Exciting Day(冬優子&あさひ)
待ちに待った日曜日。
朝早く起きて準備をバッチリ終えた冬優子は、待ち合わせ場所に電車に乗って向かっていく。
何事もなく予定時刻の10分前に待ち合わせ場所へ到着した冬優子であったが、そこで彼女を待っていたのは予想外の人物であった。
「ねぇ、あんた…これはどういうことかしら?」
「えっと、実はここに来るまでに色々ありまして…」
「それ、全然説明になってないんだけど」
「冬優子ちゃん、何をそんなに怒っているんすか?」
「あんたが原因よ、あさひ」
そう言って冬優子は、翼の隣にいる銀髪の人物──芹沢あさひを睨み付けた。
芹沢あさひ───冬優子と同じユニットである彼女はストレイライトで一番年下でありながら、恐るべきダンスの才能を持っており、ユニットのセンターを務めている。
好奇心旺盛なあさひは集中しすぎると他のことが見えなくなるという欠点を有している。
その好奇心は自身でも制御できず他人に迷惑をかけることが多々あった。
同じユニットである冬優子は、自由なあさひに振り回される日々を送っているため、休日では絶対に会いたくない知り合いナンバーワンにランクインしていたのだ。
「それで、どうしてあんたがここにいるのよ?」
「歩いていたら翼くんを見かけて、今日は仕事じゃないって聞いたので一緒に遊ぶことにしたっす!」
「はぁ…あのね、こいつは今日ふゆと買い物するって先に約束しているの」
「じゃあ冬優子ちゃんも今日は一緒に遊べるってことっすね!」
「相変わらずあんたの思考回路はどうなっているの…。今日はふゆもこいつも遊べないってことよ」
「…?冬優子ちゃんが何を言っているのかよくわからないっす」
「あんたねぇ…!」
あさひと会話していくうちに冬優子の怒りのボルテージが上がっていくことを肌で感じた翼が慌てて口を挟む。
「その、冬優子さんさえよければあさひと3人で買い物に行きませんか?」
「ふゆは嫌よ、休日まであさひの面倒を見たくないわ」
「むー、冬優子ちゃんが冷たいっす」
不機嫌な表情を浮かべる冬優子と、ほっぺを膨らませて彼女に抗議するあさひ。
そんな2人を見て思考を巡らせた翼は、たった今浮かんだ提案を口にする。
「えっと…あさひ、今日は冬優子さんの指示に従うって約束できるか?」
「よくわからないけど、約束するっす!だから私も連れていってほしいっす!」
「ということで、自分があさひのことをしっかり見ているので、今日は3人で周りませんか?」
「あのねぇ、気軽に言うけどあさひはあんたが思っているよりじゃじゃ馬よ」
「…?わたしは馬じゃないっすよ」
「はいはいそうだったわね、わかったから少し黙ってて。…で、あんたならあさひが勝手なことをしないようにできるわけ?」
「いえ、流石にそれは難しいですが…あさひのことは自分が最後まで看ます」
誠実な瞳で翼に見つめられた冬優子は、彼の言葉から強い意思を感じ、また彼女自身もこのままあさひを1人で帰らすのも難しいと思っていたため、最後には折れることにした。
「…っとにしょうがないわね。いい、今回だけ特別だからね」
「ありがとっす、冬優子ちゃん!それじゃあ、早く出発するっす!」
「おっと、早く行きたい気持ちが分かるが少し落ち着こうか、あさひ」
今にも駆け出して行こうとするあさひを翼はやんわりと引き止める。
そんな彼の行動にあさひは不満気な表情を浮かべる。
「うぅー、時間は有限っすよ!」
「大丈夫、今日はあさひが満足いくまで付き合うさ」
翼の口から飛び出した言葉を聞いて隣にいる冬優子は焦った表情を見せる。
「ば、あんたなに言っ…!」
「本当っすか!翼くんがいると面白いものを発見できるから嬉しいっす!」
「はは、嬉しいことを言ってくれるな。でも流石に暗くなる前までだからな」
「うぅー、わかったっす…」
「…はぁ」
いつの間にか夕方まであさひに付き合うことを確定したことに、冬優子は大きなため息をつくのであった。
◆◇◆◇◆
場所は変わり、翼たち3人は冬優子行きつけの洋服屋に足を運んでいた。
「…!」
店内に入り、キョロキョロと辺りを見回したあさひは、何か興味を引き付けるものを見つけたのか、突然パッと目を輝かせて駆け出していく。
「こらあさひっ!いきなり走らないの!」
「わかったっす!」
冬優子は慌てて注意したが、あさひは元気な返事をしながらそのまま前方に向かって走っていった。
「全然わかってないじゃないの…」
「はは…冬優子さん、自分たちも行きましょうか」
「しょうがないわね。まったく、今日はふゆの指示に従うっていう条件をもう忘れたのかしら…」
文句を言いながらも冬優子は翼と共にあさひの後を追う。
そして2人はようやく立ち止まって何かを眺めるあさひに辿り着いた。
「あさひ、冬優子さんの言う通りいきなり走るのは危ないぞ」
「ごめんなさいっす。次からは気を付けるっす」
「あんた、本当にわかっているんでしょうね…?」
「そんなことより、面白いものを見つけたっす!」
「そんなことって、あんた…っ!」
「まぁまぁ、落ち着いてください冬優子さん。それで、あさひは何を見つけたんだ?」
「これっす」
あさひが指さしたのは店内にあるマネキンであった。
「これって、マネキンか…?」
「このマネキンがどうしたっていうのよ」
「なんか、愛依ちゃんに似てるっす!」
「はぁ?このマネキンと愛依のどこが似ているのよ」
怪訝そうな表情をする翼と冬優子であったが、マネキンが着ている服にどこか見覚えがあるに気付いた。
「…もしかして、愛依も同じような服を着ていたのか?」
「そうっす!マネキンの大きさも愛依ちゃんと同じくらいだがら、すごい偶然っすね」
「はは、確かにそうかもな」
「あっ!」
「今度は何よ…」
また何かを見つめて表情を輝かせたあさひは、近くにあったマネキンに駆け寄って行く。
「このマネキン、冬優子ちゃんにそっくりっす!」
「いや、ふゆこの系統の私服持っていないけど、どこが似ているのよ」
「…?服じゃなくてマネキンの方っすよ」
「はぁ?あんた、表情のないマネキンとふゆのどこが似てるっていうのよ」
「何言ってるんすか、冬優子ちゃんも時々こんな表情をしてるっす」
「へぇ、ずいぶん舐め…面白いことを言うじゃない…」
「あ、冬優子ちゃん、今の表情っすよ!やっぱりこのマネキンとそっくりっす!」
「ふふ、ふふふ…!」
怒髪冠を衝く。
今の冬優子を表すには、その言葉以外見つからなかった。
「お、落ち着いてください、冬優子さん。あさひに悪気はありませんから」
「余計タチが悪いじゃない…!もうここはいいわ、次に向かうわよ」
慌てて冬優子を宥めようと声をかける翼であったが、逆に火に油を注ぐ結果となった。
「え~、もう行くっすか?まだわたしここに居たいっす!」
「あ、そう。ならあんたとはここでお別れね。行きましょ、翼」
「えっと…あさひ、次の場所にも面白いものがあると思うぞ」
「本当っすか!じゃあ次の目的地に出発っすね!」
「はぁぁ…あんたも放っておけばいいのに」
「はは、最後まであさひのことは看るって約束しましたから。それに、冬優子さんだって何だかんだ言って放っておかないでしょ?」
「…ふゆはあんたより面倒見はよくないわよ。それより最初に言った通りあさひの面倒、最後までしっかり見なさいよ」
「はい、もちろんです」
そっぽを向きながらそう言う冬優子に、翼は優しく微笑みながら返事をするのであった。
◆◇◆◇◆
その後、翼たち3人は流行りのスイーツ屋に寄ったり、本屋に足を運んだり、あさひが興味を抱いた個展に立ち寄ったり、またしてもあさひが興味を持ったプラネタリウムを観に行ったりした。
後半は冬優子が予定していた場所ではなかったのだが、一度興味を持ったあさひを止められるはずもなかった。
しかし何も策を講じなかったわけではなく、翼があさひの興味を上手く誘導する形で3人で楽しめる場所に赴くことができた。
そんなこんなで日が暮れるまで色々な場所を周ったあさひは「今日はすっごく楽しかったっす!」と心底楽しそうな笑顔を浮かべて自宅へと帰って行った。
「はぁ、休日なのに疲れたわ」
「はは、お疲れ様です」
「…元はと言えばあんたが原因なの、わかっているわよね?」
「す、すみません…」
「…まぁふゆも少しは楽しめたし、特別に許してあげるわ」
そう言って微笑む冬優子は、以前から気になっていたことを翼に尋ねることにした。
「それにしても妙にあさひに懐かれているわね、あんた」
「えっと、冬優子さんほどではないと思いますが…仲良くはできていると思いますよ」
「そこが凄いのよ。あんた、あさひの思考回路を理解してたでしょ」
「…どうしてそう思いました?」
「あいつの興味の対象を上手く別のものに誘導するやり方。愛依もよくやっているけど、正直あんたの方が1枚上手って感じがしたわ」
「いくら何でもそれは買い被りですよ。それに、あさひの考え方は独創的ですから、完全に理解するのは難しいでしょう」
前世であさひのことをプロデュースした翼であるが、最後まで彼女の感性…独特な物の見方を完全に理解することは叶わなかった。
それでも彼は自由奔放なあさひをずっと見守り、真摯に向き合ってきたことで彼女から信頼されるプロデューサーになることはできた。
時には危ない行動をした彼女のことを本気で怒ることもあったが、時間が経つにつれて彼女の言動にある程度の理解を深めることができたのであった。
「まぁあんたの言う通りだけど…なんか腑に落ちないのよねぇ。この前もあさひが変なこと言っていたし」
「変なことですか…?」
「あんたのことをまるで父親みたいだって言っていたのよ。まぁ確かに面倒見の良さは認めるけど、年齢的に兄というのが普通でしょ」
「ち、父親ですか…」
「ふふ、面白いでしょ。まぁあさひは一人っ子みたいだし、兄弟がどういうものかわからなくてそう言ったのかもね」
もっとも、今の翼の精神年齢は父親と言っても何も問題ないのだが、それを知らない冬優子は笑みをこぼす。
感性が鋭いあさひだからこそ、彼の精神年齢が大人と遜色のないことを察し、加えて自分を温かく見守る姿に父親のようだと思ったのだが、それを他の人に上手く言語化するのは難しかった。
こうして、冬優子にとっては想定外で、あさひにとってはワクワクする楽しい1日を終えるのであった。
おまけ
ある日の休憩室での一幕
「円香ちゃんって、翼くんの双子の妹っすよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの」
「うーん、やっぱりおかしいっすね」
「…何が?」
「円香ちゃん、全然母親っぽくないっす!」
「…は?」
「あ、あさひちゃんいきなり何を言っているの
(あーもうーどうしてふゆがいる時に変なことを言うのよ!)」
「ごめんなさい、円香ちゃん。気を悪くしないでね、あさひちゃんって突拍子のもないことをいう子だから」
「どうして今の言葉で気が悪くなるっすか?」
「あさひちゃーん、そろそろレッスン室に行きましょうねぇ
(毎回フォローするこっちの気も知らないで、本当にこいつは…!)」
「え、まだ聞きたいことが…わぁっ!?冬優子ちゃん、引っ張らないでほしいっす!」
「それじゃあ、ふゆたちはお先に失礼しまーす」
「…レッスン、頑張ってください」
「ありがとう、円香ちゃん♡」
「………(あの子、結局何が聞きたかったんだろう)」
お待たせしました。
W.I.N.G.第2シーズンの開幕です。
前よりも更新頻度は遅くなると思いますが、ご容赦ください。