ビゼンニシキは皇帝の影を踏めない   作:すみすη

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 この短編に出てくるオリジナルウマ娘(実在馬モデル)

・リキサンパワー(短気でガラも悪いけどわりと面倒見のいいウマ娘)
 毛色 青鹿毛(ほぼ黒髪) 
 身長 ビゼンニシキより少し高いが、猫背なので同じくらいに見える。
 史実成績 30戦5勝 適正距離 1400m~2000m(作者推定)

 重賞勝ち鞍
 GIII 札幌記念、フェブラリーハンデ
 2着  
 函館S、共同通信杯S 、金杯(東)、根岸S、帝王賞、ガーネットS

 紹介:共同通信杯でビゼンニシキに負けてから、姉御と慕うようになった設定。エアシャカールみたいな目つきとギザキザの歯。80年代の不良口調。芝もダートもこなせるオールラウンダー。勝負服は黒赤黄ベースで族の特攻服的な奴。

 第3話目……報知弥生賞スタートから600m過ぎの場面。
 リキサンパワーは現在二番手から三番手、前めにつけています。
 頑張れリキサンパワー。



3.月と太陽の遭逢。

 

 

 

 3連勝中の私と重賞を含めた4連勝のビゼンニシキ。

 その二人の揃った出遅れに、クラシックの前哨戦を期待して駆けつけたファンのどよめきが聞こえてくる。

 

 スタートの悪さに関しては気にならなかった。私に上がり勝負を仕掛けられるのは彼女しかいない。お互いの出遅れを加味しても同条件以上。それよりも……

 

 ダートと見紛うほど砂塵の舞う前列からの光景に、目を細めた。

 ビゼンニシキの言った通り、春先の雪の影響があって芝が固い。踏み出す力が余計にかかる。おそらくは次走の皐月賞も。芝の生育次第ではダービーまで影響が出るかもしれない。……前残り、逃げ先行が有利か。にも関わらず共同通信杯を制した彼女の末脚は恐ろしく切れる、という事だ。

 

 ほんの少しだけ道中のペースを上げて位置取りを前方に詰める。中山の短い直線、それもこの悪路では溜めた脚を使いきれない。その早仕掛けの意図を探るように背中へと視線が突き刺さってくる。中団やや前を走る私をマークしている者たち。

 そして灼き尽くさんばかりの圧力を放つ者が、後方から迫って来る……!

 

 第三コーナーを曲がるときには、すでにぴったりと横へ追い付かれていた。当時の彼女は……天性のスピードと瞬発力、それを存分に活かし直線で抜け出す戦術を採っていたが、実際に目の当たりにした時の衝撃は並大抵ではなかったよ。

 

「来たか……ッ!」

「ああ!」

 

 あえて欠点を挙げるとすればコーナリングの拙さがあったかもしれない。自身のスピードに振り回され少し外に膨らむ癖がある。最も、それも踏まえての追い込み戦術なのだが。クラシック期のウマ娘は掛かりや単調な戦法、ゲート慣れなどまだまだ粗削りな部分も多い。コーナーに対するビゼンニシキの課題も、練習やレースを経て洗練されていく程度のものだった。

 

 最終直線。

 並んでいたビゼンニシキが大外から鋭く内側に切れ込む……!

 芝の良いところを走る、というよりも全ての末脚を開放した結果、レーンがずれた感じだった。一心不乱、脇目も振らず栄光を目指すその姿。

 彼女の勝ちへの情熱が足に伝わったように、練習や模擬レースでは出せない力が込み上げくる。私も声をあげてターフを駆け抜けた。

 

「「おおおオオォォッ!!!」」

 

 結果は1バ身と少しの差で、私が先頭でゴールを果たした。

 ビゼンニシキは2着。どちらが勝ってもおかしくない、クラシック前哨戦として誇れるレースだったと思う。彼女の出遅れがなければ、直線で斜めのロスなく大外の芝を最高速で走っていたなら……私は、どんな手を打っただろう?

 

 学びや反省点を分析する一方で、私の全身をファンの歓声や拍手が包み、応える際には湧き上がる嬉しさで思考が少しまとまらなかった。

 

 初めての重賞制覇。いや初めて本当のレースを肌で感じたというべきか。

 その勝利の味も格別なものとなった。

 

「勝った……そうか。これが勝ちか。誰もが求めてやまない一着の気持ち……」

「シンボリルドルフ!」

 

 振り返ると、鬼気迫る表情で彼女が駆け寄ってきた。

 走り切った直後で本性が剥き出しになっているのか、まるで余裕のない表情。ただ激しい感情の源は……怒りや悔しさ、どちらでもなかった。

 

「足は、足は大丈夫なのか!?」

「ん? ……ああ、ここか」

 

 ビゼンニシキの視線の先を辿ると自分の左足に少し違和感があった。黒いロングソックスが中ほどから破れ、その部分が血でにじんでいた。出血は未だ続き染みが広がっている……皮膚が露出していないから目立たないのは幸いだった。

 

「すまない! 身体を併せた時、蹄鉄が触れた感覚があったんだ。ど、どうしよう……手当は、ええと……」

「まずは落ち着いてくれ」

「止血……止血を」

「ああ待て。ハンカチで縛ると、その、流石に目立つ。他のウマ娘やファン達をわざわざ不安にさせることもない」

「なら消毒とか……」

 

 あの燃えたぎる太陽のような鋭い眼光はどこへいったのか。

 あわあわと狼狽える顔には敵意も何も感じられない。頼られたり、尊敬のまなざしには慣れていた。敗北を喫したウマ娘たちが滲ませる負の感情も。しかし、ただ純粋に心配される視線というのは……家族にしか向けられたことはない。

 

「大丈夫だ。単なるスリ傷……それに、あれくらいの接触はウマ娘の職業病的なものだろう?」

「でも皐月賞に出られなかったらどうする? クラシック戦は一度きりしかない。お前は皇帝と呼ぶに相応しい実績を残したいはずだ」

「問題はない。何、万全を期すために医療班へ要請して診てもらうよ。応急処置の後のダンスがあるからね。ウイニングライブを疎かにするなど……おいおい。横に並び立つ君がそんな表情をしないでくれ。何より私が困るじゃないか」

「そうか……そうだな」

 

 ビゼンニシキは安心したように微笑みを強くする。

 出場口の方を見るとリキサンパワーがこちらを指差し、関係者にケガを伝えてくれているのが分かった。要請の手間が省け思いがけず助けられた形だ。リキサンパワーに軽く頭を下げると、彼女はバツの悪そうな顔で歯を見せ、鼻を鳴らして応えた。

 

「さて、医療班が来る前に検量所まで退散するとしようか」

「分かった。ああ、レース前は慌ただしい挨拶だけで名乗りを忘れていたな。ビゼンニシキだ。次は負けない」

「私のことは……ルナでいい」

「その名は?」

「幼名のようなものだよ。ルナと、そう呼んでくれ()()? ビゼンニシキ」

 

 私の呼びかけに軽く首を傾げ、琥珀色の瞳をこちらに向けた。

 真意がどこまで伝わったかは知れない。だが、心底楽しそうな声を出して笑った。特別な名を教えてもらった嬉しさと、これからクラシック戦線を共に競うライバルとして、対抗心を新たに燃やし始めた顔を見せてくれた。

 

 

 

「では……お前に勝った時、そう呼ばせてもらおう。シンボリルドルフ」

 

 

 

 





「弥生賞勝利の裏にそんなエピソードが……」
「無論ファンに気付かれる失態はなかったからね。というよりこの時に歌った『グロウアップ・シャイン』が何故かいつもより好評だったくらいだ」
「あとでそのライブ映像チェックします! その後の皐月賞も出場していましたし、さほど影響はなかったんですよね?」
「うん。ウマ娘にはよくある裂傷だ。三針ほど縫ったが」
「す、すごいケガじゃないですかそれ!?」
「重賞で重傷……というわけでは無かったさ。抜糸からトレーニング開始まで二週間ほどという診断だった。固い芝でのレース後だったし、足の疲れを抜くには丁度良かった。山積みだった生徒会の仕事も捗ったよ」
「はえぇー流石です(極少数の関係者しか知らない貴重な話やわ。これ)」


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