シャニP、樋口円香の兄に転生する   作:リィンP

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天絲Ⅳ 変化×伝染

 

 ストレイライトとノクチルのコラボ番組まで、期間は残すところ1ヶ月半となった。

 アイドル、プロデューサー、マネージャー。

 それぞれが自分の為すべきことを為すために、着実に準備を進めていった。

 

 まず、あさひ・透・雛菜のグループ。

 このグループの特徴を挙げるとすると、才能を含めた様々な面がとにかく尖っている。

 各々が素晴らしいダンスの才能を有している反面、協調性に乏しいことが足を引っ張り、グループでのパフォーマンスが伸び悩んでいた。

 

「透ちゃん、もっとビュビュンと動くっすよ!」

 

「あー…こうっすか」

 

「違うっす!もっと、こうビュビュン!って感じっすよ」

 

「ふふ、全然わからん。わかる、雛菜?」

 

「え~っと、こんな感じかな~」

 

「それっす、雛菜ちゃん!」

 

「あは~雛菜、できたみたい~。透先輩、どうでした~?」

 

「グー。じゃあ教えてもらうかな、雛菜に」

 

「あは~、雛菜頑張って教えるね~♡」

 

「むー、わたしも混ぜてほしいっす!」

 

 グループでの自主トレは、彼女たちなりに真面目に取り組んでいった。

 その甲斐あって、少しずつ彼女たちの動きが合うようにはなっていった。

 ただし、彼女たちのパフォーマンスは完璧にはまだ遠かった。

 

「こう、雛菜?」

 

「透先輩、カッコいい~~♡」

 

「ふふ、ありがと」

 

「でも、動きは前と変わりないかも~」

 

「え、マジ」

 

「ん~やっぱり雛菜はトレーナーじゃないから、透先輩の力にならないかも~。ごめんね~透先輩~」

 

「了解、気にしないで雛菜」

 

 このように、あさひや雛菜のアドバイスでは透に上手く伝わらないことが多かった。

 ダンストレーナーの指導でもその問題はあまり改善が見られず、透たちのグループは期待されるほどのパフォーマンスをできずにいた。    

 

 しかし、残り1ヶ月を切ったところで状況は好転していく。

 円香と冬優子が透たちのグループのフォローに入るようになってから目に見えてパフォーマンスが上がっていったのだ。

 

「浅倉、ここの部分はワンテンポ早く動き始めた方がいいんじゃない?」

 

「え、どこ?」

 

「ここ。浅倉の動き出しが少し遅いせいで、あさひや雛菜との間で少しズレが生まれてる」

 

「おー、本当だー」

 

「浅倉、まだ振り付けを全部覚えきれていないでしょ」

 

「あー、そうかも」

 

「思い出すのに時間がかかってるせいで次の行動が遅れてる。もう一度振り付けを復習した方がいい」

 

 透にアドバイスする円香。

 今までにも透にアドバイスを送ること自体は何度もあったが、アイドルになってからここまで真剣に助言するのは初めてであった。

 

「ラジャー…ふふっ」

 

「…なに、突然笑って」

 

「んー、樋口だなーって思って」

 

 今まで自身の中にある情熱を表に出すことのなかった円香。

 そんな彼女が吹っ切れたように能動的に行動するようになり、透にも積極的に助言を与えるようになった。

 余計なことは口にしないをポリシーにしていた彼女が、自分の意見や心情を遠慮することなく口にするようになったことに透は驚きながらも、すぐに円香の変化を受け入れた。

 

「はぁ…変なこと言ってないで、振り付けが怪しいところはよく見て覚えて」

 

「はーい」

 

 そして、円香が透にアドバイスをするようになって数日。

 今まであさひや雛菜が教えたときとは打って変わって、透の動きは目に見えて改善するようになっていった。

 

 子どもの頃から透をずっと見てきた円香にとって、どう表現すれば透に伝わりやすいのかを理解していた。

 そして何より円香だからこそ透のオーラに惑わされず、彼女を公正に評価し、改善点をすぐに見つけることができたのだ。

 

「むー、どうしてわたしのときは伝わらなかったのに、円香ちゃんがアドバイスすると伝わるんすか?」

 

「だってよ、樋口?」

 

「いや、知らないけど。私に聞かないで浅倉が答えたら?」

 

「えー」

 

「透ちゃん、教えてほしいっす!」

 

「んー…私のことをわかっているから、かな?どうよ、樋口」

 

「…まぁ、それなりに付き合いは長いから」

 

「もしかして照れてる、樋口?」

 

「照れるか」

 

 からかう透に、円香は少しムッとした表情で言い返す。

 そんな2人の気安いやり取りを見てふと浮かんだ疑問を、あさひはそのまま口にする。

 

「透ちゃんと円香ちゃんはずっと家が隣同士なんすよね?付き合いが長いからお互いのことをわかるってことっすか?」

 

「そうそう、幼馴染パワー」

 

「そんなパワーはない」

 

「おぉー!じゃあ翼くんのことも透ちゃんは一番よく知っているってことっすね」

 

「グー、もちろん。運命の相手(・・・・・)だから、翼と私は」

 

「はぁ?」

 

 いきなり飛び出した透の爆弾発言に、空気がビシっと凍ったかのように緊張感が走る。

 円香は不機嫌そうに眉をひそめ、透の言葉を聞き返す。

 

「どこからそんな言葉がでてきたの?」

 

「んー…パワーアップさせてみた、幼馴染って言葉を」

 

「そのパワーアップの仕方はおかしい…あさひが誤解するから変な言い方しないで」

 

「え、変だった?」

 

「どう考えても変でしょ」

 

 心なしかいつもよりトゲがある円香の言葉に、透は気にした様子を見せず「そっかー」と間の抜けた返事をする。

 

 そんな2人を「なんか面白いことが起きそうっす!」とあさひはワクワクし始める。

 

 そのタイミングで離れたところで踊っていた雛菜も練習を切り上げたことで、状況はより混沌へと変化していく。

 

「あ~みんな面白そうな話してる~!雛菜も混ぜてて~」

 

「いや、混ざらなくていいから」

 

「え~円香先輩、冷た~い~」

 

「円香ちゃん、私も運命の相手になってみたいっす!」

 

「私に聞かないで」

 

「じゃあ透ちゃん、教えてほしいっす!」

 

「ふふっ、秘密」

 

「えぇ~ずるいっす!」

 

「透先輩、雛菜には教えてね~」

 

「あー…ごめん、雛菜にも秘密で」

 

「えぇ~!?なんでぇ~~!?」

 

 雛菜も透たちの会話に参戦してきたことで、グループでのダンス練習という今日の本題からどんどん脱線していく。

 

 透たちの会話が雑談へとシフトし始めたタイミングで、レッスン室に凛とした声が響く。

 

「みんな~お喋りしたい気持ちは分かるけど、今は練習に集中しようね~」

 

 ダンスの振り付けをチェックしながらも透たちの行動にも注意を払っていた冬優子が、これ以上の雑談はよくないと判断して声を掛けたのだ。

 彼女の注意は厳しいものではなく、優しいものであったが、その効果は覿面。

 

「「「はい(っす)」」」

 

 冬優子からの注意を受けて、透たちは自分のやるべき課題に戻っていく。

 

「みんな、あともう少し頑張ろうね~」

 

 今日のようにプロデューサーやトレーナーがいないときは冬優子が場をコントロールすることが多い。

 そのことに円香は内心で尊敬の念を覚える。

 

(流石は冬優子さん、場を完全に仕切っている)

 

 あさひ・透・雛菜チームの練習効率が格段によくなった理由として、円香の存在の他にも、マネジメントの素質を備える冬優子の存在が大きかった。

 全体に意識を向けて悪い点があったらそれを良い方向に誘導する冬優子の手腕。

 彼女が参加するようになってから、目的から脱線することが多かったあさひチームの無駄は省かれるようになり、明らかにパフォーマンスのレベルが上がってきた。

 

「…すみません冬優子さん、練習とは関係ない話をしてしまって」

 

「ううん、こっちこそごめんね。話が脱線してきた原因はうちのあさひちゃんのせいだから」

 

「いえ、こちらにも原因はあるかと」

 

「ふふ、それじゃあ次からは円香ちゃんが軌道修正してくれると嬉しいな」

 

「…頑張ってみます」

 

 円香の返事を聞いて、冬優子は内心でおやっと思う。

 

「円香ちゃん、変わったね」

 

「そう、ですかね…自分ではよくわかりません」

 

「そう?最近の円香ちゃんは以前よりも輝いているようにふゆは見えるな~」

 

「…ありがとうございます。冬優子さんにそう言っていただけて嬉しいです」

 

「それじゃあ私たちも練習に戻ろう、円香ちゃん」

 

「わかりました」

 

(クールなのは相変わらずだけど、以前までの受け身の姿勢が変わってきたわね。ふゆか焚き付けたのもあると思うけど、樋口円香はいずれ手強いライバルになりそうね)

 

 それでも今は頼もしいアイドル仲間として円香を信頼し、来月のノクチル×ストレイライトの本番に向けて目の前の練習を真剣に取り組んでいくのであった。

 

 

◇◆◇

 

 

 円香と冬優子は透のグルーブだけでなく小糸・愛依グルーブの自己練習にも参加していた。

 それにより練習の効率は格段に良くなり、彼女たちのダンスもめきめきと上達していった。

 

 そして全員がダンスを一定のレベルまで踊れるようになってきたところで、ボーカルレッスンが本格的に始動していく。

 

 そのボーカルレッスンで大きな注目を集めたのは、樋口円香であった。

 

 

 

 トレーナーによるボーカルレッスン。

 今回は円香と冬優子が指導を受けており、今は円香が歌っている最中であった。

 

「♪~」

 

(これは…今までの円香の歌とは違う。胸のうちに秘めたままだった円香の自身の感情を、言葉に乗せて歌っている…)

 

 邪魔にならない場所で見学する翼。

 彼の見つめる先で、円香が圧倒的な歌声を披露する。

 その歌声を聞区と、心の底からじんわりとした熱い感情が込み上げてくる。

 

(そうか…円香はようやく自分自身の縛りから解放されたんだな)

 

 彼は知っている。

 今までの円香は、誰かの価値観で生きようとしていたことを。

 だからこそ、彼女は大いに苦しみ、悩みながら生きていた。

 

 ───自分のために生きてくれ。

 

 前世でも同じように苦悩していた円香を見て、プロデューサー時代のときから彼はそう願っていた。

 今までの円香は、周囲からの評価に固執し、歌いたい気持ちというものと向き合えていなかったのだ。

 

 そしてようやく今、自身の気持ちと向き合ったことで、円香は胸に秘めていた『衝動』を歌にする

 

「♪~」

 

 誰かを思って歌っているわけではない…ただ自分のための歌声。

 そんな円香の歌だからこそ、一人ひとりの心に響く。 

 

 

 

(なによ、今までと大違いじゃない…)

 

 衝撃を受けているのは翼だけではない。

 その光景を目の当たりにしてる冬優子の心にも円香の歌声は響き、それが引き金となって熱い感情がフツフツと沸き上がってくる。

 

(上等っ!ふゆも負けてられないわ!)

 

 既に燃えていたはずの彼女の闘志が負けじとメラメラとその勢いを増していく。

 

 そしてその熱は、静かに他のアイドルたちにも伝染していった。

 

 今日のレッスン終了後、歌い終えた円香を囲むように小糸、雛菜、あさひ、透が近寄って称賛の言葉を伝える。

 興奮して頬をうっすらピンク色に染めた小糸が、円香にアドバイスを求める。

 

「円香ちゃんっ、どうすれば私はもっと上手く歌えるかな?」

 

「小糸は今も上手いよ…強いて言うなら歌うときに小糸自身の気持ちを込めるといいかも」

 

「気持ちを込める…わ、わかった!」

 

「円香先輩、雛菜にもアドバイスちょうだ~い」

 

「雛菜はこことここ…あとここの部分をもっと抑揚つければいいと思う」

 

「あは~次からは気を付けてみる~。円香先輩、ありがと~~♡」

 

「わたしにもアドバイスほしいっす!」

 

「あさひは…特に思い浮かばない」

 

「えぇーなんでっすか」

 

「すぐに改善点が出てこないのは、それだけよく歌えているってこと。もっと完璧を目指したいなら本職のトレーナーに聞いた方がいい」

 

「むー…わかったっす」

 

「あー…次は私か」

 

「いや、別に順番制じゃないから」

 

「んー…じゃあマンツーマンでしてもらおうかな、歌の指導」

 

「はぁ?」

 

「えー…だめ?」

 

「…浅倉はまず歌詞を覚えるところから」

 

「ありゃ…そうきたか」

 

 いつも通りに見えて、いつもとどこか違ったやり取りをするノクチル(+あさひ)。

 

 一方、彼女たちから離れた場所で愛依と冬優子も先程のボーカルレッスンについて話をしていた。

 

「いやぁ、円香ちゃんスゴかったねー。うち、なんか心が熱くなっちゃったよー」

 

「…そうね」

 

「あ、もちろん冬優子ちゃんの歌もめっちゃよかったよ!」

 

「馬鹿ね、変に気遣う必要はないわよ。別に私は落ち込んでないし」

 

「いや~そういうつもりはなくて、純粋にスゴいなーってみんなの歌声を聴いて思ったの。うちなんかまだまだウマく歌えないし…うん、もっと頑張らないとね」

 

「…このあと残って練習するなら付き合うわよ、愛依」

 

「サンキュ、冬優子ちゃん!あ、小糸ちゃんも誘っていいかな?」

 

「ふゆはいいけど…あの子とは仲良くできているのね」

 

「うん、少しずつだけどね~♪小糸ちゃん妹みたいで可愛いし、めっちゃ努力家だからもっと仲良くなりたいんだ~」

 

 ボーカルレッスン終了後、愛依は小糸を練習に誘った。

 突然のことに「ぴぇっ!?」と小糸は驚きながらも、その提案を断らず一緒に練習を取り組んでいく。

 1ヶ月間ユニットの垣根を越えて切磋琢磨したことで、閉鎖的なユニットであったノクチルに新しい変化が生まれるのであった。

 

 

 そしてあっという間に残りの時間が経過し、ノクチルとストレイライトのコラボ楽曲撮影当日を迎えるのであった。

 





お待たせしました。
次回で『天絲』は終了予定です。
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