タイヤの一部が、堤防から外れかけている状態で、何とか止まった車。
「みんな、とりあえず動かないで。せ〜ので、出ますよ」
『す、スーツケースを…』
「私が!」
何とか全員外に出て、ほっと一息つくと、
「ん?」
上からこちらを見下ろす存在に、千束が気づく。
ここからはもう、戦うしかない…そう覚悟を決めた千束は、場所の移動を提案。
近くにあった潰れたスーパーに、逃げ込むことに。
「…着いてきてください」
千束が前衛、真ん中のウォールナット、殿にたきなの布陣で移動を始めた直後、いきなり2人の男に襲われるたきな。
「っ!?」
たきなは咄嗟に、持っていたスーツケースを盾にして、身を守る。
…頑丈ですね、このスーツケース。
などと思いながら、応戦を開始。
「ぃよいしょ!」
千束が壊れたケースを足場に高く飛び、上から援護射撃。
『え、ちょ、ちょ、ちょ!?盾に使うのはなしだ!』
「ちょ、ダメですって!」
慌てて動こうとするウォールナットを、裏を取るために走っていた千束が、通信で止める。
『大事なものだって言っただろー!』
「たきな!それなんかダメらしいよ!」
「無理言わないでください!」
流石のたきなも、この時ばかりはピリついた声で、千束の声に反発する。
とはいえ、銃弾の雨に晒されてる以上、仕方ないだろう。
それでも、流石の腕前で銃弾を当て、何とか危機を脱出。
「…」
千束は裏を取れる位置まで来たはいいが、マークされており、すぐには動けなかった。
わざと姿を見せ、無駄撃ちさせた後、手榴弾のピンを抜いたところで、一気に接近して叩き落とした。
「とう!」
そのまま落ちた手榴弾をトイレに蹴り入れ、防弾チョッキを掴んで投げ飛ばす。
「はい、残念!」
ドア越しに爆風に巻き込まれた男は、そのまま気を失う。
そこへたきなが、ウォールナットを連れて追いつくが、千束の後ろに最初に襲ってきた男の1人が、銃を構えていることに気付いた。
「っ!?」
咄嗟にウォールナットを引っ込めさせた時、千束も同時に気付いて…銃弾を全て躱した。
「え…?」
銃弾を躱した…?
驚愕に目を見開くたきなの前で、千束は冷静に接近、そのまま特注の非殺傷弾を撃ち込み、戦闘不能にさせてから、リロード。
「…」
そのまますぐにもう1人に撃ち込み、銃を蹴り飛ばす。
千束は男の傷を見て、応急処置を始める。
「そのまま。手当てする」
「敵の増援が来る前に、脱出しましょう!」
「少し待って」
「…囲まれますよ!」
「死んじゃうでしょ!」
たきなと口論しながらも、応急処置の手を止めない千束。
その時タブレットを確認していたウォールナットが、不意に立ち上がった。
『…脱出ルートはまだマークされてない。今なら行ける』
「私もすぐに追いかけるから」
「…行きましょう」
仕方なさげにたきなは、ウォールナットを連れてその場を離れる。
千束はそのまま応急処置を続けて、直ぐに追いかけようとした時
「そっちはやめとけ。うちのハッカーが見張ってる…待ち伏せされてるぞ」
「っ!」
手当てした男から情報を聞き、直ぐに走り出す。
千束が着いた時、ウォールナットがタブレットを見たまま、外に出てしまった。
「え!?ちょっと!」
「たきな!出ないで!」
千束が駆けつけた瞬間、タブレットごと、ウォールナットが撃たれた。
血が少しづつ染み出してきて、そのまま蜂の巣にされてしまった。
■
目の前で…人が死んだ。
それはいつ以来だろうか。
「失敗です。護衛対象は死亡です」
『直ぐに緊急車両が到着する。遺体と荷物を回収して、現場を離脱しろ』
先生の声を聞きながら、私はただウォールナットの死体を見つめていた。
先生が手配した救急車に乗っても、私はじっとその遺体を見つめていた。
「…すみません」
「たきなのせいじゃない」
重苦しい救急車の車内。
そんな空気の中
「…もういいんじゃねぇか?」
『そうだな。いい頃合いだ』
「「え?」」
2つの声が聞こえた。
1つはさっきまで聞いていた、ウォールナットの声。
そしてもう1つは…よく聞きなれた、私が大好きな声。
突如起き上がった遺体は、頭の部分に手を当てて引っこ抜いた。
そして第一声が
「重くて暑いんだよ、この着ぐるみ!」
「「え!?」」
お兄ちゃんの半分キレたような声だった、
■
「ミズキ!ビールちょうだい!」
「渡すわけないでしょうが!あんたはこれよ!」
チッ、スポドリか。
まあ冗談だし、めっちゃ汗かいたし、ちょうどいいか。
…お、キンキンだ。
俺は500のスポドリを一気に空にして、ゴミ箱に投げ捨てる。
「お、お兄ちゃん!?ミズキ!?え!?え!?」
「落ち着け千束」
「えぇぇぇぇ!?先生!?」
驚きで混乱する千束と、呆然と追いついてこないたきな。
正反対な反応のようで、似た反応をする2人を見ながら、俺は笑いながら種明かしをした。
「これ防弾。派手に血のりが出るのがミソらしい。…クソ重い上、暑いけど」
「あ、あの!ウォールナットさん本人は!?」
『ここだ』
「「えぇ!?」」
頭に内蔵されたスピーカーから、声が出ているのだ。
そして、その声を出してる人物は…スーツケースの中から現れた。
その姿は金髪碧眼の子供だ…実年齢は知らんが、触れぬが吉だろう。
『追っ手から逃げきる一番の手段は、死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されない」
「では、一護さんはわざと撃たれたのですか!?」
「彼のアイディアだ」
そう言って手を振る店長。
本当に、エグいこと極まりない。
「あ〜あ〜!最後はハリウッド並の大爆発を用意してたのに、無駄になったか」
「いや、あれは俺がリアルに死ぬから嫌だったけど」
「早く終わって良かったじゃないか」
「想定外の事態にもきちんと対応して、見事だった」
2人を置いてけぼりにした会話をしていたら、千束が慌てて止めに入ってきた。
「ち、ちょっと待って!つまり…全部予定通りで、誰も死んでないってこと…?」
「そうよ〜この子めっちゃ金払いいいから命かけちゃったよ!」
「命懸けたの俺だから!ミズキは何もしてないだろうが!というか、その格好で酒飲むなァァァァァァァ!」
救急隊の格好で酒飲むやつがあるか、バカ!
俺は直ぐにミズキから酒を没収。
ギャーギャー喚く飲んだくれを、とりあえず絞め落とした。
「もう死なせちゃったかと思ったし…もう…もう…良かった〜!」
泣きながら喚く千束を俺は優しく頭を撫でながら、何とか泣き止ますのだった。
その後夜営業のリコリコにて、
「いい加減機嫌を治したらどうだ、千束」
「事前に教えてくれても、良かったんじゃないですかね〜…」
すっかり不貞腐れてしまった千束に、先生が甘味を作っていた。
そうは言うがな…
「千束は演技苦手だろ?だからたきなと一緒に、リアルな反応をしてくれた方が、都合がいいんだよ」
「そうそう例えば〜…こういう〜!」
そう言ってミズキが見せたのは、ブッサイクな顔で泣く千束。
「え?えぇぇぇ!?ちょちょ!いつ撮って…!それちょっといつ撮ったのミズキ!」
「やっぱり命大事にって方針、無理があるんじゃないですか?」
騒がしい店内に、たきなの冷たい声が響く。
「あの時、きちんと2人で動けばあの時みたいはことには、ならなかったと思います!」
「だがそうされると、俺が困ったんだよな。それにもしかしたら全員揃って蜂の巣かもだぞ?」
「目の前で怪我してるのに、放っとけないじゃん」
「私たちはリコリスですよ!殺人が許可されてます!敵の心配なんて…!」
「許されてるから殺せばいい…それじゃあ二流だぜ、たきな。なぜ殺すのか、殺した先に何があるのか、それを自分なりに見つけてからが、初めて一流だぜ?」
「あの人たちも、今回は敵だっただけだよ。誰も死ななくて良かった良かった」
俺たちの平行線な言い争いを、先生が止めてくれた。
「お前たち、もうやめろ。私たちも騙すような作戦を立てて、すまなかった」
コロッと甘いものに買収されたな、千束。
やれやれと呆れてながら、俺は俺の分を受け取り、2階に向かう。
「なんかいたよ、今!」
…千束、座敷で何してるんだ?
ってそうか、ウォールナットを今日からうちで匿うんだっけ?
だから押し入れにって、どこの青狸ロボットだよ。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!座敷わらしか何かかと思った!」
「分かった分かった!うるさいからちょっと静かにしろ!って、ヨシさんいらっしゃい。ゴメンなさい、ちょっとうるさくするね」
そう言い残して俺は、千束の元へ向かう。
そこで俺が見たのは、何故か千束に向かってヘアゴムを撃つたきな。
その直前で振り向いた千束は、条件反射気味で躱して、奥にいたウォールナット…クルミに当たった。
「いたっ!?」
「え?」
「え?」
「「「え?」」」
■
「…はい、はい。分かりましたよ。明後日そっち行きますんで、はい。じゃあ」
夜中、自室にて俺はリリベルの虎杖司令と、電話をしていた。
要件はライセンス更新だ。
明日から期間に入るため、明後日に行くという話をしただけだ。
「さてと、寝るかな」
そう思っていると、ノック音が。
千束か。
「どうぞ」
俺が通すと、フリルたっぷりのパジャマを着て、いつもの髪型からツインテールにした千束は、何も言わずに入ってきて、そのままずんずんと俺に近寄って、抱きついてきた。
「千束?」
「お兄ちゃん…グス…じんぱい…じた…」
あちゃ〜…泣かせちゃったか。
仕方ない、いつまでも兄離れ出来ない、可愛い妹だことで。
「大丈夫だ、もうお前を手放さない。千束が俺の手を自分から離れるその日まで、ずっと俺はそばにいる」
あの時のことは、今でも覚えている。
引き離される時、泣きながら俺に縋る妹。
10年前、旧電波塔で再会して、俺にベッタリだった妹。
覆水盆に返らず…一度溢れたものは、もう戻らない…そう思っていたのに、俺はなんの奇跡か、再び千束に出逢えた。
こうして、同じ時間を過ごせるようになった。
たとえこれが…制限時間付きの幸せだとしても、俺は…もう二度と…
「千束の手は、離さない」
「…今日は一緒に寝ていい、お兄ちゃん?」
…全国の妹を持つ兄の諸君よ。
君たちには、この可愛さと尊さが天元突破した俺の気持ちが分かるだろうか?
いや、分かるまい。
なぜなら…俺の妹は宇宙一カワイイから。
「仕方ないな、どうせこのままじゃ寝れねぇだろ?なんか見るか?」
「うん!あのねあのね…」
こうして俺たちはソファに、トトロ体勢で寝落ちしてしまい、2人揃って翌日の営業時間に遅刻したのだった。
「「錦木兄妹が来ましたー!」」
「とっとと着替えてきなさい!」
連続投稿するつもりが、すっかり寝落ちしちゃいました。
それでは失礼します。
ありがとうございました。