「───ということで、283プロダクションでは初となる地上波でのユニット同士のコラボ…みなさん力を合わせて頑張っていきましょう!」
283プロダクションのレッスン室。
既に専用のジャージに着替えたストレイライトとノクチルメンバーは、プロデューサーである椿から説明を受けていた。
地上波で放映される人気が高い音楽番組への出演依頼。メンバー全員がその出演依頼に賛成したことで、初めての顔合わせと合同の練習会を行っている最中であった。
「おぉ~、マジでうちらとノクチルがコラボするんだね~。ちょ~楽しみ~!」
「どんな感じで踊るんすか?早く試したいっす!」
「あさひちゃん、まだ座っていようね?」
ストレイライトの3人…和泉愛依、芹沢あさひ、黛冬優子は特に緊張した様子を見せず、今回のノクチルとのコラボに前向きな態度であった。
対してノクチルの4人はというと…。
「ふぁ…」
「…浅倉、説明中にあくびしない」
「あは~、透先輩眠そう~」
「ぴぇ…」
いつも通りといえばそうだが、小糸はガチガチに緊張し、透や雛菜はマイペースな空気を纏っていた。
唯一ノクチルの中で円香のみ、真剣な表情をストレイライトのメンバーに向けている。
「こほん、ダンスの立ち位置だけれど、センターはあさひさん、透さん、雛菜さん…3人に任せようと思っているわ」
「おぉ、センター…頑張るっす!」
「あー…頑張ります」
「は~い、雛菜も頑張ります~♡」
もっともダンスの難易度が高いセンターを担当するのは、ユニットの中でダンスが得意な3人。
「続いて、ライトは愛依さんと小糸さんに」
「おぉ~。よろしくね、小糸ちゃん~!」
「っ…ぇ…よ、よろしく…お願いします…」
逆に、最も難易度が低いライトを担当するのは、まだまだ発展途上中な2人。
「最後に、レフトは冬優子さんと円香さん」
「はい、よろしくね円香ちゃん」
「…よろしくお願いします、冬優子さん」
そしてセンターほどではないが、振り付けが難しいレフトには才能と内なる熱意を秘める2人が担当に選出された。
プロデューサーである椿とマネージャーの翼の2人で話し合い、メンバーの相性と実力、そしてスケジュールを考慮してこのような配置となったのだ。
「みなさん多忙なので、全員で集まれる機会はそう多くないわ。基本的には同じ担当グループで練習を行うようお願いね。そして全員のスケジュールが合う日に全体練習を行う流れになるわね。今日はトレーナーさんにも来ていただいているので、担当グループで軽い交流を終えたら、早速振り付けを覚えていきましょう」
予定される音楽番組出演まで、残された時間は少ない。
そのため、顔合わせをしてから間をおかずに合同練習を行うことになった。
◇◆◇
各グループ毎に別れた彼女たちは、事前に録画されたトレーナーによるダンスを見本とし、ある程度覚えてきたら実際に踊ってみることになった。
基本的にはダンストレーナーが3つのグループを定期的に回って助言をし、時には実際に踊ってみて指導を続けていく。
ちなみにプロデューサーの椿はというと、他のユニットで外せない仕事があるため、みんなに謝罪して途中で退席となった。
合同練習を始めて数時間。
一番賑やかであったのがセンターのあさひ・透・雛菜のグループであった。
「───みんな、センスいいわね。この調子で練習していけば本番まで十分間に合うわ」
「このダンス、踊っていてワクワクするっす!」
「あは~、いつもより難しいかも~」
「ふふ…なんとかなるよ、きっと」
「今日は細かい振り付けを覚えられなくても、一連の流れは覚えてもらいたいわ。そして、今後は3人で集まって練習する際、お互いできていない部分を指摘できるようになれば最高ね」
「はいっす!」
「わかりました~」
「えっと…頑張ります」
元気いっぱいなあさひと、ニコニコと笑顔を浮かべる雛菜、そして余裕な雰囲気を纏う透。
纏め役が不在なグループであるが、今のところ問題なく進行していた。
そして2つ目のグループ、レフトの冬優子・円香たちは一番静かであったが最も安定感がある様子であった。
「黛さんも樋口さんも今の段階でよくできているわね」
「ありがとうございますっ」
「…ありがとうございます」
「後は完成度を高めていくために、練習を欠かさずしていくこと。もっとも、真面目な2人ならその点は問題ないわね」
「円香ちゃん、練習日を決めるために今日のレッスンが終わった後に空いている日を教えてもらっていいかな?」
「わかりました、後ほどスケジュールを共有しましょう」
真摯に練習に打ち込む2人はユニットの纏め役として立ち回ることも多いため、3つのグループの中でもっともコミュニケーションがとれていた。
対照的に、最後のグループであるライトの愛依・小糸たちは、ダンスの習得に難航している様子であった。
「───うーん、2人とも動きが硬いわね。いきなり全てを覚えるの難しいから、1つずつやっていきましょうか」
「はぁ…はぁ…」
「あはは…うちやっぱ覚える系は苦手…でも今はとにかく体で覚えていくのみっしょ!よし一緒に頑張ろうね、小糸ちゃん!」
「ぴぇ!?」
「あ、ごめん、うち声大きかったよね?」
「いえ、その…」
笑顔で話しかける愛依であったが、小糸はビクビクした表情を見せ、上手く返答できない。
小糸のことを愛依はよく知らないため、どう対応すればいいか分からずに困った顔を見せる。
「小糸ちゃん?」(あれ、うちなにかしちゃった系…?どうしよう、心当たりないわ…)
「…ぁ…ぇっと…」(和泉愛依さん…テレビで見るとクールだけど事務所では明るい人…どう答えれば失礼にならないんだろう…!?)
挙動不審になる小糸に、どう話しかけるべきか迷う愛依。
(ん、小糸と愛依…他のグループよりもギクシャクしているな。小糸の性格からしてスムーズな交流は難しいのは分かっていたが…フォローをいれてみるか)
そんな2人の様子に気付いた翼が近づいていって助け船を出す。
「愛依さん、小糸、少しいいかな?」
「おっ、翼くんじゃん」
「つ、翼くん!ど、どうしたの?」
「少しだけ休息を入れた方がいいんじゃないかな。ガムシャラに踊って覚えるのも悪くないけど、ここは一度体を休めながら今の振り付けをおさらいしないか?」
そう提案しながら、翼はダンストレーナーに視線を送る。
「そうね、私は他のグループを見てくるから一度休息するといいわ。焦ってもよくないし、頭の中で振り付けを整理するのがいいかもね」
「あ~、じゃあお言葉に甘えて休憩しようか~小糸ちゃん」
「は、はいっ!」
(あれ、小糸ちゃん。さっきより明るい…ははーん、これが幼馴染パワーってわけか~)
翼の登場で小糸の緊張が薄れたことに愛依が気付く。
そして愛依の脳裏に閃くものがあった。
(これは小糸ちゃんと仲良くなるチャンスかも!)
「ねぇ小糸ちゃん、最初から振り付けをすり合わせしていかない?」
「ぴぇ…えっと…」
愛依の提案に口ごもる小糸は、思わず横にいた翼に視線を向ける。
「いいんじゃないか?あさひや雛菜たちは体で覚えるタイプだけど、小糸や愛依さんは頭に振り付けをしっかりと落とし込むタイプだと思うし、2人で確認し合った方がより早く定着するんじゃないかな」
「で、でも私…」
「振り付けを覚えるのは小糸のペースで大丈夫だよ。それに愛依さんは気にしないと思うぞ」
「ん、なになに~?うちが何かしちゃった感じかな?」
「えっと…和泉さんは何も悪くなくて…悪いのはむしろで私で…」
「??ごめん、どういうこと~」
小糸が何を伝えたいのかピンと来ていない愛依に、翼は彼女の気持ちを代弁する。
「つまり、小糸は自分のペースに合わせることで、愛依さんの練習の邪魔にならないかを心配しているんだ」
「そうなん、小糸ちゃん?」
「…っ…!」
愛依の問い掛けに、小糸は控えめであるが、確かにコクンと縦に首をふる。
「なんだ、そんなことか~!小糸ちゃん気にしなくていいのに~」
「で、でも…」
「だって、うちら仲間っしょ!」
「な、仲間…っ!」
「うん、ユニットは違うけど同じ283プロの仲間じゃない?しかも今は同じグループだし尚更そうじゃん!」
「和泉さん…」
「そうだ、名字じゃなくて名前で呼んでよ。無理にとは言わないけど、その方が仲間っぽいし!」
「…め、愛依さん…でいいですか…?」
「うんっ!改めてよろしくね、小糸ちゃん」
(よかったな小糸。愛依もありがとう。以前もそうだったが、愛依の明るさには救われるよ)
こうして、初日の顔合わせと合同練習会は穏やかに過ぎていく。
迷光に混じり始めた透明な少女たちは何を思い、何をなしていくのか…。
おまけ 初回練習会から数日後の冬優子と愛依。とある喫茶店の個室にて
「いやぁ~、小糸ちゃんと仲良くなれてよかったよ~」
「へぇ、凄いじゃない。福丸小糸は見た感じ会話が苦手なタイプだから、仲を深めるのは大変だったでしょ」
「ん~、確かに最初は上手く会話できなかったけど、翼くんが会話に入ってからはバッチリ話せたよ~」
「あ~…確かにあいつを含めノクチルメンバーは幼馴染で固まっているし。何というか、独特な空気感があるのよね」
「あぁ!わかるわかる~。一緒にアイドルをやるほど仲が良い幼馴染って羨ましいな~」
「それがノクチルの売りなのよね。今までのユニットとはだいぶ異色…しかも現役高校生がマネージャーしてるのも一部で話題になっているようだし」
「しかも円香ちゃんの双子のお兄さんだもんね、そりゃあ話題にもなるか~。それで、冬優子ちゃんの方は円香ちゃんと仲良くなった感じ~?」
「まぁ表面上は問題ないわね。樋口円香はクールだけど人付き合いが下手なわけではないし、むしろこちらの意図を察して動いてくれるのは助かるわね」
「うちも前に円香ちゃんとは何度か話したことあるけど、礼儀正しい子だったもんね~」
「───問題があるとしたら、兄に関することだけね」
「兄って翼くんのこと?」
「そうよ。あいつはマメだから定期的にふゆたちの練習に差し入れを持ってきてるでしょ?そのときの樋口円香の反応がね…こほん、『ご苦労様です。ただ貴方も忙しい身だと思いますので、速やかに戻っていただいて大丈夫です』って感じなのよ」
「あはは~、冬優子ちゃんがいたし恥ずかしがっていたんじゃない~?」
「まぁその気持ちは分からなくないわ。問題はあいつがいなくなった後よ。ふゆが気を遣って『優しいお兄さんで羨ましいなぁ』って言ってあげたら、『そんなこと全然ありません。あの人は誰にでも優しい顔を見せますが、それが原因でトラブルが生まれる可能性があります。妹としては一刻も早く改善してほしい行動の1つです』って真顔で反論されたわ」
「お、おぉ…円香ちゃんそんな反応するんだ~」
「まぁふゆもそれには同意見だったけれど」
「あ、冬優子ちゃんも同意見なんだ…」
「問題はその後よ。『そっかぁ、円香ちゃんも妹として苦労しているんだね』ってふゆが共感してあげたら『苦労というか、そもそもあの人は───』って言ってノンストップであいつの愚痴を10分くらい続けていたわ」
「ま、まぁ家族ならではの悩みもあるよね~」
「しかもその内容、愚痴と言いながらも言葉の節々に兄への重い感情が見え隠れしているのよね。それを聞かされるこっちの身にもなりなさいよ、本当に…」
「お、重い感情~!?どんな内容だったの?」
「あぁー…ごめん愛依、樋口円香の名誉のために具体的な内容は伏せるわ。ただ本当に興味があるなら、今度彼女に兄についてどう思っているか聞いてみなさい。ただし決して生半可な気持ちで尋ねないことね」
「う、う~ん、じゃあうちはまだいいかな。もうちょっと円香ちゃんと仲良くなってからにするよ」
「それが賢明ね。ふぅ、愛依に話せてスッキリしたわ。悪いわね、付き合ってもらって」
「いや、うちは全然平気だよ~」
(冬優子ちゃん、ストレスたまっていたんだな~…。けど、円香ちゃんが翼くんのことをどう思っているのか気になるな~。そうだ、明日の練習で小糸ちゃんに聞いてみよう!)
愛依の突然の閃きで、樋口兄妹の複雑な事情に巻き込まれることになった小糸の明日はどっちだ。