シャニP、樋口円香の兄に転生する   作:リィンP

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エピローグ、あるいはプロローグ


 

 不思議なことに、生まれた時から少年には前世の記憶があった。

 

 いや、彼がそう思っているだけで、本当は前世の記憶ではないのかもしれない。

 もし仮に転生したとするならば、自身が死んだ時点より未来に生まれるはずだ。

 しかし二度目の生をうけた現在は、未来なんかではなく過去───それも自分が亡くなった時から十数年以上も遡っていた。

 

 彼の中にある記憶では、自分は新興アイドルプロダクションのプロデューサーであり、多くのアイドルたちのプロデュースを頑張っていた。 

 

 1人で多くのアイドルたち、しかもそれが全員売れっ子である彼女たちをプロデュースするのは、彼の心身に大きな負担があったはずだ。

 それなのにプロデューサーはアイドルを羽ばたせるために情熱を燃やし、仕事を続けていった。

 もう今更であるが、前世の死因を考えるとオーバワークによる過労によって死を早めたのは間違いないだろう。

 

 それでも彼は、最後の瞬間までプロデューサーとして生きていた。

 

 ───泣かないでくれ、みんな。俺はプロデューサーになれて…みんなに出会えて本当に幸せだったよ。

 

 もう動かなくなった彼の手を握りながら涙を流すアイドルたちに、プロデューサーは彼女たちをこれ以上悲しませないよう最後の力を振り絞って声に出して想いを伝える。

 

 初めはまだ雛鳥であったアイドルたちを大空に羽ばたかせることができたのを心から誇りながら、そして彼女たちに辛い思いをさせてしまうことを後悔しながら、283プロのプロデューサーは静かに息を引き取るのであった。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 283プロのプロデューサーは永い眠りについた…はずだった。

 しかし一度死んだはずの青年は、前回と同じ日本に生まれ、男の子の赤ん坊として二度目の生をうけた。

 

 しかし、彼の中にある前の記憶とは異なる点があまりにも多かった。

 

 まず名字が違う。何なら両親も異なり、自身の顔も違う。誕生日も前の記憶より十年ほど後であった。

 

 しかも一人っ子であった前世とは異なり、今世では双子として生まれた。

 先に生まれた彼は『翼』と名付けられ、後に生まれた赤ん坊は『円香』と妙に聞き覚えがある名前が付けられた。

 ちなみに、両親の名字は『樋口』であるため、今世での彼の新しい名は樋口翼であり、妹の名は樋口円香となる。

 

 『樋口円香』───その名は前世において彼がプロデュースしたアイドルの1人である。

 

 しかし前世の記憶では、円香は一人っ子で兄弟はいなかった。

 ならば、この円香は前世で彼が出会った円香とは別人なのか?

 

 その疑問に対する答えが明らかになったのは、この世界で翼が2歳になる頃であった。

 まず彼が新しく見つけた情報は大きく分けて3つである。

 

 1つ、樋口家の場所が前世の記憶で覚えている住所と同じであった。しかも家の外見や内装もまったく一緒である。

 

 2つ、成長した円香の容姿が、記憶にある円香を幼くした感じとそっくりである。

 また、円香の両親(今世では翼の両親でもある)も記憶通りであった。

 

 3つ、樋口家の隣にある家の苗字が『浅倉』であり、その長女の名前が『透』であった。

 そして透の容姿も円香同様、記憶にある透を幼くした感じとそっくりである。

 

 以上のことより、今ここにいる『樋口円香』は、前世で彼がプロデュースした『樋口円香』と同一の存在であり、名前だけ同じのそっくりさんではないことが明らかになった。

 

 しかしそうなると、また新たな疑問が生じる。

 前世にはいなかった『樋口翼』という存在が、どうして今世では生まれているのか?

 いや、そもそも───、

 

「───どうして俺が円香の兄になっているんだろうな…」

 

「つばさ、どうしたの?」

 

 自分が転生した理由を考え込む翼に声をかけてきたのは、最近流暢に話せるようになってきた妹の円香である。

 

 2歳児ながら整った顔をしており、将来が楽しみだと今の両親が嬉しそうに話をしているのは記憶に新しい。

 

 そして双子の彼も容姿は円香と似ているため、同じようなことを両親から言われていたりする。

 

「つばさ?」

 

「ぁ、ごめん円香。ぼーとしてただけだから、心配しないで」

 

「そう?なら、あそぼ」

 

 そう言って円香は自分の手を引き、おもちゃ箱の前まで移動する。

 

 (いけない、いけない。まだ現状について分からないことも多いけど、今は円香の兄としてできることをしっかりしていかなくちゃな)

 

 樋口翼、2歳。前世ではプロデューサーとして日々激務をこなしていた彼であったが、今はしっかり者のお兄ちゃんとして日々を穏やかに過ごしていくのであった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 あれから数年が経ち、翼は4歳に成長した。

 

 親の許可を得てテレビを見れるようになったが、特に新しい情報は得られなかった。

 テレビに映る有名人や建築物、何ならテレビ番組さえも彼が持つ記憶と1つも齟齬はなかったからだ。

 

 樋口翼として4年生きて気付いた前の世界との違いはただ1つ───存在しないはずの『樋口円香の兄』として彼自身が転生したことだけである。

 

 どうして前の記憶とその1点だけ異なるのか?

 翼は時間があるときに頭を捻って何度も考えてみたが、結局何も分からなかった。

 

 しかし、答えが見付からなくても、時計の針は進んでいく。

 樋口兄妹は近くの幼稚園に通い始めた。もちろん、隣に住む浅倉家の長女も一緒である。

 

「みんな、今日は何して遊ぶ?」

 

「すべりだいがいい」

 

「ボクはジャングル」

 

「わ、わたしはすなばがいい!」

 

「はは、バラバラだね。うーん、今は滑り台が空いているし、あれから遊ぼう?」

 

「わかった」「いいよ」「うん!」

 

 幼稚園では翼、円香、透、小糸の4人でグループを組んで遊ぶことがほとんどであった。

 

 『樋口円香』───彼女とは双子なだけあって翼と一緒に行動することが一番多かった。

 

 双子だからなのか、円香の考えが翼には何となく伝わり、逆も同じで翼の考えは円香に何となく伝わっているようであった。

 この不思議な体験をうまく説明するのは難しいが、もっとも近い言い方だと心の一部が繋がっているとなるだろうか。

 

 この現象がいつまで続くか分からないが、願わくは円香のことを理解して支えていきたいと強く思う。

 

 

 『浅倉透』───彼女とは幼稚園に行く前から翼と家族ぐるみで付き合いがあった。

 

 子供ながら整った顔をしており、周りの子供と比べてもその容姿は抜きん出ている。

 しかし同年代の子は彼女の持つオーラに萎縮してしまい、友達作りは難航しているようだ。 

 

 性格はマイペースで、独特な価値観を持っている少女である。

 

 不思議なことを言っては周りの人を困惑させることもあるが、前の記憶を持つ彼には透が伝えたいことが何となく分かった。

 そのため透の言葉をより分かり易く伝えてあげると、透は自分の言いたかったことを彼がすぐに理解してくれたことが嬉しく、とても懐かれた。

 その後は彼のことを兄のように慕い、本物の妹である円香が兄を盗られると危機感を抱いて喧嘩することもあったが、翼の尽力もあってすぐに仲良くなるのであった。

 

 余談だが、透と遊具で遊ぶときは必ずジャングルジムが登場する。

 彼女が満足するまでみんなで頂上まで登り続けることになるため、4人の体力は日々鍛えられていた。

 

 

 『福丸小糸』───彼女とは幼稚園で初めて出会った。

 

 小糸は臆病な性格で、自分から友達を作るのを苦手としていた。

 そんな彼女と仲を深める切っ掛けになったのは、転んで泣いている彼女を翼たち3人が助けたときだ。 

 

 翼が小糸を背負って蛇口まで運び、円香が傷口を洗ってあげ、透が「いたいのとんでけー」と魔法の呪文を唱え、彼女が泣き止むまでみんなでそばについていた。

 

「み、みんな…ありがと…ぐす」

 

「もしよかったら、君も一緒に遊ばない?」

 

 小糸は1人でいることが多く、周りの園児たちと上手く馴染めていないようであった。

 翼の記憶通りなら小糸は幼稚園で円香や透と仲良くなると知っていたため、早く親交を深めたいと彼は考えていたのだ。

 

「ぴぇ…でも、わたし、その…」

 

「なまえ」

 

「ぴぇ…!」

 

「なまえ、なんていうの?」

 

 円香が問いかけると、小糸はおどおどしながらも答えを返す。

 

「えっと…ふくまる、こいと…ぇす」

 

「こいとちゃん、か。じゃあ、こいとちゃんもジャングムのぼろう」

 

「ぴぇ…!?」

 

 透は幼稚園に設置されてあるジャングルジムを指差しながら小糸に声をかける。

 目を白黒させる小糸を見て、円香は呆れた顔を透に向けた。

 

「とおるのばか、こいとはあしをけがしたばかりだから、のぼれないでしょ」

 

「そっか、じゃあシーソーであそぼう」

 

「シーソーもあしをつかうでしょ」

 

「そっか、えっと、じゃあね」

 

「だ、だいじょうぶっ!」

 

「ん?」

 

「わたし、シーソーであそびたい!…あしも、これくらいならへいき、だよ!」

 

 先程まで泣いていた小糸であったが、ごしごしと涙を腕で拭うと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ほんとうに、だいじょうぶなの?」

 

「ぅ、うん!」

 

 小糸の傷は実際には軽く、痛みよりも転んだことに驚いて泣いていた。

 いつもの彼女ならしばらく泣いていたはずだ。

 けれど転んだ自分を心配し、遊びにまで誘ってくれる透たちをこれ以上心配させまいと、小糸は涙が零れるのを必死に我慢していた。

 

「えらいぞ小糸。がんばった子にはこれをプレゼントだ」

 

 そんな小糸の頑張りを褒めるために、翼はポケットから包装された飴を取り出して彼女に手渡した。

 

「これって……わぁ、あめだまー!い、いいの…?」

 

「もちろん、もらってくれると俺も嬉しいな」

 

「う、うん…えへへ、ありがとう…」

 

「あ、こいとちゃんだけズルい」

 

「もちろん、透の分もあるよ。ほら、手を出して」

 

「ふふ、ありがと」

 

「円香は…」

 

「わたしをこどもあつかいしないで。あめだまなんてべつにほしくない」

 

「あぁ、ごめん。じゃあこれは別の子に」

 

「でも、もったいないからたべてあげる」

 

「はは、じゃあ円香にはこのアメだ」

 

 この件をきっかけに小糸と仲良くなり、今の4人グループで幼稚園をほとんど過ごすことになった。

 

 そして、時が過ぎ。

 小学生、中学生を経て高校生になった翼たちは、透がアイドルにスカウトされたことにより、大きな転換点を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今日の裏話①

転生したシャニPの容姿は円香を男性バージョンにしたイメージ。
円香より身長が15センチほど高く、涼しげな表情をする妹とは対照的に、優しそうな表情を浮かべる好青年である。
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