①タイキシャトルの体操服姿を想像します。
②琥珀色の瞳に明るい栗色のポニーテール。片耳には三つの黄色い星の髪飾り。
③顔つきと髪の流星をヤエノムテキに近くして目つきをさらに鋭くさせます。
③口はグラスワンダーの微笑みを想像します。
④体操服をぴっちりとするよう弛みなくフィットさせます。
⑤ね、簡単でしょう?
勝負服? それは皐月賞からなんです……。
「ジュニア級を終えた当時の心情を言わせてもらうなら、張り合いのないレースばかりで正直誰も相手にならなかった。デビューの1000mはマイル戦のつもりで走り、二戦目の1600mは2400mのダービーを意識して直線を抜けた。クラシックに向けた課題や条件を付けても楽勝出来るほどに差があったんだ」
「デビュー戦、周りが初めての本番を緊張して迎える中、シンボリルドルフさんは次の年を見据えた模擬練習として走っていたなんて……」
「直線で仕掛ける感覚やコーナリングの技術を試すのも実戦の実践があってこそ。だが学びとなるウマ娘がいないとあってはね」
「そして、弥生賞ですか」
「ああ。そこで私は……彼女に出会った」
忘れもしない、まだ寒さの残る3月初め。
ゲート前で準備運動をしながら、足の感覚を確かめていた時だった。
* *
「テメェがシンボリルドルフかァ!?」
「……」
「去年、重賞の一つも獲らずに皇帝気取りとは大した自信だなオイ! このリキサンパワーさまが教えてやるぜ? 上には上がいるってことをよォ!」
「おや、どうやらデータが間違っていたようだ」
「あぁン?」
「その名前、重賞を勝っていたウマ娘では無かったと記憶していてね。函館Sと共同通信杯を2着までとばかり」
「け、喧嘩売ってんのかテメェ!?」
「それはレース後に自ずと分かるだろう。私が、皇帝に値するかどうかも」
「上等だ……!」
なおも威嚇を続ける視線を遮るように、彼女が私たちの間に立った。
今思えばタイキシャトルに似ていたかな。あの恵まれた体躯と長身。琥珀色の瞳は鋭く、しかし涼し気に笑っているようでもあった。仏の微笑みとでもいえばいいのか……寡黙ながら人を引き付ける魅力に溢れていたよ。
「どうした」
「ビゼンの姉御ォ、こいつが舐めたこと言って」
「……本当か?」
「その、ええと、先にアタシが挨拶したんですけど、オープンウマ娘なのに偉そうだったから」
「……」
「ついムカついて、その、声がでかくなっちゃって……メイワクかけちまいました。すいません」
「リキ」
「は、はいぃ」
「今年の芝はまだ固い。体を冷やさず動かしておけ」
「……はい! レースまで失礼しますッ!」
リキサンパワーの顔がパッと明るくなり、屋根付きの待機場所まで走っていく。
それを見送るとビゼンニシキはこちらに頭を下げた。
「申し訳ない。リキの声は聞こえていたのに遅くなってしまった」
「なぜ君が謝る?」
「同じトレーニングをしている仲間なんだ。チーム、というにはまとまりがなく、それぞれ好きな時に誰かが並走したりするだけだが」
「そう言えば……閑散としたマイル以下の練習場に大勢集まる時があるな」
「中長距離コースは混む」
「なるほど」
「短距離でも学ぶことは多い」
「だからそこで練習量をカバーしているのか」
ビゼンニシキは頷いた。
鋭い目つきはこちらに敵意を向けているわけではなかった。そう理解すると彼女の微笑みに嘘はなく、誠実な部分が目立つように感じられた。
「仲裁に入るのが遅れたのは、さっきまで蹄鉄の緩んでいたウマ娘を助けていたのが理由で間違いないかな?」
「そうだ」
「その子も君の知り合いか?」
「違う」
「ん、すると寮も別、なら言葉も交わしたことのない子のはず」
「……? 同じウマ娘だろう?」
その何気ない言葉に衝撃が走ったよ。
弁解をさせてもらえるなら、当時は美浦寮と栗東寮は仲がとても悪くてね。生徒会に入って間もないことを言い訳する気はないが問題が山積みだった。URA団体としても改革の時で……短距離マイル路線の地位向上と整備、野良レースの公式化……ああ、今はフリースタイルレースという名だが。海外レースのノウハウや交流と留学。トレーナー不足はこの頃から続いている。他は地方ダート競バ。
思い返せば私には余裕がなかったみたいだ。いつの間にか強く誓ったはずの目標を忘れていたことに気付き、ビゼンニシキは当たり前のようにそれを示していた。
同じ志を抱く者。
語らずとも直感が告げていた。彼女ならもしかしたら……
私はゲートに入る時もゲートが閉まっても、そのことを考えていたんだ。
「だから弥生賞は珍しく出遅れたんですね!」
「まあ……そうだね(あの時はお互いにスタートが悪かったな)」