ーside束ー
「やった……ついにやった……! 認められたんだ。私が、私のISが……!」
棚はなぎ倒され、ガラスが割れ、中身が床に散乱した研究室で、私は笑っていた。
ISを発表した日、私は頑張った。
今まで散々否定してきた連中にしたくもない作り笑いをして。どんな阿呆にでも理解できるよう、事細かな論文を用意して。万全の状態で臨んだんだ。
その結果が――最初で最後のセリフが、『子供の戯言』って、何さ……?
理解できないだけじゃなく、理解すらしようとしないのか……!
くそがっ!
その日、私は荒れに荒れた。
そしてサンプルの入った棚を力任せに倒した辺りで、あることを思いついた。
(そうだ、言って理解できないなら、見せてやればいい……ISのすごさを……!)
それから数日後、私はその計画を実行に移した。
ちーちゃんに頼み込んで、私が渾身を込めたIS『白騎士』を操縦してもらった。
そして、各国にハッキングをしてミサイルを飛ばし、それをちーちゃんに迎撃してもらった。
予想外だったのは、『白騎士』を脅威に感じた各国が、戦闘機やら軍艦やらを持ち出してきたことだ。
まぁ、『白騎士』とちーちゃんの前には路傍の石も同然だったけど。
世間は謎の人型で持ちきりになった。
そのタイミングで、人型――『白騎士』――を作ったのが自分であると公表したのだ。
今まで見向きもしなかった連中が、こぞって私に会いに来るのだ。
ISのことを教えてほしいと。ISは素晴らしいと。
~~♪
(っ! この着信音は!)
「もしもし、なーちゃん!?」
「束さん」
「なーちゃん! 束さんやったよ! やっとみんながISのことを認めて――」
「束さん」
え……なーちゃん、どうして、そんな怒った声出してるの……?
「あの『白騎士事件』、束さんが起こしたんですね?」
「う、うん。ISの有用性をあの馬鹿共に理解させるには――」
「どうしてそんなことしたの?」
「えっ……?」
どうしてって、だからISの有用性を……
「確かにISの有用性は広まったと思う」
「なら!」
「でもそれは『兵器』として」
「へい、き?」
なんで? 私が作ったISは――
「2000を超えるミサイルを単騎で迎撃、各国の海上・航空戦力を返り討ちにする飛行パワードスーツ。それが『兵器』でなくて何?」
「あっ……」
なーちゃんの言葉に、私に達成感と高揚感を与えていた熱が一気に冷めた。それと同時に、スマホを持つ手がカタカタと震え始めた。
「これでISは『兵器』としてしか見られなくなった。もう、
「……っ!」
何で……? だって、私は
「ねぇ束さん……どうして、私や翔ちゃんを頼ってくれなかったの?」
「たよ、る……?」
「私も翔ちゃんも、束さんのことを理解しようとしてるつもりだよ?」
さっきの声から打って変わって、優しい、母親が子供を諭すような、それでいて、今にも泣きそうな声色で
「辛い時、悲しい時、悩んでる時。愚痴でもいい、束さんが思ってることを話してほしかった。解決できないかもしれないけど、理解させてほしかった。……でも、束さんは一度も話してくれなかった」
「なー、ちゃん……」
「私も翔ちゃんも、束さんの"理解者"には、なれなかったのかな……」
プッ ツー、ツー……
「あぁ……ぁ……ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
通話が切れた瞬間。持っていたスマホが手から滑り落ちた瞬間。私は慟哭した。
理解させてほしかったと、なーちゃんは言った。なのに私は、2人に何も言わなかった。理解してもらおうとしなかった。
それどころか、"理解者"と抜かしておきながら、
そして理解してしまった。
全てを喪った、いや、自ら壊してしまったことを。
ーside束 outー
ーside美波ー
「美波」
「翔ちゃん……」
通話の内容が内容だったから、翔ちゃんにも私の部屋に来てもらっていたんだけど、失敗だったかな?
まさか、最後の最後に泣いちゃうとは思わなかったよー……
「分かってたはずなのにね。束さんは必ず『白騎士事件』を起こすって」
「……」
「それでも、ちょっぴりは思ってたんだー。 『土壇場で束ちゃんが、私や翔ちゃんを頼ってくれる』って……」
「そっか……」
そう短く答えると、翔ちゃんは私の頭をポンポンと撫でてくれた。
『元気出せ』という、昔からのサインなんだよねー。――うん、これで泣くのおしまいっ!
ーside美波 outー
ーーーーーーーーーーーーー
ーside翔ー
また時は流れ、『白騎士事件』から9年が経った。
あれから世界は想定通り、歪な形になっていた。
現行の兵器を凌駕するISの登場と、女性にしか動かせないという欠陥が、男女平等という建前を破壊し、女尊男卑の風潮が強まった。
各国はIS運用条約、通称『アラスカ条約』を締結。建前上はISの軍事利用を禁止し、ISは一種の競技、スポーツになった。
そして肝心のISだが、全世界に普及することはなかった。
なぜなら、最重要機関であるISコアが完全なブラックボックスで束さんにしか作れなかったから。そして何より、その束さんがある日突然失踪してしまったからだ。467個のISコアを残して。
こうして各国は残されたコアを分配・やり繰りしながら、スポーツ競技となったISを研究・開発し、ISの世界大会『モンド・グロッソ』の優勝カップを奪い合うという、ある種の代理戦争を続けていた。
ザーッ……
「中学生生活も今年で最後かー、早いよねー」
「そうだな」
中学3年の6月。梅雨特有の雨の中、俺と美波はそれぞれ傘を差しながら家への帰り道を歩いていた。
「美波は進路、IS学園で決まりなんだろ?」
「IS適正Aだからねー。それを言ったら翔ちゃんだって」
「ああまぁ、この世界に来た理由がそれなのは理解してるんだが…」
未だ世界初のIS操縦者・織斑一夏が登場していない中で、実質女子校のIS学園を志望とは口にできない。したら社会的に死ぬ。
「追々どうするか決めれば――?」
話しながら十字路を左に曲がると、この雨の中、傘もささずに立ち尽くしている人がいた。
「あのー、どうしたんです… っ!」
その人の声をかけながら近づいた美波がはっとした顔をした。
俺もその人に近づいた。そして美波と同じようにはっとした。
不思議の国のアリスみたいな服装に見覚えはない。だが、紫色の髪、そしてやや血走っているが、あの眼は間違いなく――
「しょーちゃん、なーちゃん……」
「「束さん……」」
「しょーちゃん、なーちゃん……もう分からないよ……私はただ、ISで
途中で膝から崩れ落ちながらも、束さんの口から出た言葉は、まるで呪詛のようで、それでいて懺悔のように聞こえた。
「「……」」
ちらっと美波の方を見ると、美波が頷いてみせたので、2人でさらに束さんに近づいていく。
そして束さんのすぐ目の前まで行くと、そこでしゃがみ込んで束さんと視線を合わせた。
「もう嫌だよぉ……どうすればよかったのさぁ……」
「束さん」
美波が傘を手放すと、束さんを包み込むように抱きしめた。
「やっと、話してくれたねー。束さんの思っていることー」
「なーちゃん……」
「9年もか…抱え込み過ぎだろう、まったく…」
そう言いつつ俺も、いつも美波にやっているように、束さんの頭を左手でポンポンと撫でた。
「しょーちゃん……なーちゃん……っ!」
美波の一緒に、束さんに抱き着かれた。その拍子に俺も傘を落としたが、そのまま束さんの背中をポンポンと叩いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
その日、俺達と束さんは、やっと
ーside翔ー
はい、これにて束さんが味方に(+精神正常化)なりました。
これによって今後のシナリオがどうなるかお楽しみに。
(確実に一夏は酷い目に遭います)