「いつつ…」
「千束!大丈夫ですか!?」
エレベーター内。
たきなは足を撃たれた、千束の手当てをしていた。
「私は大丈夫。弾も抜けてるし。でも…」
そういう千束の視線の先には、エリカに手当てをされるサクラ。
明らかに千束より重傷だ。
「たきな。私は自分で出来るから、サクラをお願い」
「…エリカ、手伝う。そこ押えて」
「分かった。ガーゼは?」
「これ、使え」
そう言ってフキが、たきなたちに自分用のガーゼを渡す。
「ど…どんな感じ…っすか?結構…痛い…すね」
「ちょっと血が出てるが、問題ねぇよ」
震える声のサクラに、フキは空元気で答える。
「…あぶなかった〜…」
そう言って、サクラは気を失う。
「サクラ、こっち見て」
「っ!司令部!」
フキは怒鳴るように通信を行う。
そんな時、突然延空木が停電した。
■
電気が落ちた延空木、第二展望台。
俺と真島は、そこで向き合っていた。
「これでしばらく2人っきりだ。うぜぇハッカーどもも、電気がなけりゃ、何も出来ねぇだろ」
「野郎と2人っきりとか、ゲロ吐きそう。…で?何の用だよ?もう終わったろ」
「終わってねぇ」
そう言って真島はスマホを取りだして、何かを操作した。
その途端、液晶画面にカウンドダウンが映し出された。
「…今度は何?」
「この塔がここに立ってる残り時間」
「また爆弾かよ…好きだねぇ」
こいつら、何本へし折りゃ気が済むんだ。
全くいい加減にしてくれよ。
こちとら老い先短ぇんだよ。
「確かに俺の仕事は終わりだ。いくら隠蔽しようが、人々の疑念の種は残り、やがてお前らは終わりだ」
「ならもういいだろう」
「俺とお前のケリがついてねぇ」
何言ってやがるんだか。
「それももう終わった。俺たちが勝ったろ」
「お前たちがな」
…チッ、そういうことかよ。
要は、俺とサシでやりたいってことか。
面倒なことを…。
「お仲間抜き…ガハァ!?」
言い終わる前に、取り合えずマガジンに残ってる、非殺傷弾を撃ち込む。
グラリと真島の身体が倒れる。
これで終わり…。
そう思った瞬間、真島が走り出した。
「っ!?」
俺は慌ててリロードして銃を構えようとしたが、それより速く、真島に首と腕を掴まれて、身動き取れなくなってしまう。
こいつ…下に何か着てる…!?
「いい服じゃん…!高かったんじゃ…ねぇの…?」
「ヨシさんからの贈り物さ」
あの野郎…余計なマネを!
■
フキたちは、予備電源で降りるよう指示を受けた。
だがフキはそれに反発するように、上昇すると返事をする。
『フキ、命令だ』
「…真島は、どうするんですか?」
『現在、一護が交戦中だ。奴に任せるしかない』
「ですが一護は!?」
『二度は言わん』
そんな2人のやり取りを見て、たきなが立ち上がる。
「フキさん。二手に分かれましょう」
「っ!?ダメだ!命令だ!」
「以前と同じく、私の独断ということにしてください」
「たきな!だったら私も…いつっ!」
千束もついて行こうと立ち上がったが、撃たれた足が痛むのか、直ぐにまた座ってしまう。
「ダメです。その足ではいくら千束でも、足手まといです」
「お前たち!現場リーダーは私だ!」
「だから、あなたにお願いしています。今、一護を救えるのは私で、サクラを救えるのはあなたです」
少しの間、フキは黙り込んで。
「…一護を頼む」
そしてたきなは、非常階段を登りだした。
■
「こん…のぉ!」
「グッ!ガハァ!」
俺は足を踏みつけてから、膝蹴りで顎を蹴り上げる。
さらに頭突きをして、突き飛ばしてから、さらに1発撃ち込む。
「つぅ!」
そのまま撃ってくる真島の銃口を予想して、しゃがんで躱してから、腹を蹴る。
「「っ!」」
そのままお互いに撃ち合いながら、距離をとる。
「…お前は妹よりはいいが、あの黒いのよりは下手だな。よく狙え、足とかいいんじゃねぇか?」
「そりゃどうも!」
あいつ、柵の上を走ってきた!?
なんつーバランス感覚してやがる!
俺はそのまま撃つが、上手く当たらず、撃ち返される羽目に。
そのうちの数発が、俺を掠める。
「っ!クッソ!」
策を乗り越えてから、俺は空になった弾倉を、実弾にリロードする。
片耳削いでやる…!
乗り出してきた真島に目掛けて、一発撃ち込む。
「つぅ!?テメェ!実弾!?」
チッ、外したか。
俺はそのまま耳は諦めて、肩を撃ち抜く。
「ガァ!この!」
今何を…って!?
手榴弾はヤバいだろ!?
「おいおいおい!」
慌てて滑り落ちて、なんとやり過ごす。
うわぁ…ガラス割れそう…ってか割れてる。
「クハハハハ…」
にゃろう…逃がすか!
俺はやり過ごした爆風の中を、一気に走り抜けて、一気に飛び出す。
「何!?」
そのまま俺と真島は、同時に狙いを定める。
同時に放った銃弾は、俺の二の腕と、真島の耳を掠める。
なんとか柵に足をつき、展望台に戻る。
「ガァァァ!」
痛がる真島の声を聞きながら、俺は二の腕の痛みよりも、息苦しさに喘いでいた。
心臓が軋むような…嫌な感覚。
「クソが…この…ポンコツめ…!」
こんな時に…もっと踏ん張れよ…!
「クソッタレがァ…アァ?」
やべぇ…真島が、立ち直っ…え?
真島が俺ではなく、自販機を破壊した。
「…良くねぇ音だ…分かりにきぃけど」
そう言って、壊れた自販機から出てきジュースを俺に差し出してきた。
「休憩だ」
■
俺たちはガラスにもたれながら、小休止を挟んでいた。
「お前…何がしたいんだよ?」
「これだよ」
「いや、どれだよ?」
俺と呑気に一息つきたいってか?
だったら、店に来い。
コーヒーくらい振舞ってやる。
もちろん、激苦のやつ。
「命懸けの勝負。俺が唯一、恐怖と尊敬を抱いたヤツとのな」
「…尊敬?」
「お前は俺や妹の方とは違う。特別な特異体質はない。そんなお前が、俺とここまで張り合えるのは、お前がとんでもない鍛錬を積んできたからだろうが」
…確かにそうだけど。
千束を守るために、色んなことをしてきた。
もちろん、殺しだって。
それを真島に認められるのは、妙に癪だな。
「ていうかお前、殺さないんじゃなかったのかよ?死ぬかと思ったぞ」
「俺はあくまで殺さないようにしてるだけ。殺す覚悟も殺される覚悟も、しっかり持ってるつもりだ。千束ほど、ご大層な考えは持ってないよ」
肩を竦めながら、俺はゆっくりと息を吐く。
少しづつ楽になってきた。
「お前こそ、ここを壊したいんじゃないのか」
「それだけならとっくにやってるさ。調子悪いお前と殺りあってもつまらん」
「とりあえず時計止めろよ」
そう言うと、真島はスマホを確認してから、小さく笑う。
「そりゃダメだ。モザイク無しの現実を見せないとな」
そう言いながら、真島は缶ジュースを積み立てていく。
器用なことで…。
「なんだそれ」
「俺は秩序を守ってんだぜ?自然の秩序を破壊する、お前らからな」
自然の秩序ってなんだよ。
意味わかんねぇ。
「壊してるのはお前ら、テロリストだろ」
「そう。お前らが壊すから、俺らも壊す。バランスを取ってるだけだ。DAが消えれば、俺も消える」
そう言って、真島は自分が建てた缶ジュースの塔を、自分で壊した。
「何それ、渋々悪人やってるってのか?」
「悪者やってるつもりはねぇ。俺はいつも弱いものの味方だ。もしDAが劣勢なら、俺はお前らに味方するぜ」
はぁ…そういうことかよ。
俺は思わず深いため息をつく。
「お前も自分が正しいと思ってるのか。…本当の悪は映画の中だけか、やっぱ」
「だから映画は面白いんだろ?現実はいい人同士が殴り合う。それが、このクソッタレな世界の真実だ」
…それはそうなのかもな。
結局、人間っていうのは、自分のためにしか生きられない。
そのための生存競争こそが、人間の本質か。
俺は渡された缶ジュースを空けて、煽りながら呟く。
「…みんな自分が信じた良い事をして、どこかで他人とぶつかり合って、蹴り落として、落とされる。それが世界の現実か…。まあ、それで生きていけるんだから、それでいいだろ」
「良くねぇ。自然なバランスが…」
「おぉ!」
一口飲んで、その美味さに思わず大きな声が出る。
あ、悪いな真島。
「これめっちゃ美味い!ちょっと飲んでみ!」
「あ?あぁ…ちょっと甘すぎねぇか?」
苦いの苦手なやつがよく言うよ。
そう思いながら、俺はほくそ笑む。
「世界を好みの形にしてる間に、ジジイになっちまうぞっと」
俺は立ち上がって、夕焼けの街並みを見る。
…大きな街が静まり返る、この夕焼けが好きだ。
千束は朝の方がいいらしいが、どんな闇も包み込む夜の帳が好きだ。
それを照らすお月様も。
先生と千束が作ってくれた店。
コーヒーの香りに、あんこの匂い。
お客さん、街の人たち。
美味しい食べ物とか、綺麗な場所。
仲間、大切な妹。
そして…たきな。
「今のままでも、大切なものは沢山ある。世界がどうとか、知ったこっちゃねぇよ」
「小せぇな。テメェ、志はねぇのかよ?」
「俺は俺が大切に思う人たちが幸せなら、それでいい。まあ、必要としてくれる人には、出来るだけの事はしたいかな。そうすればその人の記憶の中に、俺が残り続けるかもしれねぇだろ?」
「で?その必要とする最後の依頼人が、俺ってわけか」
「そうだな。ホント最悪」
そう言って俺たちは、リロードし直す。
…さてと、そろそろ終わらせるか。
「日本のバランスを取り戻そうとする奴と、現状を維持する奴。正義の味方はどっちだ?」
「知らねぇし、どうでもいい。まあ…ここから落ちなかった方じゃねぇ?」
そして俺たちの、最後の殺し合いが始まった。
■
だいぶ暗くなってきた…そろそろマズイな。
俺は真島の行動を予想しながら、何とか間合いを詰める。
「どこ狙ってんだ?」
「うるせぇな!」
俺は真島に撃たせないように撃ちながら、何とか距離を詰める。
リロードした…今だ!
俺は一気に接近して、真島の懐に潜り込むと、そのまま耳元で発砲する。
「グゥゥゥゥ!」
苦しむ隙に、空になった弾倉で、思いっきり頬を殴り、さらに懐に手を伸ばしてスマホを奪おうとする。
「させ…るかよ!」
「ゲホォ!?」
しかしそれは襟首を掴まれてしまい、失敗する。
投げられながら、俺は非殺傷弾にリロードして、真島の追撃を躱すも、脇腹に一発弾が当たる。
「ガッ…!まだだ!」
足元に落ちたスマホ拾おうと、フェイントをかけながら走るが、それを読んだ真島が、スマホを蹴り飛ばす。
お互いその方向に走り、一発撃つ。
真島の弾は何とか躱して、俺の弾は真島の肩に当たる。
「「っ!ダァァァ!」」
お互い銃を持つ手首を掴み、至近距離から睨み合う。
「勝負に集中しろよ…!」
「止めろよ時計…!」
その時、真島がスマホを蹴り飛ばした。
にゃろう…!
俺は噛み付いて、直ぐにそれを追う。
だがその直後、真島に肩を撃ち抜かれた。
「ァァァァァア!」
「いつつ…お前にはガッカリだ」
勝手に言ってろ…!
ポンコツは一つで…十分なんだよ…!
そう思いながら伸ばした手は、スマホに届かず、そのまま柵の向こうに落ちてしまう。
「あ…グッ!」
「俺も残念だ。こんな形で終わるとは」
そう言って、真島が俺を踏みつけて銃を突きつけた瞬間、ドアが何者かに蹴り破られた音が聞こえた。
「一護!」
たきな…どうして…!?
だがそのおかげで、真島の気がそれた。
今だ!
俺は直ぐに仰向けになって、真島の襟首を掴むと、諸共柵の向こうに飛び込む。
この向こうは、真島の手榴弾のせいでボロボロだ。
「「グゥ!?」」
落ちた衝撃で、さらに崩壊が進む。
だが知ったものか…!
俺は下を見て、顔を青くする真島に、非殺傷弾を撃ち込む。
みるみる顔を青くさせる真島に、俺は小さく笑いかける。
覚悟はいいか…俺は出来てる。
そして、最後の一発が当たったのと同時に、完全に崩壊して、俺と真島は外に放りが出される。
「一護ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
…たきな…お前何して…?
たきなはまだガラスが残っている部分を走り、ワイヤーガンにワイヤーをつけて、俺に向かって撃つ。
そのまま俺をワイヤーで雁字搦めにしてから、自分の身体を支えに、何とか俺を支えた。
「うあぁ…ァァァァァァァァァァア!」
たきなの痛みに耐えるような声をかき消すように、突然花火が上がる。
…そういうことかよ。
「ちくしょう…。っざけやがって…」
この時の感情は、俺自身よく分からないくらい、ごちゃごちゃしていたのだった。