ストレイライトとノクチル。
誰が聞いても驚く異色のユニット組み合わせだ。
だからこそインパクトがあると考えられ、この企画が実現した。
しかも、より話題を集めるために生放送でコラボ楽曲を初披露することになった。
ノクチルとストレイライトどちらにとってもリターンは大きいが、その分リスクが大きい仕事依頼であった。
それでも彼女たちは挑戦することを選んだ。
その選択を間違いにしないためにプロデューサーやマネージャーたちは陰ながら尽力してきた。
そして、コラボ楽曲を生放送で披露する当日。
テレビ局の控え室に案内されたノクチルとストレイライトのメンバーは、ステージ用の衣装に着替えていく。
また順番にスタイリストによって化粧や髪型を整いてもらい、その魅力に磨きがかかっていた。
そして本番までの待機時間、水を飲んだり誰かと会話したり携帯を弄ったりと各々で自由に過ごす中、冬優子はSNSで
『今日ストレイライトが生放送の歌番組に出るからみんな見てね!』
『可愛いふゆちゃんを早く見たいよ~』
『あさひちゃんのダンス楽しみ~』
『愛依サマ待ってました!絶対に残業しないでリアタイで見ます!』
宣伝もしっかりされているためか、多くのファンがツイートを行っていた。
ざっと見た限り、ストレイライトには肯定的な反応が多い。
そう、ストレイライトに関しては、だ。
(ふゆを含めストレイライトへの反応は悪くないわね…問題はノクチルの方)
ノクチルは最近知名度が上がってきたが、それでもストレイライトと比べてまだまだ彼女たちを知らない人も多い。
そのため今回の番組で初めてノクチルを見る人も少なくないのが実情だ。
『公式ページ見てきた。ストレイライトの新曲かと思ったけどノクチルとかいう新規ユニットと一緒の新曲みたい』
『え、ストレイライトの新曲じゃないの?ノクチルってどこのユニット?』
『俺知ってる。最近話題になってる幼馴染ユニットで、ストレイライトと同じ283プロ所属だよ』
『じゃあ事務所に方針でコラボしたってこと?俺はストレイライトの3人だけが見たいのだが』
『まぁストレイライトの人気にあやかって後続のユニットを売れさせたいっていう汚い大人の考えが見えちゃうよねー。俺は別に気にしないけど』
『そう言いながら本当は気にしてそう。ちなみに私は気にしてる』
『ストレイライトの足を引っ張らなければ別にいいけど、ノクチルって幼馴染同士で緩くアイドルやってるユニットみたいだし流石に無理そうか』
『最悪、せっかくのストレイライトの新曲が台無しじゃん』
『実力が違いすぎるユニットで組ませるなんて283プロ大丈夫か?しかも生放送だぞ』
『うわ、誤魔化しもきかないじゃん。最悪炎上するんじゃね?』
もちろん、批判的な意見がすべてではない。
ノクチルのファンは肯定的な書き込みをしてくれたが、それでもストレイライトがノクチルとコラボすることに懐疑的な意見は多いのが現実であった。
(…あの子たちはエゴサするタイプでもなさそうだし、こういった投稿は見ていないでしょうね。まぁ福丸小糸以外、こういった批判は気にしなそうだけど)
それでもわざわざ彼女たちに伝える必要はないだろうと冬優子は考え、携帯の画面を消す。
顔を上げると、こちらを見ていた円香と目が合う。
おもむろに近づきて来た彼女は、周りのメンバーに配慮して声量を控えめにして声を掛ける。
「冬優子さん、休憩中ごめんなさい。今少しいいですか?」
「円香ちゃん?うん、大丈夫だよ」
「その…お礼を伝えたくて」
「お礼?ふゆ、何かしたかな」
円香の言わんとしていることにピンと来ず、内心で首を捻りながら冬優子は聞き返す。
「この2ヶ月間冬優子さんと愛依さん、それにあさひと過ごせたことで私たちは成長できました」
円香だけでなく、透や雛菜、小糸も以前よりも体力・技術で向上が見られた。
そして個人差はあるが精神面でも成長があり、ノクチルというユニットに更なる可能性が生まれたのだ。
「この仕事を受けた当初はストレイライトの邪魔をせず、
「円香ちゃん…」
「だけど、今は違います」
既にノクチル4人の意思は確かめ合った。
受け身で動くことが多かった彼女たち。しかし、そのスタンスはもう過去になる。
円香が意見を言い、小糸が意思を示し、雛菜が賛同し、そして透が腰を上げる。
「私たちノクチルは、ストレイライトの足を引っ張るつもりはありません。むしろ、追い越すつもりで今日は臨みたいと思います」
円香は人の心の機微を見抜く目に長けていた。
だからこそ彼女にはわかる───誰よりも熱い魂を持つ冬優子には、無礼でも挑発的な言葉の方が歓迎されることを。
そして、彼女はその炎を燃やすことでギアをもう1段階あげたパフォーマンスをしてくることを。
「ありがとう、円香ちゃん。そう言ってくれてふゆ…本当に嬉しい───でも、ふゆたちも負けないから♡」
冬優子は満面な笑みでそう返す。
その言葉には重みがあった。
◇◆◇
時刻は20時のゴールデンタイム。
ストレイライトとノクチルが出演する音楽番組の生放送が開始した。
彼女たち以外のアイドルグループも出演していたが、番組構成的にストレイライトとノクチルが大トリである。
ただし前座のアイドルたちも素晴らしい曲を披露し、番組はどんどん盛り上がっていった。
そしてついに、番組は佳境に差し掛かり彼女たちの出番になった。
「それではお待たせしました!ストレイライトとノクチル、ユニットの垣根を越えて披露する歌はなんと、この番組が初お披露目となるとのこと…これはどのような曲か今から楽しみですね!」
ストレイライト×ノクチル。
彼女たちのために制作された楽曲のタイトルは『Stray noct,Chill light』。
283プロがプロデュースする初めての複数ユニットでの楽曲───それを地上波の生放送で初披露するのだ。
否が応でも期待は高まり、司会者の巧みな進行によって会場のボルテージは上がっていく。
そして、満を持して彼女たちは現れた。
青と赤が混ざり合った神秘的でありながら、可愛いさも兼ね備えた衣装を身に纏ってステージに降り立つ。
準備はできた。
彼女たちの前に障害はない。
後はもう、今まで培ってきた全てをぶつけるだけ。
「それではストレイライト、ノクチルで───『Stray noct,Chill light』!」
そして、彼女たちの時間が始まった。
『『♪~~』』』
小糸と愛依が息ピッタリの躍りを見せる。
ユニットの中でも特に努力家の2人は、本番に弱く人よりも緊張してしまう弱点があった。
時には失敗することもあったが、それでも彼女たちは努力することを諦めなかった。
そして、その努力は実を結ぶ。
100%のパフォーマンスを披露し、ミスなく歌いながら最後まで踊りきっていく。
『『♪~~』』』
逆サイド。円香と冬優子は完璧なダンスを披露する。
今回分けれれた3つのグループの中でもっともパフォーマンスが安定している2人は、更に完成度を上げてきた。
彼女たちの歌声には、聞く人全員の心を揺さぶるほどの熱量が込められていた。
しかも彼女たちは
『『『♪~~♪~~』』』』
そして中央。透と雛菜、あさひは圧倒的なパフォーマンスを見せつける。
ユニットの中でも才能は突出しているが協調性に乏しかった3人は、ようやく動きに調和がとれてきた。
綺麗な歌声を披露し、軽快にステップを踏みしめ、キラキラと舞い踊る。
彼女たちはそれぞれ好き勝手にパフォーマンスしているように見えて、違和感なく昇華できてた。
そして3つのグループの歌と踊りが重なり合い、高め合い、より次元が高いパフォーマンスへと生まれ変わっていく。
そんな彼女たちのステージが生放送を通じて、多くの視聴者のもとへと届いていった。
この日、このとき、この舞台で。
新たな伝説が生まれるのであった。
◇◆◇
ストレイライトとノクチルの新曲披露が無事に終わり、一旦CMを挟んでからトークコーナーへと移っていくことになった。
時間に余裕がないため、マネージャーである翼が彼女たちと話す機会はあまりなかった。
それでも労いの声をみんなに掛け、控えていたスタイリストさんによる乱れた髪形のチェックを済ませ、彼女たちが指定された席まで移動していくのを見送っていく。
その後翼は他のマネージャーたちも待機する控室に移動し、彼女たちを部屋に備え付けられたモニターで見守りながらも携帯の電源を付けSNSに目を通していく。
『よすぎて語彙力が消滅した』
『鳥肌たった』
『え、ノクチルこんなにうまかったの?ストレイライトに負けてないじゃん』
『足引っ張るとか心配していた俺の無駄な時間を返してくれ。もう一回今の新曲を見せてくれたら許す』
『身勝手すぎて草。でも、この新曲早く配信されないかな』
(ネットの反応は盛り上がっているな…ふぅ、これなら大丈夫そうだ)
携帯から顔をあげてモニターに視線を移すと、ちょうど司会者が彼女たちに話を振っているところであった。
「いやぁ、とても素晴らしい新曲を披露していただいてありがとうございました!ストレイライトさんもノクチルさんも凄くよかったですよ!」
「ありがとうございます~♡」
「ありがとうございます」
「それではストレイライトのみなさんから、改めてご挨拶をお願いします…!』
「ストレイライトの芹沢あさひっすー!」
「黛冬優子です♡」
「和泉愛依。よろしく」
「はい、ありがとうございました。それでは続いてノクチルのみなさんに───」
☆★☆★☆
───W.I.N.G.第4シーズン終了まで、残り1週。
おまけ~その後のトークコーナーの一幕~
ストレイライトとノクチル自己紹介終了後、司会者は順番に彼女たちのプロフィールを深掘りしていった。
そして次は円香の番となったのだが…。
「樋口さんはいつも冷静沈着でクールキャラとしてファンから愛されているみたいですね」
「自分がクールかどうかはみなさんの判断にお任せします。ただ、騒がしいタイプでないのは間違いないですね」
「お答えいただきありがとうございます。それではここで樋口さん以外のノクチルメンバーにお尋ねします!樋口さんの意外な一面があれば、ぜひそのエピソードを話していただきたいです。まずは、市川さんに聞いてみましょう!」
「は~い、円香先輩はいつも涼しい顔をしてるけど虫がと~ても苦手で、近くに虫が出ると悲鳴を───」
「悲鳴はあげてない、ただ驚いただけ。嘘を言わないで」
「あは~、そうだったかな~」
「なるほど、樋口さんは虫が苦手なのですね。はは、まぁ私も苦手ですが…それでも樋口さんがそれほど驚くのは確かに意外ですね」
ここで司会者は一旦間をとってから小糸へとトークを投げ掛ける。
「それでは続いて福丸さんにも、樋口さんの意外な一面を聞いてみましょうか」
「は、はい!円香ちゃんはよくお菓子をくれて、とっても優しいです!」
「ほう、お菓子をですか。ちなみにどのようなお菓子を?」
「えっと、飴玉やチョコレートが多いですっ」
「いつも小糸ちゃんばっかりもらっててズル~い。雛菜にはあんまりくれないのに~」
「おっと、どうやら樋口さんは福丸さんにだけお菓子をあげているようですね。何か理由とかはあるのでしょうか?」
「…明確な理由はありませんが、小糸はいつも頑張っているのでお菓子をあげたくなるんです」
「ほほう、樋口さんの優しい一面が見えてくるエピソードですね。それじゃあ最後に浅倉さんに、他に意外な一面があるかを聞いてみましょう」
「あー…兄思いなところ、とか?」
「っ!」
透の発言に、円香はわずかに動揺を見せる。
そんな彼女の様子に冬優子はすぐに気付いたが、それに気付かない司会者や透は何事もなくトークを続けていく。
「ほう、兄思いですか。樋口さんはお兄さんがいらっしゃるんですね」
「まぁ、はい…兄が1人いますね」
「ちなみに浅倉さんは何か具体的なエピソードをご存知だったりしますか?」
「あー…はい、知ってます、いっぱい」
「おおー、そうなんですね!」
「樋口、言っていい?」
流石の透も生放送で幼馴染の恥ずかしい?エピソードを本人の許可なく話すほど非常識ではない。
「…ちなみに何を言うつもり?」
「んー…小4のときの席替えのときの話とか」
円香の脳裏に浮かぶのは、翼に好意を持っていた同級生が次の席替えで彼の隣を狙って暗躍していたのに円香が気付き、それを阻止した時の光景。
到底地上波で話せる内容ではない。
「それはダメ」
「え…じゃあ中2のときの運動会は?」
円香の脳裏に浮かぶのは、翼との2人3脚のペアに選ばれた女子が調子に乗って彼と付き合っているとの偽の噂を流し始めたので、
これも到底地上波で話せる内容ではない。
「それもダメ」
「これもダメかぁ…んー…」
悩む透に、司会者が助け船を出す。
「それでは浅倉さん、日常生活でも構わないので樋口さんとお兄さんの仲の良さがわかるエピソードとかはありますか?」
「あ、それなら樋口が風邪の時に看病してくれた話は?」
「看病…それいつの話?」
「えっと、中3のときだったかも?」
「なるほど、樋口さんが具合が悪かった時にお兄さんに看病してもらったエピソードということですね!ぜひお聞きしたいです」
「えっと、風邪をひいて寝ている樋口に『何か俺にできることはないか?』って彼が聞いたら」
「(中学3年生…確かに風邪をこじらせて看病してもらったけど特に何もなかったはず…)」
「『じゃあ眠くなるまででそばにいて』って言ってました」
「は?言ってないから。勝手に話を盛らないで」
「え?そうだっけ…雛菜、覚えてる?」
「うん、透先輩と一緒にお見舞いに行ったときに、確かに円香先輩そう言ってたよ~。覚えてないの~?」
「……覚えてない」
「なるほど~クールな樋口さんでも、家族には甘えてしまうということですね~」
「まぁ…家族仲は悪くない方ですかね」
クールにそう返答する円香だったが、その耳が薄く赤く色付いていることだけは隠せていないのであった。
ちなみに生放送終了後、一部のネット界隈で『ノクチルの樋口円香にブラコン疑惑!?』と話題になった。
ただ、ストレイライトとノクチルの新曲の話題にすぐ上書きされ、その件を話題にする人はほとんどいなくなった。
これにはSNSで情報収集に努めていた翼も一安心である。
(うん、これ以上間違った情報が広まることはなさそうだな。確かに円香は家族思いだけど、ブラコンなんてあるわけないのにな、ははっ)
デマ情報が拡散するのを防げてよかったと純粋に喜ぶ翼。
円香は自分のことをブラコンではないと思っているので、翼のその考えは正しい…わけがない。
彼はまだ知らない、樋口円香が世間一般的にはブラコンと呼ばれる分類に該当すると言う事実を。
幼馴染たちは全員気付いているその事実に、当事者の樋口兄妹だけは未だに気付いていないのであった。
『天絲』~完~
次回で4thシーズンは終わりになります。
ただこの物語はまだまだ続きますので、よければ感想や評価をよろしくお願いします。
今日の裏話⑧
風邪引き円香は高熱で意識が朦朧していたのもあって、当時の記憶はあまり残っていない。透と雛菜は彼女の名誉のために言わなかったが、眠るまで兄に手を握ってもらっていた。体調が悪い時は人肌が恋しくなるのでこればっかりは仕方ない。