強烈は殺気。
それを実現させる武力と知力。
一人一人倒れていく仲間たち。
無意識に唾を飲み込み…
「次」
その一言が、彼が最後に聞いた言葉だった。
その言葉放った男の顔は、一切感情を感じない、無表情だった。