ノクチルとストレイライトのユニットコラボが見事成功に終わった翌週。
まだそのときの熱狂が冷めやらぬまま、W.I.N.G.第4シーズンが終わりを迎えた。
つまり、予選はこれで終わりとなり、ここで合格したアイドルたちは次週からW.I.N.G.に進出することができる。
しかしここで敗退してしまえば、W.I.N.G.へ出場する機会は二度と得られない。
そして、W.I.N.G.予選結果が発表される運命の日。
緊張した面持ちで事務所に出勤した翼は、いつ受話器が鳴るのか気になってしまい仕事に集中できずにいた。
「なに担当アイドルより緊張してるのよ。あんたがそんなんじゃ、あの子たちも不安になるでしょう」
事務所でストレイライトのメンバーたちと翼の4人だけになったとき、そわそわと落ち着きない様子を見せる彼の様子を見て冬優子は呆れた表情を浮かべる。
「そういうときは深呼吸がマジいいから!ほらほら、翼くんもやってみて~」
そんな翼の様子に本番で緊張する自分を重ねた愛依は、親身になってアドバイスを送る。
「あははっ、そわそわしている翼くん珍しいっすね。なんだか見てて面白いっす!」
あさひは目をキラキラさせて、彼の様子を興味深く観察し始める。
呆れ、心配、興味。三者三葉の反応を見せる彼女たちは、わいわいと会話を続けていく。
「あら、確かに面白いわね。記念に動画でも撮ってあげてもいいわよ?」
「じょ、冗談だよな…?」
「さぁ、どうかしらね~」
「あっ冬優子ちゃんだけずるいっす、わたしも撮りたいっす!」
「アハハ、じゃあうちも翼くんのこと撮っちゃおーかなー」
そんなストレイライトとのやり取りがあり、だいぶ緊張がほぐれた翼はいつもの調子を取り戻すことができたのであった。
◇◆◇
ひとしきり雑談を楽しんだ後、ストレイライトの3人はレッスン室へと向かった。
そして、プロデューサーの椿が事務所に戻ってきたタイミングで電話が鳴り響いた。
「お電話ありがとうございます。283プロダクション、マネージャーの樋口が承ります」
椿にアイコンタクトをしてから受話器をとると、その相手は待ち望んでいたW.I.N.G.審査員からの電話であった。
「──第4シーズンの浅倉、樋口、市川、福丸の審査結果ですね」
そして、ついに結果が伝えられた。
「────」
(あぁ…こんな思いをするのは
相手からの事務連絡を聞いている間、翼は受話器を持たない手の方で強く拳を握りしめる。
「──この度はお電話いただき、誠にありがとうございました」
通話が終わり、受話器を静かに置く。
しかし、翼は受話器を置いた姿勢のまま、動くことができずにいた。
「翼くん、結果はどうだった?」
椿からの問いかけに、翼はようやく姿勢を元に戻して彼女に向き合う。
「はい、W.I.N.G.第4シーズンの結果ですが───」
このときをもって、半年以上かけて行われてきたW.I.N.G.予選は───。
「───がW.I.N.G.予選敗退となりました」
『3名の本選進出、1名の予選敗退』という結果をもって終わりを告げた。
「そう、彼女が…」
「正直、聞き間違いかと思いました。でも、結果は受け入れるしかありません」
「ごめんなさいね、翼くん。私の力不足ね…凄く悔しいわ」
「自分も、同じ気持ちです。椿さん、俺…彼女に会いに行ってきます」
「わかったわ。彼女のこと、よろしくね」
そして翼は、彼女のことを事務所に呼び出して2人だけで会うことにした。
◇◆◇
事務所の会議室。
不安そうな眼差しを向ける彼女に、翼は残酷な事実を告げるために口を開く。
「…
「あ…そう、なんだ…」
「本当にごめんな、小糸」
「な、なんで翼くんが謝るの…?ここまで来れただけでも十分過ぎるくらい凄いこと…だよね?」
「…うん、確かにここまで残れるアイドルは一握りだけだ」
「そ、それじゃあ翼くんが謝る必要ないよ!」
健気にこちらを気遣ってくれる小糸を見て、翼の中で渦巻ていた悔しい気持ちがより強くなる。
「そうかもしれない。でも、あれだけ努力してきた小糸なら絶対に『W.I.N.G.』に参加できるって…そう思ってたから凄く悔しくて」
「翼くん……そう言ってくれてありがとう」
感謝の気持ちを伝える小糸。本人が一番悔しいはずなのに、彼女の表情は柔らかかった。
「あのね、翼くん。わたしも悔しいけど、それよりも嬉しい気持ちが上回っているんだ」
「嬉しい…?」
「うん、翼くんがわたしの頑張りを傍で見ててくれて…福丸小糸というアイドルをそこまで認めてくれているのが本当に嬉しいっ」
「だから…ありがとうね、翼くんっ!」
「それに『W.I.N.G.』は出場できなかったけど、これで終わりじゃないから!わたし、もっと頑張るから!だからね翼くん───これからも、傍でわたしを見ててねっ!」
(あぁ、成長したな小糸…)
福丸小糸は家庭環境や才能豊かな幼馴染に囲まれて過ごしたことで、たくさんの不安や劣等感を抱えて今まで生きてきた。
しかし、アイドルになってからそれらのネガティブな思いはキラキラと輝くものへと昇華していき、彼女は一歩一歩前へと進んでいく。
その隣に、透がいる。円香がいる。雛菜がい。そして、翼がいる。
「…あぁ!もちろんだ、小糸。これからもよろしくな」
「うんっ!」
◇◆◇
そして、その日の夜。
翼・円香の部屋にいつもの5人が集まっていた。
目的はW.I.N.G.予選を突破した透・円香・雛菜のお祝いである。
「透ちゃん、円香ちゃん、雛菜ちゃん…『W.I.N.G.』出場おめでとうっ!」
「ふふ、ありがとう、小糸ちゃん」
「あは~、小糸ちゃんありがとう~」
小糸からお祝いの言葉をもらった3人であるが、その表情に普段の明るさはない。
いや、雛菜はいつも通り笑顔であったが、心なしかその声はいつもより元気がないように思えた。
「…小糸、本当によかったの?」
円香は心配そうに小糸を見つめる。
落選した小糸を気遣って、円香は祝いの場を設けるのに否定的だった。
しかし、「みんなをお祝いしたいっ!」と小糸からの強い意見があって今に至るのであった。
「心配してくれてありがとう、円香ちゃん。でも、私は大丈夫だから!」
笑顔でそう告げる小糸であるが、彼女がどれだけ努力していたのかはここにいる全員が知っていた。
その努力が報われなかったのに、平気でいられるはずがないと円香たちは心配していたのだ。
「えっとね、確かにわたしだけ『W.I.N.G.』に出場できないって聞いたときは悲しかったよ」
みんなの気遣うような視線に気づいたのか、小糸は自身の気持ちを吐露する。
「でも、今日まで頑張ってきた努力はわたしの中にちゃんとあるって気づいたから」
「!」
自分の胸に手を当ててそう告げる小糸の言葉を聞いて、円香は驚きから息を飲む。
「私を応援してくれているファンの人たちがいる…それがね、すごく嬉しいのっ。だから落ち込んでいる暇があったら、今よりもっと頑張っていきたいっ!」
「…小糸は凄いね」
「そ、そんなことないよ!」
円香からの褒め言葉に小糸は慌てて否定する。
しかし、ここにいるメンバーは小糸以外同じことを思っていた。
「ううん。偉いよ、小糸ちゃんは」
「と、透ちゃん…」
「あは~、小糸ちゃんは流石だね~♡」
「雛菜ちゃんまで…」
「みんなの言う通り、小糸は立派だよ」
「ほ、本当に…?」
「あぁ、本当だ。小糸は凄いよ」
幼馴染たちの褒め殺しラッシュに、小糸のテンションはみるみるうちに上がっていく。
「え、えへへ、もう!みんなわたしがいないとだめなんだから…!」
(小糸、可愛い…)
(可愛いな、小糸ちゃん)
(小糸ちゃん、可愛い~♡)
(はは、小糸は可愛いな)
胸を張って得意げにしている小糸を見て、4人は可愛いという感情で気持ちを一つにするのであった。