リコリコの地下室にて、俺たちは射撃練習をしていた。
…いやさ、使わせてもらってるけどさ、先生アホなん?
「…なんですか、これ」
「私も当たんな〜い」
「俺もな。まあ素材が素材だからな」
今使っていたのは、先生お手製の非殺傷弾。
ゴム弾なのだが、厳密には消しゴムみたいな弾性のあるプラスチックに、重量増加及び破壊力向上目的の粉末状の金属を混ぜ込んだ、プラスチック·フランジブル弾だ。
「こいつ、軽いから遠いとパワーは落ちるし、精密射撃も不可能になる。その上フランジブル弾だから、デメリットはより酷くなる」
そこで千束が編み出したのは、ご自慢の眼を活かした、CARシステムを利用した近接戦闘なのだ。
たとえゴム弾でも、千束の45口径のガバメントカスタム銃なら、超至近距離ならその衝撃はバッド一撃分に相当する。
「一護も使ってますよね?」
「俺の場合、千束みたいな芸当は出来ないからな。格闘戦のトドメとか、接近戦の時しか使ってないぞ。基本的にはFN5.7×28mm弾だな」
俺はそう言いながらリロードして、実弾を的の頭に全弾撃ち込んだ。
「…私もこっちですね。これじゃあ、自分の身は守れない」
そう言ってたきなも実弾に変えて、心臓部分に全弾命中させた。
「うわ、2人とも機械みたい。お兄ちゃんみたいに格闘戦するならともかくだけど、たきなはその正確さなら、急所を外せるでしょ?無理に使う必要ないよ」
「…今まで、急所を狙うのが仕事だったんですけど?」
「もう違ぇだろ?ほら、そろそろ店戻るぞ」
小さく笑いながらそういうたきなの頭を軽く撫でながら、俺は階段を登る。
「…たきな〜、顔真っ赤だよ〜」
「み、見ないでください!」
…何を騒いでるんだ、あいつら。
■
「ウニャァァァァァァァァァァァ!」
「お前、しっかり読まれてるじゃんか」
閉店後、俺が閉店作業をしてる間に、千束がネットゲームをしていたのだが、どうやらマッチした相手にボロ負けしたらしい。
「ムキになりすぎだろう…」
「だってこの人名前が…たきなぁ!」
名前ねぇ…FUKIって、フキじゃねぇだろうな。
…いや、まさかな。
そう思ってるうちに、どうやら買い出しから戻ってきたたきなが、千束に捕まり巻き込まれていた。
「お、おぉ…リアルですね…なにこれ?」
「ハイハイこれ持って〜!仇とってよぉ、スタート!」
困惑したまま始まった試合。
直ぐに慣れたのか、たきなは大きく動きながら戦っていく。
「ヤバヤバヤバ!ぶつかる!」
「千束、クルミ、はよどかせ」
その時たきなが、見事なバク転をした。
したのはいいが…あいつ、スカートの下に短パン履いてんのか?
「うわぁ!?…っ!?」
千束と目が合ったのだが…千束、何をそんなに慌ててるんだ?
別に変わってはいるが、見られないようにじゃねぇのか?
「…おぉ」
「へ?」
どうやら勝ったらしい。
WINNER表示が出ていた。
「勝った!?シャアァァァァァァ!」
「…喜びすぎでしょ」
「というかお前、まじでムキになりすぎだ」
「だって…」
「「こいつ、名前がムカつくんだよ!」」
…フキも同じことを言った気がしたのは、気のせいだと思おう。
それからしばらくして、ゲームを終えたから考え込んでいた千束が、不意に口を開いた。
「お兄ちゃん、クルミ」
「「ん?」」
「…たきなのパンツ、見たことある?」
「「あるわけないだろ」」
何を言い出すか、そのバカ妹は。
「いや、というかお兄ちゃんはさっき見てたでしょ!」
「はぁ!?ありゃ短パンだろ!?見られないように履いてんじゃねぇのかよ!」
「ちゃうわ!ちゃうからビックリしてるんでしょ!?」
はぁ!?
違うって…おいまさか、あれって…!?
「あれって、トランクスだったのか…!?」
「気づかんかったんかい!」
いや、女がトランクス履いてるとは思わんだろ、普通。
うわ…流石に気まずいな、それ。
「お前ら、さっきからすごいこと言ってるが、別に何を履いてようと、たきなの自由だろ?」
「…ふむ」
そう呟いてから、千束が更衣室に直行。
恐らく着替え中のたきなのスカートを、豪快かつ堂々と捲っているのだろう。
開けっ放しのドアから、会話が漏れてくる。
「…なんですか?」
「なに…これ…?」
「下着です」
「そうじゃなくて!男物じゃん!」
「これが指定なのでは?」
「「し、指定!?」」
思わず俺まで反応してしまう。
いや、下着を指定してくるとか、ブラック校則じゃねぇんだぞ?
「先生ー!ちょっと来て!」
「なんだ、突然」
奥にいた先生を呼び出して、早速事情聴取。
「どういうことか、聞かせてもらいましょうか!」
「店の制服は支給するから、下着だけ持参するように頼んだ」
「どんな下着がいいか分からなかったので」
「普段使ってるやつで良かっただろう…」
「だからって、どうしてトランクスなの!?」
「いや、店長が…」
千束のツッコミに、店長は腕を組みながら一言。
「好みを聞かれたからな」
「「アホか!」」
「これ履いてみると、結構開放的で」
「そうじゃない!」
「むしろスカートって、1番解放されてるだろう…」
「それも違う!もう…たきな、明日12時に駅集合!お兄ちゃん!行くよ!」
千束は深いため息をつくと、俺を連れてドアに移動する。
「仕事です?」
「ちゃうわ!パーンーツ!買いに行くの!あ、制服着てくんなよ、私服ね私服」
「一応言っておくが、私服には指定は無いからな。むしろ指定しないから私服だからな?」
そう言い残して、俺も千束と一緒に外に出る。
「ねぇねぇお兄ちゃん!明日ペアルックしよ!」
「別にいいが…できるものあったっけ?」
「色合いだけ寄せればいいよ〜!たきな、どんな服かな〜?」
「期待は出来んな」
明日の服装の話をしながら、俺たちは帰りにスーパーによって、今晩の夕飯の買い物を済ませるのだった。
■
次の日、俺たちは駅にてたきなを待っていた。
「ねぇねぇ、あそこの2人。可愛くない?」
「おそろいなんだ〜!恋人?」
「にしてはよく似てない?きょうだいとか?」
「仲良いんだね!可愛い!」
ヒソヒソと聞こえてくる会話に、少し不快感を抱く。
「…だってお兄ちゃん」
「やっぱやめるべきだった」
「えぇ!?ひどいひどい〜!そんなこと言わないでよ〜!お兄ちゃん!」
今の俺たちは、カラーリングが同じのペアルックだ。
違うのは、千束は白のハープパンツに対して、俺は白の7分丈。
千束が赤の半袖上着に対して、俺は赤の袖なしの上着。
あと俺は、黒のヘアゴムで適当に縛っている。
「暑いわ。引っ付くな」
「またまた、そんな照れちゃって〜!」
「…」
「痛い痛い痛い!関節極まってる〜!」
しっかり関節技を極めていると
「お待たせしました」
たきながやってきた。
その服装を見て俺は唖然としながら、口を開いた。
「お、おぉ…新鮮だな…」
「問題ないですか?」
いや、それ部屋着だろ…パジャマじゃないだけマシか?
というかそれより問題なのは、お前が背中に背負ってる、サッチェルバック…風のリコリスに支給される、戦術武装鞄だ。
「銃持ってきたな、貴様」
「ダメでしたか?」
「抜くんじゃねぇぞ」
「…千束、一護。お2人の衣装は自分で?」
「「衣装じゃねぇ」」
そりゃ自分で選んだものだから、私服なんだろうが。
というか、リコリスはちょっと閉鎖すぎでは?
というわけで下着を買う前に、錦木兄妹プレゼンツ、たきなのファッションショーを開催することに。
「千束。それが上なら、パンツはこっちだろ」
「お兄ちゃん!これどう?」
「この組み合わせもいいな」
「「めっちゃ可愛い!」」
「…どうも」
私服をいくつか買ったところで、1番良かったやつは、そのまま着ることに。
そこからドンドンと、目的から脱線していき、化粧品まで買い出したところで
「千束、一護。そろそろ本来の目的を…」
「…あ〜…そうだったな」
「そうだった!下着だった!」
というわけでランジェリーショップへと、2人を送り出した俺は、ぼんやりと座りながら、スマホを弄っていた。
「仕事にむいたやつがいいですね」
「あ〜!銃撃戦用のランジェリーですね!…ってそんなものあるかぁ!」
…なんて会話してそうだな、あいつら。
などと考えていると、2人が駆け寄ってくる。
「おまたせしました、一護」
「おう」
「さて!ここからは千束さんお待ちかねの、おやつタイムだー!というわけでお兄ちゃん!行くよ!」
というわけで、リサーチしていたカフェへ移動。
「フランボワーズアンドギリシャヨーグレットリコッタダッチベイビーケークとホールグレインハニーコームバターウィズジンジャーチップスとふわふわスフレパンケーキひとつずつ」
「「は?なんて?」」
「かしこまりました。少々お待ちください」
「「分かるの!?」」
「いや、驚きすぎだろお前ら」
呪文のような注文に、たきなと驚いていると、何故か千束から呆れられる。
そのまま少しだべっていると、不意にたきながメニューを見て、微妙な顔をする。
「名前からして、カロリーが高そうですね」
「野暮なこと言わない。女子は甘いものに貪欲でいいのだ」
「寮のご飯も美味しいですよ」
「あの人、元宮内庁の元総料理長だからね」
リコリスはそうなのか。
うちの方は確か…元5年連続ミシュラン三ツ星獲得したレストランの、総料理長だったかな。
「でも甘いのは、かりんとうしか作らないんだよね〜」
「逆に興味あるな、そのかりんとう」
元宮内庁の元総料理長が作るかりんとう…興味が湧くな。
「あれ私好きですよ、美味しい」
「そりゃあなた、最近来たばかりでしょ?10年は飽きるよ〜」
そういう話をしていると、頼んだものがやってくる。
これは美味そうだ。
「うわぁ〜!美味しそう!」
「これは…糖質の塊ですね…」
「たきな!」
頭突きしたぞこいつ。
真剣な顔で何を言うかと思えば
「人間、一生の食べる回数は決まってるんだよ?全ての食事は美味しく楽しく幸せであれ〜!」
早口だな、おい。
単に食い意地張ってるだけだろ。
「美味しいのはいいことですが、余計な脂肪はリコリスにとって、デメリットです」
「その分走る!これにはそれだけの価値が…美味しい〜!」
全く…幸せそうな顔しちゃって…。
千束が美味しそうに食べてると、こっちも笑えてくる。
もちろん、微笑ましいという意味だ。
「…ん?」
俺が奥のテーブルの様子がおかしいことに気付くと、その反応を見た2人も気付いた。
…フランス語というのは、辛うじて理解した。
内容はさっぱりだが。
「行け。人間翻訳機、錦木千束」
「誰が人間翻訳機だ。ぶっ飛ばすぞアホ兄貴」
などと言いながら、そのテーブルに向かって、相変わらずのいい笑顔で、丁寧にフランス語を話す千束。
「…」
その様子を見たたきなは、自分の分のパンケーキを一口。
「…美味しいな」
「この間行って改めて思ったけどさ、DAは全体的に閉鎖空間すぎる」
突然話し出した俺に、たきなは驚いたような顔をする。
「今まで知らなかったことを、これから沢山知っていこう。俺たちも一緒だから、な?」
「…ええ、よろしくお願いします、一護」
「2人とも、なんの話してたの?」
「3人で色々しようぜ、って話してた」
「っ!うん!」
そのまま俺たちは、このパンケーキに舌鼓を打つのだった。
「食べたらいいところに行きま〜す!」
「いいところ?」
…ああ、あそこか。
少しづつ、たきなへの態度を軟化させていく一護くんです。
それでは失礼します。
ありがとうございました。