一夏のくせになまいきだ   作:シシカバブP

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ちーちゃんは一夏に、重要な事は何一つ話そうとしないってイメージがあります。(白騎士事件のこととか、プロジェクト・モザイカのこととか)


第28話 臨海学校2日目

――ハワイ沖某所

 

(これでよし……)

 

整備員の恰好をした女は、細工を終えたISを見て満足げな笑みを浮かべた。

正規の整備員ではない。とある組織から送り込まれた、工作員と呼べる存在だった。

 

(この『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』を暴走したように見せかける……)

 

仕込んだのは、ある特定の人物を探し出し、抹殺するプログラム。

そしてその人物とは……

 

(これで北山翔を始末すれば、千冬様の弟君が"唯一"の男性操縦者となる……そう、それ以外の男なんて不要なのよ……!)

 

織斑千冬至上主義者の彼女にとって、織斑一夏以外の男がISを操縦できるなど許されることではなかった。

だからこそ、自分の上司――女性権利団体の幹部――から今回の話を聞いた時、我先に志願したのだ。

 

(ドイツの小娘を利用した連中は失敗したけど、今回こそは……!)

 

なにせ、今回は軍用ISを使うのだ。万が一にも仕損じることは無いだろう。

近い内にもたらされるであろう成功を妄想しながら、工作員の女はIS格納庫を後にした……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside箒ー

 

臨海学校2日目。今日は丸一日、ISの各種装備試験運用とデータ取りをするらしい。まぁ、専用機持ちに比べ、私を含めたクラスメイト達はそこまで忙しくないだろうが。

 

「さて、それでは各班ごとにISの装備試験を行う。専用機持ちは専用パーツのテストだ」

 

ほら、各班で分担するなら、そこまで時間はかからないだろう。

そう思って、クラスメイト達の輪の中に入ろうとしたが

 

「篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい?」

 

なんだろう? 千冬さんが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。それに……美波、だったか。彼女も苦笑いをしている。

 

「お前には今日から専――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!」

 

こ、この声は、まさか……!

 

「会いたかったよちーちゃん! さあハグを――ぶへっ」

 

「うるさいぞ、束」

 

砂煙を上げながら千冬さんに突撃、アイアンクローで迎撃されたのは……間違いなく、姉さんだった……。

 

「やあ箒ちゃん!」

 

「……どうも」

 

千冬さんのアイアンクローを受けたまま、こちらに向かって手を上げる姉さんに、私はそう返すしかなかった。

 

「おい束。自己紹介ぐらいしろ。うちの生徒達が困ってるだろ」

 

「うーん、それじゃあまずその手を放してくれるかなぁ」

 

「はぁ……」

 

ため息をひとつついて、千冬さんが姉さんを解放する。

 

「ISの生みの親、篠ノ之束だよー。身内以外に名前を呼ばれるのは許容しないから、適当に篠ノ之博士とでも呼んでー」

 

「「「……」」」

 

姉さんの自己紹介にクラスメイト達がぽかんとしていたが、私や一夏、千冬さんといった、()()()()姉さんを知ってる面子もぽかんとしていた。

 

(ね、姉さんが……普通の自己紹介をしている……!?)

 

身内と呼べる、私や織斑姉弟以外には、まっとうなやり取りをしなかった姉さんが!?

 

「えっと……こういう場合はどうしたら……」

 

山田先生もうろたえている。

 

「山田先生は各班のサポートをお願いします。ほら1年、手が止まってるぞ」

 

そう言って千冬さんが促すと、山田先生とクラスメイト達は自分達の担当装備がある場所に移動していった。

 

「それで、姉さんがなぜここに……?」

 

いや、姉さんなら『ちーちゃんに会いに来たんだよー!』だけで乱入してきそうではあるが。

 

「うっふっふっ。実は箒ちゃんにプレゼントがあるんだよ。 さあ、ご覧あれぇ!」

 

びしっと直上を指さす姉さんに、私や他のみんなも空を見上げた。

 

 

――ヒュゥゥゥゥゥ……ズズーンッ!!

 

 

「な、なな……!?」

 

激しい衝撃と轟音を伴って落ちてきたのは、銀色をした金属の塊だった。

その金属の塊の正面がぱたりと倒れると、中にあったのは……

 

「じゃじゃーん! 箒ちゃん専用機、『紅椿・改』! 箒ちゃんのことを思って、束さん、夜なべして作ったんだよ!」

 

この、赤い装甲のISが……私の、専用機……?

 

「ど、どういうことですか!? 私に専用機なんて……!」

 

「それはね……」

 

そう言うと、姉さんはいつもの顔から真剣な顔になって

 

「箒ちゃんを守るためだよ」

 

「私を、守る?」

 

「うん。箒ちゃん、IS学園に入ってから今まで、危険な目に何度も遭ってるよね?」

 

「……」

 

そんなことはない、と言いたかったが、思い返せばクラス対抗戦に学年別トーナメントと、危ない目には遭っているなと思った。

 

「だから、箒ちゃんにも自衛の手段が必要だと思ったんだ……余計なお世話だったかな?」

 

「それは……」

 

なんなのだ、これは。本当に、目の前にいるのは"私の姉さん"なのか?

勝手にISなんてものを作って、私達家族を離散させた諸悪の根源。そう、思っていたのに……

だが、これがあれば、あの時(学年別トーナメント)の北山とセシリアのように、私と一夏もなれるかもしれない。そうなれば、一夏もきっと、昔のように――

 

「いえ。有難く、もらいます」

 

「そっか! じゃあさっそくフィッティングとパーソナライズをしちゃおう!」

 

ーside箒 outー

 

 

ーside翔ー

 

「相変わらず、身内とそれ以外の差が激しいですわね……」

 

「そうね……あたし、箒に束姉のこと言うのが怖いんだけど……」

 

「タイミングが悪いと、修羅場りそうだねー」

 

などと、束さんのことを知ってる面子は、極力あちらに近づかないようにしていた。

あちらでは、篠ノ之が紅椿・改に乗って、試運転をしているようだ。ぱっと見、かつて研究室で見た紅椿と変わらなさそうだが……。

 

「美波、もしかしてお前、束さんが来るの知ってたのか?」

 

「あははー、バレてたかー」

 

そりゃ、織斑先生と一緒に苦笑いしてたからな。

 

「昨日連絡が来てねー、箒ちゃん用に防御重視の専用機を渡したいってー」

 

「あれ、防御重視なのか……」

 

その割には、空裂のエネルギー帯でミサイルを迎撃してるんだが?

 

 

「た、大変です! 織斑先生っ!」

 

突然の声にみんなが振り向くと、いつも以上に慌てた山田先生が走ってくるのが見えた。

 

「どうした?」

 

「こ、これをっ!」

 

渡された小型端末の画面を見て、織斑先生の顔が曇った。

 

「匿名任務レベルA……」

 

「ハワイ沖で試験稼働を……」

 

「山田先生、機密事項を口にするな」

 

「す、すみませんっ」

 

2人は小声で話していたが、その後は手話なのか、口を閉じて手だけを動かしだした。

しばらくその手話が続いていたが、お互い頷くと、山田先生はまた走っていった。

 

「……全員、注目!」

 

織斑先生がパンパンと手を叩いてみんなを振り向かせる。

 

「諸事情により、今日のテスト稼働は中止になった。各班はISを片付けて旅館に戻ること。連絡あるまで各自室内待機とする。以上だ!」

 

「ちゅ、中止?」

 

「突然なんなの?」

 

先ほどまで装備のテストをしていたクラスメイト達は、訳が分からないと騒ぎ始める。

 

「さっさと戻れ! 以後、許可なく外へ出たものは身柄を拘束する!」

 

「「「「はっ、はい!」」」」

 

"拘束"という言葉に、非常事態であることを認識した全員が慌てて動き始める。

 

「専用機持ちは全員集合!――篠ノ之もだ!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一室に集められた俺達の目の前には、大型の空中投影ディスプレイと織斑先生。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走、監視空域より離脱したと連絡があった」

 

「……」

 

全員、厳しい顔をして黙り込む。

俺と美波は原作を知っているから。代表候補生の面々も、こういった事態に対して、自分達が何を期待されているのか理解しているからだろう。

織斑と篠ノ之だけが、なぜ自分達にそんなことを知らせるのかという顔をしている。これに関しては仕方ないだろう。

 

「その後、衛星による追跡と進路予測の結果、福音はこの花月荘上空を通過、本州内陸部を目指していることが分かった。学園上層部からの通達により、我々がこの事態の対処に当たることとなった」

 

()()、ね。

 

「教員は空域及び海域の封鎖を行う。よって、福音の迎撃は専用機持ちに行ってもらう」

 

織斑なんかは「なんで俺達が?」みたいな顔をしてるが、教師陣の訓練機と専用機を比較したら、スペック的には俺達の方が勝算があると思われたんだろうな。

 

「福音の詳細なスペックデータはありますか?」

 

セシリアが挙手しながら質問する。

 

「あるが、これらは2カ国の最重要軍事機密だ。口外するな。情報漏洩した場合、諸君には裁判と最低2年の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

話がどんどん進んでいき、代表候補生達が開示されたデータを元にあれこれ相談を始める。

 

「広域殲滅型……オールレンジ攻撃が行えるようですわね」

 

「攻撃と機動力特化ね。しかもスペック上ではあちらが上か……」

 

「この特殊武装が曲者だね……ちょうどリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、長くは防げないかな……」

 

「それにしても情報が少ない……教官、偵察は行えないのですか?」

 

「無理だな。この機体は現在超音速飛行を続けている。アプローチは1回か、多くても2回が限界だろう」

 

そう織斑先生が返すと、候補生達はう~んと唸り始める。

 

「1,2回だけのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の能力を持った機体で当たるのが……」

 

そう山田先生が口にしたところで、今まで静かだった一角から手が上がり

 

 

「千冬姉! 俺にやらせてくれ! 俺なら、俺の零落白夜ならやれる!!」

 

 

ああ、やっぱりそうなるのか……。

 

ーside翔 outー

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