山賊王ヒグマ登場回
偉大なる航路前半の海上ーーーー
赤髪海賊団がエレジアを出発してから2日が経った朝、クロードはレッドフォース号のメインデッキにて、身体を伸ばしていた。
「んーーーーッ!治ったァーーーー!!」
クロードが気持ち良さそうに身体を解していると、そこにやってきたシャンクスが、後ろから声を掛けた。
「クロード、お前また部屋から勝手に出て…、もう平気なのか?」
「おお、シャンクスか!もう全快したぜ!」
「んな訳あるか!全身骨折で内臓にまでダメージが残ってたのが2日で治る訳ねぇだろ!さっさと部屋に戻れ!!」
「待て!本当に治ったんだよ!!ホンゴウにも許可をもらったんだ!」
クロードが安静にしているように言ってもすぐに部屋を抜け出し、昨日も平然と宴に参加していた事を思い出したシャンクスは、クロードに部屋に帰るように促すが、クロードはホンゴウに許可を得たと言い出した。
訝しむ様子を見せたシャンクスだったが、そこに丁度よくホンゴウが通りかかった。シャンクスはクロードの容態について、ホンゴウに尋ねた。
「ああ、お頭。おれも驚いたが、本当に治ってたぞ」
「ほら!言ったじゃねぇか!」
「本当かよ…、どんな回復力してんだお前…」
ホンゴウからクロードの話が事実だったことを聞いたシャンクスは、クロードの異常な回復速度に軽く引いた様子を見せた。
「恐らく、異常な程の傷の治りの速さは、動物系の能力の恩恵だろう」
「正解だ!ホンゴウの言う通り、動物形ってのは覚醒する事でかなり回復力が増すんだぜ!勉強になったろ?」
「それを加味してもおかしいだろ!お前の回復力は!」
「?別に普通だろ、これくらい…」
クロードの異常な回復力に驚くシャンクスだったが、この世界には肉を食うだけで瀕死の状態から体力全快になって即戦線復帰してくる様な奴もいるから、それよりはマシだろう。多分。
「まあ、もう治ったのは分かったが、無理するなよ?」
「なんだ?やけに心配してくれるじゃねぇか。だけど、本当にもう平気だぞ?」
「いや、おれは…、まあ、お前がそう言うならいい」
「…?」
シャンクスは一昨日の夜のクロードの様子を見てから、過去に何があったのか気になっていた。クロードが、相当に重いものを抱えている事で苦しんでいる事を知ったシャンクスは、何か力になってやりたいと思った。しかし、無理に聞くことは出来なかったため、昨日は悶々とした気分で過ごす事になった。
そして今日、身体の状態はホンゴウのお墨付きなので問題無いのだろう。でも、一昨日の様子を見てしまったシャンクスには、何故だか無理をしている様に見えたので、無理をしないように釘を刺した。
そんなシャンクスに、クロードが話しかけた。
「なんかよくわからねぇけど…、まあ、いいか!シャンクス!世話になった!じゃあおれ、先にフーシャ村に向かっとくぞ!」
「待て!無理するなって言ったばかりだろ!」
いきなりフーシャ村に向かおうとするクロードを、シャンクスが引き留める。
「もう大丈夫だって…、それに、ルフィのやつに連絡してやんねぇと…、3日も待たせちまったからな」
「確かにルフィのやつは心配してるだろうが、まだダメだ!」
「なんでだよ!身体の調子ならさっき聞いただろ!お前がダメって言ってもおれは行くぞ!」
「ダメだ!今日までは大人しくしてろ!」
言い合い出した2人に、騒ぎを聞きつけた船員達が集まってきた。
その中からウタが顔を見せると、クロードに問いかけた。
「クロード…、行っちゃうの……?」
「うっ!!……ああ、そうだ」
「やだ!一緒に行こうよぉ!」
「いや…、おれは…」
クロードが、ウタからのおねだりにタジタジになっていると、そこにベックマンが声を掛けた。
「クロード、1つ聞いていいか?」
「…なんだよ?」
「お前、どうやって帰るつもりだ?」
「どうって…、そりゃお前空を飛んで…」
「それは分かるが…、ゴア王国の場所、分かるのか…?永久指針、持って無いんだろ?」
「……あっ」
かくして、クロードの船旅は延長が決定したのだったーーーー
ーーーーーー
ゴア王国、フーシャ村ーーーー
幼馴染の少女と新時代を誓い合った丘の上、ルフィは1人で今日も海を眺めていた。
5日前、クロードがフーシャ村を経ってから、ルフィは落ち着かない様子で海を眺めている時間が日に日に増えていった。
「………今日も、帰って来なかったな」
出発する前、自分の頭に手を置いて力強く"まかせとけ"と言ってフーシャ村を経ったクロードも、シャンクス達も帰って来ない。
ルフィの目にじわりと涙が滲んだ。
「……まかせとけって、言ってたじゃねぇかよ…」
ルフィは、せめて気を紛らわせる為に日々の修行を続けていたが、日が経つにつれて、シャンクス達やウタやクロードに何かあったのではないかという不安で身が入らなくなっていった。
「……くそ!!そんなわけねェ!!」
ルフィは、自身の頭によぎった想像を打ち切るように言うと、涙を拭って立ち上がった。そして、足元に視線を落とし、とぼとぼと村へと歩き始めた。
そのとき、ルフィは自身の頭上から聞き覚えのある女の子の声を聞いた。
「ルフィーーーーーー!!」
「!?」
ルフィは聞こえてきた声に反応して、弾かれたように空を見上げた。
そこには、赤い飛竜の姿になったクロードと、その背に乗ったウタが、空から降りてくる姿が見えた。
「ルフィ!!この前のお返し!どう?びっくりしたでしょ!!」
「……」
クロードが丘に降り立つと、その背中から地面に降りたウタが、ルフィに笑いながら話しかけた。しかし、ルフィが反応を返さずに黙っているのを見て、ムッとした顔でルフィに詰め寄った。
「ちょっとルフィ!聞いてんの!!…ッ!?」
「へぇ…」
ルフィに詰め寄ったウタは、目の前にいるルフィから突然抱きしめられた。その様子を見ていたクロードは、意外そうな声をあげた。
ウタは突然抱きしめられたことに驚いた様子を見せたが、状況を飲み込むと顔を赤くしてルフィを引き剥がしにかかった。
「ちょっと!いきなり何してんのよルフィ!?離れ……!……ルフィ?泣いてるの……?」
「ウタ…!ウタあぁぁぁ〜〜〜〜!!」
「えっ!ルフィ、そんなに驚いたの!?ク、クロード…、ど、どうしよう!?」
ウタは、今まで見たことがないくらいに取り乱したルフィを見て、ルフィを驚かせすぎたと思ったらしい。人型に戻り、傍らに立っているクロードに助けを求めた。実際の理由は大分違っていたが…
クロードは、ウタと初めて会った時もウタがルフィに対して同じような事やってたなぁと落ち着いた様子で2人を見ていた。
「まあ、しばらくしたら落ち着くだろうから、もう少しそうさせておいてやれよ。別に嫌では無いんだろ?」
ウタの直立した後ろ髪を見ながらクロードがそう言った。
「い、イヤじゃ無いけど…、そんな事言ってないでなんとかしてよ!」
「なんだウタ…、あれだけルフィより自分の方が大人だって言ってたのに、2歳年下の子どもを宥めるのは難しいか?」
「うっ!!難しくないもん!」
「だったら任せたぞ、お姉さん?」
「むむむ…わかった!」
クロードにうまく乗せられたウタは、今だに自分を抱きしめているルフィに向き直った。そして、涙を流しているルフィの背中に辿々しく手を回すと、優しく抱きしめ返してやった。
しばらくそうして抱き合っていた2人だったが、ルフィが落ち着いたのを見計らってウタが口を開いた。
「ルフィ……、落ち着いた…?」
「ウタ……、無事でよがったッ……!」
「!……ルフィ、……ありがとう」
ようやくルフィが泣いていた理由を察したウタは、ルフィが自分を間接的に助けてくれたことを思い出して感謝の言葉を口にした。
「おれ……、何もできずに待ってることしか出来なくて……、ウタにもう会えねぇかと思って……!」
「ルフィがクロードを私たちの所に呼んでくれたんでしょ?そんなことない!」
「ウタ……、でも……」
「でもじゃない!はい!もうこの話はおしまい!」
うじうじしているルフィに、ウタは強引に話を切り上げると、抱き合っていた体を離した。そして、少し名残惜しそうなルフィに対して笑いかけた。
「ルフィ、……ただいま!!」
「ウタ…、しししっ!おかえり!」
ウタは、ルフィが笑顔になった事を確認すると、途端に悪戯っぽい表情になるとさっきまでのルフィの様子をからかい始めた。
「それにしてもルフィ、さっきすっごい泣いてたね〜!!そんなに私に会えて嬉しかったんだぁ〜?」
「なっ!!いや!ウタ!あれは違うぞ!!」
「何が違うの?」
「あれはちょっと目に埃が入っただけだ!」
「ふーん、いきなり抱きしめてきたのは?」
「あ、あれは!躓いたんだ!!」
顔を赤くして言い訳をするルフィに、ウタはお馴染みの台詞を返すのだった。
「出た!負け惜しみぃ〜!!」
「ぐぬぬ…!ウターー!!」
「あはははは!!」
ウタは、顔の横に持ってきた手をワサワサと動かしてルフィを煽ったあと、港に向かって走り出した。それを見たルフィは、顔を赤くしてウタを追いかけるのだった。
そんな2人のやり取りを後方で見守っていたクロードは、こう思ったという。
(なんだこいつら……可愛すぎか………)
ーーーーーー
フーシャ村の港ーーーー
追いかけっこをしながら港までやってきたルフィとウタは、沖に見える海賊船に向かって手を振っていた。
そこに、後ろからやってきたクロードが2人に声を掛けた。
「よっ!2人とも!元気いっぱいだったな!」
「あっ!クロード!おそーい!!」
「クロード!ビリだぞ!!」
口々に遅れてきたことに文句を言う子どもたちに、クロードは苦笑いした。そんなクロードに、ルフィが何かを思い出した様に聞いた。
「クロード!そう言えばなんでウタが無事なら先に帰って来なかったんだよ!」
「うっ!それはだな…」
意気揚々とエレジアまで行った迄は良かったものの、帰りの永久指針を持っていなかったから道が分からず帰れなかった。これはクロードからすればシャンクス達にもこの2日間散々揶揄われた事であった。
もし、エレジアで事が起きなければこの島に帰って来れなかったかもしれなかった。
言い訳をするならば、普段当てのない旅ばかりしていたせいで、そこら辺に気を配る事はなかったのだ。
「ルフィ、クロードは帰り道が分かんなかったんだって!あははっ!今思い出しても面白い!!」
「ウタ!バラすな!」
「なんだ…、つまり…、迷子か!!」
「その言い方はやめろ!!」
「「アハハハハ!!」」
1つ彼の名誉の為に言っておくならば、あくまで永久指針を持っていなかったから帰って来れなかっただけである。どこぞのマリモ剣士みたいな揶揄われ方をしているが、そこまで方向音痴ではない。彼と同レベルならば、永久指針を持っていてもエレジアにたどり着くことすら出来なかっただろう。
しかし、目的地の永久指針を持っていないことなんて、海賊からすれば格好のネタに違いなかったので、クロードは赤髪海賊団から散々にいじられることとなったのだった。
「最悪だぜ…、こんな状況をあいつらが見逃すはずがない…」
クロードには、子ども2人に混ざって黒歴史を掘り起こしてくる赤髪海賊団のメンバーの姿が思い浮かんだ。
クロードは、すぐそこまで来ているレッドフォース号に目をやると、これから起こるであろう未来にため息を吐いたのだったーーーー
ーーーーーー
フーシャ村の丘の上ーーーー
クロードがフーシャ村に帰ってきた数日後、酒を飲んでいたシャンクス達が山賊に絡まれ、ルフィがゴムゴムの実をやけ食いした後のことだった。
シャンクス達が山賊にされるがままだったことに失望し、怒りが治まらない様子のルフィは、イライラした様子で海に石を投げた。
そんなルフィに、後ろからやってきたクロードが話しかけた。
「ようルフィ、随分荒れてるな」
「クロード…、おれは怒ってんだよ!シャンクス達があんなに弱虫だと思わなかった!」
「ルフィ…、喧嘩っていうのは何でもかんでも買えばいいってもんじゃ無いんだぜ?話はシャンクスから聞いたが、山賊との一件なら、あいつの勝ちだ」
「なんでだよ!男なら売られた喧嘩は全部買ってぶっ飛ばしちまえばいいじゃねぇか!」
「まあ、お前の気持ちも分からなくは無いけどな…、おれは普段がだらしなくても、いざという時にやるやつの方がカッコいいと思うぞ。あいつはそういうやつさ」
「何言ってんだ?普段からやるやつの方がいいに決まってんじゃねぇか!」
「ばーか、普段から完璧に振る舞ってたら疲れるし、窮屈じゃねぇか!時には息抜きも重要ってことだ」
クロードは、ルフィを諭す様に話をした。
しかし、ルフィがまだ納得いかない表情なのを見たクロードは、話題を変えることにした。
「そういやルフィ、悪魔の実を食ったって?」
「!ああ、食べた!」
「どんな感じだ?」
「無茶苦茶不味かった!」
「それは同意見……いや、味の感想じゃなくてな…身体がどんな感じになったんだ?」
「なんか伸びる様になった!」
ルフィはそう言うと、頬を引っ張って伸ばして見せた。
「へぇ…、なんか変な能力だな」
「シャンクス達はゴムゴムの実って言ってた!」
「ゴムゴムの実ねぇ…、つまりはゴム人間か」
「クロード!おれも能力者になったってことは、変身できるのか!?」
「いや…、見た感じ超人系に見えるから無理じゃないか?変身出来んのは動物系の能力者だからな」
「えーーーっ!!ウソだろ!?」
ルフィは、悪魔の実の能力を得たことで、クロードの様に変身が出来る様になったのではないかと期待したが、クロードからの返答でガッカリした様子を見せた。
「実はすごい力が隠されてて、変身出来たりしないのか!?」
「何だよすごい力って…、実は神の力が宿ってたりすんのか?ないだろ、流石に……」
「ちくしょぉぉーー!!」
クロードは、変身へのロマンを捨てきれず悔しがるルフィの肩に手を置いて、言った。
「まあ、なんだ……、お前には似合ってるんじゃないか?その能力」
「ほんとか!」
クロードの言葉にルフィは表情を明るくした。
「ああ、伸びたり跳ねたり…、落ち着きも緊張感もなさそうな能力だし、いつも騒がしいお前にピッタリじゃねぇか!」
「どういう意味だよ!それ!!」
「言葉通りだよ!ほら、そろそろ帰るぞ!」
「クロードー!!」
言いたい事を言うと村へと歩き出したクロードを、ルフィは急いで追いかけるのだったーーーー
ーーーーーー
フーシャ村の森の中ーーーー
数日後、赤髪海賊団が出港し、更に数日経ったある日のことであった。
クロードは、ゴア王国の永久指針を買いに街へと向かった。
その途中、考え事をしながら森の中を歩いていたクロードはガラの悪そうな髭の生えた男に肩をぶつけた。
「ん?悪いな、ぶつかっちまって」
咄嗟に謝罪したクロードは、そのまま通り過ぎようとしたが、ガラの悪そうな男に肩を掴まれた。
「おい、待て貴様、誰の肩にぶつけたと思ってやがる」
髭の生えた男の子分と思わしき連中に道を塞がれ、クロードは仕方なく肩を掴んできた男に振り返った。振り返ったクロードに、続けて話す。
「おれに舐めたマネをした以上、タダで通すわけにはいかねぇな、小僧。金目の物を置いていってもらおう」
「おいおい、勘弁してくれよ。これから買い物に行くんだからさ」
「そんな事は知らねえな、のこのこと山賊様の縄張りに足を踏み入れた貴様の不運を呪うんだな」
「そうか、山賊か…」
もしかしたらシャンクス達に喧嘩売った奴らかもしれないと思ったクロードは、山賊達を眺める。その値踏みする様な視線が癪に触ったのか、山賊の頭領ヒグマは苛立った様子で声を上げた。
「その赤髪…、以前酒場で見た間抜け面の海賊どもを思い出すな。喧嘩の1つも買えない腰抜けどもを」
「なに?」
ヒグマの言葉に、クロードは眉を顰めた。周りの子分達が笑い声をあげ始めると、ヒグマが言葉を続ける。
「おれはああいう腑抜けた野郎を見ると虫唾が走る。殺してやろうかと思ったぜ。今もそうだ。貴様の舐めた態度とその髪色は、あの腰抜けどもを思い出させるんだよ」
「…………」
「金目の物を置いて行けば命までは取らねぇ予定だったが、気が変わった。ここで殺して、奪っちまおう」
「…………」
「怯えて声も出せなくなったか、丁度いい。これを見ろ」
ヒグマは、刀を抜くと、下を向いて黙っているクロードに自らの手配書を突きつけた。
「800万ベリーの賞金がおれの首に掛かってる。56人殺したのさ…、てめェの様に生意気なやつをな。貴様を57人目に加えてやる、ありがたく思うんだな」
「………ハッ」
「てめえ、何が可笑しい…、死の恐怖でおかしくなったか?最後まで不快な野郎だな。まあいい、あばよ」
「ああ…、あばよ」
ヒグマは、いきなり笑ったクロードに、苛立った様子で剣を振り上げた。
その直後、"あばよ"と言う言葉とともにクロードから放たれた覇王色の覇気によってヒグマと手下の山賊達は、一瞬で意識を刈り取られた。
全員が地面に沈んだのを確認したクロードは、頬をぽりぽり掻いたあとで、
「つい、やっちまった。これじゃルフィに人の事言えねぇなぁ…。いや、おれに対してだけ絡むんなら見逃してやってたから、これはノーカウントか……?」
そんな事を呟きながら、その場を後にするのだったーーーー
ーーーーーー
マキノの酒場ーーーー
クロードが山賊に絡まれた日から3日が過ぎた日の朝、朝ごはんを食べ終えたクロードは、ルフィと何か言い合っていた。
「だから、明日までには戻るって言ってるだろ!」
「ウソだ!そんな事言ってこの前全然戻って来なかったじゃねぇか!また迷子になるだろ!」
「その迷子ってのはやめろてめェ!!今回は帰りの永久指針もあるから大丈夫だ!」
ゴア王国の永久指針を手に入れたクロードは、今日の朝、シャンクス達がダイアルを欲しがっていた事を思い出したため、空島へ向かうことにした。ついでに、この前の件で自分に懸けられた方向音痴の疑いを晴らして名誉挽回をすることも、目的の一部であった。
しかし、それを聞いたルフィが猛反対し、冒頭のやり取りに至ったという訳であった。
「お前にも、なにかお土産を買ってくるから、な?」
「本当に帰ってくるんだろうな!」
「ああ、1人でもちゃんと修行しとくんだぞ?」
しばらく平行線の言い合いが続いたが、渋々ルフィを納得させたクロードは酒場を出ていき、ルフィに手を振ると、リオレウスの姿に変身してフーシャ村を飛び去っていった。
ーーーー
昼過ぎ、ルフィがマキノに貰ったジュースを飲んでいると、そこにいつぞやの山賊達が現れた。
「邪魔するぜぇ…、今日は海賊どもはいねぇんだな。静かでいい」
山賊の頭領ヒグマは、そう言うと何かを探す様に店を見回した。
「チッ…ここにも居やがらねェか、おれ達をコケにしてくれやがったあのふざけた赤髪の小僧は」
3日前、クロードの覇王色を受けて全員が気絶したヒグマ率いる山賊一味は、自分達に恥をかかせたクロードを探し出そうと国中を探し回っていた。
特に頭領であるヒグマの怒りは凄まじかった。
まずは見た目が気に食わなかった。間抜けな海賊と似たような髪色なだけでイラついていたのに、整った顔立ちと綺麗な碧い瞳に余計に腹が立った。
更には、自分が手配書を見せた時のこちらを小馬鹿にした様な笑い、自分が剣を振り上げた際に放った言葉をそのまま返してきた対応、自分達が目を覚ましたときに眼中に無いと言わんばかりに何もせず立ち去っていたこと。
その容姿や行動全てがヒグマの神経を逆撫でしていた。
「まあいい…、あの小僧は必ず見つけて始末してやる。おい、何してる!おれ達は客だぜ!酒だ!!」
酒を飲み出した山賊達は、口々に一向に見つからないクロードの悪口を言い始めた。
本来ならシャンクス達を馬鹿にしていた山賊達だが、少し前にクロードにあしらわれたため、その矛先は海賊ではない方の生意気な赤髪の小僧に向かうことになった。
「しかし見つからねぇな、あの赤髪の男は、逃げ回ってやがるのか?」
「おれ達の報復を恐れてるってわけだな!!情けねぇ奴だ!!」
「はっはっはっはっ!!」
「あのときの海賊といい、赤髪の男ってのは腰抜けばかりらしい!!」
「やめろ!!!!」
「やめなさい!!ルフィ!!」
「あぁ!?」
ヒグマがシャンクスとクロードを纏めて馬鹿にした瞬間、ルフィはマキノに止められていた手を振り解いて声を上げた。
ヒグマがルフィの方へ視線を動かすと、ルフィはマキノの制止を振り切ると、大声で言った。
「シャンクスとクロードを馬鹿にするなよ!!腰抜けなんかじゃないぞ!!!」
「ほお、ガキ、あの腰抜け海賊どもや、おれ達にふざけたマネをした赤髪小僧の事を知ってるらしいな」
「おれの友達を馬鹿にするなよ!!腰抜けなんかじゃないぞ!!!」
ルフィは酒場にいる山賊達を睨みつけた。
ーーーー
その後、山賊達と戦ったルフィだったが、大人と子どもで人数も山賊が上回っていたのに勝てるはずもなかった。
ルフィはボロボロの姿でヒグマに踏みつけられていた。
「このガキ…、ガキの癖に無駄に歯向かいやがって!」
ルフィを踏みつけるヒグマだったが、その頬には殴られたような跡が付いていた。さらに、近くには数人の山賊が倒れていた。
クロードが教えた体術は、ルフィが山賊達に一矢報いる事に一役買う事に成功していた。
「ざまあみろ!!馬鹿山猿!!おれに謝れ!!」
「つくづく不愉快極まりねぇぜ!そうだ、いい事を思いついた…あの赤髪小僧の目の前でてめェは殺してやる」
「くそお!!離せ!!」
「その後は、あの赤髪小僧にも後を追わせてやるよ、あの世で抱き合って泣くといい」
「!!クロードがお前なんかに負けるわけねぇだろ!!!」
「それまでは、おれ達にたてついてきた礼をしてやるよ」
ヒグマを初めとした山賊達が、踏みつけられて無力化されたルフィを痛めつけようと近づいて行こうとしたときだった。
心配そうにルフィを見つめるマキノと村長の間から、シャンクスが姿を現した。
「港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば…、いつかの山賊じゃないか」
シャンクスは、踏みつけられているルフィと、辺りに倒れている数人の山賊を見て、少し驚いた様子を見せてルフィに語りかける。
「ルフィ!やるじゃないか、驚いたぞ!」
「シャンクス……」
「海賊ゥ……、まだ居たのかこの村に…、お前じゃないんだよ用があるのはな」
「……?」
「このガキの友達なんだってな、海賊。だったらてめえに似た髪色の小僧のことも知ってるか」
「クロードに何か用事でもあるのか」
「あの小僧はおれ達にふざけたマネをしてくれやがったんでね、始末してやるのさ」
「お前が、クロードを?………ハッ」
「なにが可笑しい…、能天気な海賊には理解できなかったか?とにかく貴様らに用はねぇ、とっとと消えな、腰抜け。それ以上近づくと撃ち殺すぞ!」
ヒグマは、シャンクスの笑みを見た瞬間、忌々しい3日前の出来事を思い出した。ヒグマは青筋を立ててシャンクスを脅すが、シャンクスは意に返さず歩み寄った。
ヒグマの言葉を無視して進むシャンクスに山賊の子分が銃を突きつけた。
「てめぇ聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞ、ハハハハ!!」
「ピストルを抜いたからには、命を懸けろよ」
「あァ!?何言ってやがる!」
「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ」
ドォンと、発砲した音が辺りに響いた。シャンクスに銃を突きつけていた山賊は、横からルウに頭を撃ち抜かれた。
山賊達は口々に卑怯だ何だと騒ぎ始めた。
地面に倒れたままのルフィは、シャンクスの言葉を聞いた。
「お前らの目の前にいるのはーーーー"海賊"だぜ」
目の前に映る赤髪海賊団の面々は、後ろの方で胸を張って立っている少女を含め、いつもとは違う雰囲気を纏っていた。ルフィはその雰囲気に圧倒される。
(これが……海賊…、海賊って……、すげぇ…)
「どんな理由があろうと!!おれは"友達"を傷つける奴は許さない!!!」
「シャンクス…」
目を潤ませてシャンクスを見上げるルフィは、クロードが丘で言っていた事を思い出した。
『普段はだらしなくても、いざという時にやるやつの方がカッコいいと思うぞ。あいつはそういうやつさ』
あの時のルフィには意味がわからなかったが、今になって理解できた。
ルフィは、初めて見る"海賊"としてのシャンクスの姿に目が離せなくなっていた。
「はっはっはっはっ!!許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が、山賊様にたてつくとは笑わせる!!ブッ殺しちまえ野郎ども!!」
「おれがやろう……、充分だ」
残っていた山賊達が一斉にベックマンに襲いかかるが、一瞬にして全員がのされてしまった。
ルフィはその様子を見て、つえぇ、と声を漏らした。
「や!!待てよ…、仕掛けてきたのはこのガキだぜ」
「どの道賞金首だろう」
「ちっ!!来い!!ガキ!!」
「うわっ!!くそ!!離せ!!」
煙幕によって隙を突かれ、ルフィを連れて行かれたシャンクス達が狼狽えはじめると、ベックマンは苦笑するのだった。
「……ったく、この人は……」
ーーーー
ルフィを連れて逃げ出したヒグマは、フーシャ村の近海に浮かぶ一隻の小舟の上にいた。
3日前に味わわされた以上の屈辱を受けたヒグマは、血走った目で港の方角を睨むと、ルフィに向き直った。
「くそ!3日前の赤髪小僧に続いて、海賊風情までおれをコケにしやがって!目の前で殺すのはやめにした、てめえはもう用済みだ。おれを怒らせたやつは過去56人全員殺してきた」
「!お前が死んじまえ!!」
「あばよ」
ルフィはヒグマに鋭いパンチを繰り出すが、既に一度見たヒグマはそれを躱すとルフィを小舟から海に蹴り落とした。
(くそっ!!あいつ!クズのくせに……!勝てなかった……!)
「ははははははははは!!」
「がぼ…ぷはっ!!」
水面でもがくルフィを笑うヒグマだったが、後ろから海王類が現れた。
「は?な…、何だ!?この怪物は…!!ぎゃあああああああーーーっ!!!」
ヒグマを飲み込んだ近海のヌシは、今度はルフィに狙いをつけると、大きな口を開けて迫ってきた。
「うわああああああーーーっ!!!」
怪物に飲み込まれる寸前、ルフィの視界に二つの赤い影が映った。
「"
一つは、自分の体を抱き寄せる様にして守るシャンクスの姿で、もう一つは上空から毒の爪で近海のヌシを蹴り飛ばした、変身したクロードの姿であった。
クロードの空からの強襲を受けた近海のヌシは、数十メートル以上吹き飛ばされた後、海の中に沈んで行った。
「「ルフィ!?無事か!?」」
「シャンクス…、クロード…」
「「ん?」」
シャンクスとクロードはそこでお互いに気づいて、顔を見合わせた。
しばらくして、クロードが口を開いた。
「シャンクス…、こりゃ一体どういう状況だ……?」
ーーーー
港まで戻ったクロードは、シャンクスから事の顛末を聞くと、泣きじゃくるルフィの頭を撫でた。
「ルフィ、おれ達の為に戦ってくれたのか…、ありがとな」
「クロード…、せっかく鍛えてもらったのに、おれは…あんな奴にも勝てなかった」
「ルフィ……、お前は大勢に1人で立ち向かったんだろ?自分より強い奴らに…、すげぇじゃねぇか、誰にでもできることじゃない。それに、お前は負けてねえよ……」
「え……?」
「勝ったのはおれ達だ、お前もその中に入ってんだよ、友達じゃねェか!なあ!シャンクス!」
「そうだな…、勝ったのはおれ達だな!」
「クロード…、シャンクス…」
2人の言葉を聞いてルフィの表情が明るくなった後、3人は村に向けて歩き始めた。
シャンクスは、隣を歩くクロードに呟くように言った。
「でもクロード、よくよく考えたらお前ほとんど何もしてねェよな……。てか何処に行ってた?……また迷子か?」
その一言をきっかけに、2人は言い争いを始めた。
「なんだとぉ!おれがあの魚をぶっ飛ばしたからお前ら無事だったんだぞ!そもそも海に逃げられてんじゃねぇよ!」
「なにぃ!あれはいきなり煙幕を使ってきやがったから…!」
「はい、負け惜しみ〜!!あんな奴ら覇王色で一掃しろよ!なに勿体ぶって出し惜しみしてんだ!どうせルフィにカッコつけようとして逃げられたんだろ?マジだせェ!」
「うわ、ウタ以外がやると滅茶苦茶うぜェ!!大体お前が山賊たちを煽るから今回みたいな事になったんだろ!」
「煽ってねえよ!ただ手配書見せてきた時に笑いが堪えられなくなっただけだ!」
「それを煽ってるって言うんだよばーか!!」
「!!そもそもお前が最初にされるがままだったから、関係ないおれが赤い髪なだけであいつらに絡まれるハメになったんじゃねぇか!!」
「あれは男としてのカッコよさをだな…!」
「なぁにがカッコよさだ!そのせいで友達巻き込んでりゃ世話ねェな!」
「!なんだお前やんのかあ!!」
「!やってやろうじゃねぇか!!こっちは消化不良なんだよ!」
「やめろ」
お互いの胸ぐらを掴み一触即発の2人は、近寄って来たベックマンに頭に拳骨を落とされた。
「痛ってェ!!何すんだよ、ベック!」
「〜ッ!!ベックマン!何しやがる!」
「いい加減にしろ2人とも、ルフィが置いてけぼりになってるだろ」
「「ルフィ……?」」
2人がルフィの方を見ると、ルフィはポカンとした表情で2人のやり取りを眺めていた様だった。
ルフィは、さっきまでカッコよかった2人が急に子どもみたいな喧嘩を始めて呆気に取られていたが、しばらくすると笑顔になった。
「にしし!!2人とも、カッコ悪りぃなぁ!!」
「なにぃ!?心外だぞルフィ!おれは最後に颯爽と登場して良いところを見せたじゃねェか!無様を晒したのはこいつだけだ」
「なんだと!?おい、ルフィ!肝心な時にどっか行ってたやつなんて論外だろ!おれは良いタイミングで助けに入ったろ?」
「あっはっはっはっはっ!!」
ルフィはさっきとはまるで別人みたいな2人の様子に笑った。2人の姿に、自分の目指す人物像が見えた気がしたーーーー
ーーーーーー
マキノの酒場ーーーー
次の航海で、シャンクス達がフーシャ村から拠点を移す事が決まった。
出発前の最後の夜、盛大な宴の後で皆が寝静まった後で、シャンクスとクロードだけが酒場に残り、酒を飲んでいた。
「クロード、明日ここを離れる前にもう一度聞いておきたい……。おれたちと一緒に行かねぇか?」
「シャンクス……お前の誘いは嬉しいが……」
シャンクスは、クロードを自らの海賊団に誘うが、クロードはいつもと同じように申し訳無さそうに断りを入れた。何か理由がある事を、シャンクスはあの夜うなされるクロードを見て確信していた。
「クロード…、わかったよ、もう聞かねぇ…。でも、せめて理由は聞かせてくれよ」
「シャンクス、これは…、おれの問題なんだ…」
煮え切らない態度のクロードに、シャンクスは核心に踏み込む。
「この前うなされてるのを聞いたが、それが関係してるんじゃねぇか?」
「!盗み聞きか?……良い趣味とは言えねぇぞ」
「お前が何かを背負ってるのは分かってる…でもな、それは1人でしか背負えないものなのか?」
シャンクスの言葉に、クロードの心が揺れる。全てを吐き出したい衝動に駆られたクロードだったが、すんでのところでそれをしまい込んだ。
「ッ!……そうだ。おれ1人でしか背負えねぇ……。おれの問題に…お前らを巻き込めねぇんだよ」
「だからそれを話せって言ってんだ!背負ったものを分け合って軽くしてくれんのが仲間ってやつだろ」
「!……おれが……、仲間だって言うのか…?」
「おれも、他のやつらも、とっくにそう思ってる」
「…やめろよ……さっきやっと決心が着いたのに……諦められなくなるじゃねぇかよ……」
自分の事を仲間だと言うシャンクスに、クロードは何かを堪える様子で言葉を返した。
「聞かせてくれよ、お前のこと……」
こちらを真剣な眼差しで見つめるシャンクスは、理由を話さなければ退いてはくれないと分かった。
しばらくの沈黙の後、意を決してクロードは話し始めた。
「……わかったよ、聞かせてやる……初めに言っとくが、愉快な話にはならねぇぞ……」
「!ああ、わかった」
「………20年前…、世界政府との戦争によって、ある国が滅亡した。その国の名前はーーーー"
「!!?」
原作からの変更点
・ルフィとウタがフーシャ村で再会
・ルフィが山賊相手に善戦する
・シャンクスの左腕生?存
次回で黒炎王編は終わらせたいなぁ…