一夏のくせになまいきだ   作:シシカバブP

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第3話 理解者

ーside束ー

 

「やった……ついにやった……! 認められたんだ。私が、私のISが……!」

 

棚はなぎ倒され、ガラスが割れ、中身が床に散乱した研究室で、私は笑っていた。

 

 

ISを発表した日、私は頑張った。

今まで散々否定してきた連中にしたくもない作り笑いをして。どんな阿呆にでも理解できるよう、事細かな論文を用意して。万全の状態で臨んだんだ。

 

その結果が――最初で最後のセリフが、『子供の戯言』って、何さ……?

 

理解できないだけじゃなく、理解すらしようとしないのか……!

くそがっ!

 

その日、私は荒れに荒れた。

そしてサンプルの入った棚を力任せに倒した辺りで、あることを思いついた。

 

(そうだ、言って理解できないなら、見せてやればいい……ISのすごさを……!)

 

それから数日後、私はその計画を実行に移した。

 

ちーちゃんに頼み込んで、私が渾身を込めたIS『白騎士』を操縦してもらった。

そして、各国にハッキングをしてミサイルを飛ばし、それをちーちゃんに迎撃してもらった。

 

予想外だったのは、『白騎士』を脅威に感じた各国が、戦闘機やら軍艦やらを持ち出してきたことだ。

まぁ、『白騎士』とちーちゃんの前には路傍の石も同然だったけど。

 

世間は謎の人型で持ちきりになった。

そのタイミングで、人型――『白騎士』――を作ったのが自分であると公表したのだ。

 

今まで見向きもしなかった連中が、こぞって私に会いに来るのだ。

ISのことを教えてほしいと。ISは素晴らしいと。

 

~~♪

 

 

(っ! この着信音は!)

 

「もしもし、なーちゃん!?」

 

「束さん」

 

「なーちゃん! 束さんやったよ! やっとみんながISのことを認めて――」

 

「束さん」

 

え……なーちゃん、どうして、そんな怒った声出してるの……?

 

「あの『白騎士事件』、束さんが起こしたんですね?」

 

「う、うん。ISの有用性をあの馬鹿共に理解させるには――」

 

「どうしてそんなことしたの?」

 

「えっ……?」

 

どうしてって、だからISの有用性を……

 

「確かにISの有用性は広まったと思う」

 

「なら!」

 

「でもそれは『兵器』として」

 

「へい、き?」

 

なんで? 私が作ったISは――

 

「2000を超えるミサイルを単騎で迎撃、各国の海上・航空戦力を返り討ちにする飛行パワードスーツ。それが『兵器』でなくて何?」

 

「あっ……」

 

なーちゃんの言葉に、私に達成感と高揚感を与えていた熱が一気に冷めた。それと同時に、スマホを持つ手がカタカタと震え始めた。

 

「これでISは『兵器』としてしか見られなくなった。もう、宇宙(そら)を飛ぶことはない」

 

「……っ!」

 

何で……? だって、私は宇宙(そら)を飛びたかっただけで……!

 

「ねぇ束さん……どうして、私や翔ちゃんを頼ってくれなかったの?」

 

「たよ、る……?」

 

「私も翔ちゃんも、束さんのことを理解しようとしてるつもりだよ?」

 

さっきの声から打って変わって、優しい、母親が子供を諭すような、それでいて、今にも泣きそうな声色で

 

「辛い時、悲しい時、悩んでる時。愚痴でもいい、束さんが思ってることを話してほしかった。解決できないかもしれないけど、理解させてほしかった。……でも、束さんは一度も話してくれなかった」

 

「なー、ちゃん……」

 

 

 

「私も翔ちゃんも、束さんの"理解者"には、なれなかったのかな……」

 

 

 

プッ ツー、ツー……

 

 

「あぁ……ぁ……ああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

通話が切れた瞬間。持っていたスマホが手から滑り落ちた瞬間。私は慟哭した。

 

理解させてほしかったと、なーちゃんは言った。なのに私は、2人に何も言わなかった。理解してもらおうとしなかった。

それどころか、"理解者"と抜かしておきながら、私から(・・・)2人を理解しようとはしなかったじゃないか…

 

 

そして理解してしまった。

全てを喪った、いや、自ら壊してしまったことを。

 

 

宇宙(そら)を飛ぶという『夢』を。ISの『未来」を。しょーちゃんとなーちゃんという"理解者"を――

 

ーside束 outー

 

 

ーside美波ー

 

「美波」

 

「翔ちゃん……」

 

通話の内容が内容だったから、翔ちゃんにも私の部屋に来てもらっていたんだけど、失敗だったかな?

まさか、最後の最後に泣いちゃうとは思わなかったよー……

 

「分かってたはずなのにね。束さんは必ず『白騎士事件』を起こすって」

 

「……」

 

「それでも、ちょっぴりは思ってたんだー。 『土壇場で束ちゃんが、私や翔ちゃんを頼ってくれる』って……」

 

「そっか……」

 

そう短く答えると、翔ちゃんは私の頭をポンポンと撫でてくれた。

『元気出せ』という、昔からのサインなんだよねー。――うん、これで泣くのおしまいっ!

 

ーside美波 outー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ーside翔ー

 

また時は流れ、『白騎士事件』から9年が経った。

 

あれから世界は想定通り、歪な形になっていた。

現行の兵器を凌駕するISの登場と、女性にしか動かせないという欠陥が、男女平等という建前を破壊し、女尊男卑の風潮が強まった。

各国はIS運用条約、通称『アラスカ条約』を締結。建前上はISの軍事利用を禁止し、ISは一種の競技、スポーツになった。

 

そして肝心のISだが、全世界に普及することはなかった。

なぜなら、最重要機関であるISコアが完全なブラックボックスで束さんにしか作れなかったから。そして何より、その束さんがある日突然失踪してしまったからだ。467個のISコアを残して。

 

こうして各国は残されたコアを分配・やり繰りしながら、スポーツ競技となったISを研究・開発し、ISの世界大会『モンド・グロッソ』の優勝カップを奪い合うという、ある種の代理戦争を続けていた。

 

 

ザーッ……

 

 

「中学生生活も今年で最後かー、早いよねー」

 

「そうだな」

 

中学3年の6月。梅雨特有の雨の中、俺と美波はそれぞれ傘を差しながら家への帰り道を歩いていた。

 

「美波は進路、IS学園で決まりなんだろ?」

 

「IS適正Aだからねー。それを言ったら翔ちゃんだって」

 

「ああまぁ、この世界に来た理由がそれなのは理解してるんだが…」

 

未だ世界初のIS操縦者・織斑一夏が登場していない中で、実質女子校のIS学園を志望とは口にできない。したら社会的に死ぬ。

 

 

「追々どうするか決めれば――?」

 

話しながら十字路を左に曲がると、この雨の中、傘もささずに立ち尽くしている人がいた。

 

「あのー、どうしたんです… っ!」

 

その人の声をかけながら近づいた美波がはっとした顔をした。

俺もその人に近づいた。そして美波と同じようにはっとした。

 

不思議の国のアリスみたいな服装に見覚えはない。だが、紫色の髪、そしてやや血走っているが、あの眼は間違いなく――

 

 

 

「しょーちゃん、なーちゃん……」

 

「「束さん……」」

 

「しょーちゃん、なーちゃん……もう分からないよ……私はただ、ISで宇宙(そら)を飛びたかっただけなのに……それなのに、どうしてこうなっちゃうの……?」

 

途中で膝から崩れ落ちながらも、束さんの口から出た言葉は、まるで呪詛のようで、それでいて懺悔のように聞こえた。

 

「「……」」

 

ちらっと美波の方を見ると、美波が頷いてみせたので、2人でさらに束さんに近づいていく。

そして束さんのすぐ目の前まで行くと、そこでしゃがみ込んで束さんと視線を合わせた。

 

「もう嫌だよぉ……どうすればよかったのさぁ……」

 

「束さん」

 

美波が傘を手放すと、束さんを包み込むように抱きしめた。

 

「やっと、話してくれたねー。束さんの思っていることー」

 

「なーちゃん……」

 

「9年もか…抱え込み過ぎだろう、まったく…」

 

そう言いつつ俺も、いつも美波にやっているように、束さんの頭を左手でポンポンと撫でた。

 

「しょーちゃん……なーちゃん……っ!」

 

美波の一緒に、束さんに抱き着かれた。その拍子に俺も傘を落としたが、そのまま束さんの背中をポンポンと叩いた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 

 

その日、俺達と束さんは、やっと"理解者になれた"(わかりあえた)んだと思う。

 

ーside翔ー

 




はい、これにて束さんが味方に(+精神正常化)なりました。

これによって今後のシナリオがどうなるかお楽しみに。

(確実に一夏は酷い目に遭います)
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