シャニP、樋口円香の兄に転生する   作:リィンP

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背中みっつ追いかけて(小糸)

 

 翼、雛菜、小糸の3人は入り口にあるインターホンを押して名前と要件を告げると、スーツ姿の女性が姿を現した。

 

 その女性は『羽鳥椿』と名乗り、渡された名刺には283プロダクションのプロデューサー(・・・・・・・)という肩書が記載されているのであった。

 

 

 

 

 羽鳥椿(はとりつばき)───彼女は大学卒業後に芸能業界へ足を踏み入れた。

 業界の裏方で働き始めた彼女は、数年という短い期間であったが、その優秀さは周りのスタッフから一目置かれているほどであった。

 

 その頃、アイドルをプロデュースする優秀な人材を探していた283プロダクションの社長──天井努はとある収録現場で椿と出会った。

 

 現場を裏方で支える椿の熱心な仕事ぶりを見て、感じるものがあった天井は自分の会社のプロデューサーとしてスカウトをしたのである。

 

 ただし、椿はすんなりとプロデューサーになるのを決めたわけではなかった。

 

 

 突然の天井からの言葉に驚いた彼女は、アイドルをプロデュースした経験がなく、また興味も薄かっため、彼からのスカウトを断った。

 

 しかしその後、天井は何度も椿のもとに訪れ、プロデューサーになってほしいと頼み込んだのである。

 

 ───貴重な君の時間を頂いてすまない。ただ、283プロには君のような人材が必要なんだ。

 

 ───いきなりプロデューサーになれと言われても困るだろう。少し、私の話を聞いてくれるかな。

 

 天井は一方的にスカウトをするのではなく、自身の考えを彼女に話し、時には議論した。

 

 アイドルとは何か?

 プロデューサーとは何か?

 ファンはアイドルに何を期待しているのか?

 自分たち裏方の人間がアイドルをどう導いていくのが正解なのか?

 そもそも、プロデュースに決まった正解はあるのか?

 

 天井と話す内に、椿は実際にプロデューサーになってみたいという感情が芽生えてきた。

 

 ───天井社長、私は小さい頃からテレビの中の世界が好きでした。私を夢中にさせるあの世界にいつか行きたい、そしてあの世界を支える存在になりたいと思っていました。

 

 元々、彼女が芸能界の裏方で働きたいと思った理由は、煌びやかな世界で活躍する彼らを支えたいという気持ちがあったからだ。

 

 何度目かの会話のときに、椿の口から芸能界で働いている理由を聞いた天井は、眩しいものを見る顔をして口を開いた。

 

 ───そんな君だからこそ、プロデューサーという職業は向いているのだと私は思う。きっと私にはできなかったことを、やってくれる…最初に君を見たときにそう感じたんだ。

 

 その言葉を受けて、椿は283プロダクションのプロデューサーになることを決心した。

 

 

 

 そのような経緯があって283プロのプロデューサーとなった椿──彼女の今日の業務は、書類選考を突破したアイドル候補たちの面接であった。

 

 予定時刻に現れた3人の少年少女たちを出迎えた椿は、心の中で首をひねっていた。

 

(あれ、午前中の面接は2人だけのはずだけど、隣の男の子は誰だろう…?)

 

 市川雛菜、福丸小糸。この子たちはすでにアイドルになった浅倉透と樋口円香の幼馴染であることを提出された書類などから知っていた。

 

 送られてきた顔写真を見ているため、2人の少女が雛菜と小糸であることはすぐにわかった。

 だが、もう1人男子が来ることについては彼女は何も聞いていなかった。

 

(というかこの子、樋口さんに凄く似ている…あまりにも優しい表情をしていたからすぐには気付かなかったけど、本当にそっくり)

 

 円香の整った顔はそのままで、身長は彼女より15cmくらい高い。

 涼しげな目元でクールな印象を受ける円香とは違い、彼は柔らかな目元で温かな印象を持っていた。

 

(もしかして樋口さんのご兄弟かしら…?彼女には双子の兄がいると浅倉さんが言っていたし)

 

「失礼いたします。本日283プロダクション様に面接して頂くことになっている市川雛菜と福丸小糸と申します。この度は貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございました」

 

「あっ、いえいえ!ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

「市川雛菜で~す。今日はよろしくお願いします~」

 

「ふ、ふ福丸小糸ですっ!ほ、本日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。…えっと、それで貴方は…?」

 

「これは大変失礼致しました。申し遅れましたが、本日市川と福丸の友人として同行させていただきます、樋口翼と申します」

 

「な、なるほど。友人、ですか」

 

(え、ちょっと待って。友人じゃなくてマネージャーの間違いでしょう??)

 

 どう考えても普通の高校生ではない雰囲気──業界でよく見る芸能人の付き人と同質なもの──を纏う目の前の少年を前にして、椿は混乱した。

 

「えっと、それでは皆さん、どうぞこちらへ。本日面接する部屋までご案内しますね」

 

「は~い」「は、はい!」

 

「それでは自分はこのあたりで失礼いたします」

 

 翼と名乗った男の子は爽やかな笑顔で椿に挨拶をすると、そのまま一礼して建物から出て行こうとする。

 

「え~~翼先輩行っちゃうの~?」

 

「…いや、俺は部外者だから雛菜たちと一緒に行けないんだ」

 

「ん~、すでに283プロのアイドルになった円香先輩の家族なら、部外者じゃないんじゃない~?」

 

「失礼ですが、翼さんは円香さんのご家族の方ですか?」

 

「…はい、このような形でのご挨拶になってしまいすみません。私は御社でアイドル活動をさせていただいております樋口円香の兄になります」

 

 翼が少し困った表情で自己紹介する。

 

「あっ、やっぱり!…ごほん、円香さんの双子のお兄さんなのよね?透さんから貴方の話をたくさん聞かせてもらっているのよ。彼女の言う通りとても頼りになる人なのね」

 

 大きな声を出してしまったことを誤魔化す様に咳払いした椿は、頬を少し染めながら会話を続ける。

 

「いえ、そんな…恐縮です」

 

「あら、謙遜かしら。円香さんのお兄さんでしたら堅苦しいのはなしにしましょ。これからも長い付き合いになるのだから、もっと砕けた口調で話してほしいな」

 

「わかりました。お心遣いありがとうございます」

 

 翼はお辞儀して返事したが、その言葉遣いはまだ硬いままであった。

 

「あはは、いきなりフレンドリーにしろって言われても難しいよね。そうだ、翼くんも福丸さんたちと一緒に待合室に案内するよ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「えぇ、市川さんの言葉通り貴方は部外者ではないしね。それに、これからすぐに市川さんと面接だけど、その間福丸さんは1人になってしまうでしょう?」

 

「!」

 

 椿は小糸に一瞬視線を向けると、翼に意味ありげな視線を送る。

 

(小糸を一瞬見た…?あぁ、そういうことかっ!)

 

 建物に入ってからガチガチに緊張している小糸を見て、彼は椿の気遣いを理解した。

 

(はは…今のプロデューサーである彼女を前にして、俺は緊張していたのか)

 

 平常を装っていたつもりであったが、やはり前世の自分の立ち位置にいる人物と実際に会い、会話することは心に負担がかかっていたようだ。

 

 そのせいで小糸の状態に気付かず、彼女に伝えるべき言葉を言えないまま別れるところであった。

 

(小糸のことを失念していた。まったく、円香に任されたのに何をやっているんだ俺は…!)

 

「ありがとうございます、羽鳥さん。貴女のような方が彼女たちのプロデューサーで本当によかったです」

 

「ふふ、会ったばかりなのに翼くんは嬉しいことを言ってくれるね。それと、名前で呼んでくれるともっと嬉しいかも。…それじゃあ、そろそろ移動しようか」

 

 翼は先程よりも砕けた口調で椿に話しかけ、お礼を伝える。

 

 彼が自分との距離をつめてくれたことを察した椿は、嬉しそうな顔をして3人を案内するのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 椿の案内で待合室まで案内された翼、雛菜、小糸。

 雛菜に「5分経ったら入室してね」と伝えた椿は、扉を開けて面接室へと入っていった。

 

 そして5分が経過したのを確認した翼は、雛菜に声をかける。

 

「雛菜、そろそろ時間かな」

 

「う~ん!じゃあ、雛菜行ってくるね~」

 

「ひ、雛菜ちゃんっ、頑張ってきてね!」

 

「あは~、ありがと~」

 

「いつも通りの雛菜を見せれば大丈夫だからな」

 

「あは~、いつも通りの雛菜で頑張ってくる~♡」

 

 雛菜はいつもと変わりない様子で面接官が待っている部屋へと入っていた。

 

「ひ、雛菜ちゃん…大丈夫かな…?」

 

「雛菜なら大丈夫さ…それより小糸、親には今日のことは伝えたか?」

 

「え、えっと、その…」

 

 翼の問いかけに小糸は視線を左右にそらす。

 

「まだ、なんだな?」

 

「2人とも、忙しそうで…だから…わたし」

 

「別に小糸を責めているわけじゃないよ。でも、高校1年生の小糸は親の許可がないとアイドルとして活動できないんだ」

 

 心配そうな表情をする翼に、小糸は自分の隠していた本心を話すことにした。

 

「…わたしが透ちゃんたちとアイドルになるって言っても、親は反対するに決まってるよ」

 

「どうして小糸はそう思ったんだ?」

 

「だって、みんな凄いから。透ちゃんも、円香ちゃんも、雛菜ちゃんも、3人ともなんでもできて…」

 

「…」

 

「そんな特別な3人に、私みたいな普通な子が混ざれるわけない…。きっと両親に、余計な心配をかけちゃうに決まってる…」

 

「──そんなことはないよ、小糸。確かにあの3人は凄い才能を持っている。でも、それは小糸も同じだ」

 

「わたしに才能なんて…」

 

「中学生のときにも言ったろ。どんな状況でも努力できることが小糸の才能の一つだって」

 

「翼くん…」

 

 学力を重視する母親の勧めがあり、小糸は透、円香、雛菜と違う中学校に進学した。

 幼馴染み3人と学校が別れたことは人付き合いが苦手な小糸にとって辛いことであった。

 

 彼女にとって唯一の救いは、同じ学校の1つ先輩に翼がいたことだ。

 何度か心が挫けそうになった小糸であったが、今のように翼に話を聞いてもらい、応援されたことは今も彼女の支えになっている。

 

「それに小糸のような頼れる存在が円香たち3人には必要だと思うんだ」

 

「そ、そうですかね?」

 

「あぁ、やっぱり皆をまとめる小糸のような存在がいることで…特別な4人が揃うことで、より輝くことができると思うんだ」

 

「………わたし、お母さんに電話してみます!」

 

「うん」

 

「怒られるかもしれない。心配されるかもしれない。呆れられるかもしれない。…それでも、透ちゃんたちと一緒にアイドルになりたいって思ったから!」

 

「うん」

 

「あ、でも…ここで電話したら不味いかな?」

 

「うーん、さっき椿さんがトイレの場所も教えてくれだろう?一旦部屋から出てそこで電話をかけるのがいいかもな。もし小糸が呼ばれても俺が事情を説明するから大丈夫だ」

 

「そ、そっか…じゃあ、行ってくる!ありがとね、翼くんっ!」

 

 小糸は翼にお礼を言って、携帯電話を片手に部屋から出て行く。

 

「…頑張れ、小糸」

 

 

 福丸小糸。

 前の記憶では同じグループの透や円香、雛菜と異なり仕事のオファーが少なかった少女。

 

 透たち幼馴染みと一緒に居るためにアイドルになった彼女はやがて、彼女だけの目標を見つけていった。

 才能あふれる3人に対し、同じグループの小糸はよく比べられ、傷付くこともあった。

 

 だが、それでも小糸は前を向いて歩いていった。

 ようやく見付けた自分の目標を叶えるため、全力でアイドルとして取り組んだのだ。

 

「───小糸なら、絶対にアイドルになれるよ」

 

 円香の兄として生まれ変わった今回、プロデューサーとしてではなく、1人の友人として小糸を支えていくことを改めて決心するのであった。

 

 

 





今日の裏話④

羽鳥椿(はとりつばき)
今の283プロに所属するプロデューサー。

283プロに所属するアイドルたちは彼女1人でプロデュースしている。
仕事のミスは少なく、気配りもできるため、担当アイドルからは尊敬できる大人として信頼されている。

アイドルたちとは、もっとフレンドリーに接してもらいたいようであるが、まだまだ難しいようである。

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