ビゼンニシキは皇帝の影を踏めない   作:すみすη

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『皐月賞2000m。まずは1つ目の冠を目指し競います』
『本日のメインレース、皐月賞です。昨年はミスターシービーが勝ち、彼女の胸躍る三冠走劇の幕開けとなりました。そして今日、新たな伝説の始まりを期待して多くの人が中山競バ場に押し寄せています』
『さあパドック中央ランウェイで出場ウマ娘を見て行きましょう!』




5.最も速いウマ娘が勝つ、三冠初戦。

 

 

 

『ここは負けられない一番人気。5枠10番シンボリルドルフ』

『4戦4勝、弥生賞では王道の展開でビゼンニシキを破っています。全体的に少し細く見えるのがやや不安要素か。三冠ウマ娘を目指すと公言するクラシック初戦、皇帝の力を見せて欲しいです』

 

『続く二番人気は2枠3番ビゼンニシキ』

『いつもの微笑みからは好不調が読みにくいですが……このウマ娘のスピードと瞬発力を活かせる絶好の舞台ですよ。逃げと追込み、展開によって戦法を変えられる自由さもあります」

 

『7枠15番リキサンパワー』

『……かなり感情が高ぶっている様子がこちらからも確認できます。スローペースになれば前目から粘り続け、勝ち負けまであるウマ娘です。ゲート入りまでに落ち着いて欲しいですね』

 

 

 

 

 

 

 *  *

 

 

 

 

 

 

 それぞれパドックのお披露目が終わり、一息ついて地下バ道へ戻る。

 みな緊張した面持ちだった。クラシック三冠の初戦、皐月賞。ファン達の熱気に舞い上がってしまうウマ娘も少なくない。私はいつもの歩幅、いつもの歩調を守り、白塗りの通路に響く自分の蹄鉄の音だけに集中する。通常のレース前であればほどよい高揚を感じる程度で収まるが、今日は違った。

 静めようとした心音が嫌が応にも高まっていく。初のGⅠに挑むから? 自らに課した三冠ウマ娘挑戦の第一歩だから? どれも合っていると言えるが、何よりも的を射た根本の性質をついてはいない。なぜなら……

 

「いよいよだな。シンボリルドルフ」

「……ビゼンニシキ」

 

 その先に彼女が待っている予感があったからだ。

 地下バ道を抜け、グランプリロードからターフに赴く前、言葉を交わすとしたらここしかない。灼熱の雰囲気を纏ったライバルを一目見て思わず息をのむ。今日という日を迎えるまでにどれほどの準備を重ねてきたかを、雄弁に語っていた。

 

 濃い青をベースとした着物の勝負服。

 サラシをきつく締め、掛け襟も袖も最小限に留めて肌を露出させている。帯も細い錦模様が煌びやかな以外は白や黄の星のような模様があるくらいで目立つ装飾はない。袴は高く股立ちを取り……いや、裾を引き出して挟むか結んでいるらしく、膝上までたくし上げた格好だ。動きやすくするためのタスキ掛けも必要ないほどに、空気抵抗を減らした和装のフォルム。快速を武器とするビゼンニシキらしい出で立ち。

 しかし、羞月閉花の彼女にしては些か控えめにも映る。例えば帯回りの組み紐を華美にするだけでも十分魅力に釣り合うはず……そこまで考えて、髪飾りの星に気付き私は理解する。勝負服が星の海、銀河を連想させるとすれば添え物でしかないだろうと。

 彼女の輝きこそが中心であり、太陽以外は残らず陰なのだ。

 思わず嘆息し、腑に落ちたように顎が落ちて頷いてしまった。

 

 彼女も熱を帯びた視線で、こちらの勝負服を見ている。この時ばかりは鏡合わせのようにお互い同じ顔をしていた。

 

「生徒会や表に立つとき、その服を何度となく目にしたが……やはりレース場ではより映えるな。皇帝と呼ぶに相応しい」

「ありがとう。君の勝負服もこの舞台によく似合っている。だが……」

「ああ」

「「勝つのは私だ」」

 

 

 

 共に大歓声の待つ光の道へと歩を進める。

 そこにいるウマ娘の誰もが自らの勝利を疑っていない。

 皐月の栄冠を手にすると、ただ信じて駆けるのだ。

 

 

 

『今年の皐月賞、もうまもなく発走です』

『弥生賞に引き続き、SB(シンボリビゼン)対決とファンは大いに盛り上がっています。この皐月賞の歴史でここまで人気の二強対決があったでしょうか? 2枠3番ビゼンニシキ、5枠10番シンボリルドルフ。ご覧くださいクラシックウマ娘、ズラリ揃った18名。美浦寮から14名。栗東寮から4名。距離2000mに競います』

『ビゼンニシキが入りました、リキサンパワーも追いかけます。ルーミナスレイサーもゲートイン。続いてフジノレイメイ。スズマッハ、スズパレード両名も向かいゲートインは順調に進んで最後に8枠の偶数番号、18番が収まって態勢完了です……いまスタートしました!』

 

 

 

 

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